憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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預言者たち8

禍々しい重圧を感じる。

 

《宇宙のあらゆる現象は生まれては消え、そして循環する。宇宙の万物は全て陰と陽の二つのエネルギーで構成されている》

 

葉佩たちは体が自由に動かない。

 

《私は万里の法則に逆らい、囚われ続けたゆえに魂が変質した。陰と陽は全ての万物が持つ性質だ。二つは相対的であり、どちらか一つでは存在しない。してはいけない。だが存在する。それが私だ》

 

ゆっくりと《アビヒコ》が歩いてくる。

 

《陰氣の性質はより物質的で、固まるエネルギーであり、よりゆっくりしていて、より冷たい性質がある。陽の性質は、非物質的で、より動きのあるエネルギーで、より速く、より温かい性質がある。私は陰陽五行思想でいえば炎と相性がよかったのだが、氣は変質し、このようになった》

 

「───────ッ!」

 

なにがおきたのか、葉佩はわからなかった。気づいたら、反対側の壁まで吹き飛ばされていたのだ。しかも動けない。強烈な痛みが走る。どうやら片足を変な方向にまげてしまったために捻挫してしまったようだ。

 

「九ちゃん、大丈夫かッ!?」

 

身動きを封じられている皆守たちは見ていることしか出来ない。

 

「なんだ、これは......いきなり足元から植物が......」

 

《陰陽五行思想の特徴は、それぞれの要素同士がお互いに影響を与え合うという考え方にある。特に相手の要素を抑え、弱める影響を与えるものを「相剋」という》

 

《アビヒコ》は葉佩のすぐ近くまできて、笑うのだ。

 

《水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つという関係を『五行相剋』という。

水は火を消し、火は金を溶かし、金でできた刃物は木を切り倒し、木は土を押しのけて生長し、土は水の流れをせき止める、という具合にだ》

 

H.A.N.T.で数値化されている行動力が著しく減退したことを知らせてくる。葉佩は炎属性の付与された剣で拘束してきた木をぶったぎった。

 

「ご丁寧に弱点教えてくれるのは、やっぱり正々堂々と戦いたいからか?」

 

《アビヒコ》はうなずいた。

 

《私がお前と戦いたいのは、人間が魔を超える可能性を見たいからだ。だから納得させてくれ。長髄彦が負けたには相応の理由があるのだと》

 

《アビヒコ》から尋常ではない気迫を感じる。空気が張りつめ、緊張感が心臓を鷲掴みにした。

 

「くるぞ、九ちゃんッ!」

 

「アンタの戦い方、ノックバックが基本じゃないか」

 

「葉佩、こちらのことは気にするな。俺が防いでやる」

 

「ありがとう、阿門!なにもさせてくれる気ないならこっちにも考えがあるぜッ!」

 

葉佩は自身が生成できる最大火力の爆弾を《アビヒコ》目掛けて投げつけた。阿門は《黒い砂》によりその破壊力から皆守と自身を守る。そして足元を拘束してくる植物の遺伝子情報を書き換え、枯らしてしまった。助太刀しようとかけてくる。

 

《なるほど、阿門帝等にしたように行動範囲を狭めてきたか》

 

「燃やしちゃえば問題ないだろ」

 

《確かにそうだな、賢い子だ。だがお互い条件が同じだということを除けば、だが》

 

「何度も同じ手をくうかッ!」

 

皆守の強烈な蹴りが炸裂した。阿部は少々ぐらついたが平気な顔をしている。《黒い砂》が襲いかかるが、《アビヒコ》が樹木の生成から《氣》による弾丸の連射に切り替えたために一瞬にして弾け飛んでしまう。《黒い砂》はナノマシンだ。肉眼ではみえないとしても実体がある。《アビヒコ》の《力》は氣によるものだ。万物を構成する質量をもつ以前のエネルギーである。実体がないものを遺伝子操作することはできない。

 

だが、《アビヒコ》は葉佩に近づけなくなった。

 

《面白くなってきたではないか》

 

