安息は、私にはきっと無縁なのだろう
ロスリック城大書庫前の大橋にて
薪の王が一柱、ロスリック王子の元へと続く唯一の道を阻むものと、己が定めた使命を背負う『火の無い灰』が破壊の応酬を繰り返し相争っていた。
灰の進撃を阻むは『竜狩りの鎧』
かつて、世界に朽ちぬ岩の古龍が支配する時代を変える一助となった、名もなき騎士の忘れ形見。
深淵に飲まれたことで本来の主は溶け、今や骸を弄ぶかの如く鎧は傀儡と化していた。
永く、遠い時を過ぎたものには意思が宿るように、この鎧にも意識があった。
故にこの場では仮に、鎧を「彼」と呼ぼう。
「彼」は自由の効かない己の躯に不快感を抱きながら、対峙する火の無い灰を見る。
火の陰りを迎えた今の時代を駆け抜ける最後の探索者。繰り返し廻る事で腐った世界を変える、小さな小さな可能性を秘めた最期の希望。
それは彼からすれば愚かで、無様で
そして何よりも、羨ましい
懐かしいとすら感じる
被造物が造物主を愛するように、彼もかつては主を敬愛し、心の底から守りたいと、力を以て支えたいと思っていた。
しかし、非情にも主は屈し。狩り、守るための力は徒に利用され、己の意志すら切り捨てられ、只々使われ続けている。
———終わりにしよう
主を守れなかったその時既に、彼の使命は破綻している
いつまでも過去の遺物が、先を目指す後世の者たちの妨げになるのは無粋というもの。
———そら、隙だらけだ。打ち砕け。
「—————————!!!」
咆哮が轟く。敵を屠れ、そいつを引きずり込め、深淵に招き入れろ、いや……殺せ!負の感情の連鎖を湛えた巡礼の蝶達が狂い鳴く。
———やかましい。此の身(鎧)だけでは飽き足らず、貶める頭数はまだ足りぬと吼えるか。全く、余計なことを。
名残惜しいが……
これ以上、奴等の好きにさせておくのも癇に障る。何より、奴等は我が主の在り方を侮辱したに等しい。
自らの手で終わらせることが出来れば、どれ程良かったことか……所詮は鎧。奴等の傀儡に堕ちるのが関の山か?
だが、せめて。最期は誇りをもって、我が最後を彩ろう。
今を生きる、後世の旅路の一部になれたという栄誉を記憶に留めながら。
———火の無い灰が盾をしまい、武器を両手持ちに切り替え向かって来る。
———竜狩りの鎧は、その手に持つ大斧を大上段に構え迎え撃つ。
正真正銘、最期の一合
刹那の交錯の後、果たして倒れたのは———
「————ッ!……グ……ハッ……!?」
火の無い灰が、地を転がる。大斧は直撃こそしなかったものの。叩き付けられた瞬間、竜狩りの象徴とも言える古龍をも焼いた大雷が迸り、その余波に吹き飛ばされたのだ。
そして、竜狩りの鎧は
「——————ッ……………」
火の無い灰の決死の一撃は、確かに届いていた。終ぞ鎧を打ち砕くことは無かったが、蓄積されたダメージが、鎧を操る巡礼の蝶の限界を超えたのだ。
たたらを踏み、よろける鎧はそのまま倒れる。
だが、
その手に持つ武具は、決して離すことはなかった
———————————————————————
……………
………………………
…………………………………………
…………何故、私はまだ、意識がある?
あの者が放った最後の一撃は、確かに奴等の呪縛を吹き飛ばすに足る、快哉なものであった筈。
なのに何故、私はこうして思考が出来る?
解せぬ。解せぬが、意識が在る以上思考は止めん。
意図せぬものではあるが、再起動を果たしたのだ。何か、意味がある筈だ。
一先ず、躯体の確認。
どうやら私は、地に倒れ伏したままの様だ。両の手に力を込めれば、確かに感じる己が矛と盾の感触。しかと握り締めたまま、ゆっくりと腕部全体に力を込め状態を起こしていく。
上半部、各関節部共に稼働に支障なし。
躯体を起こす際、足にも力が込められることから、下半部も異常はない。
うむ。躯体に問題無し。武具もある。
さて。では、周囲の状況を……確……認………
———眼前に広がる光景に、思考が一時停止する
…………なんだ、これはッ!?
……………燃えている!?目に映る全てが、燃えているッ!!
