~爺さん~
25年前。
ワシはある戦で重症を負って死にかけた。
仲間も、ワシ自身も、身も心も諦めるほどの重症。
だが、何故かワシは生き残った。
片目と片手と片足を失いながら。
数ヶ月寝たきりだったが、体は治った。
流石に無くなった物は戻らなかったがな。
だが、いかんせん目と手足がないのは流石にツラかった。
寝たきりで衰えた手足は、鍛錬で動くようになり、無くなった足には御館様のお陰で良い義足を宛てがわれた。
だが、体の重心が変わり、片目が見えないことで、距離感も変わってしまい、思うようには体が動かなかった。
このズレを直すのにもまた時間がかかる。
当時49歳だったワシは決断した。
ワシは長年世話になった仲間達と御館様に別れを告げた。
仲間は戦いが無理でも指導者として残ってくれとワシを引き留めようとしてくれたが、ワシ自身も説明が得意ではないことを承知していたし、ワシの武技が特殊過ぎたために、後継できないことは分かっていた。
そしてワシは一人で人里離れた山に入った。
これから先ワシは一人で生き、一人で死ぬ、そう思って日々過ごしてきた。
それから15年後。
64歳になったワシはしぶとく生きていた。
元々体が強かった為か。
はたまた神の思し召しか。
山での暮らしは悪くなかった。
そんなある日、いつものように猟銃一丁携えて山へ狩りに出た。
その日の山は静かだった。
まるで全ての獣が逃げたような。
注意深く山を見ると木に熊の痕跡があった。
大きい。
この痕跡の他にも熊の足跡を見つけたことで、大体の大きさが分かった。
この熊は、近年山の麓の村で、人を食った熊と当たりを着け、これ以上の被害を押さえるため、そして食いぶちのために痕跡を追った。
熊は居た、下界でも見かけない程の大きな山桜の麓に、こちらに背を向けて。
ワシは一発撃った。
弾丸は熊の首に当った。
流石の巨体で、一撃では仕留められず、熊は悲鳴をあげてこちらへ振り向いた。
そこへもう一発、頭を撃ち抜いた。
いくら硬い頭蓋があろうと、この小銃は特別製。
この距離なら容易に頭蓋を抜ける。
これで食われた物も報われよう。
そう思って近づくと。
「おぎゃーー!!」
赤子の声が聞こえた。
何故こんな山奥で?
赤子の声がする山桜の下に向かう。
すると良質なおくるみにくるまれた赤子がいた。
不思議だ、確かに何故こんな所にと思ってもいるのだが、何故か【ここにおられたのか】と思ってもいる。
近づくと赤子はワシの顔を見るなり安心したのかすぐに眠ってしまった。
赤子を拾い上げたあと、周りを良く観察した。
明らかに、人為的にこの場所は整備されている。
無駄な雑草は無く、周囲には見慣れない花と赤子の死角になる所に青い花咲いている。
薬で使う薬草の知識はあるが、花は詳しくない。
それでもこの山で見かけたことの無い花が赤子を中心に【植えられている。】
そう。
【明らかに赤子が置かれている】
ということは、ここまで誰かが来て整備したはずだ。
しかし、赤子の状態から見て、つい今し方捨てられたはずだ。
物は動けば痕跡が残る。
それもこれほどしっかり整備されているということは何度もここに訪れているはず。
だが不思議なことに、そのような痕跡は熊がやってきたであろう、獣道以外無かった。
不思議な感覚だったが、これも何かの縁かと、この子を育てることにした。
ワシ自身、赤子を育てたことはない。
だが見捨てる訳には絶対にいかなかった。
先を歩いていった仲間との約束だったから。
赤子のおくるみには名前が刻まれていた。
名は天龍寺旅龍。
あまり見たことのない不思議な名前だった。
それからワシは必死で赤子を育てた。
助かったのは、旅龍(以下リュウ)がまだ赤子だったころ、赤子としては、とてもおとなしく、従順だったことだ。
たまに降りる麓の村で、婦人に話を聞くと、普通の赤子はもっと大変なようで、この子は少し、いや、かなり異常なほどおとなしかったらしい。
まぁ、ワシは楽だからよいのだが。
たしかに、こちらの会話を理解しているふしがある。
この子はどこか知性を持った瞳をしている。
まだ生まれて間もない赤子だと言うのに。
それから月日が経つのは早かった。
おくるみにくるまれた赤子が両足で立ち、歩き、手を使い、片言ながら言葉を話すようになった。
また不思議だったが、それらをワシが教えることなく、旅龍一人で全てを成し遂げたことだ。
言葉もそうだ。
