陽だまりシリーズ:小日向未来<帰還>   作:インレ

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今回は、非常にショッキングなシーンが多々有ります。ご注意下さい。


chapter15.ウクライナ奇譚

 東に進むための道は、ワルシャワで途切れていた。いつかのように壁が建てられて、通れなくなっていたんだ。あの狼男の仕業かどうかは定かではないが、困ったことになった。予定ルートを変更しなくてはならないからだ。

 まだ冬じゃないから、ベラルーシとロシアを一気に横断して、樺太経由で日本に乗り込む事を考えていたのだけれども、これでは無理だ。何処か別のルートを探さないと。

「北と南へと行く道は、繋がっていますね……」

「北はバルト三国に行くことになるのは分かるけど、南に行くと何処に繋がる?」

「そうですね……。この道だとウクライナに向かうことになりますね」

「時間はどのくらい掛かりそう?」

「ちょっと待ってくださいね……。北に行くと、一番端にあるエストニアの首都タリンに行くまでに半日かかりますね。一方、ウクライナなら首都のキエフには9時間もあれば着きます」

「東に近づくならキエフの方がいい?」

「位置を見ればそうですね。それにウクライナならアジアへ抜ける方法もありますからルートの選択も便利ですよ」

「じゃあそっちに行こうか。東にさえ行けるのなら何でも良いから」

 

 

 

「ウクライナって、確かマリアさんの故郷だよね?」

 ルブリンを通過した時にエルフナインちゃんにその事を聞くと頷いて、こう返してきた。

「確かベラルーシとの国境沿いのスラブチッチの出身ですよ。元々、ご両親はチェルノブイリでパン屋をしていたらしいですが、原発事故でマリアさんが生まれる前に引っ越したのだそうです」

 そこまで詳しい事は知らなかった。しかしながら背景を聞いた事で、少し気になる事が一つ出てきた。

「あれ? じゃあマリアさんって、一体何で妹さんしか身内がいなくなったの?」

 内戦に巻き込まれたって聞いていたけど、あの辺りでそんな事があったなんて話は、全く聞いた事がない。事故を起こした原発の近くでそんな事になれば、たちまち大騒ぎになる筈だ。

「まさかだけどさ、F.I.S.が節操も無く街を荒らして、あの2人を掻っ攫って行ったなんて事は……、ないよね?」

 どうもそんな感じがしてならない。私みたく拐われたなんて言って事情を持っていたら、余計に顔合わせし辛くなる。

「そ、そこまでは覚えてないです……」

 見るからに嘘なのが分かる反応を見せるエルフナインちゃん。どうやらドンピシャらしい。前にあの人の頭の中を覗き込んだ時に、今私が言った通りのものを見たとみえる。しかしここでもそんな事があったとはねぇ……。

「何処の世界も同じような事件が起きるものなのか。あーあ……」

 

 

 

 そうこうしているうちに国境を越え、ウクライナ西部の街コーヴェリに入った。特に用事もないことから、サイクロンを止めること無く、東へと続く道を進もうとすると踏切の警報器が鳴り出した。ブレーキが壊れた列車でも転がってきたのだろうか。

 撥ねられては堪らないから大人しく停車して通過待ちをする。

「壊れた機関車だったら面倒な事になりそう。目の前で止まったら押さなきゃいけないもの」

「押した事あるんですか?」

「調子が悪くなって立ち往生していた2両繋ぎのディーゼル機関車を踏切から押し出した事ならあるよ。燃料がまだまだ残ってて、しかも連結したままだったから重くってさぁ……」

 その時のことを思い出しながら話していると、目の前を冷蔵車と卵のような物を載せた貨車を18両繋いだ貨物列車が通り過ぎていった。しかも壊れた物が転がってきた訳ではなく、ちゃんと機関士が走らせていた。

「今の見た?」

「はい」

「あれ、何?」

「見たことないです」

「後を追う?」

「そうしましょう。妙な物だったら放置しておくと大変ですからね」

 遮断機が上がるのを見計らい、線路に入って列車の後を追いかける。単線だが通り過ぎたすぐ後ならば、反対列車とぶつかるリスクはない筈だ。無論、走っていればの話だけど。

 

 

 

 

 貨物列車は、ゆっくりとだが東へ走り続けていて、一向に止まる気配がない。見たところ、卵の貨車にも冷蔵車にも特に武装は積んでいないようなので、積荷はさして重要な物では無いのかもしれない。ただコンテナ車はともかく、卵の貨車については、積荷をしっかりと固定していることからして、失くすと不味い物であろうから、全く必要がない物では無いようだ。

「あれ、何だと思う?」

「魔人の卵じゃないですか?」

「だとしたら洒落にならないね」

 腕輪で有効打を与える事ができるようになったとはいえ、一度に複数の魔人を相手にできる自信はない。何せ威力があるといっても、弾丸を撃ち込んで相手の体を銀に作り替えるか、腕輪から伸ばした剣で白兵戦を仕掛けるくらいしか戦法が無い上に、そもそも肝心の腕輪自体を1分間しか動かせないのだから、1人を相手にするのがやっとである。

