陽だまりシリーズ:小日向未来<帰還>   作:ヨザリイコイ

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お次の舞台は、バルベルデ共和国です。


chapter5.アマゾン奥地の銀世界

 アルゼンチンを抜けて、ボリビアに入り、そこから更にペルーへ行こうとした。そこから太平洋に出て、サイクロンでメキシコ辺りまで行こうと考えたんだ。

 でもそうは行かなかった。目の前にある壁のせいで。

 ボリビアとペルーの国境に、東ドイツも真っ青な不細工な壁が建っているんだ。試しに叩いてみるとかなり硬い。恐らくサイクロンでぶち破るのも無理なくらい。

「壊せそうですか?」

「3日かけて叩けば何とか……」

「迂回路探しましょう……」

「迂回路ねぇ……、あると思う?」

 壁は南北のずっと先まで続いている。ベルリンの壁どころじゃない。まるで万里の長城だ。何処へ行こうと太平洋へと出られなくするつもりらしい。

「よその国を経由しようか。アメリカに出るのに、太平洋経由でないといけないわけじゃないから」

「そうですね。ですがここから急ぐには、ブラジルかバルベルデを通るしかありませんよ」

「どっちが早く着く?」

「バルベルデの方です。ブラジルだと、相当な回り道をしないといけません。それに最短ルートだと、ベネズエラを経由しないとカリブ海へと出られないようですから……」

「ベネズエラか……」

 国の情勢が最悪だと聞いていたけど……。必要な物資が手に入ることも中々ないというし。とは言っても、もう一つの選択肢がバルベルデというのもなぁ……。ちょっと前まで国の中が大荒れだったから、どうも行きたくない。

「バルベルデって、多国籍軍が攻め込んで以来、状況は好転したの?」

「かなり微妙です。旧政府軍の残党がゲリラ化して、あちこちでテロが起きていましたから。あちこちに不発弾や地雷も残っているようですし」

 危ないままだ。私は地雷原だろうが、核兵器の爆心地だろうが問題ないけど、エルフナインちゃんはそうは行かないからね。

「エルフナインちゃん、ブラジル経由で行こう。それでまだマシな国を通って、カリブ海に出ようよ」

 その後、サイクロンを走らせて、ブラジル国境へと向かった。するとここにもバリケードが作られていて通れなかった。

 止むを得ず、私達はバルベルデへ行くことになった。

 

 

 

 

 

「バルベルデ共和国国境まであと3キロです」

「いよいよか……」

 人の気配がないとはいえ、治安が安定していないバルベルデへ入るわけだから、緊張して肩に力が入る。ほぐしておいた方が良いかもしれないけど、別の理由でそれは無理だ。

「寒い……」

 異様に寒いんだ。赤道近くなのに、私が閉じ込められていた強制収容所なみに寒い。

「気温が一桁なんて、この辺りではあり得ないことです」

 そこまで下がっていたのか。バルベルデに近づくにつれて、どんどん下がっている。着く頃には、きっと氷点下になっているに違いない。

「チェーンつけた方がよさそうだ。ちょっと止めるね」

 もしかしたら道が凍っているかもしれない。安全には万全を期すに越したことはない。

 

 

 

 

 

「酷い吹雪だ……!」

 本来ならば熱帯雨林に覆われた国であるバルベルデは、雪と氷に埋もれていた。

 国の中心に近づくにつれて、吹雪が酷くなり、とうとうサイクロン号が動かせなくなってしまった。おまけにエルフナインちゃんが寒さのあまり寝そうになってしまい、顔を叩いて目を開けさせた。

「うかうかしてられない。早く寒さをしのげる場所を見つけないと……」

 でも周りにあるのは、雪の重みで崩れ掛かった廃屋だけ。入ったところでしばらくすれば圧死するのがオチだ。

「でも雪しかないんじゃ……、そうだ!」

 なら雪の中に入ればいい。簡単な事だ。

 エルフナインちゃんを背負って、建物から離れたよく雪が積もっている空き地に行き、斜めに深く穴を掘った。

 人2人分入れるぐらいの空間を作り、それから周りに低い壁と屋根のような物を作って、雪が入りにくくしておく。これだけしておけば、一先ず寒さはしのげる筈だ。

 

 

 

 

 

