憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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皆守甲太郎

「人にはそれぞれ自分の生活ペースってもんがあるんだ。夜中の3時からマラソンだと?んなの付き合いきれるかよ」

 

くあ、と欠伸を繰り返す皆守に私は肩をすくめた。

 

「そうガッカリすんな」

 

「だってさ、夕薙から話を聞いたってことは、皆守も興味あるのかなと思ったんだよ。1人より2人の方が捗るだろ?」

 

「しらねえな」

 

「うーん、よくわからないな、状況が」

 

「はあ?なにがだよ」

 

「どういう状況で夕薙から聞いたのかなあと思ってさ。昨日だろ?オレが夕薙と別れたの3時くらいだし、皆守がそのあと会ったなら3時頃まで起きてたんだろ?でもメールは真夜中だからさ」

 

「んなのお前が風呂はいってすぐ爆睡してる間に決まってんだろ。寝ようとしてたんだが、何だか寝付けなくてな……。気分転換に夜の散歩をしてたら夕薙とすれ違ってお前の話を聞いたってわけさ」

 

「あー、そっか。だから真夜中に?」

 

「そうだ」

 

ダウトである。夜になった瞬間から夕薙は墓守をやらなければならない姿に変貌してしまうのだ。真夜中に皆守と会話するわけがないのである。

 

つまり私がマラソンしている情報提供をしたのは夕薙大和ではないことが確定した。神鳳が接触してきたことを考えたら私との会話ついでに調査報告をして注意しろと喚起してきたあたりが正解だろうか。

 

にしてはお前の正体は宝探し屋なのかと聞いてこないのが不思議でならないが。まあ様子を伺っているのかもしれない。皆守甲太郎は私が遺跡に出入りしている形跡や証拠をまだ見つけられていないのだとしたら、充分に考えられるところだ。

 

「不満そうだな」

 

「皆守って見た目以上に運動神経いいから隠れてなにかやってるんじゃないかと思ってさ」

 

「誰がスポーツなんて不毛なことするかよ」

 

皆守は失笑した。

 

「大体プロになる訳でもないのにスポーツなんて何の役に立つっていうんだ。不毛だ……確実に致命的に不毛だ......断言してもいいぜ」

 

「ほんとかなあ」

 

「お前の目は節穴か?どこをどう見たら八千穂みてーにスポーツに青春ささげてるおめでたい奴らに見えるんだ、この俺が」

 

私は極めて残念そうに肩をすくめる他なかった。

 

「しかし、夕薙がお前のことを面白がっていたのはほんとうだぜ。たった1週間で生徒会室に出入りしたってんで大騒ぎだ」

 

「そんなに大騒ぎすることかな?ただ資料を見せてもらっただけだよ。まあ、たしかに時間かかりそうだからって生徒会室使わせてもらう日調整するためだって連絡先教えて貰ったけど」

 

「......はあ?連絡先だと?」

 

「オレも驚いてるよ。案外親切なんだね、《生徒会》って」

 

「......そんなことないからな。むしろ目をつけられてんだぞ、気をつけろよ。楽しい学園生活を送りたいならなおさら」

 

「今更じゃないかな......会計の神鳳にはもう目をつけられてるし」

 

なに考えてんだ神鳳のやつ、といいたげな顔をして皆守はためいきをついた。

 

「お前、父親を探しに来たんだってな」

 

「正しくは行方不明になった理由が知りたいんだ」

 

「18年もたって?16ん時ならまだわかるが」

 

「オレだって皆神山の大地震にまきこまれなきゃ考えつかなかったさ。母さんがずっと父さんの写真拝んでたんだ。ああ、母さんの心の支えは父さんしかいないんだって気づいたんだよ」

 

「だからわざわざこの学園に転校してきたってことか。ずいぶんと母親想いだな」

 

「どうだろ。会いたくないからここにいるって方が大きいかもしれないよ」

 

「......へえ」

 

皆守はアロマをつけた。ラベンダーの香りがする。そういえば時をかける少女にでてくるラベンダーの香りは記憶を失わせる効果がある未来の叡智だったはずだ。それに未来人に恋した主人公が無意識のうちに打ち克ち、無意識のうちに2人は未来で再会することになるわけだが。皮肉にも皆守の場合も惚れた女教師への思いを記憶を失うだけでは心は忘れられなかったわけだから心ってのは難儀なものだ。

