憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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炎の転校生2

もう外は夕暮れ時である。

 

放課後、私は夏休み直前から通い始めたバー「九龍(カオルーン)」に通いつめ、牛乳片手にマスターの話を聞く日々を送っている。この体になってからはや半年である。ああ、酒が恋しい。元の姿に戻ることができるのは何年後なのかという話である。

 

それはともかくだ。そのあたりの経緯はマミーズでみんなに喋っているからか、皆守は放課後までついてこようとはしなかった。

 

マスターの千貫厳十郎さんはこの學園の遺跡を管理する阿門家に昔から仕える執事だから監視する必要はないと踏んだらしかった。私もそれは重々承知していたが、今阿門家の当主である生徒会長にとって、千貫さんは父親代わりなのだ。なにせ母親を幼い頃になくし、《黒い砂》による遺伝子操作と洗脳で配下にした生徒を送り込み代々《生徒会》を裏で取り仕切っていた父親も亡くした今、天涯孤独なのである。バーにいくと赤ちゃんの頃から世話してきた「おぼっちゃま」の話を聞くことが出来るのだが、もちろんそれは生徒会長のことだ。彼は唯一生徒会長の父親の時代を知っているから、もしかしたら江見睡院について親しくなれば話してくれるかもしれないという期待感もあった。

 

まだまだ先は長いが、今日も「おぼっちゃま」の話を聞いて終わった私は男子寮の自室に戻ったのだった。

 

電気をつけてテーブルを見るとH.A.N.T.が点滅している。メッセージを受信していた。

 

受診日:2004年9月1日

送信者:ロゼッタ協会

件名:装備の発送

当局よりIDNO.999《KWLOON》の探索に必要な物資の発送を行った。現地には本日中に到着すると思われるため、荷物の運び込みなどで一般生徒に気づかれないよう手配を行うように。以上

 

《ロゼッタ協会》遺跡統括情報局

 

「子供か!」

 

たまらず私は叫んだ。なんでそんなことまでしてあげなくちゃいけないんだ、私は自分でちゃんとしたぞ!?嫌な予感がして外に出るとトラックが来ており、ダンボール箱をかかえた男がすぐ隣で出入りしていた。

 

「なッ......なんだよ、その目は......ッ!とッ......とにかく、俺はもう寝るんだからなッ。お前も、早いところ自分の部屋に戻って寝ろッ!」

 

「ちょっと待ってくれよ、皆守クンッ!まだ話は終わって───────痛いッ!!」

 

無理やり扉を閉められたらしく、頭を打ちつけたらしい葉佩はその場にしゃがみこんでいた。悶絶している。

 

「あはは......反応が面白いからってからかっちゃダメだろ、葉佩」

 

「からかってはないって......ついつい口が滑るだけで......いだだだだ......ケツがふたつに割れた......」

 

涙目の葉佩がチラチラこっちをみながらいう。そのうち静かにしろと皆守がまた蹴りだしそうだったので、私は助け舟を出してやることにした。巻き添えで怒られたらたまったもんじゃない。

 

「ったく、つれねーやつ。わざわざ一緒に帰るんだから仲良くしてくれるんだと思ったのに」

 

「なにしたんだよ、葉佩」

 

「何にもしてないさ、何もな」

 

「今はってつきそうな言い方だね」

 

「うーん、残念でした。俺、雛川亜柚子先生みたいな人が好みなんだ......翔チャンの気持ちには答えられないんだ。ごめんね」

 

「あははっ、裏声でいわなくてもわかってるよ」

 

そうか、皆守とお揃いで年上の女が好きか、仲良く出来ると思うよ葉佩。

 

「今気づいたけど隣の部屋なんだな、よろしく!時々変な鳴き声したり爆発音したりするけど気にしないでくれ」

 

「むしろ近づきたくないよ、それ」

 

身に覚えがありすぎるから私の部屋のスペースにより変な音や匂いや爆発が気づかれないくらいに緩和されたらいいなと楽観的に考えた。

 

葉佩九龍はあれだ。《燃》と《愛》

をやたら乱発する馴れ馴れしくて暑苦しいやつらしい。外国育ちをその距離なしでグイグイ人のパーソナルスペースに踏み入ってくる性格のいいわけにしてゴリ押しするタイプのようだ。

 

ぱんぱん埃をはらいながら葉佩は立ち上がると業者に全部丸投げするつもりのようで私のところにやってきた。

 

「なあなあ、やっちーからメールが来たんだけどなんでかわかるか?俺、教えてないんだけど」

 

「あー、學園のサーバに生徒用のメールフォルダがあるんだよ。やっちー、そこにメールしたんじゃないか?アドレスは簡単に調べられるし」

 

「どうやって?」

 

葉佩はなんの躊躇もなくH.A.N.T.を渡してきた。

 

「かっこいいパソコンだね」

 

「だろ?カスタマイズに金かかったんだよ」

 

なにこのノーガード戦法。堂々としすぎて逆に怖いわ。葉佩九龍め、私昨日メールしたはずだが忘れたのか?

