かつて未来が戦ったショッカーの故地の一つともいえる場所に、足を踏み入れた2人を待ち構えているものとは……?
ベルファストを発ってから8日目の昼、ドイツのポツダムにあるパーキングエリアに入った。このところ、ノンストップでサイクロンを走らせていたから、流石に疲れが出たんだ。
パーキングエリアといっても駐車場とトイレがあるだけの簡単な物だったから、2人で近くの芝生で寝転んで身体を休めつつ、地図を開いて今後の予定を話し合った。
「間も無くベルリンに差し掛かりますね。大都市ですから宿泊場所の確保も簡単でしょうし、強行軍もこのくらいにしておかないと、身体にも良くありませんから、ここで一泊しましょう」
「そうだね。流石に1日1時間半の仮眠で巡航速度150キロを保つのは、そろそろしんどいところだったから……」
おまけに5日前からアウトバーンに入ってからは、そのスピードを200キロに引き上げたのだからもうクタクタ。速度制限の無いところに折角来たのだからと上げてみたら、こうなっちゃったよ。
「ベルリンはすぐそこですから、ゆっくり行きましょう。急ぐ必要はないですから」
「分かった」
こうしてベルリンへと行く事になったんだけど……、おかしな街になっていたんだよ。自分がどこに居るのか全く分からなくなるくらいに。
アウトバーンからベルリン市内へと入ったのだけど、遺跡のような印象がした。何処もかしかも古めかしい建物ばかりで、日本なら文化財にでもされていそうな綺麗な物なんだけど、時代錯誤な感じが否めない。
「ベルリンって、こんな街だったっけ? 写真だともっとビルが立ち並んでいたような……」
「並んでいますよ。ほら」
エルフナインちゃんが指差した先にあるのは、石造りのビル。綺麗なんだけど、それが何軒もあるのだから違和感を感じてしまう。写真で見るようなガラス張りのビルやテレビ塔が無い。それだけならまだしもライヒスタークやベルリンの壁の跡地も綺麗さっぱり消えている。
その一方でベルリンにしかないような物、例えばオリンピアシュタディオンや女神ヴィクトリアの像を天辺に戴いたブランデンブルク門といった物は、そのまま残されている。
「戦勝記念塔もありますよ」
「ベルリンにしか無い?」
「女神像があるのは、ベルリンの物だけですよ」
となると、やはりここはベルリンに違いない。でもなんでこんな街に?
結局、その日はドームの反対側にあるビル街の一角にあったホテルで寝泊りすることになった。近くにあった大理石造りの凱旋門に負けないくらい壮麗な外観の建物で、部屋も前に泊まったジャマイカのホテルとは比べ物にならない程、豪華な内装で一流ホテルのお手本のような所だった。おまけにライフラインは生きていて、アメニティ類も完備。ここだけ別世界と言っても過言ではない。
「何だか凄い所に来ちゃったね……」
お風呂から上がり、久しぶりのベッドに2人で寝転がり天井を見つめる。
「ここだけ破壊どころか、街の改造まで行われているというのは……」
街の中を一通り見て回って分かったのだけど、エルフナインちゃんの言う通り、ベルリンは私の身体のように大改造を受けたようだった。総統官邸だのヘルマン・ゲーリング街だの、今のドイツならまず有り得ないような名前が出てくるし、明らかにナチの残党である彼奴らが何かしたとしか思えない。ダーク・エンジェルスもそうかは知らないけど。
しかも防犯設備みたいな細かい所は、今の時代のものをそのまま使っているのだから、どこかチグハグだ。日本の城下町にある物のような景観に合わせたものならそう感じないのだろうけれど、そんな物ではないから違和感しかない。
「しかし何でこんな街にしたんだか……。市街戦でも仕掛けるつもりかな……」
だとしたら直ぐにでもここから離れた方がいいんだろうけど、もう何日も野っ原で1時間だけ寝るということしかしてないから、ふかふかのベッドから離れたくない。
「エルフナインちゃん、今日はもう休もう。疲れた身体じゃ碌な事考えつかないよ」