 穴に入り、スープ缶を持ち歩き式の小型コンロで温めて、エルフナインちゃんに飲ませた。

「落ち着いた?」

「はい。ありがとうございます」

「良かった……」

「未来さんもどうぞ……」

「ありがとう」

 半分残ったスープを飲み干し、空き缶で雪をすくってコンロにかける。飲み水が多いに越したことはないから。

「ここが南米だなんて信じられないよ。アラスカの間違いじゃないの? クリスが見たら腰を抜かすよ、絶対」

「僕たちが前にきた時は、蒸し暑い国だったんですけどね……」

「気候変動もここまで酷くなったんだね」

「そんな訳ありませんよ。大方、聖遺物が原因でしょう。局地的にこんな気候になるなんて、それくらいしか理由は思いつきませんよ」

「てことは……、この辺りにあいつらがいると……」

「でしょうね」

 こんな気候にしているってことは、恐らく雪か氷に強い改造魔人だ。大体、誰なのかは想像がつく。この間、会ったから。

 

 

 

 

 

 エルフナインちゃんを防寒用の寝袋に入れて休ませておき、私はコーヒーを片手に辺りを見張っていた。夜襲をかけられる可能性があったから、寝るに寝られなかったんだ。寒さで武器も殆ど使えないし。

「ルウィー製のレーザーライフル一挺でどこまで持つか……」

 野生動物くらいなら素手でも勝てるけど、こっちを襲いにくるのはそんな手合いではないから油断は禁物。

 穴の出口から外を見張り、いつでも銃が撃てるようにしておく。バイザーの反応も逐一確かめながら、常に神経を張り詰めておかないといけない。

「次に寝られるのは、この国を抜けてからになりそう……」

 

 

 

 

 

 それから4日間は何もなかった。

 5日目の夜明け前に、此方が疲れてきた頃を見計らったように、ビームが飛んできた。

 急いで寝袋から引っ張り出したエルフナインちゃんを背負い、草津の時と同じギアを装着して雪面を滑走する。アームドギアに刃が付いているから、普通よりも接近戦がやり易い。おまけに気休めにしかならないけど、手持ち武器がもう一つあるから、いつもよりかは安心できる。

 早速飛び出してきた1人の胸にビームを撃って倒し、道路へと飛び出す。

 すると建物の瓦礫の中から一斉に攻撃が来た。トーチカか何かだったらしい。

「うわぁ!」

「口を開くな! 舌を噛む!」

 悲鳴をあげたエルフナインちゃんに乱暴に言い放ってから、スラスターを吹かしてこれを躱す。でも全部は避けきれず、右足のスラスターと左腕のコードを溶かされた。アームドギアにも穴を開けられている。

 しかし此方も負けじとビームをばら撒いて反撃し、兵隊をあぶり出して、接近戦を仕掛けた。

 まず斜め上から飛び蹴りをしてきた1体を伏せて躱し、アームドギアで逆袈裟にがら空きの背中を斬りつける。

 背中から落ちた其奴の首を左手で掴み、背後から体当たりを仕掛けてきた奴に投げつけて転倒させ、そこに私も飛びかかって、思いっきりアームドギアを叩きつけて2人の頭を潰した。

 その時、別の1体が私を横から蹴飛ばした。

 咄嗟に雪の上にエルフナインちゃんを放り出し、背中から倒れると其奴が私にのしかかってきた。

「あっ!」

 この間、チリで私を散々笑い者にした奴だった。

「また会ったね」

 あの時と同じムカつく顔で笑いながらマウントポジションをとり、私の顔を殴った。

 頭に来て、膝の突起をこいつの股間にぶつけて前に押し出し、胴体を引っ掴んで真横に放り出す。

 急所をやられて動きが鈍くなったところで体重をかけてお腹を踏み付け、口にライフルをねじ込んで撃ち込み、トドメを刺す。ああ、同じ顔をした改造人間を手にかけているのに、とっても清々しい。

「終わった……、ざまみろ……」

 

 

 

 

 

 雪の上に放り出したエルフナインちゃんを背負い、寒さをしのげる場所を探す。襲われた以上、さっきのところに留まるのは危険だから。

「さっきはごめんね。急に放り投げたりして」

「気にしないでください。僕は大丈夫ですから。それよりも次の拠点を探さないと……」

 とはいえ、見れども見れども雪、雪、雪。建物の崩れた集落に隠れられそうな場所はない。こうなったらジャングルに入って、木の穴でも探すことにするか。

 

 

 

 

 

