憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話) 作:アズマケイ
学生寮に向かう途中、地面を揺らすような衝撃が葉佩と皆守を襲った。それは教師の家からだった。瑞麗先生も雛川先生も校舎にいるため仲間は無事だが一般人は被害を受けている可能性が高い。そう考えた葉佩たちは教師の家に向かった。
H.A.N.T.がキュエイではない生体反応を検知し、超特大の化人がいると騒ぎ出したものだから葉佩は青ざめた。まさかキュエイが2体?それとも突然変異の新手の敵が出現したのか?こんなことなら男子寮に寄ってから、武器の補充をすればよかった。そんなことを思いながら敷地内に入ったのだが。
「これは......」
「すごいな、なんだこれ」
そこはキュエイが大暴れした痕跡こそ残っていたが、肝心のキュエイの姿がどこにもない。あるのは踏み荒らされた花壇や家屋。ド派手な破壊行動を思わせる残骸だけが残されていた。不思議なのはあれだけ巨大な炎と水の化身の独り舞台だったはずなのに、濡れた場所はあれども延焼している場所が皆無なのわだ。すべて鎮火されていた。
「《エムツー機関》の病院の車両だ、もう誰か来たのかな」
「瑞麗達以外にいたのかよ?」
「う~ん?」
負傷者は運び込まれ、重傷者は搬送、軽傷者は治療をうけているのがみえた。すでに教師の家前のキュエイは倒されていたのだ。
「おっかしいなァ~、この辺に生体反応があったはずなのに。キュエイの敵影反応は消滅したけど、もう一体はすんごい微弱な反応になってる」
「さすがは《如来眼》の能力によるデータがアップデートされているだけはある。君のH.A.N.T.は中々、良い仕事をしているな。とはいえ、闇には妖や魔が住み着くものだ。機械にばかり頼って油断するなよ」
「......お前は、たしか九ちゃんがよく利用してる......」
「ジェイドさん!」
「やあ。こうして私的に会うのは初めてだな、葉佩九龍君。《ロゼッタ協会》の優秀な《宝探し屋》であり、大切な顧客でもある君に、頼みたいことがあってね。こうしてここまでやってきたんだ」
「いつもお世話になってます!」
「おいおい......今はキュエイ倒すので忙しいんだぞ。んなことしてる場合かよ」
「心配する必要はないさ、僕は仕事に私情は挟まない主義だ。君の注文は《店》で待ってるよ。今回、こうして来たのは僕個人の事情からさ」
「ジェイドさんの?」
「ああ、まさか妖魔が現れるとは思わなかった。なぜこんな事態になっているのか教えてくれないか?」
葉佩は一部始終を説明した。
「そうか、江見君が......」
「なあ、ジェイドさん」
「なんだい?」
「ジェイドさん、俺が宅配頼んでない時も男子寮にいる時あるけど、もしかして翔チャンに用があるのか?」
「なに?」
「どうしてそう思うんだい?」
「《如来眼》について翔チャンは瑞麗先生に教わってるところ見たことないんだよね。にしては随分と使いこなしてるからさ」
「それで、なぜ僕だと?」
「そりゃ~、あの水使う《力》みちゃったらそうも思うって。翔チャンが《如来眼》使う時とか、喪部銛矢が《力》使う時とH.A.N.T.の反応が同じだし。これが魔人ってやつなのかな~って。それなら教えられそうなのジェイドさんしかいないじゃん?」
「なッ!?あの化け物の正体がこいつだっていいたいのかよ、九ちゃん!?わかってるならなんでそんな悠長にしゃべってるんだ!」
「なるほど、それから判断したのか。先程の戦い見られていたようだな」
「なんちゃって」
「む......?」
「見てないよ、憶測しただけ」
にたりと笑う葉佩に、ジェイドは罠だったか、とひとりごちて口元をつりあげた。
「なるほどな、さすがは期待の新人だ。《ロゼッタ協会》とは先代からの付き合いでね、そこから江見家とは繋がりがあるのさ」
「へえ~、そうなんだ。なるほど」
「なら、翔ちゃんが精神交換されたこと知ってるんじゃないか。なんだってこの學園に来ることを止めなかったんだよ、翔ちゃんは誰かに助けて欲しくて必死だったんだぞ」
「彼女が望んだからそうしたまでだ。助けて欲しいと意思表示をしていたら、すぐに手を回していたさ。《天御子》や外なる神についてはよく知っているからね。彼女が翔のために動いてくれるといってくれたんだ、協力しないわけがないだろう?」