「そうですね。おやすみなさい」
「おやすみ」
そのまま何事もなく朝が来て、顔を洗ってから髪型を整えに鏡台まで行くと、昨日までは影も形も無かった化粧品が置いてあった。それもスキンケアやメイクアップに必要な物が、一式揃えてある。
「いつの間に……」
銘柄を見てみると、資生堂やシャネルのような有名ブランドの物ばかり。一体どこから用意したんだろう。目的は書いてあるから分かるけど……。
「どうしたんですか、未来さん。おや、この化粧品は?」
「朝起きたら置いてあった」
「へぇ……。爆弾ならまだしも化粧品ですか……」
一足遅く起きたエルフナインちゃんも急に出てきた化粧品を訝しげに見ている。
「何でこんな物を用意したかは、ここに書いてあるよ。見てよ、これ」
化粧品を入れた黒塗りの箱には、「死化粧用」と白文字で書きつけてあった。まさかこんな物を用意されるとは思わなかった。
「今日にでも襲いに来るつもりなんでしょうか」
「多分ね」
「気の早い相手ですね。死化粧をするには、まだ早い気がするのですが……」
そこまでいった時に、エルフナインちゃんがドアの下に封筒が差し込まれているのを見つけて、こちらに持ってきてくれた。開けてみると、朝食の案内とレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐のコピーが入れてあった。
「最後の食事への御招待か……」
「どうしますか?」
罠のような気がするけど、無碍にするのも気が咎めるから行く事にした。用意されていた物でお化粧を済ませてから。
「意外とまともな食事でしたね。毒物は入ってないようでしたし……」
「うん。それに食事中の襲撃も無かったから落ち着いて食べられたね。さて……」
自室に戻り、荷物を纏めてホテルを出発する準備をする。同時にギアを装着し、手持ちのピストルとリボルバー、再度調達したモーゼルのボルトアクションライフルに弾を込めて、いつでも発射できるようにしておく。
「いつ襲撃されるか分からないからね。エルフナインちゃん、準備はいい?」
「はい」
アームドギアを片手に警戒しながら外に出る。今のところ敵影もなく、反応も無し。少なくともベルリンを出るまでこのままならいいのだけど。
「サイクロンにも特に問題は出ていませんね」
「うん。それじゃあ行こうか」
そうして荷物とエルフナインちゃんを乗せて、いつもと同じように快調なサイクロンを走らせて、公道へ出た時だった。
後ろから路面電車が走ってきたんだ。でも人が乗っている気配はなかった。
それで敵もいないようだからと、気を抜いたのが失敗だった。
並走していると、突然列車の窓が開いて、中からヒットラーの電動ノコギリこと、MG42が顔を突き出してきた。その数凡そ20基。あれで撃たれたらエルフナインちゃんは愚か、弾によっては私も危なくなる!
発射される前に、急いでサイクロンを加速させて列車を追い抜き、アームドギアを線路に投げつけてこれを破壊する。あの機関銃列車もこれで追いつけない筈。
「未来さん、前!」
しかし安心するのは、まだ早かった。今から侵入しようとしている交差点の右側から路面電車が走ってくる音が聞こえたのだから。
「ったく、準備のいい事で!」
列車がこちらに顔を見せる前に新たに取り出したアームドギアを乱射して線路を破壊し、一気に通り抜ける。できるなら車両を破壊したいが、近づくのはリスクを増やすだけだからこれが精一杯。
こうして目についた線路という線路を片っ端から破壊して逃げたら、今度は敵さんも学習したのか、MG42とロケットランチャーを装備した無人のトロリーバスを走らせてきた。今度は道路を走るから路面電車と同じ手は使えない。
「仕方ない、ちょっと危ないが……!」
少し減速させて、アームドギアから光線を機関銃を据え付けた運転席目掛けて打ち込んだ。しかし車体を貫通して炎上しているにも関わらず、まだ走っている。
「このままベルリンの外まで……、えっ?!」
