憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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2人の追跡5

「《生徒会》は本当はなんなのか、か......。───────ん?」

 

皆守の携帯がなり、携帯を確認した。メールを見るなり表情が曇る。

 

「......ちッ、ちょっと用ができた。俺に構わず先に帰ってくれ。いいな?」

 

「え~」

 

「えっ、今から?」

 

「大丈夫なのかよ、甲太郎。校舎戻ったらまずいんじゃ?」

 

「......《生徒会》に許可とってりゃ大丈夫さ。俺も用が済み次第すぐ行く。お前らが男子寮につく頃には追いつくさ。じゃあな、気をつけて帰れよ......寄り道するなよ」

 

じゃあな、とあまり気乗りしない様子で皆守は校舎の方に戻っていく。さすがに今回の騒ぎは《生徒会》として放置はできないってことだろうか?ただ似たようなイベントはゲームでもあったしなんとも言えない。たしかなのは《副生徒会長》という《生徒会執行委員》の粛清の対象外がいなくなったこの瞬間から、葉佩も私も正真正銘、無防備ということである。

 

休校という名前の臨時休校である。學園敷地内から出てはいけない規則により、実質自宅待機である。部活もなにもなくて、降って湧いた休日にやっちーは暇なようだ。

 

「宿題いっぱい出されちゃったねえ」

 

「寮は出入り禁止だしなあ」

 

「さてどうしようかなあ、昼間にうろつけるのはありがたいけどね。墨木が監視にうろついていることを考えると。一度、昼間にいってみようかな、《遺跡》」

 

葉佩はウキウキした様子で笑うものだから、つられて私は笑ってしまった。安定の葉佩である。

 

「じゃあね~!ヒナ先生と一緒に行きたいから約束だよ、九龍クン!」

 

「ばいば~い、やっちーの番が回ってきたらメールするよ!」

 

別れた私達は男子寮に入った。

 

「あれ」

 

「九龍?」

 

「いや、気のせいかな~?いつもの虫がいないなあって」

 

「化人避けに寄ってくる虫?」

 

「そうそれ」

 

私はすっかり習慣になっているドアをあけたままポストをあけて、白い封筒がないか確認した。

 

「───────?」

 

「どったの、翔チャン」

 

「......まだ、手紙が来てない」

 

「お、マジで?あ、ほんとだ」

 

私のポストには一通も手紙が入ってはいなかった。私は葉佩と顔を見合わせる。

 

「一回、確かめるべきだよな~とは思ってたんだよね」

 

「奇遇だね私もだよ、九龍」

 

「よし、待ち伏せに翔チャンの部屋使わせてもらってもいい?」

 

「なんでだよ、おかしいだろ。九龍がドア開けたら挟み撃ちにできるじゃないか。だから九龍の部屋一択だよ」

 

「いやあ、翔チャンの部屋、生活サイクル違いすぎてガード固いからまだ見た事なかったんだよね~ッ!」

 

「あははッ、いい度胸だね、九龍。不法侵入するつもりならそれなりの覚悟でこいよ。その瞬間から君のH.A.N.T.は初期化されることになるんだからな」

 

「い゛っ......嫌だなァ、翔チャン。冗談だって冗談ッ!ささっ、どーぞどーぞ、散らかってるけど!」

 

「毎回思うけど寮長にチェックされたら一発アウトだよね」

 

「やめて」

 

私たちは九龍の部屋で待ち伏せすることにした。

 

「えっ、マジでそんなことも出来るの......?宇宙人怖すぎでは?」

 

「こんなの専門の知識があれば誰でも出来るよ。私の前職がそっち方面だっただけさ」

 

「あっ、なるほど、そういう......。もしかして萌生先生からの引き継ぎって、萌生先生も翔チャンの正体しってたってこと?宇宙人じゃなくて?まじかよ、《ロゼッタ協会》諜報員渋って一般人に引き継ぎしたのかよ」

 

「九龍の知ってる萌生先生が宇宙人ならそうじゃない?まあ、案外上手くいってるからいいじゃん。文句あるなら萌生先生にいいなよ」

 

「やっだなァ、やめてくれよ。あの人にそんな冗談飛ばしたら首と胴体がお別れするじゃん」

 

「よくわかってるね」

 

「あ~......なるほどね。翔チャンのあれは萌生先生仕込みかァ......そりゃ強いや。俺が来るのわかってたから萌生先生に江見睡院先生のこと知ってるって近づいたんでしょ?やだ......翔チャン怖い......。つまり翔チャンは萌生先生からのお下がり......」

 

「人聞きの悪いこと言うと萌生先生のお下がりで蜂の巣になるよ、九龍」

 

