陽だまりシリーズ:小日向未来<帰還>   作:ヨザリイコイ

14 / 18
chapter14.一難去って

 エルフナインちゃんの後を追い、ベルリンの街を滑走する。しかし体が痛むせいでいつものスピードが出せない。

「首の後ろを撃ち抜かれたのは痛かったな……」

 おまけに急所を攻撃されたから苦しいったらありゃしない。早いところ、あの子と合流してどこかで休まないと。

 三叉路に差し掛かり、どこにエルフナインちゃんが逃げたのか探っていると、背後からライフルの発砲音がして、脇腹を撃ち抜かれた。フランケンシュタイン擬きめ、もう追いついてきた。

「この野郎……」

 道路沿いの建物をアームドギアで砲撃して崩落させて、生き埋めにする。

 そして瓦礫を押し上げて出てきたところを、頭目掛けてアームドギアを投擲して転倒させ、その隙に取り落としたライフルを腕のコードで巻き取って奪い取る。

「これさえあれば……」

 引き金を引いて脳天に1発食らわせ、ボルトを引いて次弾を装填する。頭に弾を受けても何事もなかったかのように動くから、今度は左膝を狙って発砲する。

「ウギッ!」

 膝を抱えて蹲る魔人にもう1発お見舞いする為に、次弾を装填しようとしたが弾切れだった。3発しか装填されていなかったようだ。

 仕方がないので、銃床でリボルバーを叩き壊して丸腰にし、残った体力で腕輪を起動させてケリをつけようとした時だった。

 横から黒い影が飛び出してきて、私を横倒しにしたんだ。

「な、何だ?!」

 重いライフルを放り投げて、押し退けようとすると右腕に噛み付いてくる。その感触に覚えがあって、そちらを向くと狼がいた。なぜ急に狼が? 

 考える間も無く、更に新手が5匹も飛びかかってきた。何とか4匹は躱せたが、振り払った奴に足を噛まれて5匹目の体当たりを躱しきれず、体勢を崩した隙にのし掛かられた。

「邪魔だ……!」

 ミラーデバイスを射出して、狼の群れ目掛けて遠隔操作し、全員に回転刃で斬りかかる。あっさり躱されたが、気にせず光線を浴びせかけて丸焼きにする。

「ふぅ、これで後は……」

 ただ狼を倒したは良いが、少々時間をかけ過ぎた。だから銃剣を取り付けたライフルで、フランケンシュタインが突き掛かってくるのを阻止できなかった。

 咄嗟にアームドギアの扇面で受け止めるが容易く貫かれ、更に回し蹴りを食らって近くの瓦礫まで吹き飛ばされた。

 そして体の上にのし掛かられて、首に銃剣を突き立てられそうになる。振り落とそうにも重過ぎて無理だし、腕輪を起動する余裕もない。

 苦し紛れにミラーデバイスで四方から攻撃してライフルを燃やし、一先ず串刺しにされるのは避けられたが、代わりに瓦礫を顔に5回叩きつけられて、穴という穴から血が流れた。

「こいつ……!」

 続けて口目掛けて右の拳を振り下ろしてきたのを、口を飛蝗化させて噛み付いて、手首から下を喰いちぎった。グニャグニャする上、屍肉の臭いがして堪らなかったが、今はそんな事どうでもいい。これでこいつの右手をダメにすることができたのだから。

 節操もなく左手で手刀を振り下ろしてきたが、こいつも噛み付いて喰いちぎり、両手とも使えなくする。これでもうこいつは裸同然だ。フランケンシュタインもそれを悟り、私から跳ね退いて距離を取った。

「そいじゃ……、いくよ……」

 腕輪を起動させて剣を展開し、全速力で突っ込もうとした時だった。何の前触れもなく起きた雷が、私に落ちた。生命維持機能の停止こそ免れたが、身体機能の殆どが麻痺してしまい、身動きが取れない。元通り動けるようになるまで、暫くかかりそうだ。

 フランケンシュタインの魔人も突然の落雷に面食らったようだが、直ぐに気を取り直してこちらに向かって突進してきた。しかし私の眼前にまで近づいた瞬間、奴にも雷が直撃し、私に折り重なる形で倒れ伏した。

 狙い撃ちをしたかのように雷が落ちてくる。人為的にしたとしか思えないが、一体誰が……? 

