陽だまりシリーズ:小日向未来<帰還>   作:インレ

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chapter13.教会での死闘

 建物の奥に這いつくばって進み、ベッドが置かれている部屋を見つけて、そこに入る。

 エルフナインちゃんをベッドに寝かせてから、太腿に突き刺さっていた弾丸を摘出して調べてみると、ショッカーの対戦車ライフルや機関砲でも使われていた20ミリ口径の徹甲弾であることが分かった。これならあの子の腕が千切れ飛ぶのもおかしくない。

「幸い重傷を負った時に備えて、輸血パックの類は荷物に入れてあったから助かったが……」

 流石に義手はないからなぁ……。だからといってベルリンで探し回るのは危ないし、通信が妨害されているのか、プラネテューヌとも連絡が取れないから、既製品の入手は困難だ。どうしたものか。

「ぐっ……」

 方策に頭を悩ませていると、ベッドに寝かせていたエルフナインちゃんが目を覚ました。

「あぁ、良かった! 意識が戻って!」

「やけに左腕が軽いですね……。あっ……、こ、これは……」

 左腕の殆どが無くなったのを見て、愕然としている。無理もない。私にとっては手足が吹っ飛ぶ事など、放っておいても生えてくるからあまり気にならなかったけど、そんな事がまず起きないこの子にとっては、取り返しのつかない大怪我でしかないからだ。

「一体何があったんですか?」

「こいつの仕業だよ」

 手の上に弾丸を乗せて、エルフナインちゃんの目の前に持っていく。

「この20ミリ口径の徹甲弾で狙撃されたんだ。そのうちの1発が貴女の左腕に当たって、上腕部から下を吹き飛ばしたの」

「この大きさの弾丸が……、うぐっ……」

 まだまだ傷が痛むようだ。何せ骨がある所を寸分違わず撃ち抜かれていたからね。痛まない方がおかしい。

 ホテルから持ち出してきたジュースのボトルをポケットから取り出して、半分をエルフナインちゃんの口の中に流し込み、残りを自分で飲んだ。モルヒネみたいな物だが、それ同様に痛み止めとして使えるし、他にまともな痛み止めがない以上、こいつを当てにするしかなかった。

「禁断症状がだんだんキツくなってくるから、あんまり良い手では無いんだよな……」

「大丈夫ですよ。分量さえ守れば、毒でも薬になることなんかよくある事じゃないですか」

「なるほど、確かに」

 

 

 

 

「急造品にしては、割とまともな物が出来ました」

 とにかく隻腕のままという訳にもいかないということで、私の予備パーツを通路に転がっていたマネキンの左腕の中に組み込み、エルフナインちゃんは義手を作った。あくまでベルリンを出るまでの間に合わせの物らしいが、ちゃんと指は5本とも動かせて、手の開閉もできるから性能はかなり優秀だと言える。

「それ、本当に間に合わせなの?」

「はい。やはりマネキン人形に使われているような素材ですと、これからのことを考えると強度が足りていませんからね。敵がこれ以上襲撃してこないというのであれば、この程度でも十分かもしれませんが、まずそれはないでしょうし」

 確かに単なるプラスチックじゃ、何があった時にあっさり壊れてしまうのは、火を見るよりも明らかだ。

「それはさておき、今回の敵の正体を考えることにしましょうか。とは言っても、今のところは使った弾丸の種類しか分かりませんが……」

「うん。しかもこれだけじゃ、敵さんの武器すら分からないよ。機関砲か大口径のライフルのどっちかだとは思うけど、ここのところの判断を間違えると2人揃って、蜂の巣にされる可能性もありうるからね。いや、この弾なら蜂の巣どころか挽肉か」

「やめて下さいよ。2度と精肉店に行けなくなります」

 

 

 

 

 その後も話し合ってみたものの、考える材料がまるで無いから夜を待って外に出ることにした。危険なのは承知しているが、そこに居たところでどうしようもない。何の手掛かりも集まらないもの。

 勿論、この辺りの電柱は破壊したし、線路は溶かしながら進めるようにして、襲われにくいようにはしてあるけどね。

 とはいえスナイパーが何処に隠れているか分からないから、この方策もあくまで気休め程度でしかない。補助兵器を破壊しても、スナイパーの武器を潰さないことには、何の解決にもならないから。