 

私にはトイレの芳香剤が先に連想されてしまうから笑うしかないんだけど。

 

「なに笑ってやがる。そりゃあ誰かの過去に何があろうがどんな傷を抱えてようが他人には所詮、関係ない話だ。だがな、話してる時になんの脈略もなく笑うな、気になるだろうが」

 

「気になる?本当に?さっきから随分とつっこんだ話をしてくるね、皆守。お節介だなあと思ってさ」

 

「ちっ......こっちは《生徒会》に1人で出入りする無謀な転校生に呆れてるだけだ」

 

「仕方ないだろ?昨日はたまたまやっちーは部活だし、月魅さんは図書委員の会議だったんだよ」

 

「他の日にしろ、他の日に。どうみたってたまたまなわけないだろ。父親と同じようになったらどうする気だ」

 

「やっぱりそう思うか?まあそうなったらそれまでだよね、運がなかったってことだよ」

 

「お前な......怪しんでるのに近づく馬鹿がどこにいるんだよ」

 

「大丈夫だよ、皆守。神鳳はやっちーたちの目の前で生徒会室の話をしたんだ。オレになにかあったらやっちーたちが騒ぐのわかってて下手なことしないよ」

 

「でもいったときは1人だったんだろうが」

 

「まあね。それなりに忠告はされたよ」

 

「ほらみろ」

 

「だからさ、オレもいったんだ。オレたちに危害を加えたらただじゃおかないってな」

 

「............オレたちってなんだよ、オレたちって」

 

「やっちーたちだよ。あたりまえだろ」

 

嘘つけという顔をしている皆守はしばし沈黙する。これは神鳳から私のことについて聞かされたで確定だろうか。

 

江見翔の体の中には本人ではなく正体不明の幽霊でも生霊でもない形で20代の女性の精神が入っているというオカルト全開の与太話を真夜中にメールで読まされたのだとしたら。

 

しかも皆守甲太郎は惚れた女教師に目の前で自殺されたことで、過呼吸になるほどの心の傷をおい、墓守としてその記憶と引替えに力を得た。だから記憶こそ失われたものの、無意識のうちに年上の女に苦手意識がある。

 

くわえて墓守として化人という化け物がうようよいる遺跡の内部は見慣れている癖になぜか宇宙人というものを異様に怖がる性質がある。

 

そして私は宝探し屋の体に精神交換により固着された女の精神体だ。万が一この体になにかあったらもろともしぬ。だが五十鈴曰く損傷が酷くなったら精神だけ回収して過去に飛んで無事な時期の体を回収してまた入れてくれるそうなのだ。イスの大いなる種族は私に江見翔の肉体の管理者としてかなり期待しているみたいだから、疑心暗鬼になる選択肢すらない。猟犬に追われることになるなんてごめんだ。つまり宇宙人と言われても否定できない。死んでも死なないのだ、イスの大いなる種族に見捨てられない前提ではあるが。まあ好きにしろと言われてるから大丈夫だとは思うが。

 

皆守甲太郎からしたら、私は宇宙人疑惑があるのだ。たぶん、きっと、メイビー。神鳳は皆守をからかうのにタチの悪い言い回しをよくするから、皆神山自体が宇宙船の空港だという話をしたのかもしれない。あたってるよ。ついでにお前らが管理してる遺跡を作った天御子の遺跡だ。

 

皆守は微妙な顔を通り越してやけに神妙な面持ちである。

 

「......江見......」

 

「ん?」

 

「......いや、なんでもない」

 

皆守は生徒会からその情報をもたらされたことを私に話すことが出来ないために、切り出すにはどうしたらいいか困っているらしい。しかも私が宇宙人だとわかったところで監視をしなければならないのは皆守だという事実が横たわっているのだ。宇宙人がめっちゃこわい皆守自身が。

 

神鳳充、ほんとにタチ悪いな、そんな話を真夜中にするとか何考えてるんだあいつ。

 

「神鳳に喧嘩売るとかお前馬鹿じゃねえのか」

 

「先に挑発してきたのはあっちだ」

 

「思ったより短気だな、お前」

 

「父さんの荷物を勝手に作った墓に入れてる連中になんで寛大にならなきゃいけないんだ?」

 

