憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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エピローグ
夜が明けたら1


夢の雰囲気から自分だけ追い出され、突然目が覚めることがあった。そういうときは、まるで電気をつけられたかと思うくらいぱっと目が覚める。たいていなにかある日だ。真冬の真夜中。目を閉じると、ひそやかに何かがこちらにやってくる足音が聞こえるようだった。ずっと横たわって黙ったままそれを聞いていた。

 

扉が空く気配がした。

 

冬の廊下は静かで、すみずみまで夜の匂いに満ちていた。私の部屋までの二メートル、窓ガラスは暗く、私の顔といっしょに忘れられたすべてのことを映し出すような艶を持っていた。

 

「こんばんは~。やっほー、紅海さん。元気してる?」

 

「えっ、九ちゃん!?なんで?」

 

「いやあ、《ロゼッタ協会》から次の《遺跡》にいくよう通知がきちゃってさ~」

 

「ほんとに?ってことは《訓練所》クリアしたんだッ!?おめでとう!」

 

「ありがと~ッ!」

 

「なにがあった?」

 

「オーパーツと《長髄彦》がいってた天香遺跡から出荷された化人の行先が記された《碑文》を見つけたよ」

 

「!!」

 

「どうも今の地図上だと刑務所にあるらしくてさ~......みんなには言えなかったんだけど、《ロゼッタ協会》が罪状でっちあげるから収監されろっていうんだよ~!」

 

「それはまた......」

 

「《タカミムスビ》の落とし子からできた化人が刑務所の真下の遺跡にいるんだぜ!?もうすでに今の段階で嫌な予感しかしないんですけどっ!!参っちゃうよ~、卒業式までには帰ってこいってみんなに言われちゃうし~ッ」

 

「でも、やるんでしょ?九ちゃんだし」

 

「やるけどさ~ッ!」

 

葉佩はため息をついた。

 

「なんか既に境のじいさん、一身上の都合で用務員やめちゃってるし~、タイミング的にどう考えても《九龍の秘宝》の横取り狙ってるし~......前途多難すぎないか?」

 

「あはは......」

 

「ま、奈々子ちゃんがどーも俺の次の任務先に派遣されるっぽいから、寂しくはないけど」

 

「それほんと?奈々子ちゃんも大変だね、刑務所なんて」

 

「さすがにまた会えるとはいえなかったけどさァ~、刑務所ですかぁああって店長のおっさんに叫んでる奈々子ちゃんがいってたよ」

 

「あはは」

 

「紅海さん、退院は来年の1月だろ~?支援とか期待できない?」

 

「邪神にかかわることなら支援できるとは思うけど......卒業式までは静養かねて学園にいろって言われちゃってるんだ。ごめんね。代わりに最終報告書を書くことになってるからそれで帳消しにして」

 

「マジでッ!?うわあー......《如来眼》の支援受けられないとかきっつい......《訓練所》で紅海さんがいない絶望感味わったばっかなのに~......なんだよこの仕打ち!」

 

「ほんとごめんね。でもクリアしたならそれは九ちゃんの実力なんだから自信もっていいよ」

 

「うう、ありがとう。でも學園の次は監獄とかどう考えても落差ありすぎだよな~......不安しかないぜ。《訓練所》

の《イワレ》や《イザナミ》倒した化人しかいないわけだから......あああ......」

 

「同情するよ、九ちゃん。でも大丈夫、今の九ちゃんだったらきっと大丈夫だ。卒業式には間に合うよ、きっとね。そうだ、これあげるよ、九ちゃん。私は行けないけれど、代わりにこれ持っていって」

 

「これは?」

 

「天金石の腕輪。私が依頼人からもらったアイテムなんだけど、これ付けてると敵に与えるダメージに補正がかなりかかるみたいなんだ。空海が護符としたラズライトという鉱物で構成された深い青色の石をもつ腕輪だよ」

 

「おお~、ありがとう!」

 

葉佩はさっそくつけてくれた。

 

「九ちゃん」

 

「ん~?」

 

「これで九ちゃんの天香學園での任務は終わったわけだ。次の新天地で、九ちゃんはきっと新しいバディや協力者をえて、任務に挑むことになると思う。唯一変わらないのは葉佩九龍という《宝探し屋》が挑むってことだけだ。それ以上に安心出来る要素は他にはないよ。断言してもいい。自信もっていい。今の君は私の知ってる中で一番の《宝探し屋》だからね。頑張って。《秘宝》の加護がありますように」

