陽だまりシリーズ:小日向未来<帰還>   作:ヨザリイコイ

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ジャマイカから海路キューバを経由して、いよいよアメリカ合衆国に入る2人。さてさてこの先どうなることやら。


chapter7.毒霧

 ジャマイカを出発してから10日目の夜、サトウキビで有名なキューバの首都ハバナに、私達は辿り着いた。

「結構かかったね。ここまで来るのに……」

 とっぷりと日が暮れてしまっているから、宿探しも大変そうだ。スペイン語もそこそこ読めるようになったから、うっかり見過ごすなんてことはもうないと思うけど。

「まさか島の南東部のグアンタナモに行ってしまうとは、計算外でした……。それに……」

「酷いものだったね。あの基地」

「ええ。噂には聞いていましたが、あそこまでとは……」

 キューバ島に上陸する時に、方位が少しずれて、上陸予定地のサンティアゴ・デ・クーバではなく、あの悪名高いグアンタナモ基地に流れ着いたの。それで9ミリルガー弾欲しさに恐る恐る忍び込んでみたら、ゴーストタウンの比じゃないレベルの怖い空気が漂う場所だった。

 ショッカーのKZ 並みに寒気がする場所なんか後にも先にもあそこだけしかない。

「収容所なんてどこもあんなものさ」

「見たことあるんですか?」

「あれよりマシなところに暫く閉じ込められて、あそこ並み、いやもしかしたらそれよりも悍しい場所を一度見たことあるよ。その後、ショックで1週間寝られなくなった」

 人間を人間らしく扱わないとどうなるか、あの光景は死ぬまで忘れられないと思う。

「それはまた……」

「ああいう光景は二度と見ないようにするに越した事ないよ。さて……、明日はいよいよ海の向こうのアメリカ合衆国入りか」

「今までの国よりも荒れ具合は酷い可能性が高いです。気を引き締めていきましょう」

 

 

 

 

 

 次の日の朝、フロリダ海峡に面した海岸まで行くと水平線の向こうに紫色の霧が立ち込めているのが見えた。

「あっちにアメリカがあるんだよね」

「その筈ですよ。方位は合ってますから」

 コンパスとにらめっこしているエルフナインちゃんの言う通り、アメリカのある北東の方角に、例の物がある。

「アメリカ大陸に人はいないようだし、まさか毒ガス?」

「だとしたら厄介ですね。一体何のガスなのかわからないことには対処のしようがないですし、それに物資が汚染されていてダメになっている筈です。ここで補給は済ませていかないと」

 厄介なことになった。四六時中、ライダー型のギアをつけてないといけない。流石の私も生身で毒ガスには太刀打ちできないもの。

 

 

 

 

 深緑と黒がベースの野暮ったい見た目のギアを装着して、サイクロンに跨る。

「準備はできた?」

「はい。いつでもどうぞ」

 防護服を着て、アシモのような見た目になったエルフナインちゃんがサイドカーに乗ったのを確認して、エンジンを吹かせてカリブ海に飛び込んだ。

「確かハバナとキーウェストの間は、170キロくらいだったよね」

「はい。正確には171キロです」

「なら1時間半で着くよ。天気も良いし、波も荒くないから、カリブの水をまた飲む事にはならないだろうね」

「海の水は飲み飽きました。塩っぱくて苦いのは、もう御免です」

 

 

 

 

 

 キーウェスト島に近づくにつれて、霧が濃くなった。それとともに頭のバイザーに、霧が有毒物質である旨の警告が表示された。

「成分は……、ショッカー製のトルネードに似ている……」

 確かアウシュヴィッツなどのKZのガス室で使われていたツィクロンBの改良品だった。毒性が増しているのは勿論だけど、気体の重さも増したことから大気中にばら撒いても効果があるようになっているんだ。だから外で使っても、密室に流し込むのと同じ状態になると本郷さんが言っていた。でもコストパフォーマンスがかなり悪いとかで、製造数は他のガスの10分の1以下ってガス保管庫の資料に書いてあったような。実際に倉庫の中には30個くらいしか缶は無かったから、多分嘘ではない。じゃあ何故こんなに充満しているんだろう。

「こっちでもガスを作っていたか、それとも魔人の成分か何かか……」

 兎に角、アメリカ全土が謂わば巨大なガス室と化しているわけだ。ずっとこの格好でいないと死ぬのは避けられない。

「エルフナインちゃん、防護服は絶対に脱がないでね」

「このガスの正体が分かったんですか」

「うん。シアン化水素の毒ガスだよ。簡単に散らばらないようになってるけど……」

「となると、この辺り一帯はガス塗れですね。除染作業が大変そうです」

「できそう?」

「薬品さえ揃えてもらえたらどうにか……。でもこれだとフロリダ半島への上陸もままなりませんよ」

「一先ず、汚染されていないところを探そう。全部が全部汚染されているとは思えないから」

 そう言ってキーウェスト島から距離を取り、大西洋を北東に進んだ。

 

