憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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果てしなき流れの果てに7

 

 

葉佩は《長髄彦》を倒すため、ここまで培ってきた技術の全てを使い、全力で挑んだ。そして、決着は着いたのである。

 

「うおォォォ───────ッ!!我が体が崩れていくッ......」

 

振動が《遺跡》全体をつつみ始めた。

 

「な、なんだこの揺れはッ!?」

 

「ようやくか......目的を失った《墓》が崩壊しようとしているのだ」

 

「そんな......それじゃあ、早く逃げないとみんな生き埋めになるじゃねえかッ!」

 

「......」

 

「《墓守》よ」

 

「......?」

 

「この《遺跡》がなくなったところで、お前の役割は終わりではない。お前はこの《遺跡》の《墓守》として全てを見届ける義務がある......我が義息たちを解放して始めてお前はようやく忌まわしき古代の呪縛から解放されるのだ。それまでこの呪われた歴史に終止符をうつことは許さん───────」

 

「......」

 

「全ては地中に消えるだろう。忌まわしき遺産も呪われし運命も。全てを奪い取ってきたこの《遺跡》が崩れれば、棺の中にいるもの達も解放される。そこに貴様が死ねば、《天御子》の思惑通り全てがなかったことになる。それだけは許さん......。お前が犯して来た罪への償いはお前ひとりの死をもってしても償いきれるほど浅いものでは無い。生きるべきだ。償えるはずもない罪の重さを背負いながら惨たらしく生きていけ。私の預かり知らぬところで、人間らしく、後悔に喰い尽くされ惨たらしく生きていけ」

 

「───────ッ」

 

「《長髄彦》様......」

 

「お前は......」

 

「《封印の巫女》さん」

 

「なにをしにきた。崩れる《墓》を見物にでも来たか?」

 

「いいえ、私は最後の使命を果たすために来ました。あとのことは双子に全てを託します。《長髄彦》様とこの《墓》で永遠の眠りにつくために......。黄泉の国までの道のりは、ひとりでは寂しいですから。お供致します」

 

「......ありがとう」

 

葉佩のもっていた勾玉が発光しはじめ、双子が出現した。

 

「巫女様......」

 

「お別れなんですね......」

 

「───────......」

 

《封印の巫女》は阿門に笑いかけた。

 

「私たちが眠りにつこうともあなたの役目は終わった訳ではありません。この學園には、これからあなたの《力》が必要になるでしょう。《墓守》ではなく《學園の守り人》としての《力》が」

 

「......」

 

「はるかなる螺旋の果てに育まれた文明のように、銀色の夜明けの向こう側に、あなたたちを照らしてあげましょう。そして歩き出してください。ほんとうに、ありがとうございました」

 

《遺跡》を眩いばかりの光の柱が覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロゼッタ協会遺跡統括情報局への捜査報告

 

日本国東京都新宿区に所在する全寮制天香學園高等学校の地下に眠る遺跡に関する報告。

 

我、IDNo.999、KWLOONの代役として、件の遺跡に眠る《秘宝》を入手せり。至急、本部への移送を頼む。なおKWLOONは新たなる《遺跡》の未踏区画を発見したため引き続き調査を行う。以上

 

《ロゼッタ協会》ハンター所属

IDNO.0985

コードネーム 紅海

時諏佐 慎也

 

「診察もまだだというのに捜査報告とは、ずいぶんと余裕だな、翔?」

 

「───────ッ!!」

 

脳天に痛みが炸裂する。たまらず私は悶絶する。それが瑞麗先生によるカルテの角での攻撃だと知ったのは、笑っている夕薙に教えてもらってからだった。

 

「病人は素直に寝たほうがいいぞ、翔。寝ながらH.A.N.T.は感心しないな」

 

H.A.N.T.を取り上げられて、ぱたんとしめられてしまった。

 

「なるほど、君が言ってたハンターネームはどうやら正しいらしいな」

 

「うん、そうだね......さすがに私もあのタイミングで嘘はつかないかなァ......」

 

「いや、慎也とは別のハンターネームの可能性もあるだろう?」

 

「《ロゼッタ協会》はIDのナンバーとコードネームはひとつだよ。H.A.N.T.で全部管理してるから」

 

「なるほど......」

 

「そんなに喋ることができるなら大丈夫そうだな、といいたいところだがそうはいかないからな、翔」

 

また瑞麗先生にカルテで頭を叩かれてしまう。つむじを執拗に攻撃するのはやめてほしい。

 

「夕薙、H.A.N.T.をもってるついでに翔のメディカルチェックをかけてみてくれ」

 

「操作方法わかる?」

 

「俺は説明書はきちんと読む方でね、九龍じゃないから安心してくれ」

 

「ならいいよ」

 

解析にかけられてしまった私はためいきだ。五十鈴が改竄してくれていたとはいえ、リアルタイムで私のメディカルチェックがかけられたら、それを改竄することは難しいだろう。ただでさえ今の《ロゼッタ協会》はネットワークが壊滅的な被害をうけて復旧に全力を注いでいる状態だった。そしてH.A.N.T.の情報はそのまま《ロゼッタ協会》本部情報統括部に送られるのだ。いよいよ私という異物が混入しているせいで表記される精神異常、今の私の精神異常が並列されることになる。普通に考えて二度と檻から出て来れないレベルの重症に違いない。

 

「これは......」

 

「だろう?まあ、精神交換という特殊な状況を鑑みれば、実際考慮すべきなのは後ろのふたつくらいだがね。強迫観念に幻覚、幻聴とくれば日常生活すら支障をきたすレベルじゃないか......なにか見たな?」