 

仕事は迅速に。素性は決して明かしてはならない。それがプロの宝探し屋の暗黙の掟である。素性がバレれば《秘宝》の墓守や奪おうとする《秘宝の夜明け》に命を狙われることになる。《超古代文明》が残した《秘宝》の痕跡を求めているのは《ロゼッタ協会》だけでは無いのだから。正体(宝探し屋)がバレないようにしろ。油断するな。気をつけろ。《秘宝》の加護があらんことを。

 

昨日最終確認だってちゃんとメールしたし、葉佩もわかってます頑張ります(意訳)っていってたのになあ!?ためいきしか出ない私がいた。

 

「昼に奢ってもらっちゃったし、なにか返すよ。なんか欲しいものあるか?」

 

「そう?なんか悪いな」

 

「まあまあそう言わずにさ」

 

「じゃあ行動食がいいな」

 

「?」

 

「携行食っていった方がいい?持ち運べて、調理無しで、または簡易な調理で食べることが可能な食べ物のことだよ」

 

「あー、なんていうんだっけ。お弁当?」

 

「あはは、たしかにお弁当も一種の携行食さ。だけど日持ちしないしなあ。じゃあヒント。携行食に求められることは、栄養、調理不要、重量、嵩張らない、保存性、携行性である」

 

「あー、飴とかチョコレートか!」

 

「クッキーとかゼリー飲料もあるけどね」

 

「なるほど~。でも売店になかったよな?どこに売ってるんだ?」

 

「マミーズっていうファミレスの入口にあるよ」

 

「へえ~」

 

これは葉佩九龍に対するアドバイスだ。

 

「いつも登山の練習してるんだよ。ランニングじゃ物足りないんだけど、外出禁止だからね」

 

登山やハイキング、ロードレースなど体力を使う活動では3度の食事だけでは不十分で、途中で身体が十分に動かなくなる。そのため、食事と食事の間に行動しながら食べられる高カロリーな携行食を持っていく必要があるのだ。

 

 

特に登山する時は行動食は必ず携行すべきものだとされている。登山では、状況によっては、休まず移動しつづけなければならない状況になり、食事らしい食事の場を確保できないこともある。そうした状況では行動食が唯一の栄養源・活力源となり、重要度が増す。また、携行食を持っていないと行動力の低下を招き、遭難などの危機的な状況を招く可能性が高まる。怪我などで動けなくなった時などは、救助してもらえるまでの間、携行食で命をつなぐことになる。このため、登山では、適切な携行食を十分に持っているかどうかということが、生死を分けることもしばしばである。

 

神妙な面持ちで聞いていた葉佩だったが、空気を読まない引越し屋に呼ばれていってしまった。

 

「また明日な、葉佩」

 

「おう!」

 

さて、今夜はどう動こうかなあ。葉佩とのやりとりが気になるのか、探りをいれるメールがきている。気になるならそのドアを今すぐあけりゃいいのにと思いつつ、私はドアを閉めたのだった。

 

 

 

受信日:2004年9月1日

送信者:転送者

件名:FW:まだ起きてるか?

昼間に話したとおり、今日、七瀬とこの學園の秘密について盛り上がったんだけどさ(顔文字)

 

思ったんだよ、やっぱ墓地に何かあるってさ。江見先生の行方不明と関係があるんじゃないかってな。もしまだ寝てなかったら墓地に来てくれ(スタンプ)(スタンプ)(スタンプ)

 

最初は期待していたのだ。日中のあれは演技やかま掛けであり、実は《ロゼッタ協会》の関係者じゃないかと疑っているんじゃないかと。だが、現実は非常だった。やっちーときゃいきゃい騒いでいる葉佩を皆守は無言で蹴飛ばした。

 

「状況はだいたい把握したぜ。やっぱりお前のせいじゃね~か、このやろう!」

 

「いたい!」

 

まさか開口一番に《ロゼッタ協会》という宝探し屋ギルドから派遣された新米トレジャーハンターだと豪語されるとは思わなかった。江見睡院は俺の先輩であり、18年前にこの學園の遺跡を探索中に消息不明になったのだと言われた。しかも、私を江見睡院の息子だと本気で信じているようだ。接触を測ってくれたのは嬉しいけど違うそうじゃない。

 

おかしいな、ゲームだと一応隠そうとはしてたんだよ。やっちーと一緒に私を待ってるとか何考えてるんだこいつ。

 

「あ、悪い。返す」

 

「あ、うん、ありがとう」

 

「葉佩......葉佩......お前ってやつは......」

 

私はあきれ返って、棒のように突っ立ったまま立ち尽くすしかなかった。どうしていいか分からなかったからだ。

 

体のずっと奥のほうから心臓の鼓動が鈍い音のように聞こえて、手足がいやに重くて、口が蛾でも食べたみたいにかさかさした。

 

「わかってた......わかってたけどこれは......ダメだ。お前わかったぞ、お前、馬鹿だろう」

 

皆守に指をさされ、葉佩はなんでだよと抗議する。やっちーは目を輝かやかせていた。がんばれ、皆守。私は立場的に目を輝かせる人間だ。つっこみはお前だけだ。私はやっちーと盛り上がることにしたのだった。

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