我は欲する
人々が生み出す光を
瞬きの如く煌めく尊さを
「ぁ……あ……あぁ……!!そんな、嘘……嘘よ…っ…!」
バーサーカーの宝具によって、視界を遮る量の土埃が宙を舞う。
姿は見えなくとも、あれ程の猛攻をその身一つで受けて無事な筈もない。
竜狩りの鎧が負けたと、絶望が
「いやぁあああぁぁあああ!!!!?」
「っ!? 所長、危険です!下がって下さい!!」
堰を切ったように涙を流しながら、竜狩りの鎧の元へ向かおうとするオルガマリーをマシュと立香が抑え込む。
「っ……!離して!?……離しなさい!!!」
「……所長!!気持ちは分かりますが、落ち着い」
「あんなのを見せられて、平気で居られるわけないじゃない!?竜狩りが……竜狩りが………っ!!」
掴まれた腕を振り解こうと抵抗しながら、絹をさくような声音で泣き咽ぶ。
後ろから近付いてくる気配にも気付かずに。
「う……うぅ……りゅうがり……りゅうがり……!!」
「———落ち着け、嬢ちゃん。お前さんの騎士なら生きてるよ。」
「………ふぇ?」
「……マスター、所長を連れてこちらへ!貴方は、何者ですか?」
いきなり背後から現れた謎のフード姿の男性に、盾を構えて警戒するマシュに、男は両手を上げて答える。
「おっと、そう身構えなさんな。別にとって食いやしねぇよ。」
「………質問に答えて下さい。」
「そう急かすなって。俺は少なくとも、あんたらと敵対するつもりは無い。警戒するなら、一応あっちのバーサーカーにしときな。」
やれやれと首を振る目の前の男に、敵意がないことを感じ取ったマシュは取り敢えず盾を下げた。
「で、俺は見ての通りサーヴァントだ。クラスはキャスター。真名はクー・フーリン。」
『クー・フーリンって、あの!? ケルト神話の大英雄じゃないか!?』
「えっと、そんなに凄い英雄なの?」
『凄いも何も、ケルト版のヘラクレスって言われるくらい有名な英霊さ!』
「そこでヘラクレスの名前が出てくんのは、今の状況じゃ大分皮肉が効いてるな……」
自嘲するように軽く笑うと、
「そら、戦いはまだ終わっちゃいねぇ。最後まで見届けな。」
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初めに、違和感に気付いたのはバーサーカーだ。
トドメの一撃として放った全力の振り下ろしは、寸分違わず目の前の鎧騎士に叩き込んだ。鎧ごと粉砕するつもりで打ち込んだ、正に全身全霊の一撃。
だと言うのに、バーサーカーの第六感は、今も尚警鐘を鳴らし続けている。否、今まで以上に危険だと本能がけたたましく叫び続ける。
バチッ
同時に、有り得ないと。防御させる暇も与えず、ひたすらに叩き込んだ宝具の威力は他ならぬ己が一番理解している。状況によっては対軍、対城宝具にも変化可能な必殺の剣技を対人に使ったのだ。万が一に生きていたとしても、満身創痍の致命傷を与えた筈だと。
断言しよう。バーサーカーに非は無く、尋常であれば何一つ間違ってなどいない的確な判断だった。例え超一級の英霊であろうとも殺しかねない程の対人宝具をぶち込んだのだから。
そう、相手が人だったのなら、
バチバチバチッ
雷電が迸り、灼かれた地が燻る。
「———███!!」
腕が衝撃と共に流れ込んできた電撃に灼かれ、感覚が一瞬麻痺したが。鋼の如く硬い意志で斧剣を手放さなかった。
土埃が晴れていく。
目の前に居たのは、先程までの鎧騎士と同じモノとは到底思えなかった。
絶えず帯電し続ける全身鎧
周囲を覆うように風と雷が吹き轟き
騎士然としていた清廉さは消え、荒々しく肩に大斧を担ぎ
威風堂々と嵐を侍る姿は、まるで戦神そのもの
「———迂闊だった。相手がどれほどの英傑であろうと、侵略者を相手に様子見等、
兜の空洞は
「加減はしない。それは貴公が魅せた技への侮辱となるからな。」
———故に、全身全霊で撃ち砕く
その宣言が、終幕の始まり
風と雷を伴う嵐ごと、鎧の戦神は掻き消えた
光が明滅し、何度も稲光が乱反射する
狂戦士は見極める
力だけでなく、今や速さですら鎧には劣るが
それでも、勝機は残っている
鎧が攻撃を仕掛けてきたタイミングで反撃を———
「———終わりだ。」
声がした方向へ体を向けようとした時、異変に気付く。全身に力が全く入らないどころか、感覚が消えた。大地を踏み締める足の感覚も、僅かに麻痺が残っていた腕の感覚も、激しく脈動していた霊核の感覚も、すべて
そして、気がつけば
視界がぐるりと回転し、酷くゆっくりと視線の高さが下がっていく視界に思わず目を見開いた。
ゆっくりと、周囲がうつり変わる最中、視界の端に
己は、負けたのか?
光の明滅が収まった瞬間、鎧の戦神が大斧を頭上に掲げ、己を端倪していることに気がついた。
「貴公の覚悟、見事であった。」
その言葉が、竜狩りの鎧の手向けだった
大斧が雷霆と共に振り下ろされる
反撃は愚か、反応することすら許されず
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神の物語の真相は、時に残酷だ
語り紡がれる神話こそ偽りであり、失われた古い人の物語こそ真実だということも有り得るのだ
しかし、古い記憶を知る者は絶えて久しく、祈る先の居ない神の物語のみが人々の記憶に残り続ける
なんと虚しい事か
寄る辺を失った者たちの末路は皆、悲惨であり
果たして救いはあったのだろうか?
狩りの記憶ばかりだが
人の身で竜狩りを成した者を鎧は知っている
人ですらない鎧だが、覚えている者は居たようだ
それはきっと、確かに救いとなるだろう
「………私は、負けたのか」
「お嬢様を守れなかった不忠の臣が……」
「無様にも生き長らえたというのに、私は……」
「………私は、どうしようもなく————」
『———バーサーカー』
「!?………お嬢様!?」
『バーサーカー、そんなに自分を責めないで』
「………………ですが、私は」
『大丈夫。ずっと頑張ってたね。えらい、えらい』
『バーサーカーが居てくれて、私、嬉しかったよ』
『私を選んでくれて。ありがとう、バーサーカー』
「………お嬢様には、敵いません」
『ふふふっ』
「竜狩りが生きてて……良かった……」
絶対に、私を置いていかないで
二度と、私の傍から離れないで
私を見捨てなかった貴方だけは
……ふふふ♪