振り切ってアウトバーンに侵入しようとした時だった。そのアウトバーンのインターが、壁で塞がれていたんだ。
「うわっ!」
急いで左折して脇道に逸れたから激突は免れたけど、インターを塞ぐ真っ白な壁はこの道にも沿って建っていた。そしてその先もずっと続いている。あのベルリンの壁みたいに。
「まさか僕達、閉じ込められたのでしょうか……」
「多分ね……」
その後、一度空から街を見渡した。その結果、私達は予想通りベルリンの囚人と化していた事が分かった。
「少なくとも、これから大通りを歩くことはできそうにないですね……」
「うん……。表通りには、路面電車やバスが待ち受けてるしね……」
「ええ、ですから今いるような路地裏などで活動せざるを得ません」
「ドブネズミみたい……」
しかしそうせざるを得ないのも事実。一歩でも大きな道に出たらたちまち蜂の巣にされてしまう。
ただ脇道や路地裏がどこまでも安全な場所だとは限らない。どこに目や耳が置いてあるか分からないから。
細い道を辿っていくうちに、行き止まりにぶつかった。
ここを拠点に動くかどうか話し合っていると、目の前の建物の壁から大砲が出てきた。
そして慌てて逃げ出したのだけれど、どこをどう逃げたのか、逃げているうちに大通りに飛び出した。しかし幸いにも戦闘車両に出会す事なく横断でき、胸を撫で下ろした時だった。
「ヴァァッ……!」
エルフナインちゃんが耳をつん裂くような悲鳴をあげて、何事かと振り向いた時に顔に生暖かい鉄の味がするものがかかった。
「エルフナインちゃん!」
建物の庇の陰にサイクロンを止めてよく見ると、左腕が上腕部から千切れていた。な、何があった?!
とにかくこのままだと危ないから建物の中に避難しようとした時だった。
バシュッという音が遠くから聞こえて、サイクロンから降りようとした私の右胸から血が噴き出した。
「えっ……」
目の前にあったショーウィンドウも割れ、その残った破片から私の右胸に大きな穴が開いているのが見えた。銃創だ……。それもMG42よりもずっと大きな弾でしかできないものだ。連射してこないことからして、恐らくは……。
「スナイパーが居る! ヤバイ!」
急いで建物の中にエルフナインちゃんを抱えて駆け込むも左脚の太腿にもう1発銃弾がめり込み、私は床に倒れこんだ。
「ぐっ……」
幸いにもエルフナインちゃんを放り出さずに腕で支える事はできた。しかし左腕を失い、もうこの子は虫の息だった。
「プラネテューヌに助けを呼んでいる暇はない……。なら……」
シェム・ハの腕輪を起動させて、それの力、といっても物質変換能力を応用して、傷口を塞いだ。1分しか腕輪を動かせない私には、流石に腕を再生させるほどの力は揮えないけど、これくらいの治療ならなんとかできる。
「せめてできることはしておかないと……」
「サイボーグ、マダシンデナイ」
未来達を狙撃した魔人アダムは、2人が駆け込んだ建物の向かい側のビルの屋上から、双眼鏡で獲物の様子を窺っていた。ターゲット2人が辛うじて生きていたことや未来がエルフナインの治療をしていることが、彼には気に入らなかった。
「ツギ、シェム・ハモドキ、ヒダリムネ……」
そう呟き、双眼鏡を地面に置き、欄干に立て掛けていた20ミリ口径のスナイパーライフルを手に取った時だった。
「待て待て、急ぐ事はない」
ゼネラルが狙撃に移ろうとしたアダムを制止した。
「ゼネラル、ジャマスルツモリカ?」
憮然とした表情で答える彼に気にせず、ゼネラルはこう答えた。
「別にそんな事はせんよ。ただお前の花嫁の材料に無闇に風穴を開けるのも良くないだろうと思って、止めに来ただけだ」
「ハナヨメ……」
「前に引き渡した死骸を駄目にしたのを忘れたのか?」
「ソウダッタ……、スマン……」
「礼には及ばん。それでは……」
如何でしたか?
今回の魔人は、他の面々とは違い、兵隊を1人も連れてきてません。何から何まで1人で行う凄腕のスナイパーです。
さてこいつに未来は勝てるのか…。
次回乞うご期待!