皆守はためいきをついた。

 

「お前、ほっといたらやばそうなのはよくわかった。次、生徒会室いくことになったら教えろ、俺もいく」

 

「えっ」

 

「馬鹿が余計なことして火の粉が飛んでこないか見張ってやるよ」

 

私は笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「好きにしたらいいよ」

 

監視の為、止む無く付いて行こうとした時にそう言われた。見た目は普通なのに、父親が絡んだ途端にその穏やかな笑みから目の光だけが狂気をおびる。

 

俺も大概だが、こいつはその上を行くんじゃないか。"好きにしたらいい"という言葉が、本当にそのままの意味だとは思わなかったが。

 

俺は生徒会室に同行はしたが八千穂たちのように何一つ手伝わなかった。なにかいうかと思ったが江見はなにも言わなかった。存在すら忘れられるレベルで没頭していたらしい。次の日も、そのまた次の日も。生徒会室が俺の新しいサボり場所に認定されるレベルで江見は調べ物を続けていた、

 

「おい、江見。もう時間だぞ」

 

江見は俺の存在を今認識したかのように振り向いた。喜怒哀楽を表に出さず、何を考えてるか分からない無表情さ。これが真剣なときの江見翔だ。無関心にもほどがある。

 

調べ物の最中、江見は一度もこちらを気にした様子が無かった。俺がうとうとと微睡んでようと、スマホをいじっていようと、ガン無視した。

 

傍に誰がいてもいなくても変わらない。黙々とページをめくる背中が、そう物語っているかのようだった。

 

「ああ、もうこんな時間か。そろそろ帰ろう」

 

「どうだ、調べ物は」

 

「まだまだかかりそうだね」

 

「そうかよ」

 

暖簾に腕押し。他人の心配もどうやら届かないようだ。なんて奴だ。協調性というやつが欠片も見えない。

 

「江見」

 

「何?」

 

「お前って変わってるよな」

 

「ちょっと変わってるとはよく言われるよ」

 

「ちょっとどころの話じゃないだろ」

 

 

俺は頭が痛くなりそうだった。神鳳に自ら素性がバレそうになったとき、否定も肯定もしなかった時点で変人ではある。そこは誤魔化せよ、馬鹿じゃないのか。まァ、正体を偽ってる立場の俺が言う台詞でもないか。だが人間じゃないことだけは否定して欲しかった、俺の平穏のためにも。

 

ここは特に何をする訳でもなくのんびりと傍観するに限る。好きにしろと言ったのはあいつだ。だから俺も好きにさせてもらうぜ。

 

男子寮へ向かう途中の帰路も、江見はいつもとは違って終始話が弾む事は無かった。俺が何かを話しかけても、気のない返事が返ってくるだけ。一言二言で会話が途切れてしまう。怒ってんだろうな、と最初は思ったんだが、会話をしているうちに気がついた。こいつは俺を『背景のBGM』として扱ってやがる。どんだけこいつの地雷を踏み抜いたのかおもいかえそうとして、心当たりしかなくて笑ってしまう。まあそれでも構わないが、今後ずっとこんな態度を取られるのかと思うと気が滅入るぜ。

 

「疲れた……ふァ~あ……」

 

ようやく自室に入る事が出来て安心したのか、欠伸もどんどん出てくる。さっさと惰眠を貪る為に部屋着に着替えるか。と、その時。俺の携帯電話がメールを知らせてきた。

 

「誰だ?こんな時間に」

 

差出人名とその内容に、俺は沈黙した。

 

「今日はありがとう」

 

その短すぎるメッセージを、まじまじと覗き見る。差出人は江見翔だ。間違いなく、ついさっきまで淡々とした様子を保っていたあいつだ。

 

「言うなら直接言えよ……」

 

呆れて物も言えない。いや、言った所で泡沫の如く無に還って行くだけだ。やっぱりあいつの考えている事が分からない。いつもの愛想がいい穏やかな顔は外行きで、あの表情が抜け落ちたようなもぬけの殻みたいな顔が素なのかと思うとゾッとする。勘弁してくれ、神鳳の冗談が冗談に聞こえなくなってきたじゃねえか。

 

 

 

しかし、江見翔を紐解くのに相当な困難を要する事だけは、確実に理解した。

 

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