私が見てきた文明の中でも特に進んでいたであろう街並みは、全てを飲み込む業火に巻かれ燃え盛っているではないか!!!
無辜の人々も、それどころか生あるものの気配一つすら感じられぬ……!!
…………なんということだ。ここが、地獄なのか?いや、地獄であろう。
私達が、守り通してきた可能性が……
我が主が、誇りとしていたものが……っ
我々が成してきた抗いが、全て……!!
………嗚呼、なんと惨い
これが、これこそが、世界の終止符だと言うのか?
私が守りたかった可能性は……彼等の旅路は、全て……
無意味だったのか?
———諦観が思考を覆い始めた時、遠方より戦闘音と思わしき、衝突の音が小さく聞こえた
!?
………まだだ。まだ、終わりではない。
世界が崩壊していようと、腐敗していようと
抗う者が、まだ残っているのならばッ!!
「……終わらせぬ!断じて、認めてなるものかッ!!」
低く、くぐもった怒りの声が、己の声帯部より発せられた。
? 我が事ながら、それはおかしい。
私は鎧であり、中身は空洞である。
…………いや、どうでもよい。
そもそも、操られているわけでもなく、私自らの意思で動けている事自体が異常であろうに。
今はそれよりも、一刻も早く向かわなくては。
世界がこの様な有様でも、抗う者が居るのだ。ならば、それを助けよう。
両の足に力を込め立ち上がると、体勢をやや低くし、脚部全体に力を込めていく。
瞬間。踏みしめていた地面を深く陥没させる程、強く蹴るように走り出す。
どうか、頼む。
抗う者よ、無事で居てくれ……!
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今の私の感情をもっとも正しく表現するのなら。怒り、悔しみ、恐怖といったものか。
特異点Fへのレイシフト。
その最終段階で起こった異常事態。原因は不明だが、レイシフト適正の無かった私が、気が付けば
カルデア管制室と連絡を取ろうとしたが、不幸とは続くものでトラブルが起きた。
私は今、追われている。
現地に住む人々の怒りを買ったとか、罪を犯したとか、そういう後ろめたいことは一切していない。
何より追いつかれれば、私は殺されてしまうだろう。呆気なく。惨めに。酷たらしく。
だって、私を追いかけているのは、
「いやぁあぁああああああああああああああぁぁぁ!!こっちに来ないでよぉ!!!」
応戦?バカなこと言わないで。数体ならまだしも、あんな数相手にして生き残れる訳が無い。
だから逃げる。無様に、滑稽に、みっともなく喚き散らしながら。
「レフ……っ!あぁ、もう……!!誰か、誰か助けてぇええ!!!」
必死に、喉が痛くなるほどに叫びながら、助けを求めて走り続ける。
酷い現実から、目を逸らすように。
「あ………」
ずっと、休むことなく走っていたせいか。普段ここまで体を動かす事がなかったからか。疲労からか。
足が縺れ、転んでしまった。
「ヒッ!………こ、来ないでっ!」
ケタケタと嘲笑うように骨を鳴らしながら、竜牙兵がゆっくりと近付いてくる。
「……っ!来ないでよっ!!」
ガンドで応戦するも、全く止まる気配は見えない。1体1体仕留めても、如何せん数が多すぎて。減っている気が全くしない。
「なんで……!なんでよっ!?」
竜牙兵が、数メートルの距離まで迫る。それでも、決して走っては来ない。弱者を甚振り、弄ぶように、ゆっくりと。
「レフ……っ誰か………誰か……!」
死が、目前に迫る
「助けてッ!!!」
その一言が、届いたのかはわからない
それでも、きっと、私はこの時のことを
決して、忘れることは無いだろう
「———御意。」
地面を抉る激しい轟音と共に、突如目の前にナニカが現れた。
身長は4mを軽く超え。背中越しに見るに左手には大きな大盾を。右手には身の丈よりも更に長い大斧を携えた、全身鎧の巨人。
「———貴公は、私が助けよう。」
あぁ、今日は最悪だ。
でも、もし、運命の出会いというのを信じるなら
「ぁ………え?………あ、貴方……は?」
私、オルガマリー・アニムスフィアは
「———我が名は、竜狩りの鎧」
この『竜狩りの鎧』との出会いを運命だと信じる
鎧「目が覚めたら世界燃えててキレたわ。君の事は必ず助けるからね(爽やかスマイル)」
オルガマリーちゃん「ふぇええん(ガチ泣き)」
オルタさん「さっきから凄く悪寒がする」