憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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幻影の構成6

早朝、無人の校舎に時計塔の鐘が鳴り響くたび、就寝中の月魅の体に異変は起こっていた。首を絞められたのではないかと思いそうになるほど、喉がとても苦しいのだとばかりにのたうち始める。熱い塊にふさがれて息を吸うことも吐くこともできないとじたばたする。

 

その原因はもうそこに、すぐそばに来ている。耐えきれなくなって口を開いた途端、じぃっと待ち構えていたものが逆流する叫びのように肺になだれ込んでくると泣き叫ぶ。

 

すると新たに生み出された獰猛なにかが月魅の身体を吹き抜けていくらしい。力任せに締めつけられ、破裂しそうに膨らんでいく殺意に月魅は悲鳴をあげる。だが呼吸はか細いものになっていく。

 

声帯を震わせるだけの空気がそこにはもうなかったし、舌も喉の奥で石のように固まったままだ。気管は今では隙間なく塞がれていた。空気は一切入ってこない。肺は新鮮な酸素を死にものぐるいで求めていたが、そんなものはどこにも見当たらない。

 

身体と意識が分割されていく感覚がある。

 

一方、月魅の意識はどろりとした重い空気の層に引きずり込まれていく。両手と両足が急速に感覚を失っていき、薄れていく意識の中で何度も知らない誰かが問いかけてくるらしい。

 

なぜこんなところで死んでいかなくてはならないんだと。もちろん答えはない。やがて辺縁を持たぬ暗闇が天井から降りて、すべてを包んだ。

 

「───────ッ!!ゆめ、ですよね?」

 

「月魅、よかった......。大丈夫、大丈夫だよ、月魅。時計塔の鐘、やんだから」

 

「よかったです......」

 

月魅は今にも泣きそうな顔でつぶやくのだ。

 

「ひとりだったら、どうしようもなくなっていたかもしれません。翔君が居てくれてほんとうに嬉しいです。ありがとうございます」

 

私は頭をぽんぽんした。月魅はされるがままだ。

 

「月魅、あまりに辛いんなら瑞麗先生にいってずっと女子寮にいた方がよくない?」

 

月魅は首を振る。

 

「......嫌です。それだけはできません」

 

「月魅......」

 

「私が苦しんでいるとき、おそらくアラハバキも苦しんでいるはずです。時計塔の鐘さえ乗り越えれば平気なんです。その先は校舎ほど安全地帯はありません」

 

「それはそうだけどさ......」

 

「私は翔君たちのように戦う手段がありません。《遺跡》に拉致されたら終わりなんです。なら、少しでも足を引っ張りたくない」

 

月魅は無理やり笑ってみせる。

 

「逆をいえば、私が操られても大した被害はでませんし......。女子寮にいてもし白岐さんや八千穂さんになにかあったら、私はそちらの方が耐えきれません。翔君は自分でなんとかしてくださりますし、そちらの方が安心できるんです」

 

「そんなにいうなら付き合うけどさァ......」

 

私はためいきをついた。

 

「とりあえず、なにか食べようか。売店のパンまだあるし」

 

「ありがとうございます」

 

月魅は申し訳なさそうに笑った。

 

「月魅~ッ!聞いたよ、聞いたよッ!翔チャンと図書室に入り浸ってなにしてるの?」

 

「八千穂さん......」

 

「まさかずっとお泊まり!?」

 

「はい、そうですが......」

 

「えええっ!?」

 

「違います。古書の修繕ですよ」

 

函や背のゆるんだ本に糊を入れる程度の修理をしていると月魅は説明した。安い本ならともかく、高く仕入れた本が下手になおすとゴミになってしまうこともある。なおさない方が良かった、なんて修理はしたくない。

 

本をなおすにも、少しの修行と大きな愛情が必要だ。それに、高価な本の修理を緊張しないでやり通せる精神力、修理の結果を自慢しない忍耐力も必要とされる。そこまでしても本の修理は必要だ。本へのささやかないたわりだ。

 

古書を愛する人は修理屋ではないので、基本的にはキレイな本を手に入れたい。だが、そううまくはゆかないものだ。今現在高値の美本は、高値ゆえに大切にされ、これからも美本のままでいる可能性が高い。しかし、ともするとこの世から抹殺されていたかもしれない痛んだ本を、少しでもいたわってやり、評価して、大切に本棚に入れてあげたい。

 

決して新本のようにするのではなく、その本が歩んできた歳月を大事に残しつつ、自然のままに感じてもらえるように修理する。修理がうまければうまい程、その本は人がなおしたなどとは思いもしないはずだ。

                              「だから一刻も早く直してあげたいんです。ただでさえ貴重な古書が多いんですから!」

 

力説する月魅に聞きたいことはそれじゃないんだけどなあといいたげな顔をしてやっちーは聞いている。月魅はやっちーの意図がわかっていてわざと話しているのだろう。難しい話をすればやっちーはやがて諦めてしまうからだ。

 

 

 

 

 

 

称えよファントム!倒せ《生徒会》!ファントム同盟会報。

 

これは怪人ファントムを學園の救世主に祭り上げ、《生徒会》の支配に抵抗しようとしたグループの作ったアジテーションビラだ、これでvol.20とは恐れ入る。

 

ビラにはファントム同盟を設立したとき、墨木に襲撃されたことを糾弾する内容や《夜会》で存在感を示すことができたと露骨に誇張した記事が目立つ。

 

ファントム同盟によれば、《生徒会》の圧政、弾圧、暴力に耐えてきた生徒のためにファントムが立ち上がった。4番目の幻影、學園の救世主に、天香學園の怪人、多くの異名を持つもつ怪人を讃えよとある。流した涙を力に変えて學園の自由を守るために立ち上がるのだと煽っている。無駄な血を流さず、非暴力非服従の精神をもって《生徒会》に立ち向かおうとしめくくっていた。

