憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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見知らぬ明日7

これから《生徒会》の会議だということで阿門から体良く追い出された私が生徒会室を出て男子寮に向かっている途中、黒塚と出会った。見るからにどこかに泊まりに行く気満々のようである。

 

「どうしたんだよ、黒塚」

 

「やァ......江見君。君にも聞こえるだろう?石たちの苦悶の叫び声が......。ああッ......この子達の苦しみを思うと僕は、僕はッ───────!」

 

「落ち着いて、黒塚。君までそんな様子だと石達まで怖がるじゃないか。こういうときはしっかりしなきゃ」

 

「ああ、江見君、我が心の友よ───────!そうだね、その通りだともッ!彼らがこんなに苦しんでいるのに、どうして僕達以外に気づいてあげられる人がいないんだろうねッ!実に嘆かわしいよ!嗚呼、可哀想な石(こども)達!必ず僕達が君たちを苦しみから救い出してあげるからねッ!おお、石よ~ッ!大地の揺りかごに寝そべる可愛い子供達よ~!」

 

目をキラキラさせた黒塚に手を掴まれてしまった。距離が近い。

 

「共に彼らの苦しみの元を取り除こうじゃないか!待ってておくれ、もうすぐ助けてあげるからね~ッ!」

 

「助けてあげる、助けてあげるから落ち着いて」

 

「そうかい?ふふふふふ」

 

すっと一瞬黒塚が真顔になる。落ち着いてと言った私がいうのもなんだけど、怪しげな笑顔をひっこめていきなり真面目モードになるのやめて欲しい。スイッチでもあるんじゃないかってレベルで冷静になるからびっくりする。

 

「おそらく石(こども)達を苦しめているのは、例の《遺跡》に眠る何者かの仕業だと思う。どうか、君たちの力で彼らの苦痛を取り除いてやってくれ」

 

「もちろん、そのつもりだから安心するよう伝えて」

 

「もちろんだとも。......おや?..................ああ、可哀想に......とうとう静かな夜になりつつある......。石(こども)達もまるで死んだように息を潜め始めたよ......。彼らは恐れているんだ。あの《遺跡》に眠っている何者かを......。江見君、君は博士たちとあの場所に行くんだろう?石(こども)達すら恐怖のあまりに沈黙するあの場所に......。大丈夫なのかい?」

 

「ありがとう、大丈夫だよ。色んな人に約束してるからね、必ず生きて帰るよ」

 

「ふふふふふッ、さすがは江見君!やっぱり君は僕の見込んだ通りの人材だ!こんな時にそんなことを言える人間はそういない」

 

黒塚は笑った。

 

「僕は今石達(こどもたち)と枕を共にするために準備しているところなのさ。今夜は一人になりたくないってお願いされちゃってね。《レリックドーン》の連中が来てから、みんな怖がってばかりなんだ。僕の目の黒いうちは、《石研》の石(うちのこ)には指一本たりとも触れさせないつもりだから、こうしていつでも討死する準備をしているのさ」

 

「討死って......大丈夫だよ、私たちがなんとかするからさ。石たちにもそう伝えてよ」

 

「ふふふふふ~、わかってるとも。君たちが頑張ってることはね!でも、江見君。僕の石達に対する愛はね、大地よりも深いのさ~。彼らと共に土に還ることは、むしろ幸せなのさ~。僕達の愛は誰にも邪魔できないからね~。ともかく、僕はこの石(こ)たちを守らなければならないのさ。君も自分にとって大切なものをちゃんと見ておくんだよ~?」

 

「そうだね、真実から目を背けないようにするよ」

 

うんうんと黒塚はうなずいている。

 

「いやあ~、それにしてもだよ?九龍博士から聞いたよ、江見君。この子がどこから来たのかわかってよかった。エジプトから来たんだね。いつか行ってみたいな。古代エジプトの神官がここまで追われて《遺跡》を作りあげたんだっていうのだから!」

 

「そうだね......古代エジプトと古代日本の技術の融合体がこの《遺跡》のはずだから」

 

「いいね、いいねえ。僕がいつか地質学者になった暁には、ぜひともこの遺跡の鉱石についても発表したいものだ。僕がこないだ見つけた回廊も、あの《墓》に使われているものと同じなのに様式が違っていたからね。奥が深いよ、全く」

 

「......え?」

 

「ふふふふふふふ、いい反応だね~」

 

ほら、と黒塚は携帯の画像を見せてくれた。

 

