憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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夜が明けたら2

トラックが学生寮前に止まっている。

 

「翔か?やっと退院したんだな。で、なんだその荷物は?」

 

「あれ、大和」

 

「なんだ?」

 

「いや、意外だなと思って」

 

「なにがだ?」

 

「だって天香學園に大和の求めていた《月の呪い》をとく鍵はなかったわけでしょ?大和だったら九ちゃんからなにか聞いて新天地に旅立ってるかもしれないなと思ったんだ」

 

「ははッ......君には本当に頭が下がるな......今の今まで迷っていたのは事実だ。まさか見抜かれてしまうとはな......。それは狂人だったころの洞察によるものかい?それとも九龍から聞かされたのか?まさか......宇宙人が余計なことを話したか?」

 

「私の知ってる大和がそうだったから」

 

「君のしってる未来だと俺はだいたい居なくなっていたと?」

 

「まあね」

 

「そうか......それなら、君の驚く顔が見れて良かったのかもしれないな。はは......」

 

夕薙は肩を竦めた。

 

「迷いに迷ったのは事実だが、俺は今ここにいるんだから帳消しにしてもらいたいものだなな。さすがにそこまで薄情なやつになった覚えはないとね。雛川先生には頑張って卒業しようと言われてしまってな、今のタイミングで転校となると補習が嫌で逃げたと思われてしまうだろう?あの甲太郎すらやってる補習をだ。それはゆゆしき問題なんだ」

 

「あはは、なるほどね」

 

「もちろんそれもあるんだが......。一度でも君の見舞いに行けたら考えたんだがな、面会謝絶だっただろう?どのみち産婦人科にいくのはハードルが高すぎて同じだったかもしれないが......。さすがに顔を一度も合わせないまま行くのはどうかと思ってな」

 

「そうなんだ?友達がいのあるやつで嬉しいよ、大和。ありがとう」

 

「はは」

 

夕薙はまじまじと私をみながらいうのだ。

 

「やはり、こうして狂気から解放された君をみると、やはり今までの翔はどこかおかしかったんだなと実感するよ。今はいい具合に肩の力も抜けて自然体だ。《氣》も落ちついている」

 

「そうなんだ?」

 

「なにより会話ひとつひとつに含みがない。不自然なところがなにもない。今の君は普通にうれしそうだ」

 

「大和にだけは言われたくないんだけどなあ」

 

「お互い様というわけだな」

 

「え~......」

 

「で、なんでまた引越しトラックがあるんだ?」

 

「卒業式までいるには部屋が殺風景すぎるでしょ?まだあと2ヶ月はいるわけだから。だから戻すんだ。静養には普段通りの生活が1番らしいからさ」

 

「なるほど......そうか」

 

うれしそうに大和は笑った。

 

「そいつは良かった。君と巡り会う前までの俺には無縁の存在だったが、友達ってのはいいものだな。この學園て君に逢えて良かったよ」

 

「瑞麗先生のいうとおりだったね」

 

「そうだな。ああ、そうだ、翔。あれから強制入院だったんだ。ほかの連中に君の素性については話してないが、君が無茶をしすぎたことについては話しておいたからな。覚悟しておけよ」

 

「えっ、それほんとに......?うっわ、嫌すぎる......」

 

「そういうな」

 

夕薙は私の肩をたたいた。観念しろといいたげだ。

 

「とはいえ君は病み上がりだ。それに魂と身体の融合がまた再開したばかりで自由に体が動かないときもあるはずだ。もし、少しでも不調を感じるなら、早めに瑞麗先生に見てもらえよ?君はほんとうに無茶しすぎる傾向にあるんだからな、自分をいたわった方がいい。《宝探し屋》は体が資本なんだろ?怪我や病気にかかったら、それどころでは無いんだからな。体が思い通りに動かない苦悩は俺もよくわかっているつもりた。まるで泥沼の中に進んでいるかのような、体にねっとりとまとわりつく感覚......なかなか慣れるものじゃないだろう?」

 

「心配してくれてありがとう、大和。今のところは可もなく不可もなくってところだよ」

 

「そうか、ならいいんだが」

 

「大和の方はどう?」

 

「俺か?俺は瑞麗先生が特別に処方してくれた漢方薬が効いているようだ。月の下でも皮膚の表面が少しヒリヒリするぐらいで以前ほどの身体的変化はないよ」

 

「そうなんだ?!」

 

「喜んでくれてるところ悪いんだが、まァ......この状態は長くは続かないだろうな。乾燥した皮膚の下では身体中の水分が蒸発しようと虎視眈々と機会を狙っているのを俺はしっている」

 

夕薙は手のひらを握った。

 

「俺がこの學園に今も残っているのは、君にお願いしたいことがあるからだ」

 

「え、お願い?」

 