「しかしこれまで相手にした魔人は、全員聖遺物をコアにしていましたからね。多分、別のものでは無いかと」

「なら良いのだけど」

 最初のエルフナインちゃんの予想以外なら何でも良い。中身が魔人だったら本当に笑えないもの。

 

 

 

 夜も更けて月が沈む少し前になって、貨物列車は漸く停車した。何処かの駅に辿り着いたようだ。途中で北に向かい出すなどしたから、ここがまだウクライナなのかも分からない。

 時計を見ると、深夜0時3分を指している。通りで体がクタクタな訳だ。機関士の方もノロノロと走らせていたとはいえ、大分疲れているだろうな。

「日付が変わるまで走らせるなんて……、無人運転でもしているのか?」

 一先ずマシンを線路脇に退避させてギアを装着し、サイドカーで寝ていたエルフナインちゃんを背負って駅のホームをよじ登り、敢えて貨車は捨て置いて機関車に近づく。そこを押さえれば、これ以上動くこともないからだ。

「あ、あれ? ここは……」

「あ、ごめんね。起こしちゃって……」

 揺れでエルフナインちゃんが目を覚ましてしまった。

「いえ、それよりもやっと止まったんですね。普通の駅のようですが、一体何処なんでしょうか?」

「さっぱり分かんない。途中で北に移動し出したから、もしかしたらベラルーシかロシアにいるのかもしれない」

 さっき駅名の看板は見たけど、キリル文字は全く読めないから何処だか分からないままだ。

「場所はともかく、機関車をまずはどうにかしようよ。積荷を確かめたいしさ」

「分かりました。あの、未来さん。運転台に入ったら僕を運転席に下ろしてくれませんか?」

「それは良いけど、どうして?」

「機関車を切り離して、適当な場所に置いておこうと思いまして。壊すのも良いかも知れませんが、何かの役に立つかもしれませんし」

 確かに燃料が少しでも残っていたら何かと使えるかもしれない。

「でも動かせるの?」

「この左腕なら大丈夫です」

「ああ、機械と名の付く物なら何でも動かせるものね」

 

 

 

 警戒しつつ、閉じ込められないように乗務員用の扉を引き剥がして運転台に入ると、運転席にはマネキン人形が乗せてあった。どうやら自動運転で動かされていたようだ。 

 エルフナインちゃんを座らせるために、人形を動かそうとした時、胴体から赤い煙が噴き出してきた。成分を見ると、何と催眠ガス。

「不味い!」

 急いで戸口から脱出しようとすると、何と剥がしたはずの扉が何事もなかったかのように出口を塞いでいた。しかも蹴っても叩いても、アームドギアで攻撃してもまるで壊れない。窓やエンジンもまた然りだ。おまけに機関車が動き出して、何処かへ私達を連れ去ろうとしている。

「ええい、仕方がない!」

 腕輪を起動させて、剣で扉を打ち抜く。これで一時は、何とかガスを逃がす事には成功したが、間も無く幅の狭いトンネルに入ってしまい、おまけに機関車が止まってしまったものだから逃げられなくなってしまった。後退させようにもマネキン人形は後ろにもあるから動かす事は不可能だった。

「扉が復活したのは……、計算外だった……」

「外から解結作業しておけば……」

 しかし悔やんだところでどうにもならなかった。

 

 

 

 目を覚ますと、狭くて暗い所に押し込められていた。

「うむうっ……」

 頼みの綱である右腕を切り落とされて、何処かに捨てられた挙句、声を立てられないように猿轡で口を塞がれ、自慢の健脚にも枷を付けられて走れないようにしてある。おまけに神獣鏡が作動できないように、何処からか超音波が出されている。今回の相手は、私の事をよく調べ上げて閉じ込めたようだ。ここまで対策を施していた奴は、他にはいなかったから。

 とはいえ感心している場合ではない。このままだと、何も出来ずにむざむざと殺されるのがオチだ。それに外部からの細工があったとはいえ、エルフナインちゃんも暴れ出したら手が付けられなくなるから、きっと何処かに閉じ込められているに違いない。早い所、脱出しなくては。

「うっ……、むっ……」

 やたらと揺れてあちこちに体をぶつけることやその時感じた肌触り、そして下から聞こえてくる車輪が回る音から判断して、どうも木製の箱の中に入れられて、何処かに運ばれているようだ。木製で人を入れる物だとすれば、棺桶くらいしか思いつかない。考えてみれば、中もひんやりしているような気がする。いや、寧ろ肌寒いくらいだ。

 ひょっとして火葬場にでも連れて行って燃やす気か? いや、引き渡す事や体の中にあるものの事を考えると、そのまま土に埋めるつもりなのかもしれない。どのみち笑えない事になることになるのは、確かである。

「んーッ!」

 脱出の為に拘束を解こうともがくも、拘束具に頑丈な物を使っているようで、びくともしない。ギアを展開するのは無理だろうし、こうなったらやむを得ない。細かい作業向きの変化ではないが、この際だ。