「ひいっ......ノックバックする気でしょう、タクティカルLで!化人みたいに!化人みたいに!」

 

「やってもいいけど」

 

「やめて。萌生先生思い出すからその笑顔やめて」

 

もう私が紅海であることに気づきそうなもんだけど、なんでか江見睡院という人間が本名であるという思い込みが強固に葉佩の思考にあるようで考察の視野を狭めているようだった。ここまでくると正体ばらすのもめんどくさくなってくる。まあいいか、ほっといても。メルマガだと葉佩には全力で甘やかしてるし、構ってるしで江見翔とは人格が乖離気味な自覚はある。あっちだとファンのノリでやれるからな。リアルにやるのは疲れるんだよね。面と向かってやるのとでは別問題だ。

 

「でもさ~いいのかよ。きっとみんな萌生先生宇宙人だって思い込んでるよ」

 

「いいよ、別に。あの人、私から見ても充分人外だもん」

 

「ごめんなさい、先生。俺は翔チャンに反論する余地がありません」

 

「というわけで萌生先生が宇宙人だから、自動的に九龍がヘマしたら九龍も宇宙人になるから」

 

「やめろ~ッ!俺は人間だ!」

 

そんな雑談を小声でかわしているうちに、足音が近づいてきた。

 

「......通り過ぎた?」

 

「いちにで開けるよ」

 

「了解」

 

「いち、にの、」

 

さん、で私達はドアをあけた。

 

「......」

 

ぽすん、と間の抜けた音が響き、白い封筒が入る。そこに江見睡院の姿を確認して、九龍はナイフを手にしようとした。

 

「───────!?」

 

「───────翔、か?」

 

私は一瞬固まった。そこにあるのは《遺跡》であった江見睡院の皮を被った男の姿はどこにもない。純粋に息子との再会を喜ぶ父親そのものがあった。殺気がないのだ。目の奥に狂気はない。だから私の体は反応できない。

 

「───────よかった」

 

「へ?」

 

「会ってはいけないと思っていたが、我慢できなかった」

 

「......江見睡院さん?」

 

「寂しい想いをさせてすまない。だが、これ以上《遺跡》に近づくな、翔」

 

葉佩はどうしたものか迷っていた。私も迷っていた。

 

「君もだ、葉佩九龍。君はかつての私の痕跡をたどり、《遺跡》の真実に近づこうとしている優秀な《宝探し屋》だ。だからこそ、これ以上来てはならない。この《遺跡》はダメだ」

 

葉佩はいう。

 

「............俺が《宝探し屋》を目指すきっかけになった江見睡院先生は絶対にそんなこといいません。叱咤激励するはずだ。だから警告です。翔から離れてください」

 

「───────残念だよ」

 

「離れろ、江見睡院。これ以上は待てない」

 

「───────だが誇りに思う」

 

江見睡院は私から離れた。

 

「もう日が落ちるから帰らせてもらうよ。一目会えてよかった。ありがとう」

 

「───────まっ......父さ......」

 

今、なぜ私は父さんと口走りそうになったのだろうか。江見睡院を名乗る男が本気で私を息子だと思っいこんでいる事実に同情して演じようとしたのだろうか。それとも飲まれたのだろうか。

 

葉佩がナイフを構えたその刹那、一陣の風が吹いた。たまらず目を瞑った私達が目を開ける頃には誰もいなくなっていた。

 

からん、とナイフが落ちる。

 

「九龍?」

 

「あはは......」

 

葉佩が崩れ落ちてしまう。私はあわてて駆け寄った。

 

「1番きつい展開きちゃったなァ......。勘弁してほしかったのに......こういう時に限っていっつもこうなっちゃうんだよ。......ごめんな、翔チャン。うかつだった。もし、あいつだったら今頃翔チャン死んでたかもしれないのに」

 

今にも泣きそうな葉佩に言われて、ようやく私は状況次第では死んでいたのかもしれない事実に戦慄するのである。だからこう返すのだ。

 

「父さん、オレのこと覚えてたよ、九龍。あいつの目じゃなかったから動けなかったんだ、ごめん」

 

葉佩は首を振る。

 

「父さんの意識があるなら、まだ希望はあるかもしれない。明日、《遺跡》にいってみよう。昼間にいったらまた会えるかもしれない」

 

「......そうだよな、うん。翔チャンは強いなあ......」

 

私は笑うしかないのだ。

 

「私は、江見翔じゃないからね......。他人事なんだと思うよ。ほんとは九龍みたいになるのが普通なんだから」

 

「......そんなことないよ。翔チャン、今、泣いてるじゃないか」

 

その言葉で初めて私は泣いていることに気づくのだ。

 

皆守が驚いた顔をして近づいてくるまで、私たちはその場から動けないのだった。

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