憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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見知らぬ明日2

2004年12月24日朝

 

一日静養したおかげで精神力が完全に回復した私は、ようやく外に出ることを江見睡院に許してもらえた。なにせ今日の深夜、いよいよ最終決戦が始まるのである。

 

尊敬する先輩の判断だからと葉佩に私の意見を却下されて23日は一日自室から出してもらえなかった。

 

私が体調不良だったのは周知してもらえたようで、葉佩たちがマミーズの差し入れをしてくれたため、他に訪問者はいなかった。今日一日くらいは友達と話すこともあるだろう、と留守番してくれている彼には感謝してもしきれない。

 

マミーズでお持ち帰り用の注文も済ませてテーブルに座っていると、月魅がやってきた。

 

「おはようございます、翔君。相席してもいいですか?」

 

「うん、いいよ」

 

「もう身体の調子はいいんですか?昨日一日寝込んでると聞いていたので心配していたんです」

 

「九ちゃんたら、そんなこと言ってたのかあ......大袈裟だなあ。今はもうこのとおり大丈夫だよ、ありがとう」

 

「そうですか、それならよかったです。九龍さんから詳しいことはだいたいお聞きしました。お疲れ様でした。江見睡院さんが助けられてよかったですね」

 

「ほんとにね......。そのためだけに突っ走っできたわけだけど、実際に達成出来たら出来たで実感はわかなかったよ。ただ部屋に帰ったら父さんはいるからね、ようやくって感じだ」

 

「そうだと思います。18年ですし。その、江見睡院さんはどこまでご存知なんですか?」

 

「私が目を覚ました頃には、すでに九ちゃんや《ロゼッタ協会》の説明はあらかた終わっていたよ。でも後遺症は深刻みたいでね。私が息子じゃないことはわかるけどわからないみたいな......

そんな感じなんだ」

 

「えっ、精神交換まで話してしまったんですか!?せっかく翔君が今まで頑張ってきたのに......それだけは翔君が時期を見て話すべきことだったのに、待ってすらくれないなんて、さすがに薄情では?」

 

「う~ん......こればかりはどうもね。父さんが色々知りたがったのは事実だから」

 

「翔君......」

 

腑に落ちない顔をしながら、月魅はため息だ。自分のことのように怒ってくれる月魅には感謝である。これが正常な反応なんだと私がいかに狂気に侵されているか教えてくれる。

 

朝食がやってきたので、私たちは重苦しい話はやめにした。

 

「ところで翔君、江見睡院さんカッコイイですよね」

 

「そうだね、女子高生に人気が出るのもわかる気がするよ。閉鎖的な全寮制の学園にあんなにイケメンの教師が赴任してきたら、そりゃ、ね」

 

「しかも《宝探し屋》です。《遺跡》なんて非日常の塊みたいなものを探しに来たアウトローな一面もある」

 

「月魅、ああいう人好みなの?」

 

「インディ・ジョーンズは名作だと思います」

 

「古代遺跡の補正が大きそうだね」

 

「そうともいいます。翔君はどうですか?しばらく同棲するわけですが」

 

「同棲って......言い方に語弊があるよ、月魅。父さんは父さんだ」

 

「それは江見翔君にとってであって、あなたにとっては違いますよね?下手をすれば私たちより歳が近いのでは?それに今のあなたは性的嗜好は女性よりなはずですよね?」

 

「まあ、毎回死にかけるものだから、なかなか肉体と融合しきれないでいるけど......月魅」

 

「どうですか?」

 

「どうって......どうもしないよ」

 

「やはり、翔君のかかえる強迫観念の治療をしなければ進展は見込めないということですか?」

 

「いや、それもあるけど......いやだから月魅」

 

「萌生先生とどちらが好みですか?」

 

「楽しそうだね、月魅。さてはネタに行き詰まってるな?」

 

「私はスケジュール管理を徹底しているので違うんです。サークルの友人が筆の進みが遅いと嘆いているので」

 

「......冬の祭典だね?原稿は手伝わないよ。私はこの世界では関わらないって決めたんだ」

 

「冗談ですよ、冗談」

 

「真顔やめて、逆に怖いよ」

 

顔を見合わせた私たちは吹き出してしまった。

 

しばらく雑談をしながら朝食を食べた。

 