 ジャングルに入り、水面が凍ったアマゾン川を渡ると変な物があった。

 雪が凹んでいる所があるのが見えて、気になって掘り返してみると氷でできた重い扉が出てきた。

 それを開けて中に入ると、冷凍庫のように寒かった。外の方がまだマシなくらい。氷の扉を維持する為には、このくらいの寒さでないといけないのかもしれない。でも私達2人には、ただ寒いだけだ。特にエルフナインちゃん。さっきから震えているもの。

「エルフナインちゃん、外に出る?」

「いえ……、現状では未来さんから離れる方が危ないので……、大丈夫です……」

 そうは言っても唇が紫色になっていて、とても大丈夫そうには見えない。

「まずいようならいつでも言ってちょうだい」

 通路を進んでいくと階段があり、それを登ると奥にギリシャにありそうな石造りの神殿と地底湖があった。

「何これ……、ただの神殿じゃないよね」

「こんな所にギリシア風の神殿があること自体が変ですよ……」

 神殿の奥に進むと液晶パネルが嵌め込まれた石柱が置いてあった。雪の絵が書いてある。

 バイザーを閉じてみると、ポパイと反応が出た。あの船乗りなんかいないのに。まさかここの名前? 

「ねぇ、ここポパイって言うらしいよ。これが元凶?」

「恐らくそうだと思います。南米の何処かにポパイという先史時代の気象兵器があると聞いた事がありましたが、これがそうだったんですね」

「そんな名前なら、ほうれん草の缶詰が降る天気にしてほしかったよ」

 缶詰なら非常食になるし。あまり美味しそうじゃなかったけど。

 

 

 

 

 

「これは僕が操作をしてみるので、未来さんは周囲の警戒をお願いします」

「分かった」

 流石に何も仕掛けてこない筈がない。あの連中が来たってことは、師団長も何処かに潜んでいるに違いない。

 バイザーを使って、周囲の反応を探る。不思議と参謀の時よりも怖くはなかった。直接痛めつけられてないからだろうか。

「うわっ」

 少し寒くなってきたとき、エルフナインちゃんの悲鳴が聞こえた。

 慌てて駆け寄ると、コントロールパネルに小さな両手がぴったりとくっついていた。

「どうしたの!」

「手が凍りついてしまって……。画面が少し湿っていたのにそのまま触ったのがいけなかったみたいです」

「直ぐに剥がせそう……ではないね」

「ええ、お湯を少しずつかけて溶かすしかないかと……」

 そうは言ってもお湯がない。沸かすにしても空き缶がないから無理だ。

「暫く動けないか……」

 他に方法がなく、2人で頭を抱えた。その時だった。

 地底湖から水音が聞こえて、師団長がハルバードを振りかざして飛びかかってきたのは。

 

 

 

 

 

 

「キェーッ!」

 怪鳥音とともに振り下ろされたハルバードをアームドギアで受け止めた。参謀ほどではないが、魔人だけあってかなり重い。

「手が…………痺れる……」

 アームドギアで跳ね飛ばして、ビームを牽制に4発発射する。

 それには構わず、参謀はハルバードを突き込んできた。背後にエルフナインちゃんが居るから避けられない。

「考えたな!」

 止むを得ず、左手を突き出してこれを防いだ。掌にパイクが突き刺さったところで、アームドギアで左腕を吹き飛ばす。とても痛いがこのくらい我慢しないといけない。

「狩りをするときに罠を仕掛けない猟師がいるものか」

「そりゃ……そうだ……」

 私の腕が刺さったままのハルバードを構えて、師団長は横なぎに払ってきた。

 少し足を浮かせてそれを踏んづけて、動かせないように力を入れる。

「足を退けろ」

「嫌だ」

「そんなにこの斧が気に入ったか?」

「うん」

「ならばくれてやる」

 師団長は持ち手の部分を引き抜き、そのまま私の頭の左側面に叩きつけてきた。

「ぐっ」

 そこに追い討ちをかけて、持ち手の先から弾丸が発射されて右耳に当たった。どうやら銃になっているらしい。通りで太い訳だ。

 今のでバイザーが壊れたらしく半開きになった。こうなったら邪魔にしかならないから、バイザーの基部を吹き飛ばして排除する。

「次は炸裂弾だ……」

「さっきのだけじゃないのか……」

 避ければ、エルフナインちゃんにぶつかる……。当たれば、こちらがドカン……。さあてどうする……。待てよ、次は炸裂弾だって言ったよね……。

 そうだ、エルフナインちゃんにあれが当たれば……。手が吹き飛ぶ恐れもあるけど、その時は私が責任を持って何とかすることにしよう。

 

 

 

 

 