「こういう時は、建物を尽く焼き払いながら突き進むのが有効なんだろうけど……」

「今のように逃げ場がない時にやれば、僕達が丸焼きにされる可能性が高いからできませんね。ああ、なんて不便な……」

「空から覗くというのも一つだけど、対空砲があるかもしれないからその手は使えない」

「結局、地べたを這いずり回るしか途はありません。敵の本拠地が空の上で無ければ良いのですが」

「そうなりゃお手上げだよ」

 尤もその場合、飛行機か何かに乗っている筈だから、それは無いと思う。機影もないし、熱源もバイザーからは感知されていない。

「そういやさっきも言ったけど、襲撃された時に敵の反応が一切無かったんだよね。バイザーからは、何の感知もされていなかった」

「これまでは、聖遺物の正体自体は大体掴めていたのに、それもないですからね。ただ車両を遠隔操作していたことから、もしかしてこれが使われているのではないかと思う物はありますが、判断する根拠としては弱過ぎますからね。確証は無いです」

「当たりはついてるんだ」

「それだと決まったわけでは無いです。そもそもこの世界にはもう無い物ですから」

「無い物がある可能性だって捨て切れないよ。それにしても……」

 大通りから横丁に入って歩いているうちに、周りの建物がウェディングドレスなどの仕立て屋や写真店、それに新婚向けの家具屋やウェディングケーキの見本品が置かれたケーキ屋など、結婚式向けの品物を取り扱うお店が並んでいる所に入ったことに気がついた。

「ここで結婚式なんて挙げる人居るのかな」

「ほかに人がいるなら居てもおかしくないでしょうね。あの標識を見てくださいよ。近くにカイザー・ヴィルヘルム記念教会があるって書いてあります」

「本当だ。お誂え向きだね」

 そんな事を話していると、リーンゴーンと教会の鐘が鳴る音が聞こえた。今まで鐘なんか鳴らなかったのに。

「敵さんでも居るのかな」

 店先に一台ずつぶら下がってたカメラで、あそこから私達を見ていたのだろうか。

「教会が本拠地だなんて洒落た魔人ですね」

「確かに」

 

 

 

 

 

 狙撃手に警戒しつつ、教会へと近づいた。

 敵を刺激させない為に、敢えて神獣鏡を装着せず、モーゼルライフルを携えて近づく。幸いにもカメラらしき機器は教会周辺にはないから、ギアを装着しなければ、相手の警戒も緩む筈だ。甘い見立てだが、単に私達があそこを通り過ぎただけと考えるかも知れないし。

「サイクロンには別行動を取らせているから、何かあった時はどうにかなる筈……。それにしてもエルフナインちゃん」

「何ですか?」

「何か臭わない?」

「臭いますね。何かが腐ったような酷い臭いが鼻につきます」

 後ろから腐臭が漂ってくる。生ゴミとかじゃない。死体の臭いだ。あれから発する臭いとおんなじ臭いが、少し離れた所からしている。しかも近づいてくる。

「これ、死臭だよ。ゾンビか何かが敵の正体かな?」

「ゾンビなら身体は仮死状態か、腐る前の筈ですよ。おそらく違います」

「とにかく対抗しないと」

 エルフナインちゃんを庇いながらライフルを臭いのする方向に向けた時だった。

 暗闇からぬうっとドイツ軍の野戦服を着た淡黄色の肌をした大男が出てきたんだ。2メートル以上の背丈を持ったそいつは、薄く光る緑色の目で私達を見下ろし、肩に担いでいた大きなボルトアクション式のライフル銃を私に向けて構えてきた。

 

 

 

 

 

「ソノホムンクルスカラハナレロ」

 片言だがはっきりと聞き取れる声で、魔人は話しかけてきた。

「ハナレルナラナニモシナイ」

 どうもエルフナインちゃんを狙っているらしい。私の事はどうでも良いようだ。

「何で離れないといけないのさ」

「サイボーグニヨウハナイ。モトハニンゲンダッタヤツナンカイラナイ。ホムンクルスガホシイ」

「だから何でこの子を欲しがるのさ」

「オマエニハ、カンケイナイ。ホムンクルスヲワタスノナラバ、コノマチカラダシテヤル」

「無理」

 その言葉を聞いた魔人は、ライフルの引き金を引いた。

 ギアを装着しつつ弾を避けて、話をしている間に遠隔操作をして呼び出したサイクロンにエルフナインちゃんを乗せて、その場から離れさせる。

 そして急加速して懐に飛び込み、胸に体当たりを喰らわせる。そして続け様に右腕でストレートを叩き込み、ラッシュをする。

「ナンナンダ、イマノハ」

 しかし全然魔人には効いておらず、私の腹に膝蹴りを喰らわせた。そしてライフルを手放して私の体を掴み、そのまま急降下した。脱出しようにも、力が強すぎて振り切れず、下にあった教会の屋根へと叩きつけられた。

 

 

 

 