 両脚に全神経を集中して、飛蝗の物に変化させ、枷を引き千切る。

 次に左腕を変化させて、腕の突起で鎖を引き切り、上に荷物が積まれている事を確認して、箱の側面から逃げる為に左腕をそこに叩き付けた。

 1発で穴が空き、そこから手を伸ばして辺りに何も無いかを調べて、ガラ空きなのを認めてから少しずつ穴を広げる。今度は側面の板を完全にひっぺがしてしまう事がないように、慎重に腕を当てていく。

 ああ、神経を使うから疲れるし、イライラしてくる。いっその事、完全に飛蝗になって大暴れしたいけど、エルフナインちゃんに完全に飛蝗になった私を見られるなんて、そんなの絶対に嫌だから我慢する。

 

 

 

 どうにか人一人通れるほどの穴を作り、そこから這い出して口の猿轡を外し、自分が今、何処にいるのかを確認する。列車に乗せられているのは確かだが、さっきはそれ以上の事は何も分からなかったから状況確認は必要だ。

「天井の高い貨車の中みたいだ。やけに冷えるな」

 どうも箱ではなくて、周囲の温度が低かったのが、寒さの原因だったらしい。食品用の冷蔵車に押し込められたようだ。魔人め、私を食料か何かと……。

「思ってそうだ……。前会った狼男なんか、仲間の餌にしようとしてたし……」

 また電気を流されて、まな板の上の鯉にされては敵わない。そうならないように、ある程度の量の電気をエネルギーに変換する装置を取り付け、残りは放出してしまえるようにアースを増設する強化改造をエルフナインちゃんにしてもらったけど、何処まで通用するかどうか。やっつけで作った装置だから余り信用しないで欲しいと言われているし。

「そんなことより、他の荷物を調べるか」

 

 

 

 

 私が閉じ込められていた箱の周りには、木箱と発泡スチロール製の箱といった魚屋にありそうな箱が堆く積まれていた。鮮魚輸送列車にでも乗せられたのかな。さっきまで追いかけていた貨物列車がそれなのかは分からないけど。

 そこまで無用心な事はしないと思うが、私の右腕かエルフナインちゃんが入れてある箱があるかもしれないとの期待を胸に、自分の前に下ろした箱の蓋をひっぺがしてみた。すると中から鮭が出てきた。鹿やヤギならまだしも、狼が鮭なんて食べるのか? いや、この貨車が狼男の物とは限らないのだけど、魔人が鮭なんか食べるのか、今一つ想像がつかない。

「脂が乗ってる……。焼いたら美味しいだろうな」

 他の箱を調べると、今度は鯉。その次は川エビ。そして最後は鱒。川魚しか積んでいないのだろうか。

「一体ここにある物と私で、何を作ろうとしていたんだか……」

 魔人の食べ物なんか分かりはしないので考えるのを直ぐにやめ、魚を纏めて一つの箱に詰めて鎖で結び直し、エルフナインちゃんへのお土産に持ち帰れるようにした。

 

 

 

「さてと、お次は隣の……」

 箱を退けると出てきた仕切りの扉を引き剥がし、区画の隅に立て掛けておいて積荷を調べる。私が閉じ込められていた箱と同じような物が並べてある。何となくこの時点で、中身は察しがついた。

「なるほど、こりゃ分けなきゃダメだ……」

 箱の中に入っていたのは、氷詰めにされた若い男性の死体だった。こういう仏さんなんかもう見慣れたけど、食料品扱いされているのを見たのは、初めてだ。まぁ、魔人からすれば、人間なんてそんな物なんだろうけどさ。

「墓地を見つけて埋葬しておこう」

 蓋を閉めて、別の箱を調べるとまた同じ物が出てきた。今度は女性だ。その次は子供。

「エルフナインちゃんが入っていないと良いが……」

 もしホムンクルスの原材料を知っているなら、余程の倒錯した性癖の持ち主でない限り、食料にしようなどとは考えないとは思う。ただ万が一そういう趣味の持ち主がいれば、この中からあの子が出てこないとも限らない。

「どうか出てこないでおくれよ……」

 

 

 

 

 積まれていた15箱のうち、14箱にはエルフナインちゃんらしき人物も私の腕も詰められていなかった。残るは、私が押し込められていた物よりも横幅が長い木箱だけだ。

「これは特に解体されていない?」

 大柄な人間でも難なく寝そべる事ができる大きさだ。まさかとは思うが、あの子がこの中に入っているなんて事は無いよね。それにしてはちょっと大き過ぎるが、体が体だから縦に膨らんだ状態で仕舞い込まれているのかもしれない。

 そうなっていない事を祈りつつ、蓋を引き剥がしにかかった。

 すると4分の1を剥がしたところで、氷の中から見覚えのある桃色の髪が見えた。まさかとは思い、更にベリベリと蓋を剥がすと中から出てきたのは……。

「マ、マリアさん!」

 左腕と首の半分、それに腹を喰いちぎられたマリアさんだった。狼男にやられたのか、体の各所に焦げた痕がある。噛み跡からして、身体を喰い荒らしたのは、恐らく奴の眷属と見ていい。しかも首に掛けてある筈のアガートラームを持ち去られている。あれは確か妹さんの唯一の形見の品だったのに、それを何処かに持ち去るなんて。