《アビヒコ》は自身の《陰氣》を反転させ、《陽氣》にすることができる。もしくは《陽氣》によく似た氣を生成することができる。その派生で先程葉佩たちを回復してくれたようだから、《陰氣》が物質的な性質があるというのなら《アビヒコ》の《氣》は固まりやすいということだ。たまたま樹木の形がとりやすいだけであり、性質がよく似ているだけで燃えたら終わりではないのだ。燃えたらまた出せばいい。いくらでも氣はあるのだ。どうやら《陰氣》を固めて打ってきているようだ。

 

「うっわ、最悪......」

 

葉佩は舌打ちをした。状態異常が貫通だなんて反則じゃなかろうか。こちらは状態異常を無効にできるアイテムを所持しているというのに。

 

H.A.N.T.がエラーを吐き出している。無理に移動して安全圏まで逃げたせいだろうか。本来の行動力が10パーセントにまで低下してしまう。葉佩はその場から爆弾をなげ、あるいは高火力の銃を打ち込んだ。爆炎があたりをつつむが、敵影は消滅する気配はない。

 

やばいな、と思い始めた頃、葉佩の目の前にかがやくふたつの勾玉がある。それが実体を取り戻したかと思うと、葉佩の目の前にはふたりの少女たちがいた。

 

「君たちは......25日以来だな」

 

《葉佩九龍......》

 

《あなたは、この試練を超えなければなりません……》

 

《どうか負けないで......》

 

鮮やかな光が葉佩を包む。

 

「これは......」

 

葉佩は状態異常が完全に回復したことを悟る。葉佩は光に包まれたままだ。どうやら加護を与えてくれたようである。

 

《アビヒコ様はかつてのあのお方......》

 

《長髄彦様を思い起こさせる......》

 

《かつて人と神がひとつとなり国を統治していたあの頃を......》

 

《大丈夫......あなたには私たちがついています......》

 

「まっじで......?《長髄彦》も全盛期はあんだけの《力》があったのかよ......あはは、まじかあ。そこまで言われちゃやるしかないよなァッ!男の子なら!」

 

葉佩は体力を少しでも回復するためアイテムを一気に消費する。

 

「仕切り直しといきますか!」

 

葉佩はわざわざ弱点の属性を教えてくれただけあり、ダメージはそれなりにあるようだと気づく。弱点はまだあたっていないのか、バカ高い数値の体力ゲージだけが減っていた。H.A.N.T.で表示されている数値化されたステータスをみるに、状態異常は一切効かない。阿門の《力》に効果がないあたり、浄化は意味が無い。皆守の打撃は効いていたから期待できる。

 

「やっぱ弱点攻めないといつまでたっても倒せないやつだな。あと6ターンしかないってのに。よし、まずは弱点を探すか」

 

いつもの調子が戻ってきたのか、葉佩は装備を切り替えて《アビヒコ》と向き直る。

 

「甲ちゃん、頼むよ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

皆守が攻撃している隙をついて《アビヒコ》の弱点を探る。葉佩は皆守が離れた瞬間に調べきれなかった場所にどんどん弾丸を打ち込んでいく。

 

《───────グッ》

 

「よっしゃ、見つけたッ!アンタの弱点はそこかッ!」

 

《アビヒコ》の弱点は首だった。

 

「弱点がわかればこっちのもんだッ!」

 

爆弾がつきてしまった葉佩は、そのまま《アビヒコ》目掛けて切りかかる。

 

《ぐああッ!》

 

「よっしゃ、減った!」

 

初めて反対側の体力ゲージが減ったため、葉佩は歓声をあげる。あとはもう残りの回復アイテムを使い切り、行動力の暴力で一気に削っていく。そしてトドメは散々親友をなぶってくれた《アビヒコ》に対する怒りに充ちていた皆守の強烈な蹴りだった。

 

《見せてもらったぞ、お前たちの力を》

 

《アビヒコ》は歪に笑う。

 

《ならば......私も全力で答えねばなるまい》

 

「あと4ターンか」

 

阿部の周りに《陰氣》がたち込める。それは《陽氣》に変換され、阿部を巻き込み収束していく。人の形ではなくなっていく。光の輪郭はやがて巨大な人ならざるものへと変わっていく。

 

H.A.N.T.が新たなデータを表示してくる。

 

「やっぱり《魔人》かァ......よし、やるぜ」

 

《陰氣》に充ちている《アビヒコ》は破邪が新たに弱点として追加されているのがわかった葉佩は黄金銃で弱点を探そうとした。

 

