憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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果てしなき流れの果てに2

葉佩たちが新たな区画に突入した瞬間、清らかな鈴の音がした。そちらに目をやると幼い少女たちが立っていた。互いの手を合わせ、瓜二つの顔が葉佩たちをみあげている。

 

「御願い……助けてあげて……きっと、あなたなら救えるはず……行きましょう……深き地の底へ……」

 

「早く……。そのまま進んで下さい……。気をつけて……。《彼》が見ている……。忘れないで……。あなたは最後の希望なのです」

 

《6番目の少女》たちが葉佩に訴えかけている。

 

「大丈夫、《封印の巫女》さんと約束したからさ、必ず約束は守るよ」

 

「ありがとう......」

 

「ありがとうございます......」

 

「この《墓》は、大いなる叡智によって、作られています。ここに封印されているのは《狂気》そのもの……」

 

「あなたなら、辿り着けるはず。《彼》のモノの揺り籠へ……」

 

「わたしたちが守ります......」

 

その言葉通り、《封印の巫女》の加護をうけた彼女たちは強かった。化人たちをたちどころに浄化してしまう。一瞬にして静まりかえる階層を降りながら、葉佩たちは最深部に辿り着いた。

 

「運命の扉が開く……。頑張って……。

この《墓》はまだ生きているのです……」

 

「ここでは、かつて多くの血が流されました……。全ては卓越した文明の力が産み出したモノです。あなたは、この試練を超えなければなりません……」

 

「私たちも力を貸しましょう」

 

「あなたの未来には光が見えます……。その光を遮るものがあってはならないのですから......」

 

青い光が2人をつつむ。そして2つの勾玉に戻ってしまった。葉佩はそれらを拾い上げて大事そうにしまい込む。

 

「いよいよだな、行こうか」

 

皆守と真里野がうなずく。葉佩は目の前の扉に手をかけた。

 

「来たか......」

 

そこに阿門はいた。天井を見つめ、なにやら考え事をしていたようだったが、葉佩たちが扉をあけたために気づいたようだ。

 

「今回の《転校生》......いや、《宝探し屋》は我々《生徒会》の想像をはるかに超える存在だったということだな。よもや、ここまで辿りつこうとは。まさか、お前の実力がこれほどのものとは、な」

 

「江見睡院先生お墨付きだからなッ!」

 

「ふッ......。葉佩、お前は歴代の《墓守》が対峙してきた《宝探し屋》とは明らかに違う人種だ。奪い取るだけではなく、与えることもする。この學園の多くの者達がおまえに出会い、何かを与えられた。俺も───────おまえに大切なものを。最後におまえに会えてよかった」

 

「なんだよ、なんだよ、この世の終わりみたいなこと言っちゃってさ。俺はまだ諦めてないからな」

 

「そんなお前だからこそ、もっと語り合いたいと思ったのかもしれん。ふッ......お前ともっと早く会いたかったが......もう後戻りは出来ない。その言葉だけ受け取ろう」

 

「だーかーらッ!なんでどいつもこいつも諦めちゃうんだよ、ふざけんなッ!」

 

「何を嘆く必要がある?俺は......満足している」

 

「うそつけッ!今決めたぞ、阿門!俺は絶対に負けないし、お前も必ず連れて帰るッ!そんでぶん殴る!たとえそれが阿門の結論なんだとしても俺が気に入らないからな!」

 

「フッ......なにを矛盾したことをいっているのだ。両方が戻ることなどありえないというのに」

 

「勝手に決めんなっての!そんなことしたら俺が翔チャンに殺されちゃうじゃんか!」

 

「......翔はいないようだが」

 

「《タカミムスビ》のところにいってるよ」

 

「なんだと......?まさかとは思っていたが、正気なのか......?」

 

「狂気に侵されてても、翔チャンはやろうとするよ。知ってるだろ?なのに俺だけ諦めるわけにはいかないんだよね~、かっこつかないからさ!それに今のまんまじゃ、《宝探し屋》としての俺しか阿門は知らないわけだし?友達になれそうなのに、どこまでも相容れない者同士になっちゃってるのが心底残念だよ、だから帰ったら覚悟しろよな~!その認識改めてやるからさ!」

 

「本気か?お前は《宝探し屋》であり、俺は《墓守》だ。敵であるお前がなぜ俺にそんな言葉をかける。......なるほどな、その笑顔で周囲の警戒心をとかせる───────それがお前のやり方か。相対するまでそれを見抜けなかったことが我らの敗因というわけだ。しかし、ここまでだ。これ以上はお前の好きにはさせん。手加減はせんぞ、《宝探し屋》、葉佩九龍」

 

「も~、仕方ないな。ここまで来たらそれもありかもな」

 