 

「母さんが助けてくれました。南極の地に江見翔を置いていくわけにはいかないから私は行くって。《タカミムスビ》もろとも邪神に呑まれたから、一体化した今、もう一緒にはいられないって。生きてって......」

 

どうも《遺跡》から脱出してから私の情緒はぶっ壊れてしまったようで、少しの感情の揺れ動きすら反応して涙ぐんでしまう。泣き始めた私を見てH.A.N.T.を返してきた夕薙は頭を撫でてきた。

 

「それはブローチが砕けた時か?なら今の君は思念体の魅了状態からようやく解放されたというわけだ。その残滓が君の中にあるんだろう、未練という形でな。今の君は思念体の感情と自分の感情の境界が極めてあいまいになっているんだ、無理もないさ。何度も死にかけて体と精神が融合しかれない中途半端な状態なんだからな」

 

「なるほど......彼女が精神力を肩代わりしたわけだな。だから今の君がある。常人ならば間違いなく廃人になるレベルのことを君は成し遂げたというわけだ。君が《アマツミカボシ》の転生体かつ《如来眼》の宿星をもつ人間の体にいるから出来たようなものだ......。それを元墓守とはいえ、一般人の女性が儀式を構築したとは......頭が下がるよ」

 

「あの時見たのが幻覚なのか、本当にみたのかはわからないが、今の君が見ているのは間違いなく幻覚だよ、翔。大人しくしないか」

 

医学の心得がある夕薙と精神科のエキスパートたる瑞麗先生にタッグを組まれてしまうと私は本気でどうしようもなくなってしまうのだ。

 

「ふむ......ここまで悪化されてしまうとこれ以上の治療は保健室では難しいな」

 

「やはりそうですか。《ロゼッタ協会》から再三撤退して病院にいくよう言われてるのにガン無視したツケがきたな?」

 

「ふむ......だろうね。《ロゼッタ協会》の医療班も大変だ。イスもまさか君がここまでやるとは思っていなかったらしい」

 

「待って待って待って、まだ《訓練所》が......」

 

「まだいうか」

 

「いたあ!」

 

「見ての通りの重傷だ。だから江見睡院の乗る予定の救急車に家族ということで同伴させてそのまま精神病棟にぶち込んでもらうか?おそらくウチのフロント病院は、1700年分の一般生徒や教職員、あとウチの所属の死者蘇生した患者でパンクすると思うのでね。どう思う?」

瑞麗先生の視線が奥に投げられる。

 

「《エムツー機関》の病院がダメだとなると厳しいな。なにせ《ロゼッタ協会》所属のハンターの方もなかなかの数になりそうだ。優先順位はやはり肉体も精神も瀕死の人間からになる。いくら精神が瀕死状態でも一般の病院で治療可能だと診断が下された以上、入院措置は厳しいんじゃないか?」

 

ジェイドは無慈悲に切り捨ててくる。

 

「だが、翔の状態で一般の精神病院は......」

 

「それだけはやめてください、二度と出られなくなる」

 

「それは《ロゼッタ協会》も困るだろうからな......やむを得ないか。本当は家出を手引きした手前、行方不明扱いの慎也の知り合いがいるからあまり頼りたくはなかったんだが......。よさそうな病院に心当たりがある。翔、《ロゼッタ協会》に聞いてみてくれ」

 

「え~っと......めっちゃ嫌な予感がするんですけど、どこですか?」

 

「慎也の体が拒否反応しているんだな......体の記憶がトラウマで震えているところ悪いが、もしかしなくても新宿中央病院だ」

 

「やっぱり~ッ!?」

 

たまらず私は絶叫した。

 

「ああ、あそこか。弟からは聞いているよ。まあ、翔の性的自認は女性だから大丈夫じゃないか?」

 

「そのかわり、ぞんざいに扱われるのが目に見えているが......まあ、我慢してくれ」

 

「大丈夫なのか......?」

 

「そこの院長は表向きは産婦人科医だが、現代医学では説明不可能な怪我や病気も治療する心霊治療のエキスパートで有名なのさ。当時はかなりの美少女だったが、その容姿と引き換えに驚異的な治癒力を得るためにあえて肥満体となったという噂だ。若くていい男が大好きで、大の女性嫌いで有名なんだ」

 

「......控えめにいって悪夢だな」

 

「ジェイドさん、ついてきてくださいよ......慎也君の知り合いと会ったらどうしたらいいんですか......?」

 

「一応《ロゼッタ協会》から話を通しておけば面会謝絶にはしてくれるはずだ。看護師を除けば。仕方ないだろう?他にいい病院が浮かばない」

 

「そんなあ......」

 

がっくり肩を落とした私はしぶしぶH.A.N.T.にメールをうった。

 

「まさか、そのまま二度と会えないてことはないだろうな?七瀬たちが悲しむと思うんだが......」

 

「あそこに行けば即死以外ならすぐに完治させてくれるから大丈夫だ。僕の知り合いも呪詛のこもったナイフで刺されて普通なら死ぬところを3日で治してもらったからな」

 

「心配しなくても大丈夫だよ、大和。《ロゼッタ協会》も知ってるみたいで二つ返事でOKでたよ......搬送ついでに保険証とか渡しにいくから大人しく寝てろって。退院したら卒業までいろってさ」

 

「そうか、それはよかった。いきなりいなくなったら、みんな悲しむからな」

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