憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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炎の転校生4

その日の昼休み、マミーズにて、カレーを食べていた2人に私は早速相談することにしたのだった。

 

「という訳なんだけど」

 

「うーんまいったな」

 

「えっ、ダメか?」

 

「七瀬のやつ何考えてんだ」

 

皆守は頭が痛そうだ。

 

「いや、いいんだよ。大歓迎なんだよ。たださ、一度に2人が限界かなって。俺が守れるのは2人までだからさ、わけなきゃな」

 

「......お前なら言うだろうなって言葉が一字一句あってるのはお前が初めてだよ、葉佩」

 

皆守は迷惑そうにしている。

 

「さすがだな、皆守クン。だが葉佩九龍検定一級への道はまだまだ先はながいぜ。免許皆伝は1人だけだからな!」

 

「どうせお前だろ」

 

「違うわ!ちゃんといるわ!担当者の紅海さん!」

 

「誰だよそれ......いやいい、目をキラキラさせながら説明しようとするな。お前の担当者には心底同情する。しかし、あれだ。葉佩も葉佩だがお前もお前だよ、翔。なんだって至福の時間を邪魔しやがるんだ」

 

「朝からずっと葉佩と一緒なのは君だろ、皆守。オレは葉佩に相談してるんだ」

 

「昨日散々説明しただろ!俺はお前たちを心配してだなっ───────って、あー......なにいってんだ俺は」

 

我に返ったらしく、皆守はバツ悪そうにしている。

 

「その点についてはありがとう、皆守」

 

「その点が余計だ」

 

「七瀬、止めてくれてたんだろ?ありがとう」

 

「ちっ......言うなっていってたくせに自分からバラすのかよ、あいつ。あーもういい。心配するだけ無駄だってよくわかったぜ。好きにしろ。ただし俺を巻き込むな」

 

拗ねてしまった皆守はカレーを食べ終えると出ていってしまった。

 

「あ、ちょっと待てよ、皆守クン!まだ組み分け決めてないだろ!」

 

「こっちくるな!だいたいなんで俺まで数に」

 

ぎゃいぎゃい騒ぎながら2人はいってしまう。

 

「いらっしゃいませ~。ご注文はなんですか~?」

 

ウエイトレスに言われた私はカレーを注文することにしたのだった。しばらくしたら皆守からさっきは悪かったとメールがきた。遺跡にいくつもりらしい。そりゃそうだ、監視役が離脱したら世話ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、放課後。自室にて。私は真夜中に墓地に来るよう葉佩にいわれることを想定して、五十鈴さんに相談することにした。

 

「忘れないで頂きたいのですが」

 

時間通信機から五十鈴の声がする。

 

「我々にとって別の種の身体を乗っ取るということは、とっても相当なストレスになってるということです。我々が最初に地球にきた時も、最初は慣れない身体に大勢が発狂して死んでいますし、仮に乗っ取りがうまくいったとしても。

 

精神が神経組織の構造や各種の神経伝達物質と無縁でない以上、地球にきた時点で「イスの大いなる種族」は生まれ故郷にいた頃とは実質的に別物になっています。

 

それでも我々が集団移転をするのは、所詮有限の存在である生命には遅かれ早かれ確実に訪れるカタストロフを回避するためでして」

 

「そう考えるとなんとも逞しいわね」

 

「そうでしょうか」

 

「ええ、ある意味では人間と同じ側だなと思ったのよ。広大無辺の宇宙に放り出された有限の存在、という点で。宇宙の無常に恐怖してる私からしたら、みれば、こうやって続いていく存在がいるってだけでも安心感が違うわ」

 

五十鈴の笑う声がした。

 

「そう言われてしまうとどうにもダメですね。異界の種族で最も優れたテクノロジーを持つのは我々だと明言されている。それはすなわち、この世で最も優れたテクノロジーを持つと考えて間違いないだろうと。我々は自分たちのテクノロジーを使うことに妙に気が進まない性質があります。これはイス人の人生に対する考え方によるのです。どれだけ優秀な電子機器でもパピルスほど有能な記録装置はありませんからね」

 

「なるほど、だから記録媒体を原始的な紙とペンで指定なわけだ」

 

「必要に迫られた場合素早く巧に新たなテクノロジーを生み出す。しかし、それも継続的に使おうとはしない。知性の収拾を何よりも優先する我々の興味は発明へと駆り立てるものではないのです。

 

ですが、他ならぬあなたからの依頼だ。四次元に影響を与える装置も発明している我々の装置は文明レベルに大きく差がある人類にとっては、簡単なもの以外は理解しがたく不可解なものに見えるでしょう。ですから、あなたでも扱えそうなものをさしあげますよ。電撃銃です」

 

亀急便から物騒な贈り物がとどいたころ。葉佩から連絡が入った。

 

 

 

 

 

 