「この状況をたのしむ余裕があるとは───────大したものだな。障害が高ければ高いほど、力が発揮できるというわけか。お前のその性格が俺の最大の失敗を招いたというわけだ。もう闘いは始まっているというわけだな」

 

「へへッ、そういうことッ!」

 

「敵ながら敬意を表すに相応しい」

 

「それはどうも!」

 

「だが......果たしておまえに俺の相手が務まるかな?《生徒会》相手によくやってきたようだが、それもここまでだ。《宝探し屋》、ここが文字通り、お前の墓となるだろう」

 

「それだけは勘弁だな~ッ、来年も兄ちゃんと春節祝う気満々だからさッ。ここで終わるつもりは微塵もないぜ」

 

「ならばこれ以上言葉は不要だな。障害となる者は、排除する───────それが《生徒会》の掟だ。これが《墓守》の長たる俺の役目だ」

 

「......ちッ、わからず屋がッ......!お前なら《長髄彦》を倒して《タカミムスビ》をどうにかしなきゃならないのはわかっているはずだろう!」

 

「《長髄彦》に滅ぼされるのを待つか、《長髄彦》を倒すか、いずれでもないというのか......」

 

「それが阿門の答えなんだな、甲ちゃんと同じだ」

 

「..................」

 

「む......」

 

「なるほど、そういうことなら勝者のいうことなら聞いてくれるみたいだな」

 

「そうだ......俺の息の根をとめなければ、どのみちお前は前に進むことなど初めから叶わない。さァ、俺を倒してみろ。お前が真に《秘宝》を手に入れるに相応しいものであるというのなら───────全力で挑んでくるがいい。葉佩」

 

それが合図だった。

 

 

 

 

動くものの影すらない荒涼たる砂の壁が葉佩の目前に迫ってきていた。吹きつける砂嵐は、あたりにもうもうと立ちこめ、目にも口にも砂が入ってくる。パウダー状で軽くて実体がなく、四方八方見渡す限りどこまでも広がっている。自分の身体なんてあっという間に砂に同化して風に飛ばされてしまいそうな気がしてしまうほどだ。誰でも死について考えてしまう。皮膚がひりひりするくらいに直接死を感じてしまう。傍らにいるはずの皆守や真里野の気配すらあいまいになってしまう絶対零度の孤独は、吐き気にちょっと似ていると葉佩は思った。

 

果てしない砂の平原にひとりで投げ出されれば、誰だって窒息しそうな閉塞感に捉えられてしまう。

 

見渡す限りの砂だ。風紋の刻まれた砂の壁は海を連想させる。けれども、遠いどこかに向かっていっせいに打ち寄せていく無数の波は、立ち上がったままの姿で死んでいる。海水のなかに夥しい奇妙な生命がうごめいているように、砂は、内部に死滅した時間を沈めて充実しているのだ。

 

 

葉佩の思考はあくまでも冷静に今の戦況を観察していた。不運な遭難者との違いは静かな一対の目を持っていることだ。孤独で、青い空を見続けるのになれている。目が空の色に染まっている。どこまでも注意深い。小さな敵影を求めている。それは最初は芥子粒のようにしか見えないが、1度でも捉えたら捕まえたも同然だった。

 

葉佩は剣を振るう。オーパーツで構成されているその剣は振動を増幅させ、対象に裂傷と吹き飛ばしの効果を付与するのだ。

 

「ぐッ───────」

 

阿門は葉佩がくる方向がわかっていたが、砂の壁すら両断する威力までは計れなかったらしい。一気に距離をつめられ、強烈な一撃を浴びた。阿門の恵まれた体格すら容易に想像吹き飛ばす威力である。体勢を立て直す暇など葉佩は与えようとしなかった。

 

「何故、生身のお前が数々の罠を乗り越えて来られるのか……」

 

「それは《遺跡》が俺を呼んでるからさッ!真里野ッ!」

 

「言われなくとも!」

 

葉佩が阿門を捕捉したことで《黒い砂》が一時的に止んだ。真里野たちは視界が開けるやいなや葉佩のところに助太刀する。真里野が木刀を抜いた。

 

「拙者の技『原子刀』で斬れぬものはない。武士なら、正々堂々とこの困難を乗り越えてみようぞ」

 

「見せてやろう。DNAを書き換える俺の《力》を」

 

ふたたび《黒い砂》が再起動する。

 

「こっちだ、九ちゃんッ!」

 

皆守の卓越した観察眼が阿門の攻撃を予測して安全圏まで葉佩を引っ張り出す。

 

「さんきゅー、甲ちゃん!」

 

体勢を持ち直した葉佩は真里野とやり合っている阿門のところに向かった。

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