わたしはただ、
温もりを与えてくれる、優しい
昔話をするとしよう
「———おとうさま!」
「オルガマリー、急に走ってきては危ないだろう。そんなに急いで、どうしたんだい?」
これは、在りし日の記憶。
銀髪の少女がまだ幼かった頃、忘れてしまった有り触れた日常の一幕。
「さっきスタッフに聞いたの!今日はもう、お仕事が終わったのですよね?」
「うん、そうだね。あぁ、もしかして遊びに来たのかな?」
「はい!また、御伽噺が聞きたくて。」
少女は、父が語る神話や伝説を聞くのが大好きだった。
時間のなかなか取れない父が、物語を語る間は抱きしめてくれる為。忙しい父を独り占め出来てるようで、安心出来たというのも理由の一つなのかもしれない。
「ははは! オルガマリーは本当に物語が好きだね。わかったよ、取り敢えず寝室へ行こう。何かリクエストはあるかい?」
「では、またあの御話が聞きたいです!」
それは、英雄譚でありながら。人々に語り継がれることのなかった、埋もれた話。時計塔の
嘗て存在したという火の無き時代、それよりも更に古い人々の英雄譚。
誰にも信じられなかったというこの物語の英雄が、少女は心の底から好きだったから。気が付いたら、いつも父にせがんでいた。
その英雄譚の
嵐の王、竜狩りの大神
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深淵を覗く者を見つめるように
真実を識る者が逃れないために
甘く蕩ける誘惑は、蜜の様にあなたを包み込む
優しくて、あたたかくて、残酷なあなた
傷つき、苦しみ、辛くても、勇敢に前へ進むあなた
あぁ、なんと尊くて、いじらしいのでしょう
それなのに、それなのに、それなのに
きっと、世界はあなたを拒むでしょう
報われぬと知りながら、あなたはきっと止まらない
あぁ、なんと切なくて、儚いのでしょう
あなたが得るものなんて、何も無いのに
だから、だから、だから
あなたがそれでも人を救うと言うのなら
わたしはあなたに寄り添いましょう
あなたが人を守るように
わたしがあなたを護りましょう
ですが、ですが、ですが
嗚呼———どうして、こんなにも
この世界は、
愚劣蒙昧で度し難いの?
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霊核ごとバラバラに刻まれたことで、エーテル体が形を保てず粒子となって消えていく。泡沫の夢から覚めるように、現世に居た痕跡すら残さず消えていく。
「……………」
大斧と大盾をソウルへと返還した竜狩りの鎧は。
ヘラクレスが完全に消滅する最期まで、目を離さずその場に留まり微動だにしなかった。
「……………次があるのなら、
———戦場に在りたい。
そう独り言ちると、彼は歩き出した。
彼が守ると決めた、少女の元に向かって
「———りゅうがりぃいいい!」
「! オルガマリー。……無事か?」
「………っ! もぅ…………ばかあぁぁああっ!!! うぁああああああああん!!!」
向かおうとした時には、既にオルガマリーが走って向かってきていたらしく。泣きじゃくった顔を取り繕う余裕すらないまま、竜狩りの鎧へ
「む……そんなに涙を流して、いったいどうした?」
「ふぇえええん………死んっじゃうん、じゃないかって……思った………あなた、までっ……居なくなったら……わたし……わたしはぁ……!」
「……オルガマリー。」
彼が生きていることを確かめるように、彼女は強く強く抱きしめる。不安を紛らわすように。独りではないと、彼は大丈夫だったと、自分に言い聞かせるように。
「……大丈夫だ、オルガマリー。今度こそ、守るべきものを最期まで守り通してみせる。」
——その為にも、オルガマリーを置いて野垂れ死んでたまるものか。それこそ、死んでも死にきれない
……
「それに、躯体に関しても問題は無い。戦闘を始める前と差異は殆どなく、支障を来すような損傷もしていない。」
「グスッ………ほんとに……?」
「あぁ、無論だとも。私は頑強なんだ。」
悲しみ、痛みを慮ってくれる彼女を安心させる意図も込めて、ゆっくりと背中を摩る。子供をあやす父のように、触れる手甲は不思議と暖かい。
「……ん。ふふ……竜狩りの手、やさしい……」
「そうか? それなら良かった。」
先程の取り乱しようが嘘の様に大人しくなった。右手で摩る手はそのままに、左腕で抱えるようにそっと彼女の顔を包み込む。力を込めず、繊細に。
「っ……! ……あぅ……そ、その、竜狩り?」
「どうかしたか?」
「えっと、その、ありがとうっ! も、もう落ち着いたから大丈夫よ?」
「………動揺しているぞ。もうしばらくは、このままで構わないだろう。」
「ふぇっ!? もうしばらくって、あとどれくら「一時間」いちっ!!?」
急にあたふたと慌て始めたオルガマリーに首を傾げながらも、抱えた手で頭も撫で始める竜狩りの鎧。
「ほ、ほんとに大丈夫だからっ!? ね? そろそろ戻らな「休息も必要だろう。このままで。」 はきゅぅぅ……」
顔を真っ赤にして恥ずかしがり、何らかの許容量を超過したのか遂に目を回し始めた
「……ん………ぅんんっ……ふにゅぅ………」
誤解を招かぬよう念の為に状況をまとめるが。あくまで彼はオルガマリーを安心させたいという一心で慰撫しているだけであって、全く、他意は無い。
そもそも鎧である。
「……………あー、取り込み中の所でわりぃんだけどよ。そろそろ戻ってきてくれねぇか? 今の現状について話をしたいんだが。」
「!!?!?!」
「む?」
幸か不幸か。
オルガマリー・アニムスフィアは
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『では、この特異点に於ける我々の目標は、大聖杯を守るセイバー・アーサー王の撃破及び、異常の原因である聖杯の回収・或いは破壊で宜しいですね?』
「えぇ。このまま手ぶらで帰るわけにはいかないわ。相手がブリテンの王だとしても、彼の王の逸話には竜の因子が絡んでいます。そして此方には、彼が居る。」
「竜か?任せろ、私が屠る。」
「竜狩り、だったか?あんたからすれば、面目躍如って所な「黙ってなさいキャスター。」……って、おいおい。」
「………なぁ、嬢ちゃん。まさかとは思うけどよ、まだ引き摺ってんのかい?そんな拗ねんなって。間男になるつもりもねぇし、あのままじゃ先に進まねぇからよ。どう考えても不可抗力だろ、な?」
「…………………つーん。」
「……マジかよ。その擬音、口に出して言う奴なんざ初めて見たぜ。」
鎧「(加減が些か掴みづらくて、色んな意味で不安だった事は敢えて言わないゾ☆)」
オルガマリーちゃん「キャスター……貴方は私を怒らせた(どどどど)」
キャスニキ「………世知辛い世の中だぜ」