 

ファントム同盟はどうやら非公式のようで神出鬼没なファントムをなんとかカメラにおさめようと会報誌スタッフは日夜學園を走り回っているらしい。そのかいあってか校舎の屋上に佇むファントムの姿が写真におさめられている。

 

望遠鏡レンズで捕らえた夕暮れをバックに佇むファントム。幻想的で美しいとある。ファントムはある生徒と会話をしていたところのようで、会話していた生徒を探し出して話を聞こうと探し回っているらしい。

 

「あーあ。俺に取材だったらいくらでも応じるのにな~、よりによってファントム同盟かよ~。バレたら俺リンチ確定じゃん」

 

私にビラを見せてくれた葉佩はため息だ。男子寮中のポストに入っていたらしい。

 

「《生徒会》ともファントムとも対立してるのはみんな見てるもんな、お疲れ様」

 

「翔チャンもだよ、學園祭の時にファントムに襲撃されたのは噂になってるからさ。ファントムと1回もあったことないだろ?だから俺よりやべーやつ扱いされてるよ」

 

「好きに言わせとけばいいよ、特になにもしない奴らばっかりなんだからさ」

 

「そーなんだけどね~、この學園マンモス校だからむやみやたらに敵にまわすのも面倒だからこうやって取材から逃げてんの」

 

「あはは、お疲れ様」

 

有志協力者撮影によるファントムのブロマイド販売中の記事を読みながら私は苦笑いした。活動支援のためにもぜひ購入してくれとあるが1枚500円は高い。

 

ついでにファントム同盟会員も会報誌スタッフも募集しているようだ。《生徒会》に立ち向かう勇気のある生徒は是非入会してくれとあるが、夢遊病になったり、《墓地》に拉致されそうになったりするため思うように増えないようだ。いくら秘密厳守で匿名性を強調したところで《タカミムスビ》は神話生物である。無駄な抵抗にも程があった。会費は月500円、高い。連絡先は携帯電話とメールアドレスがあった。もしかしたら中の人が今すぐ特定できるのでは?と思ったのだが、管理会社に《生徒会》が問い合わせても個人情報をたてに教えてくれなかったらしい。そりゃそうだが残念だ。

 

ファントム同盟会則は10もある。

ファントムを學園の救世主としんじること。行動を常にサポートすること。《生徒会》の支配に抵抗すること。《生徒会》にいつの日か制裁を与えること。《生徒会》に表向きは従順を装おうこと。心の中で闘志を燃やすこと。無血主義を貫くこと。私的な闘争を固く禁ずること。会則に背く者は許さないこと。同盟の脱会を許さないこと。

 

すでに《生徒会》への抵抗と称して暴力事件や爆破騒ぎ、不法占拠、生徒や教師の拉致など好き放題している時点で微塵も守れていない会則だ。どんどん精鋭化しているのがわかる。

 

「怖いな......」

 

「テスト期間中くらい大人しくしろって話だよ、ほんと」

 

葉佩はためいきである。

 

「な~んかさ、いつだったか翔チャンがいってた会いたくない後輩君に絡まれまくってんだよね、俺」

 

「誰?」

 

「えーっとたしか、夷澤凍也?」

 

「えっ、なんで?」

 

「さァ?初めは同じクラスの響五葉(ひびき いつは)って子が絡まれてるから助けたんだよ。そしたら懐かれてさ、そしたら夷澤とあって」

 

「なんで夷澤と?」

 

「なんかいつもは響を助けるのは夷澤の役目みたいな?いや~、でもあれは響を口実に暴れたいだけっぽいな~。そんで、よくわかんね~んだけど俺が気に入らないっぽくてさ、喧嘩売られて買ってたらつっかかられるようになって」

 

「九ちゃん、今は平成だぞ。なに昭和のノリみたいな不良マンガやってんだ」

 

「しらね~よ、そんなの。俺風呂の温度なんてこだわりないし。夷澤にいっつも温度調節文句言って使いっ走りにしてるの甲ちゃんだろ。なんで俺まで巻き添えくってんですかね~?」

 

「あー......あれ夷澤だったのか。眼鏡外して髪下ろされたら誰かわかるわけないだろ」

 

「ほかにも、9月ぐらいに温室の花をごっそり勝手に摘んでくやつがいるとか、どーとかぶつくさ言ってたけど。俺は花はゲットレしないのに冤罪かけられて散々だぜ。夷澤って《生徒会》だよな?雑用かなんか?」

 

「............副会長補佐なんてふざけた役職だしな」

 

「補佐?副会長じゃねーんだ?そーいや學園祭の見回りじゃいなかったもんな」

 

「あァ、雑用なんだろ」

 

「う~ん」

 

「まだなにか気になることあるの?九ちゃん」

 

「うん、響のことなんだけどさ。《執行委員》はもう解散したはずだよな、うーん。実は俺と夷澤の喧嘩止めようとして叫んだ瞬間に廊下のガラスとか蛍光灯とか一気に割れちゃってさ。境のじいちゃんに見付かっちゃって、夷澤と片付けになる羽目になったんだよ」

 

「はァ?ガラスが?」

 

「ものすごい衝撃波だったな~」

 

「その響って子、心配だね。不思議な力が使えるのにコントロールできないのか」

 

「そうそう、そんな感じなんだよ。また会ったら声掛けてみようかなって。ファントム同盟とか《タカミムスビ》に操られてるやつに目をつけられたら大変そうだし」

 

「響か......どんな子?見かけたらメール送るよ」

 

「えーっとたしかマスクしてて、おどおどしてて、身長はこれくらいで......」

 

私は頭の中にインプットする作業に入ったのだった。

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