憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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果てしなき流れの果てに4

皆守は目眩がした。頭が割れるような音だ。たまらず耳を塞いだが後ろからいきなり浮遊感を感じた。

 

「───────ッ!?」  

 

葉佩と阿門の戦闘は加熱する一方だった。皆守も真里野も途中から疲労困憊になりついていけなくなってしまった。あとはもう追いかけるのが精一杯だった。

 

「あの馬鹿......ここがどこか、忘れてるんじゃないだろうなッ!?」

 

「忘れてはおらんだろう、さすがに......これだけ狭い区画なのだから」

 

「まさかとは思うが、《遺跡》ごとふっとばす気じゃないだろうなッ!?」

 

「ううむ......」

 

「ちッ…… 一服する暇もありゃしない」

 

「共に修羅の道行きと参ろうか」

 

「阿呆、もう道中じゃねえか。下手したらここにいる全員生き埋めだぞ」

 

ようやく爆風による視界不良が収まって確認してみれば二人は未だに交戦状態だった。

 

「は......まじかよ。見たかよ、あの顔」

 

「2人とも笑っておるな」

 

ふたたび音が爆発したように一瞬だけ広がる。枕元で雷が落ちたくらいの爆音だ。猛烈な爆発音が耳の穴になだれこんで来る。どうやらまた葉佩が爆弾を投げ込んだらしい。どんどん阿門と葉佩の行動範囲が狭まっていく。

 

阿門は葉佩の全ての攻撃をなぎ払い、そのまま圧殺しようとしているようだ。葉佩はカウンターダメージを狙う。その報復とばかりに阿門の《墓守》としての《力》が拡散の波動となり電光のようなすさまじい色彩を放った。

 

地軸もろとも引き裂くような爆発音がして《遺跡》全体が揺れる。唸りつづける爆音に脳をやられて、地球を頭にささえたような重たい感じに苛まれ、皆守たちの顔色は悪くなっていった。

 

《黒い砂》が空間全体を覆い尽くそうとした、その刹那。ぴたり、と2人の動きが止まった。

 

《いあ、いあ》

 

脳が意味を理解するのを拒否する邪悪な呪文が始まった。

 

《時空を越えし彼方なるものよ》

 

それはここから何百メートルも離れた先にある区画で唱えられているはずの呪文のはずだった。

 

《自存する源たる全なる神よ》

 

たらり、と皆守は汗をかく。

 

《門を開き、頭手足なき塊を連なる時空へ廻帰したまえ》

 

ちら、と真里野をみる。

 

《大いなる時の輪廻の果てに、帰するために》

 

真里野はうなずいた。

 

《ふんぐるい なるふたあぐん》

 

そして確信するのだ、この呪文は《黒い砂》を一度でも受け入れた人間の脳内に直接響き渡る呪詛なのだと。

 

《んぐあ・があ ふたぐん いあ! いあ!うぼさすら!》

 

目を塞いだが無駄だった。耳を削ぎ落とそうが、きっと聞こえるに違いない。これは脳内から直接響いてくる逃れられない呪詛なのだと。

 

皆守たちを襲ったのは、恐怖心だった。食われる、と思った。生きたまま貪り食われる白昼夢を見た。それが《タカミムスビ》に起きている現実であり、《黒い砂》にふれたことがある人間の《遺伝子》情報の奥深くに入り込み、今なお息づく落とし子の悲鳴なのだと皆守たちは理解した。理解してしまった。動けなかった。

 

つまり、阿門は動けなかったのだ。葉佩はそれに気付いて攻撃をやめたのだ。それくらいには天と地ほどの差があった。

 

皆守と真里野の体の自由が効くようになったころ、ようやく阿門も動けるようになったようだ。葉佩はたんたんと移動しながら戦闘態勢に移行する。体勢を整えていく。

 

「───────......まさか、翔は成し遂げたというのか」

 

「その様子だとそうみたいだな〜?よかったじゃん、これでいつ邪魔が入るかハラハラしながら戦わなくても済むぜ、阿門。どーせ、俺を庇おうとか余計なこと考えてたんだろ〜?」

 

「終わりは俺だけのものだ、お前にどうこういわれる筋合いはない。《墓》の《狂気》は、いつでも《墓守》の長たる俺を見張ってきたのだ。あそこに描かれた二匹の蛇はDNAの螺旋構造をしている。黒い砂に見えるナノマシンもこの場所も古の遺産という訳だ。その終焉について考えなかった日など一度もない」