「酷い事しやがる……」

 しかしながら疑問が一つ出てきた。何で態々喰い殺したマリアさんを運んでいるのか。倒して喰い荒らしたのならもう構う事は無いはずなのに。それこそ翼さんやクリス同様、海の底に放置していてもいい筈である。

 考えても魔人の、特に下手人である狼男の腹が読めず、首を傾げるしか無かった。

 

 

 

 

 

 取り敢えずマリアさんの入った箱を、私が閉じ込められていた区画へと運び込み、搬入口を攻撃して脱出を図る。

 しかし飛蝗の手足での打撃では傷一つ付かない。ライダーキックのような飛び蹴りなら何とかなるかもしれないが、いかんせん高さが足りないから繰り出すのは不可能だ。

「右腕もない今、壊すのは無理だ。こうなったら開くのを待つしか手はないな……」

 仕方がないので、箱を積み上げてその裏に隠れる。無論、マリアさんの箱も一緒に手元に移して置く。こっちが知らないところに持ち去られては、土饅頭すら作る事も出来なくなるからだ。

「さて一体何処に着くのやら……」

 出来ることならそろそろ着いてほしい。寒くて敵わないから。

 

 

 

 

 不意に列車が減速を始め、そして止まった。耳をすませるとガチャリと重たい音がして、ディーゼルエンジンの鈍い音が遠ざかっていくのが聴こえた。機関車を切り離したらしい。ここで機関車を付け替えるのか、或いはここが終着駅か。

 どちらか考えていると、扉が開いた。どうやら後者のようだ。

 足音が此方に近づいてきた瞬間に荷物を崩落させて、荷下ろしに従事していた兵隊の頭を踏み潰し、マリアさんを担いで外へと飛び出す。

 列車に振り返って確認すると、卵の貨車はとうの昔に切り離されていて、冷蔵車3両だけが残されていた。私が乗っていた1番端の車両の他は、まだ開けられていない。

 仮面ライダー宜しく力一杯飛び上がり、蹴りを叩き込む。今度は高さが十分あるから楽々蹴破る事ができた。しかし……。

「お肉だ……」

 中には生肉が吊るしてあるだけで、他には何も無い。仕切りもない。隠し扉もない。

「それなら!」

 3両目を蹴破ると中から紫色の液体が吹き出してきた。舐めてみると、ただのワイン。中を探っても、エルフナインちゃんらしき人影は見当たらなかった。

「一足先に連れ去られたか……」

 しかし何処に? さっきの機関車の中に閉じ込めていたとは考え難い。乗っ取られる可能性が高いからだ。そう考えると、ここに来る道中の何処かで閉じ込められているか、若しくは想定し得る限り、最悪の事態になっているかのどちらかだ。だが考えている余裕は無い。

「今はそれよりも背後の兵隊をどうにかしないと……」

 私と違って、ギアを装着している兵隊30体を切り抜ける方が先決だ。

 

 

 

 兵隊の光線を飛び跳ねて逃れ、駅の敷地から飛び出し、集落の中へと逃げ込む。向こうがギアを装着しているのならば、此方も使えるのでは無いかと思ったのだけど、いつものやり方でも聖詠でもうんともすんとも言わない。麻由だった頃は、こういう時の為にジャミング用の装置を持っていたけど、イカデビルを仕留めた後、水没して壊れてしまったからその手では切り抜けられない。

「発信源を早く見つけないと……」

 結局、アナログな方法で対処するしかないのだ。同士討ちを恐れてか、敵さんがミラーデバイスを使わないのがせめてもの救いだが……。

「何処かでマリアさんを下ろさないと、下手すると巻き込んでしまう……」

 これ以上、ズタズタになったら目も当てられない。だから隙を見て、マリアさんの仮の墓所を作らないといけない。しかしあちこちから砲火を浴びせられては、その余裕など当然ない。

 だからといって兵隊に回収されてはどんな事になるか分かったものではない。

「うわっ……!」

 放火を避けて駆け込んだ小屋の床が抜けて、地下室へと転げ落ちた。

「いつつ……」

 マリアさんの体は奇跡的に無事だったが、このままだと袋の鼠だ。揃って溶かされては如何にもならない。

「おや?」

 ふと見るとドアが一つあって、その中の部屋の真ん中に、長い箱が置いてあるのが見えた。開けてみると運の良い事に、中は空だ。マリアさんには悪いが、暫くここで待っていてもらおう。

 箱にマリアさんを寝かせて蓋を閉じ、奥の部屋のドアを閉めてから、四方の柱をへし折って小屋を崩し、兵隊の前に飛び出して挑発した。

「そら、こっちだ! こっち!」

 それに釣られて、30人が全員こちら目掛けて光線を撃ってくる。でもそれくらいの攻撃を見切れないほど、こちらもヤワじゃない。

 集落の建物を盾にしつつ、ジグザグに走って狙いをつけにくくして逃げ回る。そろそろ反撃に出たいが、神獣鏡無しで複数の敵を倒すのは無理がある。かといって近くには何も……。