 

笑った私に葉佩がふいと目をそらしてしまった。

 

「ちょっと~、なんでこのタイミングで目をそらすかな。地味に傷つくんだけど」

 

「だってさあ~、紅海さんの前だけは泣かないでおこうって決めてたのに、みんなと一緒なこというんだもん、反則だろ~ッ!どんだけ涙腺ぶっ壊せば気が済むんだよ~ッ!!」

 

ちょっと葉佩は鼻声だった。

 

「初めてだらけの任務だったけどさ、初めての友達とかバディとか色々できてほんと良かったと思ってるんだよ、俺。紅海さんの支援があったから任務も横取りされないで達成できたし。感謝してもしきれない。ほんとにありがとう」

 

「こちらこそ」

 

「へへッ。だからさ、実は次の任務、俺から志願したんだ」

 

「えっ」

 

「天香遺跡みたいな場所が日本にあるとわかったんだ。《天御子》に繋がってる以上、絶対に喪部銛矢が現れるに決まってるだろ?次こそは雪辱を晴らす!」

 

「あはは、頑張って」

 

「おう!だからさ、期待して待っててくれよな。紅海さんが探してる《天御子》の《九龍の秘宝》に繋がるなにかがきっとあるはずだから。ちゃんと持って帰ってくるよ」

 

「九ちゃん......」

 

「だから~......そろそろ紅海さんのアカウント復活したりしない?」

 

「九ちゃん、言ってる傍から懲りてないね?」

 

「だってー!」

 

「だってもくそもないでしょッ!?まあた暇があればメール爆撃するつもりでしょ、九ちゃんッ!?大丈夫なの?刑務所はH.A.N.T.使えるかどうかさえ怪しいってのに!」

 

「大丈夫、大丈夫、なんとかなるよ」

 

「へんなとこで楽観主義にならないでよ、不安しかないじゃない。そんなこと言われるとますます復活させる気無くなるんですけど」

 

「そんなこといわずにさあ!」

 

「あーもーわかったわかった。わかったから近づかないでよ、近い近い近い」

 

「やった~ッ!」

 

やはり葉佩は葉佩だった。私はため息をつくしかない。

 

「退院したら父さんの看病しながら学校行かなきゃいけないんだから、あんまへんなメール送らないでよ?」

 

「わかってる、わかってる!」

 

「あっこれわかってないやつだ」

 

「担当は次から変わるかもしれないけど、これからも構ってくれよな!」

 

「公私混同はしない主義なんだよ、私」

 

「わかった、プライベートのメルアドに送ることにするよ」

 

「まるで成長していないだと......?!勘弁してよ、他のみんなに嫉妬されるじゃん!だいたい私が諜報員だってこと、一部の人間にしかばらしてないんだからね!?」

 

「大丈夫だよ、紅海さんあてのメールはH.A.N.T.しか受信しないようにしてるんだろ?」

 

「当たり前でしょ、あんだけメール爆撃されたら秒でバレるわ!」

 

「あはは~、なら大丈夫だって。あー、でもメルマガがこれから違う人になるのかー、寂しくなるなあ。次の担当へのメルマガ、読者になっ」

 

「いいわけないでしょ、検閲とか校正とか死ぬほど受けてやっと配信してるんだから!んなほいほいばらまいてる訳ないでしょうが!」

 

「残念だな~......」

 

葉佩はいつものように笑っている。しばらくの間雑談をしていたのだが、ふいに沈黙が訪れた。互いに喋ることがなくなってしまったのだ。

 

「これから《遺跡》に向かうんだ、俺」

 

「そうなんだ?」

 

「うん」

 

「頑張ってね、九ちゃん」

 

「うん、がんばる」

 

「いってらっしゃい」

 

「うん!じゃあね、紅海さん!」

 

葉佩はいきなり窓をあけたかと思うと、なんの躊躇もなく飛び降りて行ってしまった。あまり静かな別れだったので気が抜けて、思わず窓までおいかけた。茂みの向こう側で葉佩が笑っていた。そしてそのままフェンスを乗り越えていってしまう。あの車は《ロゼッタ協会》のものだろうか。私は思わず笑ってしまったのだった。

 

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