葉佩九龍は私とは全く違う戦闘スタイルらしい。新しい区画に入る度に化人を掃討するまでは入って来るなと言われているからわからないが装備が近接武器ばかりだ。序盤の初期装備である銃や爆弾は高いから節約したいのかと思ったが、どうやら自分もダメージを受けながら倒すタイプらしい。私は5週も6週もしていたから区画ごとに出現場所が固定の敵は把握していた。だから射程範囲なんかを目測して銃で弱点を狙って倒す。敵にはだいたい弱点があり、そこだけヒットポイントが低く設定されているため、狙撃すればスマートに倒せるのだ。江見翔の体を預かる身であるし、なにより痛い思いをしたくないからだ。だが葉佩九龍は違うらしい。

 

「この遺跡はあたりっぽいな!テンションあがってきたぜ」

 

よくわからないドロドロした液体をひっかぶって安全になったから入っていいと葉佩は笑う。身体と意識はスリルを求めている。だからこの遺跡は自分の欲求を満たして離さない。浅い階層までしか探索を終了していない今の段階でもハイテンションである。

 

「な、なんだかよくわからないけどすごいです」

 

月魅は完全に別世界の住人と化した葉佩に目を輝かせている。なるほど、葉佩はスリルとショックとサスペンスを求めるタイプか。化人の血を求めて体が遺跡をもとめ、平穏が続くと心は満たされなくなり、スリルを渇望し、もっと、もっと遺跡の奥深くへ、ともう一人の自分が叫ぶタイプだ。まともな生活ができないタイプでもある。宝探し屋は天職だろう。

 

少しでも気を抜けば簡単に遺跡からの強烈な誘惑に乗ってしまいそうになる。同行者がいるから自制してる面もありそうだ。

 

けれど、「単独では絶対に遺跡の先へ進まない」とやっちーたちと約束しているらしいので、葉佩はそれを理由に頭の中から強引に誘惑を振り払うように、私達を奥に誘った。

 

『大気流動を確認。戦闘態勢に移行します』

 

アラームと警告音。舌打ちをした葉佩は月魅を庇うように前にたつと剣を抜いた。あ、よくみたら私が《ロックフォードアドベンチャー》クリアデータと引替えに送った剣だ。

 

「新手さんかよ、人気者はつらいね!ごめんな、七瀬、江見。ここは危ない離れるんだ!」

 

注意をうながしつつも敵の軍勢との間合いを測る。こちらに化人が来ようとする度に白羽が稲妻のように閃く。刃物が陽炎のようにきらめく。

 

「ぐっ......!」

 

あまりの数に近づかせないのが精一杯らしい。新たなる標的に嬉々とした様子で迫り来る。私は月魅をよろしくともろとも奥に抑え込まれてしまう。しまっ、と口にしかけた言葉は飲み込まれた。

 

私が電気銃をぶっぱなしたからだ。葉佩は目を見開いている。そりゃそうだ、懐から手のひらサイズの見たことも無い金属でできた、よくわからない原理で動くオーパーツの銃だからだ。イスの電気銃である。

 

「オレが唯一家から持ち出したやつなんだ。父さんのだって聞いてる。持ってきて正解だったみたいだね、よかった」

 

化人は麻痺になると一切攻撃を行わなくなるのだ。電気弱点の敵でよかった。

 

「やるじゃん、翔クンッ!さすがは江見睡院の息子だぜ、才能あるよ!」

 

にやりと笑った葉佩は親の仇のように剣を木偶の坊と化したうちの一体に突き刺した。総毛立つような白刃の光がみえた。氷刃のような白い裸の刀がぎらぎら光る。会心の一撃だったのか緑色の煌めきを残して切り捨てられてしまった。氷のようにきらめきつつ振り回される刀の光が、言いようもないほど綺麗に見えた。

 

「覚悟しろよ、同行者(バディ)に手を出しやがったんだ。生きて帰れると思うな」

 

葉佩の剣の白刃が虹を曳いて陽光を切る。十文字に交錯する剣と武器。金属音が響き渡り、闇の中で火花を散らして交錯する。稲妻のような剣さばきだ。魂を吸い込むかのように研ぎ澄まされた大刀が掛け声とともに打ち下ろされるたびに首は毬のように飛ぶ。あるいは鬼神のごとく振り、切り倒した。

 

『敵影消滅を確認。お疲れ様でした』

 

H.A.N.T.の電子音を最後に葉佩は剣を鞘におさめた。

 

「横槍が入っちゃってごめんな!もう安全なはずだから、行こうぜ。新規2名様、ご案内~!」

 

「は、はいッ!よろしくお願いしますッ!」

 

次からは分厚い辞書なんかを持って来た方がいいんだろうか、と相談をうけた私は是非そうしてくれと頷いたのだった。月魅の愛情値が反映される自動スキルは経験値上昇なのだ。