「あっ!」

 ふと見ると目の前の舗装路にマンホールが有る。そうだ。あの中なら超音波も届くまい。

 蓋を引き開けて中に飛び降りる。するとその時の風圧で問題無く神獣鏡が動いてくれた。

「助かった」

 下水道の中に兵隊が飛び込んできたが、此方に気づく前に狙撃して片付ける。15体ほど片付けると来なくなり、バイザーで調べると少し離れたマンホールから回り込んできたので、ミラーデバイスを潜行させて、全員が出口から離れた所に入り込んだ瞬間に、天井を攻撃して崩落させてから脱出した。一先ず片付いたか。

 

 

 

「こいつがアンテナか……」

 小屋を挟んで反対側の海か湖に面した場所に、件の超音波のアンテナがあった。特に防御されてはいないので、人蹴りして破壊し、ギアを展開して小屋まで戻る。

 そしてマリアさんを入れた箱を引っ張り出して、さっき偶然見つけた墓地の一角に穴を掘って、埋葬した。

「エルフナインちゃんを助けてから、ちゃんとしたお墓を作るので、暫く辛抱していてください」

 そうして手折った花を置いて手を合わせ、そこを立ち去ろうとした時だった。急にギアが維持できなくなった。また超音波が飛び出してきたんだ。

 出所を調べようとすると、私の背後に腰に小さな機械を巻いたエルフナインちゃんがいたんだ。ただ手にアメリカで持っていたアイリッシュ・ハープを持っていて、それを掻き鳴らした。

 不吉な予感がして咄嗟に飛び退ると、ダウルダブラのファウストローブを装着したエルフナインちゃん、いや、キャロルがこちらに魔法陣を展開して、4種類のエネルギー波をぶっ放してきた。まともに喰らえば、身体が吹っ飛ぶのは目に見えているから右に飛んで避け、水場へと逃げる。

「今度は悪用されたか!」

 前にあの子のもう1人の自分が叩き起こされた事があったが、今度はあの時とは反対に、私への刺客として利用されている。響達が6人がかりでやっと倒せた相手だ。腕輪無しだと、とても押さえ付けられそうにない! こうなったら危険だが、神獣鏡の光線を喰らうよりかは即死する確率は低い。

 2発目が発射されると同時に飛び上がり、エネルギー波を両足にわざと喰らい、そのまま水底へと転がり落ちる。膝から下がどちらの足も吹き飛んだから出血量が物凄い量だが、これでどうにか誤魔化せるか? 

 

 

 

 

 

 2時間後、キャロルの気配が消えた。どうやら何処かに引き揚げたようだ。

 こっそり場所を移動して、平らな岩の上によじ登り、岸壁から湧いていた真水で傷口を洗ってそれから足を再生させる。

「さてと……、エルフナインちゃんをどうにかして取り返さないと……。しかしダウルダブラを使えるようにされたのでは、厄介だな……。おまけに片腕ではどうにもならない……」

 せめて右腕を見つけないと戦いにならない。しかし手がかりが無いのでは、探しようがない。八方塞がりだ。

 ただ今のところ、得る物が何もなかったわけでは無い。アガートラームのペンダントが、海の底にあったんだ。

「しかしながら……、マリアさんじゃなきゃ使い物にならないんだよなぁ……」

 2つのシンフォギアを使うのは、そう容易く出来る話ではないと聞いているから、私が持っていたところで、結局どうにもなりはしないのだ。

 

 

 

 

 崖を登り終え、上の陸地に辿り着いた時に夜が来た。そこで狼男が来ることを警戒し、さっきの住宅地の中のコンクリート建ての家に潜む。

 するとそれほど時間が経たないうちに、稲妻が見えて雷鳴が轟いた。あの狼男が、私がこの辺りに潜んでいる事を知り、燻り出しに来たんだ。

 あちこちの建物が雷撃を受けて燃え上がる。そしてここにも雷撃が来る。しかし間違っても飛び出す訳にはいかない。今飛び出しても無駄死にするのがオチだからだ。

 息を殺して、アガートラームを握りしめて、敵がここに来ない事を祈る。もうそれしかできない。

 

 

 

 

 夜明け前に、敵さんの気配が消えていくのを感じた。どうやら諦めて引き上げたらしい。

 その事に胸を撫で下ろした途端、急に隠れていた物置部屋の戸を叩く音がした。

 すわ見つかったかと、心臓が止まりそうになった。しかし戸の隙間から覗いたところ、狼男が着ていたベージュの制服ではなく、青い服が見えた。

 そこで少し気になり戸を少し開けて、隙間から覗くとそこに立っていたのは……。

「えっ、えっと……」

「早く出てきて頂戴。夜明けまでもう時間がないから」

 数時間前に埋葬した筈のマリアさんだった。S.O.N.G.の制服も着ていて、生きていた時そのままの姿でいる。どうなってるの、これ。

 

 

 

 