 炸裂弾がエルフナインちゃんの手の位置にくるように、体勢を低くする。

「死ね」

 発射されたところでこれを避けて、師団長に体当たりする。

「くうッ」

 肩のあたりが凍りついて痛いのを我慢して、地底湖に突き落とす。重い鎧を着けているから、当分は逃げ出せない筈だ。

 その後直ぐに取って返して、エルフナインちゃんの様子を見ると、火傷と霜焼けこそしているけど、何とかパネルからは解放されたようだった。

「大丈夫だった?!」

「何とか……。ですが、もうポパイは制御不能です。バルベルデ共和国は、未来永劫に永久凍土になります」

「そっか……」

 となると、この国の何処かで眠っているクリスのご両親や友達も永久に氷の下か。出来れば掘り返してあったかい所に連れて行きたいけど、多分無理だ。

 しんみりしていると水音が聞こえた。あの鳥、直ぐに上がってきたか。

「エルフナインちゃん、下がってて」

 スラスターを動かして、師団長が置いて行った斧を滑りながら引っ掴む。

「くれるというならありがたく頂戴しますよ」

 魔人同士の合戦にも使われたんだ。当然、通用する筈。

 

 

 

 

 

 斧をぶら下げて、湖から上がってきた師団長と対峙する。

 向こうさんには棒っきれ以外の武器もあったのか、何処かから取り出した抜身の剣を下段に構えている。

 お互い一気に飛びかかり、得物を噛み合わせる。ハルバードよりも軽い。助かった。

 剣を跳ね上げて、腰のアームを射出してそれを捕まえ握り潰す。

 武器を無くし逃げようとしたところで、またまたアームを使い、今度はさっき砕けた石柱のかけらを掴み、背中に投げつけた。

 背中にかけらがぶつかり、バランスを崩して墜落した師団長の上にのしかかり、斧を後頭部に振り下ろした。

「ギェアッ!」

 断末魔とともに頭をかち割られた師団長は、溶けて無くなってしまった。

「参謀よりも簡単に倒せた……」

 

 

 

 

 

 

「生き返る〜」

「コロンビアに温泉があって助かりました……」

 私達は今、コロンビアのペレイラにある温泉に入っている。

 あの後、暫くあの神殿に霜焼けと凍傷が治るまで滞在し、治ってからは雪の中からサイクロンを掘り出して、積雪量がマシなところまで2日間手で押していったんだ。

 そこまで出たら、後は一直線にコロンビアを目指した。旅行番組で温泉があるのを見たことがあったから。

 ずっと雪の中にいたからお湯が恋しくなったんだ。

「エルフナインちゃん、傷の方は大丈夫?」

「はい、僕はもう痕が残ったくらいです。未来さんは……」

「大丈夫だよ。腕も元通りだし、傷なんか元々あるものだけしかないから」

「右足にかなりの数ありますね……。いつこんなについたんですか?」

 み、右足のことはあまり触れないでもらいたい。今話したくないし。

「これのことは、全部終わってから教えてあげる」

「そうですか。それにしてもナノマシンは便利ですね。傷が塞がりやすくなるのですから」

「ほんと、これだけは助かる機能だよ」

 無かったら、今頃五体不満足もいいところだ。

 

 

 

 

 

 温泉から上がり、適当なコテージを探して、そこで作戦会議。

「これからアメリカの方に抜けるとして、中米経由で移動するか、カリブ海経由で移動するか、どちらにします?」

「うーん。確かコロンビアの北の方って、手付かずの自然がそのままって聞いたことがあるから、そこだけはカリブ海に迂回した方が良さそう」

「ではカリブ海を経由して中米の何処か適当な国に上陸するということで良いですね」

「うん。若しくはカリブの島に寄りながらアメリカまで渡るというのでもいいよ。とにかくアメリカに着きさえすればいいから。聖遺物の研究機関がある所に行けば、魔人退治に役立つ物が転がっているかもしれないし……」

 最初に装着した神獣鏡もアメリカ製だったしね。

「そうですね。さて、今日と明日は休んで英気を養いましょう。1週間弱雪の中にいたからもうくたくたです」

「本当だね。それじゃあ明かりを消して、ゆっくり寝ましょう」

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 日はまだ高かったけど、2人で泥のように眠った。久々の命の危険がない睡眠だったから。




如何でしたか。
今回の師団長の正体は、お察しかと思いますがベルゲルミルです。それにしては弱すぎたかもしれませんが、荒わし師団長同様、そこまで強くはないです。
次回、乞うご期待!
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