 

 

 

 

 半日かけて海を走ると霧が出ていない島を見つけた。バイザーによるとプレジャー島というらしい。

 サイクロンを走らせて海岸に上陸し、島の中を調べてみると、特に有害物質は検知されなかった。ここならある程度はマシと見ていいようだ。

 農村で小さな納屋を見つけて、プラネテューヌから送ってもらった除染用のスプレーをお互いにかけて、中に入った。

「ここは何とか大丈夫みたいだけど、アメリカがこの有様だとユーラシア行きは確定になりそうだね」

「ええ。大西洋横断の方法を考えましょう」

 防護服を脱いだエルフナインちゃんは、早速地図と鉛筆を取り出してルートの構築に取り掛かっていた。ただ当初の予定のルートとは違い、大西洋には陸地が少ないから簡単には立てられそうになかった。

「ここから真っ直ぐ東に行くという方法は無理そうだね」

「その場合だと、短くとも2日間は陸地に上がれないと思います。カリブ海の時のように遭難すれば、今度こそ2人揃って大西洋の藻屑となります」

「やっぱりそこが問題か……」

 流石に半日以上の継続運転は無理だ。高速道路のSAのように休憩できる場所がいる。しかしそんなものは何処にもない。

「南に引き返してプエルトリコ辺りからアフリカ目指して行くのも……、駄目だ。大して変わらない」

「南が駄目なら北はどうでしょう。北極圏を通過することになりますけど、陸地はまだ多いです」

「具体的には何処をどう通るの?」

「このままカナダまで北上して、まず北極諸島を目指します。そこからはグリーンランドとアイスランドを経由して、スコットランドへ行きます。このルートなら直接大西洋を横断するルートや南に引き返してプエルトリコやカーボベルデ、アフリカ大陸を経由するルートよりも、海上を走行する時間が短くなる筈です」

 確かに距離としては北ルートの方が陸と陸の間が短い。ただちょっと心配な事がある。

「毒ガスの広がり具合で、このルートも駄目になるね」

 今の所、アメリカ本土だけにガスは発生しているけど、広がり具合によっては隣接している北極諸島も汚染されている可能性も高くなる。そうなると南ルートと大差ない状態になってしまう。

「そうですね。その為にも先ずはガスの出所を破壊しましょう。ガスの広がりを抑えないと日本列島も危なくなるかもしれませんし」

「取り敢えずイストワールさんに連絡して、衛星写真を撮ってもらって、それを分析しようか。闇雲に探しても仕方がないから」

「毒対策の為の亜硝酸アミルも頂けそうなら頼んでおいてください。複製の為の機材は錬金術でどうにかできますが、薬品は信頼性の高い既製品を使いたいので」

「分かった」

 

 

 

 

 夜になって、衛星写真とエルフナインちゃんが所望していた亜硝酸アミルが届けられた。

 懐中電灯に黒紙を巻きつけたのを吊るし、その下で写真を2人で見る。

「どうやらテネシー州が、1番濃度が濃い地域のようですね……。中でも酷いのが、オーク・リッジ周辺です……」

「ということは、件の研究所周辺はガス塗れ……。ああ、なんてこった……」

 地図と写真を見比べながら、ガスの大体の出所を予想するとその街だった。これでは聖遺物があっても危なくて使えない。

「毒ガスで聖遺物が駄目になることってあり得る?」

「僕が知る限りでは、そんな事は無かったと思います。ですが、もしかするとそういう性質の物もあるのかもしれません。それに無事な物でも除染せずに使うのは、言うまでもなく危険です」

 何だかオーク・リッジに行く気が無くなってきた。何のメリットも無い可能性が高いからだ。この様子だと、街自体が魔人に一度破壊されているだろうし、その時に聖遺物なんか駄目にされている筈だ。連中は、わざわざそんな物残しておくような馬鹿では無い。

「いっそのこと、オーク・リッジは捨て置かない?」

「駄目ですよ。毒ガスを止める必要があるのを忘れたんですか」

 そうだった。まぁ、発生装置が置いてあるだけかもしれないし、行くだけ行ってみよう。

 

 

 

 

 

「プレジャー島からオーク・リッジまでは、片道で大体8時間ほどですね」

「片道8時間か……。脱出までに防護服が持つかな?」

 耐久性が最も高い物を送ってもらったのだが、それでも一回の使用につき17時間が限界になっているからね。だから道路事情次第で、エルフナインちゃんがかなり危ない状態になる。