「それだけ?ジェイドさん、それだけで動くとは思えないんだけど」
「なかなか鋭いところをつくね。まあ、それだけじゃないさ。翔は行方不明になった幼馴染に似ていてね」
「幼馴染?」
「まずは《如来眼》という《力》について説明しなくてはならないな。1998年のことなんだが」
「それって阿門がいってたあれかな。この《遺跡》の封印がとけかけたっていう龍脈が活性化した年だよな?」
「1998年か......やたら事件や事故や災害が多い年だったな」
「へ~、そうなんだ」
「おや、君は東京育ちかい?」
「ああ」
「1998年、龍脈が活性化したのは、まさに東京だったのさ。龍脈が活性化すると《力》に目覚める者たちが続出した。適応出来なければ、キュエイのように死ぬような《力》にだ。僕を含め、多くの仲間が悩みながらも《力》と向き合い、龍脈の力を利用して魔人として再降臨しようとした宿敵を倒した。その宿敵は18年周期で復活しようとしていたんだ。《力》は隔世遺伝、もしくは先祖返りすることで目覚めるんだが、僕の幼馴染は《如来眼》に目覚めた。まだ中学生だったんだが」
「そんなにちっさいのに?」
「10歳にも満たない子供もいたんだ、おかしくは無いさ。問題はその《力》が本来は女性にしか継承されない《力》であり、本来姉に受け継がれるべき《力》が男である幼馴染に受け継がれてしまったことだ。跡取りであるはずの姉ではなく弟に。幼馴染は必死で姉を支えた。僕以外誰にも言わず。《如来眼》の役目である《力》に目覚める人間の探知や龍脈の監視、宿敵の察知。全てが成し遂げられたとき、行方不明になった」
「えっ」
「みんなで探したが見つからなかった。そのあとだ、翔と出会ったのは」
「《如来眼》てのは何人でも現れる《力》なのか?」
「いや、僕の幼馴染の家系は代々隔世遺伝でね、世界にひとりしか存在しないはずなんだ」
「じゃあ、その人は......」
「《力》から解放されてよかったと思っているよ」
「......」
「行方不明になったのはどうしてだと思う?」
「《力》に振り回され、たくさんの命が失われ、戦い、傷つき、その果てに僕らは勝ったけれど誰しもが救われたわけではない。出会った時点で手遅れの人間も数えきれないくらいいた。特に彼は血や姉の不遇や慕っていた少女の死により《力》に不信感を抱くようになっていた。宿敵を倒したところで《力》は脈々として受け継がれていく。本当に必要なのか、もう戦いは終わったのに。そういっていたよ」
「そうなんだ......」
「僕は人知れずこの国を守ってきたある一族の末裔として、この《力》と向き合ってきた。学生のころから家業の宿命として受け入れてきた。だが、幼馴染はそうじゃなかった。僕にできることはそう多くはなかったんだ。だから翔が《如来眼》に目覚めたと聞いて、いてもたってもいられなかったのさ」
「もしかして頼みっていうのは......」
「今の翔は幼馴染くらい、いや下手をしたらそれ以上に《如来眼》と親和性がある。全盛期の彼を彷彿とさせるほどにね。それゆえに危険性もあることを僕はよくわかっている。だから僕も力を貸そう」
「《如来眼》の使い方は教えてたのに、翔ちゃんがこれから何をしようとしているのか知らないのかよ」
「僕はこの學園においては、部外者にすぎないからね。彼女のそばにずっといる訳にはいかない。だからこそだ」
「......理解できないな」
「そっか、わかったよ」
「九ちゃん、本気か?」
「ジェイドさんが強いのはよくわかったし、《力》が欲しいのは事実だしさ。俺たちの方が知らないこともあるようにジェイドさんが知らないこともあるんだ、きっと。なら手を組むのは悪いことじゃない。《エムツー機関》と手を組んでるから今更だよ、今更」
「瑞麗たちのことか」
「うん、そうだよ。この話の流れからして、翔チャンに《如来眼》についてジェイドさんに師事するよういったの瑞麗先生っぽいし。弟さん、ジェイドさんくらいらしいし」
「..................まあ、そうだね」
「なんだよ、その不自然な間は」
「彼女はまだいいが、僕は弟の関西弁が嫌いなんだ」
「は?関西弁?」
「瑞麗先生は中国人だろ?」
「そうだ、意味がわからないと思わないか?」
皆守と葉佩は顔を見合わせた。