「ああ。君にはこれからもバディとして共に共闘していきたいと話しただろう?迷っていたのはそれなんだ。今の俺ではどうしても月の出る夜は行動に制限がかかる。バディとして力になるどころか足でまといになるのがオチだ。もし、そのせいで君が命を落としたら、俺は自分を許すことができなくなるだろう。目の前で大切な者を失う悲しみは1度きりで充分だ、耐えきれるわけがないとな」

 

ただ、と1度切ってから夕薙はいうのだ。

 

「もう俺は誰も失いたくないんだ。ただ、君の場合は厄介なことにその精神交換という事情のバックホーンに宇宙人がいる。しかも《ロゼッタ協会》と協定を結んでいる以上、止めるヤツは誰もいやしない。いつか君は俺の知らないところで間違いなく死者蘇生が常態化するようになる。この10ヶ月でそれがよくわかった。人間性を喪失したらそれこそ全てが解決しても元には戻れなくなるだろう。だから、俺は君との友情に背くことがないよう行動を起こすことにしたんだ」

 

「え~っと、大和待って。なんかものすごく重い事聞かされてるように思うんだけどさ、友情にしては重すぎない?大和のこれからの理由にされても私は責任とれないよ?恋愛感情からだと言われた方がまだましなんだけど......」

 

「ほんとうに今更だな、翔は。少なくても、君の知る俺は大切な友達と未来を歩むより失う方が怖いからと約束を反故していなくなるようなやつなんだろう?本質は変わっていないさ、安心してくれ。たしかに九龍ならそうしただろうな。ただ、君の場合は話が別だ。また会える日がくるまで君の無事と栄光を祈り続けることほど滑稽なことはないだろう?」

 

「いや、いやいやいや、確かにそうかもしれないけど飛躍しすぎてない?」

 

「はははッ、ほんとうに新鮮だな、今の翔は。それが君の素か?一般人の感性を取り戻してくれたところ悪いが、遅すぎたな。君の本性は嫌というほど見てきたから今更取り繕われても無意味だ」

 

「いきなりそんな事言われても困るんですがそれは......」

 

「ところで、翔」

 

「この話の流れで冷や汗が止まらなくなってきたんだけどなんでしょうか!」

 

「君のような訳アリの人間が《宝探し屋》をやっているのなら......俺みたいな人間にも《宝探し屋》はやれるんだろうか?」

 

「え?」

 

私は思わず固まった。夕薙は私の知る未来とは世界線が完全に違うのだと悟ったようでニヤニヤしている。

 

「この1ヶ月ずっと考えていたんだが、《ロゼッタ協会》は世界を飛び回って活動するだろう?なら、俺一人でやるよりは視野が広がったり、コネが出来たりするんじゃないかと思うんだが」

 

「《ロゼッタ協会》はいつでも優秀な人材募集してるから大歓迎だと思うよ!たださっきの話を聞いたあとだと嫌な予感しかしないよ?!大和はあれかな、お父さんかな?」

 

「失礼な事を言わないでくれ、同い年じゃないか。精神年齢でいえば君の方が年上なんだろう?」

 

「《ロゼッタ協会》所属になってくれるのはほんとうに嬉しいよ?嬉しいけどさ、なんか違う。大和の私に対する友情はなんか違う......気がするッ!」

 

「どう違うのか説明できるのか?」

 

「私が仲間をつくるたびに信用するに値するか忠告してくるよね?」

 

「そうだな」

 

「私がむちゃしようとしたら、半殺しにしてでも止めるよね?」

 

「そうだが?」

 

「それは友達の域を超えてると思うんだ」

 

「ほんとうに今更だな」

 

「あははは......そっかあ。だからわざわざ残ってくれたんだね、ありがとう」

 

「ああ。君のように不自由な体から解放されるために、なんて不純な動機だが......君と同じ道を歩んでみたい。そう思うのは迷惑だろうか」

 

「私も仲間ができて嬉しいよ」

 

「そうか......そういってくれるのか。ありがとう、翔。俺にもようやく人生の目標が定まったということだな。これを機に俺も過去から脱却してみせるよ。なにもかも、きっかけは君だった。ありがとう」

 

「頑張って、大和ならできるさ」

 

「はははッ、そこまでいってもらえるとはな。......ありがとう、翔。いつか《宝探し屋》としてこうして隣合うことができたら、またよろしく頼むよ」

 

「そうなったら大和もライバルだね、手強そうだなな」

 

「そういってもらえると嬉しいよ。───────俺は、今の約束を胸に過去から踏み出してみせる。そしたら今度こそ、君と共に歩いていきたい。改めてよろしく頼むよ、翔」

 

「そうだね、しばらくはバディとしてお世話になるわけだもんな。長い付き合いになりそうだし、改めてよろしくね」

 

手を差し出した私に夕薙は笑って応じてくれたのだった。

 

「《ロゼッタ協会》に大和のこと推薦してくれないか、父さんにかけあってみるよ。くわしいことはまたあとでメールするね」

 

「わかった」

 

私が今更焦っているのが楽しくて仕方ないのか、夕薙はずっと笑っていた。

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