 礼拝堂にまで落っこち、床から起き上がるとリボルバーで4発撃たれた。1発は頬っぺた、2発は両脚、1発は右腕。

「このッ……」

 痛みを気にせずに、腕輪を起動させて剣を展開し突っ込むと、奴はリボルバーのグリップでこれを防いで後ろに下がり、近くのネイヴからさっきの物と違うライフルを取り出して、引き金を引いた。

「シネ……」

「甘い!」

 だが慌てずに発射された弾丸に光球を投げつけて溶かし、ライフルにもぶつけて無力化させた。

 剣を胸に突き込もうとすると、魔人は左腕で私の右腕を殴りつけてライフルの残骸にそいつを刺し貫かせ、更に両手で首を掴んで絞め上げた。

「ぐぇ……」

 苦しさから気絶しそうになるが、こちらも腕のコードを伸ばて奴の首にかけ、一気に締めつけた。

「グウッ」

 流石に首を絞められるのは向こうも堪らないのか、拘束が弱まり逃げる事には成功した。だが呼吸を整える間に腕輪が停止してしまい、暫くしないと動かす事が出来ない状態に追い込まれた。

「手持ち武器は潰せたからまだいいが……」

 あの馬鹿力とタフさを何とかしないといけない。

 突進してきた魔人をバク転で躱して頭に後ろ蹴りを当ててよろけさせ、アームドギアを叩きつけて倒した。

 更にガラ空きの背中を一度踏みつけてから馬乗りになり、アームドギアで脳天をかち割ろうとしたが、そうは問屋が下さなかった。

 奴はネイヴを私の脇腹にぶつけて背中から叩き落とし、倒れ込んだ所を押さえつけて、口にさっきのリボルバーの銃身を捻じ込んできた。

「マダウテル」

 その声とともに引き金が引かれ、私の後頭部が温かくなった。

 

 

 

 

「未来さん、大丈夫でしょうか」

 サイクロンに乗せられたまま、あてもなく走り回っているのですが、急に動きが止まりました。未来さんの脳波で動かされている物ですから、あの人の身に何かあったとしか考えられません。

「前のように打つ手がないわけではないですから、死んでしまったとは思えませんが……」

 とはいえ魔人相手ですから何が起きても不思議ではありません。

 どうしても気になって、教会まで様子を見に行こうとしたときでした。さっきの腐臭が漂ってきたんです。まさか未来さん……。

「ココニイタカ」

 案の定、目の前にフランケンシュタインの怪物を思わせるさっきの魔人が現れました。そして未来さんを入れた麻袋を小脇に抱えています。手酷くやられたのか、顔に痣を作り、口と鼻から血を垂らしていて、ぐったりとしていました。

「み、未来さん!」

「オマエハコウハシナイカラシンパイスルナ」

「い、いや……」

 思わず後ずさるも大きな手で体を掴まれ、呆気なく捕まってしまいました。

「は、離してください!」

「コワガルコトハナイ。オナジ()()()()()()()()……」

 そこまで彼が話した時でした。顔にどろっとした物がかかったんです。

 途端に魔人の腕の力が弱くなって、拘束から逃れることができました。どうしたのでしょう。

 振り返ると麻袋から剣が伸びていました。それが魔人の左腕を貫通したようです。

「は、はやく……にげ……」

「は、はい!」

 こういう時に逃げないのは被害が増えるだけです。脇目も振らずに逃げました。

 未来さん、必ず助けに行きますから、今だけはごめんなさい。

 

 

 

 

「ハハハ……、にげられたな……。ざまみろ……」

 その言葉が終わらないうちにバックブリーガーを掛けられ、地面に放り投げられて、蹴り付けられた。

「ジャマスルナ!」

「ぐふっ」

 鳩尾に1発もらって咳き込むが、こちらも負けずに剣を足に突き刺して追い討ちをかける。

 足を押さえて痛がる隙を突いて転がり込み、もう片方の足を引っ掛けて体勢を崩させた。

「おかえしだ……!」

 仰向けに倒れたそいつの口に剣をぶっ刺して、そこから急いでエルフナインちゃんの後を追った。

 

 

 

 

 

「ググッ……」

 未来に一撃を加えられた魔人アダムは、まだ死んではいなかった。

 彼女が立ち去って暫くして後、傷の痛みに顔を歪ませながらもライフルを杖に立ち上がったのである。

「セッカクミツケタドウゾク……。カナラズハンリョニ……」

 エルフナインへの執着心を胸に抱きつつ、痛む脚を引きずりながらも彼は2人の後を追いかけるのであった。

 




如何でしたか。
この魔人アダムですが、エルフナインの例えの通り、フランケンシュタインの怪物を基にしています。違いは、中に聖遺物が組み込まれている事ぐらいです。
次回でベルリン編は完結の予定です。
乞うご期待!

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