「あの、私はまだ……」

「安心なさい。向こうに連れて行こうなんて気は無いから」

 どうやらお迎えに来たわけでは無いらしい。妹さんの所に行った事に関しては、全く否定するつもりはないようだが。

「色々と話をしたい事があるけど、時間がないから手短に要件を伝えるわね。貴女の右腕の在処は、ここから北東5キロの地点にある渓谷にあるわ」

「本当ですか?!」

「ええ。運び出されるのを確かに見たわ。それとごめんなさいね。この体じゃ、取り返す事ができないの」

「そんな! 教えて下さるだけでも有難いです。あれが無いとどうにもならなくて……」

 でも場所さえ分かれば、取り戻しに行ける。

「ただそこは狼男のアジトでもあるの。簡単には取り返せないわ」

「となると何処か奥まった場所に……」

「その可能性が高いわね。ただ詳しい場所は、そのアジトにいる切歌と調に聞いて欲しいの」

 2人もウクライナにいたのか。しかしアジトにいるっていうのが引っかかるな。単に捕まっているだけなら、知ってそうにないのに。

「分かりました」

「あと、自分の身体を埋めてもらっておいて何だけど……、2人の体を取り返してもらえないかしら……。あそこから動かせないから2人ともアジトを離れられないのよ」

 ああ、やはりそういうことか。2人ももう……。

「はい、必ず連れて帰ります。それまで待っていてください」

「頼んだわよ。それにしても……」

 ひんやりした手で頰を触られる。

「雰囲気が変わったわね。私とはぐれてから一体どんな経験を積んできたのかしら?」

「なぁに、コックニーとコーヒーの淹れ方とオートバイの乗り方を覚えただけですよ」

 

 

 

 

 

 夜が明けてからギアを装着し、一先ず集落を離れて黒海に出て、昨日1日かけてこちらに呼び寄せていたサイクロンに飛び乗り、言われた地点に急ぐ。

 そこまで走らせると確かに渓谷は見つかり、アジトへ繋がる引き込み線も見つかったから問題ないのだが、問題はこれから。どこをどう通れば良いか分からないのだ。

 一本道なのでそのまま突き進むと、妙な物が並べてあった。蝋人形だ。しかもやけに生々しい外見をしている。まさか食料品だけでなく、このオブジェの素材としても……? 何とも悪趣味な野郎だ。

 奥に進むと、今度は鹿の剥製が置いてあるだけだったが、更にその奥にはとんでもない物が並べてあった。

「あぁ、なんて事を!」

 恐らくここを攻撃に来た人達なのだろうけど、こちらから見て左側にローブを着た錬金術師が、剥製にされて並べてあった。そして右側には……、あの2人がギアを装着したまま、剥製にされていた。

「どうだね、そのオブジェは?」

 前から狼男がキャロルを従えてやって来た。

「とんでもないご趣味だことッ!」

 飛蝗に変えた足で地面を蹴ってショルダータックルを叩き込もうとするも、キャロルに阻まれる。狼男の方は、特に何も仕掛けてこない。何故だ? 私を麻痺させた時に、日が昇ったのを見て逃げ出してたけど、それと違いがあるのか? 

 しかし考える余裕はない。キャロルが琴線で私を拘束して、黄色いエネルギー波を撃とうとしてきたのだから。この距離や幅では避けることは到底無理だ。

「これまでか……」

 半ば諦めかけた瞬間、発射ギリギリのタイミングで何処からともなく現れた半月の形の靄が琴線に絡み付いて、拘束を解いてくれた。それだけではない。

 今度は丸型の靄が私を包んで、錬金術師の剥製の後ろにあった隠し扉に押し込んでくれたんだ。それでひとまず難を逃れる事に成功した。

 

 

 

 

 

 隠し扉の向こうは、スロープになっていた。そしてその終点には、2台のトロッコが置いてあった。一体どっちに乗ればいいのやら。

「右のに乗るデス」

「切歌ちゃん?」

「早くするデス!」

「う、うん」

 急かされるまま、トロッコに乗り込みブレーキを解除する。2人に在処は聞けと言われたから、言う事を聞くに越したことはない。

「次の分岐点は、左に曲がってください」

 今度は調ちゃんだ。交互に教えてくれるのかな。

「いや、私と切ちゃんの覚えている場所がバラバラなだけで、交互という訳じゃないです」

「あらそう」

「それよりも未来さん、いつ帰ってきたデスか?」

「ほんの少し前だよ。南アメリカから旅して日本を目指してるの。それにしても私がよく本物だと分かったね」

「あの人達は、何だか作り物っぽくて……、ただのお人形みたいでしたから」

「本物のフインキデス……」

「切ちゃん、それを言うならフンイキ」

 体が無くなってもいつもの調子のようだ。何だか安心できるような、これっきりしか聞けないのが哀しいような。複雑な気分だ。

 

 

 

 

 

 分岐点を誘導された通りに曲がって、辿り着いた終点には確かに腕輪が嵌められた私の右腕が置いてあった。

 急いで手に取り、取り付けたところで追ってきたキャロルの砲撃を避け、部屋にある3つのドアのうち、勘で選んだ右端のドアの中に飛び込み、更にそこにあったドアを開けて、外へと飛び出す。右腕が完全に繋がりきった訳では無いからすぐには戦えない。