 

しばらくして。

 

やはり遺跡にいると時間の概念が死ぬから、携帯電話なり腕時計なりは大切な存在となる。夜明け前だと気づいた私は切り上げようと提案した。葉佩は未練タラタラだったがまだ始まったばかりである。月魅と説得してひきあげた。

 

頼りなげに揺れるロープを登り、遺跡の出口である墓の上に出るとすぐに、淡く柔らかな月の光が私達の身体を優しく照らした。もうだいぶ傾いている。

 

「今日、筋肉痛かもしれません......」

 

アドレナリンにより変なテンションになっていたらしい月魅の体は現実を思い出してしまったらしい。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫~?」

 

「お恥ずかしいです......ついて行きたいっていったの私なのに......」

 

はあ、と月魅はためいきをついた。葉佩は暗視ゴーグルをあげて伸びをしている。瞑想紛いの行動は昂っている神経を宥めるためだろう。を閉じて静かに光を身体に受け止めていると、あれほど身体の中で膨れ上がっていた疼きが治まっていく。激しく心身を蝕んでいたスリルへの渇望は跡形も無く消える。覚えがある話だ。私は違うが、江見翔くんは葉佩と同類だったようだから。

 

「さあて、帰りますか」

 

「七瀬、大丈夫か?帰れるか?やっちー呼ぶ?」

 

「いえ、さすがにそこまでじゃないです。ありがとうございます」

 

「じゃあ行こうぜ。肩貸すよ」

 

「ありがとうございます」

 

森を抜ければすぐに寮だから助かる。本日の成果を纏めながら、葉佩はいった。

 

墓場の出口に細身の人影が立っている。

 

「また夜遊びかよ、あんだけ俺達と潜っといて。懲りねえな」

 

「やっほ~、皆守クン!お出迎えありがとう!連れて行けなくてごめんな、2人が限界でさ~」

 

「ちげえよ」

 

呆れた調子ながら悠々と足を進め、こちらへと近寄ってくる。一見しただけならばまるで無防備のように見えるのに、その動きには隙がない。

 

「……よぉ。大丈夫か?」

 

「オレは大丈夫だけど、七瀬がね」

 

「それは見りゃわかる」

 

「......お恥ずかしいです」

 

「気にすんな、葉佩についていける八千穂や江見がおかしいんだ」

 

「やだなあ、人のこと言えないくせに!」

 

「うるせえ」

 

「ところで皆守はどうしてこんな所に?」

 

私は疑問を投げた。だが自分の答えたくない問いは黙殺する主義の皆守はいつものように、質問を無視する。そして、黙ったまま視線を私の持つ銃へと移した。冷めた瞳は何の感情も浮かべていなかったが、僅かに動揺がみてとれた。監視役お疲れ様です、うんうん。

 

呆れたような表情を浮かべながら、ゆっくりと息を吐き出した。

 

 

「......お前はもっと賢いやつだと思ってたぜ」

 

「賢い?オレが?」

 

思わず笑ってしまった。賢い?いうにことかいて賢い?オウム返ししながら喉の奥で低く笑う私に、皆守はなに笑ってんだとつぶやいた。普段の私らしくない人を小馬鹿にしたような態度が透けて見えたらしい。

 

「ごめん、つい。それをいうなら散々警告したり文句ばっかりだったのに、今まで待っててくれた皆守もそうだろ?」

 

皆守は舌打ちをしただけだった。

 

 

江見翔と葉佩九龍はそう変わらない性質をしている。ただ、葉佩は素直に自分の感情や思った事を表して、江見翔は私というフィルターがあるから隠しているという違いがあるだけだ。結局、≪宝探し屋≫で在り続ける限り、誰も彼もが同じ穴の狢である。

 

《秘宝》に触れた時の感動と、遺跡に飲み込まれるかもしれないと思った時に、身体を駆け抜けるスリルは経験者にしかわからない。墓守には絶対にわからない。永遠に分からない、あの感覚に一度触れたら、終わりだ。

 

「この銃は皆守のアロマと同じだよ」

 

浮かべた笑みが気に食わないのか、思わず皆守が視線を逸らす。私はそれでいいが葉佩九龍は許さないぞ、ご愁傷さま。

 

「皆守クン、どんだけいいやつなんだよ、お前!」

 

感極まった様子で葉佩がいう。

 

「だーもううるさい、近づくな!」

 

皆守の閉鎖された世界を変える可能性を持つ、葉佩九龍という自由の塊。人と世界を拒絶する皆守の心にも遠慮なく足を踏み入れ、常識とわだかまりを破壊して、人の温かさと大切なものを皆守に思い出させる。

≪宝探し屋≫というのは、こんなにも厄介な人間ばかりが集まる職業なのだ。

 

「分かりたくもねぇよ」

 

「往生際が悪いなあ」

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