「ググゥ……」

「流石はアダム。あの程度の落雷では転ばせるだけがやっとだったか」

 アダムと呼ばれた魔人以外の声が私の前から聞こえた。どうやら別の魔人がコイツもろとも私を片付けに来たらしい。

「リュカーオーン、ドウイウツモリダ……?」

「どうもこうも戦闘能力を喪失した貴公を獲物もろとも片付けようとしたまでのことよ。その腕では碌に戦う事ができまい」

「ソンナコトハナイ……」

「現に追い詰められていたではないか」

 足音がこちらに近づいて来て、覆い被さっていたアダムが新手の魔人に持ち上げられた。

「同士討ちは禁止されていなかった筈だ。悪く思うな」

 その言葉の後に、アダムの首が目の前にぼとりと落ちてきた。それに続けてバラバラに砕けた屍肉と端末が降ってきた。これであのフランケンシュタイン擬きは、完全に破壊されたらしい。

「およそ3時間は動けん筈だ。今のうちに連れて行くとするか……」

 首筋を手袋を付けた手で掴まれて、私はリュカーオーンに引き摺られて行った。

 

 

 

 

 連れてこられたビルの屋上で仰向けに転がされている。まだ身体が痺れて動かせず、まな板の上の鯉のような状態からは逃れられずにいた。せめて何処か1箇所でも動かせたのなら何とかなるかもしれないが、どこも動かせないのでは目の前にいる人狼のリュカーオーンに反撃するどころか、逃げることもままならない。

「ゼネラルの奴め、まだ来ないのか……」

 リュカーオーンは既にあの白服に連絡はしていたようで、苛ついた様子で奴の到着を待っている。私の麻痺が解けるにはもう少し時間がかかるのに、どうにも落ち着かない様子だった。

 何をそんなに焦っているのかは知らないが、あいつが来るのが遅いに越したことはない。あと3時間ほどしてから来てくれたら……。

「済まない。遅くなった」

 そんな期待を裏切るかのように、ヌッと白服が出てきた。

「遅いぞ! 夜明け前だったからいいようなものを……」

「だから悪かったと言うに……。それで獲物は?」

「この通り」

「宜しい」

 競りに出されたマグロの様に横たわる私を見て、白服は頷き、手に持っていたインスタントカメラで私と人狼の写真を撮った。

「この写真で貴公が仕留めたことを証明できる。この後、小日向未来が逃げ出さない限り、奪い合いをしても無効だ。安心されるがいい」

 そういうなり白服はリュカーオーンに写真を渡して、踵を返して階段へと向かった。

「ゼネラル。この女はこれからどう扱おうと問題ないな」

「ああ。煮るなり焼くなり好きにすれば良いさ……」

 に、煮るなり焼くなり……。まな板の上の鯉というのが、比喩どころか現実になりつつある。そうなったら洒落にならない。でも身体が動かせないままでは……。

 

 

 

 

 ベンツの後部座席に乗せられ、ベルリン市内を走り抜けていく。

「わ、わらひを……、ろうするき……」

 辛うじて動かせる舌で問い掛けると、直ぐにこう返された。

「眷属の狼の餌にする。この街の東の外れにまで呼び寄せたから覚悟しろ」

 つまり私はこれから狼に食べられるってこと……? カカシ同然の状態なら頭や胸をかじられそうになっても避けられない。どうにかしてやめさせないと。

「そ、そんな……。やめて……くらさい……。わらひ、えさになんかなりたくない……。なんれもいうこと……ききますから……。それに……わらひなんかたへても……おいしくない……」

「お前をどうするかは、私が決めることだ。お前にとやかく言われる筋合いはない。そんなことよりも間も無く到着だ……」

「いや、おねがいれす……」

 無駄な問答を繰り返そうとした時に、通りかかった交差点の脇道からいつかのように路面電車が飛び出してきた。

「うわっ!」

 突然現れた電車に対処しきれなかったのか、リュカーオーンの運転するベンツは側面を踏まれたまま、500メートルほど引き摺られた。

「一体誰が……。不味い……、夜明けだ……!」

 車から脱出した際に、日が昇り始めたのに気付いたリュカーオーンは、私を回収する事なく、巨大な狼になって東の方角へと駆け去っていった。

「た、たすかった……?」

 しかし安心するのはまだ早かった。車が出火したんだ。事故で頭上のドアが吹き飛んだが、身体が動かせないのではどうしようもない。

 どうにもできずにいると、フック付きのロープが投げ込まれて、腰のアームに引っ掛けられて外へと身体を引っ張り出された。

「ふぅ……、重かったです……」

 外でロープを手放したエルフナインちゃんが、息を吐いていた。助けに来てくれたんだ。

 