 キャロルが追ってくるのを渓流を下ってやり過ごし、偶然見つけた猟師小屋に入って、腕が完全にくっつくのを待つ。

 しかし彼女がそんな余裕を与えてくれる筈もなく、小屋の窓を打ち破って木の間を潜り抜けて、近くの道路にまで呼び寄せたサイクロン号に飛び乗り、フルスピードで逃げ出した。

 

 

 

 

 集落へと退却した時には、もうキャロルは追ってきていなかった。白乾児のように、空からこちらを見下ろしているなんて事もない。

「一先ず助かったか……。しかしながら何であいつ、自分は前に出てこなかったんだろう」

 今までの行動からして、太陽が出てくると此方とまともにやり合えないという可能性がある。でなければ、朝になった途端、私を放置して逃げ出した事やキャロルの援護を特にしなかった事への説明がつかないからだ。それに昼間は、攻撃を仕掛けてこない。夜だけだ。

「つまり昼間なら大した事ないのか?」

 なら今のうちに攻め込みたいが、神獣鏡を使う事から考えて、ここしか現状戦いを挑める場所はない。キャロルのジャミングを押さえ込む観点から見ても、遠距離からの狙撃をするしか手はなさそうだもの。

 

 

 

 

 日が沈み、満月が東の空から昇ってきた。それに合わせて、敵さんの攻撃も始まる。雷対策に絶縁体になるビニールで遮蔽物を作り、その下から先ずはジャミングを仕掛けてくるキャロルを探す。神獣鏡での遠距離からの狙撃しか、現状ではダウルダブラを引き剥がす方法が思いつかないので、目を皿のようにして探すが、近くで落雷が起き、建物が吹き飛ぶものだから落ち着いて探す余裕が無い。

「前よりも雷の威力が上がっているな……。狼男だから満月の夜には強くなるのか?」

 となると屋内にいても危ないのは変わらないな。寧ろ崩落した時の瓦礫に巻き込まれるのがオチだ。

「んっ……」

 雷鳴が聴こえる間隔が狭くなってきたので、場所を変える。するとその直後に、土台になっていたコンクリート製の建物諸共、さっきまでいたビニールテントが雷撃で吹き飛ばされた。

「おお、くわばらくわばら……」

 しかしついてない事に、着地した先でキャロルと遭遇し、ジャミングで神獣鏡が機能停止した隙を突かれて、琴線で絡め取られてしまった。下手すると自分も黒焦げになるかもしれないのに良くやるものだ。まぁ、ライオンの形をしたロボットの爆発に巻き込まれて無事だった事を考えると、雷くらいどうということもないのかもしれないけど。

「でもエルフナインちゃんまでもやられかねないのは、避けたいな!」

 自分が利用された時は、遠慮なく手に掛けてくれとは言われたが、馬鹿正直にそんなことができるはずもない。

 両脚を飛蝗にして、拘束を仕掛けるキャロル諸共右隣にあった木造住宅に飛び込む。しかし屋根に穴が空いていて、おまけに雷が運悪く落ちてきたものだから……。

「うぎゃああああ!」

 咄嗟にキャロルを庇うも間に合わず、2人揃って感電する羽目になった。有言不実行とはまさにこの事だ。

 

 

 

 エルフナインちゃんの強化改造のおかげで、体に流れ込んだ電気の殆どをどうにか追い出す事には成功した。だが変換器が電圧に耐え切れずに壊れてしまった。このままだと、さっきの物と同じ威力の雷が落ちてきたら多分死ぬ。

 しかし今のショックで、ジャミング用の装置が吹き飛び、神獣鏡を装着できるようになった。幸いにもキャロルもほぼ無傷だ。

 追い討ちを掛けるようで申し訳ないけど、目を覚ます前に流星を撃ち込んでダウルダブラを吹き飛ばし、呼び寄せたサイクロンのサイドカーに乗せて、黒海へと逃がす。

「後は狼男を押さえ込むだけだ……。彼奴は何処に……、いた!」

 向こうもこちらを見つけて、手に持った杖の先をこちらに向けてきた。

 咄嗟に後ろへ飛び退ると、さっきまで私がいた場所に雷が落とされた。あの杖が指揮棒のような物らしい。

 ならばあれを無力化すれば……、いや待てよ。狼男は銀の弾丸で殺せるというから、杖を銀にするよりも彼奴に直接撃ち込んだ方が賢い。

 そう判断すると、脚のスラスターを吹き飛ばして身軽になって、走って雷を躱しながら奴に近づいた。数をばら撒いても良いかも知れないが、稼働可能時間が1分しかない事を考慮すれば、一撃で仕留める作戦に出た方が良い。

 

 

 

 

 狼男の全身がよく見える位置まで近づき、腕輪を起動させる。

 そしていつもより大きめの銀の弾丸を作り出し、奴の胸元目掛けて撃ち込んだ。撃ち込んだのだが……。

「効いてない?!」

 確かに命中したのに、何の変化も起きない。どうして?! 