《何度も同じ手は食わぬよ、人の子よ》

 

《陰氣》の弾丸が葉佩に飛んでくる。

 

「うわっ」

 

銃で自身を庇った葉佩は、植物が銃口を塞いでいることに気づいて顔をひきつらせる。あわてて放り投げた黄金銃は暴発して床に巨大な穴をあけて転がった。

 

「そっかァ......《長髄彦》と違って《アビヒコ》は6年もこっちの世界で生活してるから銃火器の構造わかっちゃってるのかァ.....。阿門、今の《アビヒコ》は破邪が弱点に追加されたから頼むよ」

 

「わかった」

 

「九ちゃん、背中は任せてくれ」

 

「うん、任せた!」

 

《さあ、あと3ターンだ。戦いに興じようではないか、人の子よ》




火傷の部分に剃刀でも走らせたような疼痛が走った。目を背けたくなる種類の傷だ。そして血しぶきが飛ぶ。

《この私に傷をつけたな、葉佩九龍ッ!》

《アビヒコ》はそれはもう嬉しそうな顔をして笑う。葉佩はふたたび大剣を勢いよく振り下ろした。それをあと少しというところで《アビヒコ》がうけとめる。じりじりと手があぶられて焼ける匂いがするが、《アビヒコ》は気にする様子もない。超至近距離から《陰氣》を収縮させ、葉佩にぶつけようとした。

───────その刹那。

「《アビヒコ》様、これ以上やると入り口に戻されますよ。せっかく解放した魂を化人に戻す気ですか」

咎めるように阿部が口を出した。

《ぬう......もう時間切れか......》

名残惜しそうに《アビヒコ》はいう。

「えー、もうそんな時間!?あと一撃いれたら形勢逆転しそうだったのに!」

《仕方あるまい......》

「引き分けかあ」

《いや、私が指定したターン数持ちこたえたのだ。さすがだ、葉佩九龍》

《アビヒコ》は笑う。そして葉佩から離れた。そして、皆守、阿門、葉佩をまた全快させてくれた。

《砕けぬ意志…......それもまた人の子の強さ、か。いいものを見せてもらったぞ、葉佩九龍。この幾星霜の中、これほどの挑戦者がどれ程いたであろうか…......もはや何も言うまい。フフ、では《長髄彦》や愚息と再会するために一足先に伝えて来るとしよう。感謝するぞ。本当にありがとう》

《アビヒコ》の《氣》が消え失せた。葉佩たちの前にいるのは阿部だけだ。

「決着がみられなかったのは残念だけど、《アビヒコ》様の息子たちを解放してくれてありがとう、葉佩。ずっと一人で潜り続けていたからすごく嬉しそうだったよ、《アビヒコ》様」

そして笑った。

「《アビヒコ》は?」

「黄泉の国に思念を飛ばすために表に出てこなくなっただけだよ、大丈夫」

「そっか」

「俺はここにいるよ。そしたら時間切れで戻れると思うし。葉佩は先に行くといいよ」

「わかった。ありがとう」

阿部と葉佩は握手を交わした。そこに何回か手を叩き、阿部は頑張って、と笑いかけた。

葉佩たちはがこんという音がして、扉があいたことをしる。手を振る阿部を残して、3人は奥に進んだ。

《長髄彦》を解放してからすでに3日が経過していた。《アビヒコ》の息子たちを倒したのは初めて、かつ《アビヒコ》に全快してもらったため満身創痍ではない。これから待ち受ける残りの試練は化人の討伐ばかりだ。初めての区画だったが、失敗するわけにはいかない。念には念をいれて、いつになく慎重に葉佩たちは進んでいった。

最深部の区画には碑文があった。

《勇気ある者よ、秘宝の加護があらんことを》

どうやら行き止まりのようだ。その近くには宝箱があった。

「これは......」

葉佩は《碑文》と円盤を取り出す。

「次の《遺跡》に繋がる地図と......なんかのオーパーツかな?見たことないやこれ。《ロゼッタ協会》に報告してみないと」

H.A.N.T.で解析してみたが、解析不能の言葉がならぶ。

「踏破したっぽい?」

瞬き数回、葉佩は嬉しそうに笑う。

「これで任務達成かァ!!やった~ッ!!」
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