「ここだけ古代エジプトの様式なんだ」

 

「記紀神話に準えてきた《遺跡》なのに、いきなりエジプト?え、待って、それほんとにこの學園敷地内にあったの?」

 

「そのまさかなんだよね~。まるで記紀神話にも載せられない抹殺された歴史でもあるかのようにひっそりと眠っているよ」

 

私は息を飲んだ。

 

「まさか、石達が脅えているのはこっちの方?」

 

黒塚は意味深に笑った。

 

「この画像借りてもいい?」

 

「いいとも」

 

H.A.N.T.に転送した画像を解析してみる。

 

「ネフレン=カの《遺跡》と一致する......?」

 

知らない名前だった。H.A.N.T.によると古代エジプトにおいて「暗黒のファラオ」と呼ばれた王、ネフレン=カは邪神に捧げるあまりにも忌まわしい祭祀を行ったため、その名を歴史から抹殺されたらしい。

 

「これまた曰くありげな......」

 

なんでも、邪教に入れ込みすぎたので王位を剥奪され彼の治世は黒歴史にされたらしい。その王様が最後に逃げ込んだ地下納骨堂が今でもどこかに現存していて、そこにはネフレン=カのミイラと、最後に授けられた超常の力の証拠があるらしい。ネフレン=カがもらったのは、予知の力なのだそうだ。

 

「......待って待って待って」

 

黒塚が見せてくれた回廊には所狭しと古代文字で歴史が書かれている。まるでその王様のように見せびらかすかのように未来のヴィジョンを納骨堂の壁に描きちらしてある。3000年分か、もしかしたらそれ以上を。命が尽きるまで書いたように。

 

すべての人間の顔が写真にとったように的確だった。粗雑な描きかたではあっても、生気をおび、写実的だった。

どうみても一般的なエジプトの画風ではない。普通の神聖文字が構成する象徴的な画風ではなかった。その点が怖ろしかった。

 

ネフレン=カは写実主義者だったのだ。ネフレン=カの描く人間はまぎれもない人間、建物もまぎれもない建物だった。すべてが驚くほど写実的に描かれているばかりに、見るのがただもう怖ろしかった。

 

絵はすべて小さかったが、なまなましく明瞭だった。壁にそっていかにも自然に流れているようで、きれめのない連続性のうちに描かれたかのように、ひとつひとつの場面がほかの場面にとけこんでいた。あたかも画家が制作中に一度として手を休めたことがなかったかのように、尋常ならざる力業でもって、疲れも知らず、この広大な廊下の壁に一気に描き上げたかのようだった。まさしく、尋常ならざる力業でもって、一気に描きあげたのだ。

 

タッチはあらいけれど、生気にあふれかつ写実的。アドリブで描いたにもかかわらず構図も現実味に溢れている。

 

 

ネフレン=カは、最後の地まで従った臣下全員を生け贄にささげて最後の儀式を行い、予知能力を授けられたようだ。

 

もしかしたら、ファラオが捧げた膨大な生け贄のためではなく、彼が王位も王国も仲間も部下もなにもかも喪失したこと、それを最高の生け贄として認めて力を授けてくれたのかもしれない。

 

「どこの邪神よ.....。そういやこの《遺跡》作ったエジプトの神官って、なんで追われてここまで来たのか考えたことなかったけど......うーん。ねえ、黒塚。この回廊、どうやっていけばいい?というかいつ見つけたのさ?」

 

「《レリックドーン》が攻めてきた時にあまりにこの子が騒ぐからいってみた先にあったのさ。あの《墓》から隠されるような場所に入口があったよ」

 

私は思わず閉口した。境の爺さんの鼻が効かないということは、《秘宝》がないということになる。

 

「まさか、訓練所......?」

 

私のつぶやきに黒塚はいよいよ手を振り回してくる。

 

「やっぱり君もそう思うかい?!いやあ、君の造詣の深さには前々から一目置いていたんだよッ!そうさ、きっとあの《墓》が《遺伝子操作》の実験場なら、これはさらなる実験を行うための訓練所だ!きっと他の《遺跡》にはここ以上に規模が大きい場所があるに違いないよ!」

 

「黒塚よく見つけたね」

 

「ふふふふふ、まあね。石達のお願いをこの間叶えてあげたばかりだからさ。九龍博士にも教えてあげてよ」

 

「そうだね、ありがとう」

 

「うんうん、同胞には仲良くしなくちゃならないからね!」

 

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