「ついに、ついにここまで来ましたね。どうです?心の準備の方は、もうできましたか?」

 

「もちろん。ここまできたらやるべきことをやるだけだよ」

 

「───────古人曰く。《未来を予測する最善の方法は自らそれを創り出すことである》。あなたなら、きっと《成功の未来》を作れると思いますよ」

 

七瀬はいう。

 

「翔君、私はあなたの役に立てていたでしょうか」

 

「うん、月魅にはたくさん助けてもらったよ。ありがとう」

 

「ふふッ、あなたにそういっていただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます」

 

「こちらこそ」

 

「それでですね、ものは相談なのですが......」

 

「うん」

 

「翔君、この學園を卒業してからも、私はあなたのお役に立ちたいんです。あの、あなたさえよければ、なんですけど。《天御子》と戦うために《九龍の秘宝》を集めるといううあなたの仲間にしてはもらえませんか?」

 

「えっ、いいの?大歓迎なんだけど」

 

「よかった......本当ですか......?!ありがとうございます、翔君。私、嬉しいです。翔君のことですから、ちゃんと伝えないといけないと思っていたんです。あなたはいつも大変なことは後から教えてくれますから」

 

「あはは......とうとう月魅にも言われちゃった......」

 

「私、信じています。あなたや九龍さんならきっと勝てるって......。だから、今から約束しましょう、翔君」

 

「え、なにを?」

 

「八千穂さんが教えてもらったというフリーのメールアドレス、教えてもらえませんか?」

 

「えっ、いいけど。やっちーから教えてもらっても全然よかったのに」

 

「八千穂さんはよくても私がよくありません。私が翔君から聞きたかったんです」

 

「そっか」

 

「はい」

 

私は生徒手帳の白紙欄に書いたメールアドレスを破って月魅に渡した。

 

「今からメールを送ります。これが私の個人のメールアドレスなので登録お願いします」

 

「わかった、ありがとう。私のやつも登録よろしくね」

 

「わかりました。それでですね、約束というのは......今は江見翔君と登録しておきますので、帰ってきたらあなたの名前を教えてほしいんです。改めて登録し直したいので。と、いうわけで、あの......翔君。よかったら、あなたのお名前を次に会ったら教えていただけませんか?」

 

「え、名前?」

 

「はい、江見翔君ではなく、あなたの」

 

「......私の?」

 

「はい。いつかあなたが元の姿に戻ったとしてですよ、江見翔さんと呼ぶわけにはいかないわけじゃないですか。友達なのに名前を知らないのは嫌ですよ、私」

 

月魅は笑う。

 

「最初は自分の知的好奇心を抑えきれなくて、學園の謎を追っていました。けれど......いつのまにか、追いかける謎がどんどん増えていって、追いかけてくれる仲間も増えていきました。気づいたら、一緒に調べてくれる人がいてくれる喜びを教えてくれました。その始まりは、翔君、あなたです。今年の5月、あなたが江見睡院さんを助けたいとこの學園に転校してきた時から、全ては始まったんです。自分の持っている知識をみんなのために使えることはもちろん、あなたの江見睡院さんを助けたいという願いを叶えるために使えることが本当に嬉しかった......。私、もっと頑張りますから、またいつか、《九龍の秘宝》を巡る時には、絶対に一緒に連れて行ってくださいね?約束ですよ?」

 

「わかった。必ず約束するよ、月魅」

 

私はうなずいた。

 

信じ合った心と心は、鋼よりも固い。肉親のように断ち切りがたい絆だ。家族のような絆、いうなれば擬似的な血で結ばれている。長く続いた苦難の日々こそ、私たちに固い団結をもたらしてくれたのだ。

 

同じ価値観を持った者同士、それが仲間なのだとしたら、私が月魅を思う心に寸分の変りない様に月魅にも決して変りない様に思われてる。その観念は殆ど大石の上に坐して居る様で毛の先ほどの危惧心もない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだから。

 

月魅が傍にいると、拠りどころのあるような居心地よさ、落着き、悪い意味の女らしさから来る窮屈を脱した気楽さがある。

 

何かがちょっとずつ、深くなっている気がする。何がって聞かれたら困るけど、言葉にしたら浅くなってしまうようなものが、二人の間で深くなっていた。

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