「緊急用に小型のガスボンベを取り付けて置きましたから、いざという時はそれを使います」

「さっき防護服を改造していたのは、それだったのか……。なら良いや。いつでも出られるように……」

 そこまで話した時だった。妙な音が外から聞こえたんだ。何かが飛んでくる音。

 直ぐに懐中電灯を消してギアを装着し、レーダーで敵の正体を探りつつ、サイクロンがいつでも発車できるようにエンジンを掛ける。サイドカーの風防も閉じておく事を忘れない。

「何が来たんでしょう」

「今調べている……、兵隊だ」

「未来さんのクローンですか」

「そう。久しぶりのご対面ときたよ」

 しかし一向に降りてくる気配がない。でもただの偵察かと思いきや違った。

 連中の代わりに空から爆弾が降ってきたんだ。

 

 

 

 

 

 爆発と同時に小屋をサイクロンで飛び出す。まさかシンフォギアを使って、空襲を仕掛けてくるとは思わなかった。いつの間に、神獣機は爆撃機になったのか。

 兵隊は次々と爆弾を落としてくる。ただ私達を直接狙っている訳ではないようで、そこら中の家や畜舎、牧草地にもドカドカ落としていた。どうやら逃げ場を無くして、このまま蒸し焼きにでもするつもりらしい。

「単車を火車に……。ははぁ……、地獄への直行便ということか……。面白くないね」

 まだ火の車に乗せられる程、歳を取った覚えはない。そのうち乗せられることになるのは、目の前で燃えている火を見るよりも明らかだけど、今すぐに切符を使う羽目になるような腕は生憎持ち合わせちゃいない。

「エルフナインちゃん、ちょっと空の旅に出るよ……!」

 240キロまで加速し、倒れた看板をジャンプ台にして、空中へと飛び上がる。

 滑空しながらアームドギアを取り出して、目に入った3体に閃光を発射する。

「おや……」

 狙い撃ちしたわけではないからあっさりと躱されたが、動きが鈍い。多分、爆弾を積んでいるからノーマルタイプより重いのだろう。

「見かけは同じだ。なら爆弾が積めそうな場所なんかたかが知れている」

 1人の足目掛けて細めの光線を浴びせる。するとそこから火を噴いて、爆発を起こした。

「少しは入れる場所を考えろ。ダーク・エンジェルス」

 舌打ちをして、アームドギアを構え直す。おそらく向こうの爆弾もアームドギアの一種だろうから、無限に湧き出す物に違いない。重さから逃げられない筈だから掃射で簡単に片付く。

「おわっと!」

 しかしそうは問屋が卸さなかった。背後から増援が攻撃してきたんだ。しかも動きが素早い。やられた、あの爆撃機は囮か。前にいる連中も扇は使えるから挟み撃ちされる形になる。おまけに下を見ると紫の霧が立ち込めている。どこに行こうとマシな状態にはならない。

「迂闊だった」

 仕方がないからサイクロンを霧の中へと降下させた。あのまま滑空を続けて、移動手段を叩き潰されるよりかはマシだ。奴さん達もこれを狙っていたのだろうし。

 

 

 

 

 舗装路を見つけて着地し、エルフナインちゃんの安否確認をする。

「エルフナインちゃん、予定よりも早く突入したけど大丈夫?」

「今のところ大丈夫です。それよりもサイクロン号の損傷具合の方が心配です。走行に問題はなさそうですか?」

「走行には問題ないけどね……。いつもに比べたらスピードは50キロほど落ちそうかな」

 降下した時に受けた攻撃の所為で、エンジンの調子が悪くなってしまったようで、あまりスピードが出せそうにない。

「80キロくらいがやっとだろうから、一刻の猶予もないよ。直ぐに行こう」

 国道74号線の標識を見つけ、一路西へ向かう。

 スピードが落ちているから、大体片道9時間程になる。さっさとカタをつけないと、エルフナインちゃんが酸欠で死ぬ。ガスボンベは壊されたらどうにもならないから、あまり当てにはできない。

「酸素入りのガスボンベはどのくらい持つ?」

「急造品なので3時間がやっとです」

「解毒用のアミルのボンベもそのくらい?」

「はい。ただこちらはそれ程使う機会はないかと。未来さんにも一つお渡ししておきます」

「ありがとう」

 ガスボンベを受け取り、マフラーの中に仕舞い込む。

「御守りがある分、心配の種は減ったな……」

 対策に対策を重ねるのは、大事なことだ。




如何でしたか。
今度の戦いでは、時間が必然的に限られてくる形になります。そんな中でどうやって魔人を倒すのか。
次回、乞うご期待!
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