 

 

 

 

「一体どうしたんですか? 身体が動かせないようですが、昨日の雷と何か関係が?」

「あれに打たれて麻痺してしまって……。首と右手しか動かせない……」

「なるほど……。あぁ、これは酷い!」

 近くの建物にまで引きずってもらい、中で身体を見てもらうと、中の配線が7割がた焼き切れていた。これでは身体が動かないのも無理はない。

「元々、戦い続きで傷んでいたようですし、そこに一度に膨大な量の電気が流れたのでは、こうなるのも無理ないですね……。身体を再稼動できるくらいの配線の予備はあるから大丈夫ですが、戦闘はしばらく無理です」

「そっか」

「そういえば、あのフランケンシュタインの怪物がバラバラになっていたのを見かけたのですが……、あれは未来さんが?」

「いや、あと一歩のところまで追い込んだんだけど、別の魔人に2人揃って攻撃されて……、この有り様です……」

「さっき逃げていった狼ですね。しかし落雷を起こせるとなると……、迂闊には動けませんよ」

「でもさっき太陽が出てきたのを見て、逃げていったよ」

「ひょっとして夜行性なのでしょうか? 狼は確か夜行性ですが……」

「なら今のうちに、プラネテューヌと連絡を取れないか試してくれない? フランケンシュタイン擬きがやられたのなら交信できるかもしれないし」

「分かりました」

 

 

 

 

「魔人の配線なんか組み込んで大丈夫かな?」

「改造はしたので、そのまま使うよりはマシかと……」

 オーデル川を渡り、ポーランドのシュテッティンへと入る。

 あの後、予備の配線とアダムのアジトにあった配線を改造した物を組み込み、どうにか動けるだけから戦える状態にまでしてもらえたが、身体にそこまであっていないせいか、動きにタイムラグが生じてしまう。前々からそういう症状はあったが、ちょっと酷くなっている。プラネテューヌからの補給路がベルリンに繋がらなかったから贅沢言ってられない。

「それにしても魔人が魔人に直接手をかけるなんてことがあるんですね」

「あの連中、私を賞金首に争奪戦をしているからね。魔人同士で戦っている事なんか前にもあったよ。尤も今回のフランケンシュタインの怪物擬きこと、アダムは私よりもエルフナインちゃんがお目当てだったようだけど……」

「どうして僕を?」

「さあね。でも同じ人造人間だからって事で狙っていたみたいよ。フランケンシュタインの怪物も花嫁が欲しがっていたからそれじゃない?」

「僕をお嫁さんにですか……。悪い気はしないのですが……、魔人と結婚するのはちょっと……」

「まぁ、本当のところは、死んだアダムにしか分からないさ」

「このヤントラ・サルヴァスパに彼の意思が残っているのならば、是非とも聞いてみたいですね」

 少し手が加えられた左腕の義手を撫でるエルフナインちゃん。

「それ、奴の端末を組み込んだんだっけ」

「はい。だからあの路面電車を動かすことができたんです。これさえあれば、どんな機械でも動かせますし」

「へぇ……。となると左手で触られたら、私はエルフナインちゃんの操り人形になっちゃう訳か」

「そんなことしませんよ!」

「あはは、冗談冗談。でも本当に助かったよ。あのままだと、狼の餌にされていたし。ありがとうね」

「いえいえ」




如何でしたか。
どうもしっくりこない話に仕上がってしまいましたが、ベルリン編はこれにて終了です。当初の予定では、同士討ちをさせるつもりはなかったのですが、どうにも話が進まないので、今回のような展開に切り替えました。
以前のような歯切れの良さが無くなりつつありますが、今後ともご愛読いただけたら幸いです。
次回乞うご期待!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。