「月が見える限り、私は死なんよ……」

 それを聞いて、私の顔色が真っ青になった事は言うまでもない。

 不死身の怪物相手では、幾ら強力な攻撃手段を持っていても何の役にも立たない。一体どうすれば良い。

 月が見える限りという事は、月が隠れてしまえば、状況はこちらに好転する可能性を含んでいるが、その要因になりそうな奴の雷雲は何処かに消えてしまっている。

「月光を浴びれば、こんな芸当も可能だ……」

 そう言って杖を銃のように構えて、黄色い球体を先端に作り、私目掛けて発射してきた。

 横に飛んで躱したが、球が通り過ぎた跡は地面が半円状に抉れていて、先にあった民家を木っ端微塵に吹き飛ばした。かなりの威力があると見ていい。当たれば下半身どころか、全身が粉々にされてしまう。

「近づけば球っころ……、離れれば落雷……」

 何とかして彼奴に月光を浴びせないようにしないと。

 

 

 

 

「逃げた所で何になる……」

 連写される球を躱しながら、必死に焼け跡を逃げ回る。距離を開けると、雷撃が襲ってくるから一定の間隔を取って逃げることになり、隠れることもままならない。

 そうこうしているうちに、雷以外の理由で崩落した建物が見つかった。よく見ると、昨日私がマリアさんを隠した小屋だった。

 そうだ、ここなら! 

 急いで崩落した屋根の間に出来た穴から小屋の中に飛び込み、地下室へと滑り降り、奥の部屋へと逃げ込む。

 狼男も穴を球で広げて追いかけてきて、奥の間に駆け込んできたのだが、ここで自分がミスをした事に気付いたようだ。月が見えないところに来てしまったという事に。つまり不死身ではいられないのである。

「しまった、ここでは!」

 慌てて外に出ようとしたが、横から飛び出して体当たりをして転ばせ、杖を奪いとって首筋をそれで殴りつける。

 そして止めに腕輪を起動させて、そこから出した剣で背中から心臓を突き刺し、胴体に銀の弾丸を50発撃ち込んだ。

 狼男は、そのまま死んでいった。幾ら不死身の体に成れるとはいえ、その条件を潰された上にここまで攻撃されては、もう動く事もままならなかったようだ。

 それにしてもこいつ、一向に爆発する気配が無い。

「剥製か蝋人形にでもしてやろうかな……」

 こいつの趣味を思い出して、そう呟いた。そうすれば犠牲者も多少は浮かばれるような気がしたものだから……。

 

 

 

 

 

 マリアさんと基地から取り返した切歌ちゃん、調ちゃんを納めた棺を、イヴ姉妹の思い出の場所であるスラヴチッチの花園に面した空き地に掘った穴に埋める。

「マリアさん……、約束は果たしましたよ……」

 穴が埋まった後、狼男の基地から持ち出した白ペンキと板で作った十字架をエルフナインちゃんが3つ建てる。

「まともな物と言ってもこれが精一杯です。勘弁してくださいね」

「どうか安らかに……」

 手を合わせて、白い薔薇を3人分供えて後を立ち去る。

「身体は大丈夫?」

「ええ、ダウルダブラを装着していたので何ともないです。でも雷と流星のダブルパンチはもう懲り懲りです」

「なら良かった。しかし今回は、マリアさん達が居ないと危なかった……」

「マリアさんや切歌さん、それに調さんが、右腕の在処を教えてくれたと聞きましたけど……」

「うん。マリアさんは、私が見つけたその晩に大体の場所を教えてくれたんだ。それで切歌ちゃんと調ちゃんは、アジトの何処にあるかを誘導してくれたの」

「そうでしたか……。ともかくこれで3人とも安心して休めると良いのですが……」

「そうだね。そして向こうで待っている家族と再会できたら尚の事良いのだけど……」

 花園に吹く優しい風が、その人達の元に3人を送り届けてくれればなぁ……。




如何でしたか。
以前、未来以外の装者は一切出さないという方針を打ち出しましたが、そのままだと話が組み立て難くなり、マリアさんの故郷が舞台という事もあって、元F.I.S.の装者をサポート役という形で、再登場させました。これなら未来が、戦闘での主役を奪われる事はありませんし、姿が見えない状態ですから内情を探るのも簡単です。今回の魔人は、条件が揃わない限り、表に出てくるタイプでは無いので、隠れるのも容易でした。
なお、今回登場したキャロルですが、実際にはキャロル本人やXVで登場した擬似人格などでは無く、言い方は悪いですが、エルフナインにキャロルの戦闘データを基に作ったプログラムをインストールしただけの傀儡です。ゼネラルがアメリカで使った物とほぼ同じ物ですが、今回は標的が未来に設定されていたのと攻撃パターンが少なかったのが、その違いです。
それはさておき、私事で忙しくなる為、これまでのような投稿ペースを維持できそうにありません。しかし作品は完結まで書き続ける所存ですので、これからも何卒宜しくお願いします。
次回、乞うご期待!

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