 

「今更思い出したようにいうあたり、そんな暇与えなかったから忘れてたみたいだな〜?終始俺のペースだったもんね」

 

「ふん......銃火器ばかりで得意の接近戦を封殺されていた癖になにをいう」

 

「はああ〜ッ!?なんだよそれ、図星だからってこのタイミングでなんつーこというんだよ、この野郎ッ!あとちょっとだ、あとちょっとでその《黒い砂》攻略できそうだったんだからなッ!?スキあらば俺の体の《遺伝子》操作しようとしやがってこんのやろッ!」

 

「《墓》とは死者を求めるものだ。さあ、葉佩九龍。まだだ......まだ終わりではない。俺と戦え」

 

「言われなくてもやってやるよ!」

 

葉佩は百年の仇敵に会えた人間のような顔をして阿門に詰め寄っていく。顔は笑っていてもいつ牙をむいてくるか分からない凄みがある。黒い迫力が内面から滲み出ているのだ。どこか人を試すような挑戦的な気配に、阿門は眉を寄せた。

 

葉佩はもともと穏やかな顔、鋭い視線はあった。江見翔のような見透かすような発言こそないが、あれとは別に特別な立場の男が持つ独特の妙な迫力があった。

 

今の葉佩は向かい合って話をしているだけで、刃先で切られる気分になる。人という存在に対する嫌悪感や、冷たい眼差しが感じられた。ただならない静かな圧迫感は、尋常ではない。葉佩の持つ違和感の説明がつかない。穏やかな物言いだったが、奇妙な威圧感が空気を震わせた。

 

「九ちゃん、スイッチ入りやがった」

 

「つい先日お主も見たばかりだものな、わかるか」

 

「そりゃわかるさ。九ちゃんに俺もあんな顔させちまったんだ。後にも先にもあの時だけにしないといけないんだ」

 

「説得力が違うな」

 

「ああ、今ならわかる。九ちゃんは理由もなく人を殺せる人間だ。なんの躊躇もなく引き金をひくことができる。俺たちとは住む世界が違う。今までそれを忘れていられたのに、俺が思い出させちまったんだ」

 

「麻薬の温床にして、法も秩序もない劣悪な環境で育った九龍にとっては日常だとしても......《宝探し屋》としての九龍は決別したかったんだろうな」

 

「勝負あったな」

 

「だが......決着までどれだけかかるかわかったもんじゃないぜ」

 

皆守はアロマを取り出した。

 

皆守が葉佩と真正面から戦ったとき、後半からはほとんどただの殺し合いと化していた。葉佩は笑ったままだった。決着がついて、その強さの理由を尋ねたとき、葉佩がいったことを思い出す。

 

空は見なかった。道も見なかった。月はなおさら目にはいらなかった。ただ見たのは、限りない夜である。そう返してきた。

 

皆守はいろんな感情が入り乱れた、かつて経験したことのない激しい情緒に振り回されていたというのに、葉佩はただひたすらに凪いでいたのだ。互いが互いにひたすら殺し合いたい執着を感じていながら。

 

ほかの人にはこんなに感じないひとつひとつの感覚が活性化されたのは、後にも先にもこれきりだろうと皆守は思っている。それは葉佩と関わってきた誰もが思うことだ。その振幅がそのままその人を思う心のベクトルの大きさだとしたら、とても苦しいものとなる。

 

葉佩はひとりでもふたりでもさんにんでも生きていける人間だ。そしてなんの躊躇もなく置いていける人間だ。何人でも思いを丸ごとを受け入れるくせに、嵐のように去っていく。それが妙に生き生きとしたあるひとつの像を結ぶ。それが葉佩という人間なのだ。たちが悪いにも程があった。

 

皆守は知っている。そんな男との殺し合いは一度しかなく、一瞬で終わる。ついさっきまで本気で死のうとしていた男が、その動機もきっかけも奪われてしまった場合、あっさりと受けいれられるようなやつが《墓守》の長なんて務まるわけがないことも。だから思うのだ。

 

「長引くだろうな」

 

熾烈を極めた激闘の果てに、雌雄を決するのはまだまだ時間がかかりそうだった。

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