ワシが使ったことのない言葉を何故か使う。
どこで覚えたのか聞くのだが、リュウは首をかしげるばかりで、本人もわからないようだ。
本人も解らんものを考えてもしかたない。
何もせず勝手に覚えるならワシは楽だしな。
リュウが歩けるようになってからと言うもの。
目を放した隙にあちこちいってしまい、肝を冷やした。
中でもワシが猟に行っている隙に、山の麓の村まで一人で行かれた時には全速力で追いかけた。
一人の時に、もし日が暮れ、夜になりでもしたら……。
一人歩きする子供など、奴らのいい獲物だろう。
奴らは何処にでもいる。
何とか見つけてリュウを連れ帰り、しかりつけて話を聞くと、まだ3つだと言うのにワシを気づかい、力をつけて手伝いたいと言い出した。
ワシは悩んだ。
もし力をつければ、あれと関わるようになるかもしれん。
ワシの人生のほとんどは血にまみれた戦いの人生だった。
この子にそんなの人生は歩んでほしくない、そう思ったが、この子は土下座までして頼んできた。
ワシはどうせ山で生活するのだから、基本的なことぐらいは教えてもかまわんか、と無理やり納得し、了承した。
それから基本的な鍛錬、山での歩き方、獣や山菜の見分け方等、付きっきりで教えた。
ワシの教えは、やはり難解なようで、リュウは何度も首をかしげながらも真似し、驚くべき理解力をもって吸収していった。
ワシは嬉しかった。
何度か他の者にも教えを請われたことがあったが、全ての者が挫折し、離れていった。
この子は違う、もしかして……。
そう思った。
だが、まだ剣術だけは教えなかった。
この時代、刀を持つのは、とある者たちと警官隊と軍ぐらい。
生活するだけならせいぜい解体用の小刀と猟銃ぐらいで事足りる。
そして、ワシの剣術を覚えるには、そもそも鍛錬が足りない。
剣術を覚えるのはそれからで良いだろう。
そう思った。
また月日がたった。
リュウを拾ってから9年。
リュウは、あれからワシの厳しい鍛錬をつづけ、9つ(ココノツ)にしては、たくましくなった。
もう剣術以外には教えることはない。
そう思い、山での狩りを許可した。
一人での狩りを通じ学べることがあるだろう。
そして大物を狩って帰ったとき……。
更に1年がたった。
朝から一人で狩りに出ていたリュウが、先程帰って来た。
10(とう)になったリュウは、ヤマドリに山ウサギ、そして鹿、をとってきたようだ。
それだけとれれば、もう立派な狩人だ。
だがリュウはさらにこう告げた。
「あ、爺さんごめん、帰りに熊も狩ったんやけど鹿担いでたからまだ置いてきたんよ。一緒に取りにいってくんない?大きくってさぁ、多分俺一人じゃまだ無理だと思う。」
ついにこの日がきた。
直ぐに二人で山に入り、狩った時の状況を聞いた。
この子は10町(約1㎞90m)も離れた場所の気配を感じとり、9町(約1㎞)はなれた場所から、木と木の間わずか5分(1.5㎝)の隙間から見える熊の目玉を真っ正面から撃ち抜いていた。
この状況からして熊は止まっていたわけではないだろう。
恐るべき視力と集中力、そして、それを成す洗練された技。
これはもう、射撃に関しては全盛期のワシを越えている。
まだ、かろうじて体力だけは勝っているが、それも成長とともにすぐに追い抜くだろう。
ワシは決断した。
「……あと、帰って諸々の処理が終わったら少々話がある。」
~家~
「リュウ、兼ねてよりお前に請われていたワシの剣術を教える。」
「!!本当か!爺さん!」
「ああ、今のお前ならワシの剣術を覚え、扱えるだろう。」
「やった!ありがとう爺さん!」
「だが、ワシの剣術は特殊だ、それ専用の厳しい鍛練もしなければならない、万が一の時は命も…………。そしてワシは、わかっておろうが、教えるのが苦手だ、それでも覚えるか?」
「はい!爺さん、いえ、これからは師匠と呼びます!つたない弟子でありますが、精一杯覚えさせていただきます!」
「よせ、いつも通りの言葉でよい、だが厳しさは変わらんからな。」
今日の明治こそこそばなし!!
爺さんは、リュウを育てだしてから、毎日日記をつけてるのだけども。
その内容は1割生活の内容。
残り9割は、リュウがいかに素晴らしいかをつづったポエム的な何かにかわりはててるらしいよ!!
黒歴史になるね!
次回第5話
今生世界の理
幸せだった時間は終わりを告げ、今本当の歴史が幕を上げる
お読みいただき、ありがとうございました
令和8年7月26日より再編集