憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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ウィークエンド・シャッフル2

 

制服の上からメジャーではかられ、サイズが合う衣装のうちどれがいいか聞かれる。

 

「ほんとに......ほんとに心残りなんです。ほんとはモルグ街の殺人のデュポンを入れたかったんですが、参考になりそうな画像がネットで拾えなくて......」

 

月魅は心の底から残念がっているのか、ためいきが深い。

 

「モルグ街の殺人かあ......読んだことあるけど、たしかにこれってイメージないよね。ああ......オレもコナンの鍵穴だけしかみたことないや」

 

「世界で最初の名探偵にして、安楽椅子探偵なんですけど......ほんとに残念です」

 

「それで、オレのサイズ的に大丈夫そうなのは?」

 

「翔さんは皆守さんとだいたい背丈が同じなので、こちらですね。どうします?えーっと、ポアロ、ホームズ、金田一耕助、ワトソン、ヘイスティングスあたりですね」

 

「だってさ、甲ちゃん」

 

「そのラインナップで、なんで明智と小林少年がねえんだよ」

 

「あ、それはね!小林少年があたしで、月魅が明智小五郎やるからだよッ」

 

「ちゃっかり先取りしてんじゃねーよっ......しかもコンビで。となるとだ、どっちかが探偵でどっちかが相方になるのがセオリーってもんだな」

 

「お~、いがーい。皆守クン、月魅と同じこといってる~」

 

「はあ?なにいってんだ、探偵っていやあ、ホームズにワトソン、ポアロにヘイスティングスがつきもんだろうが。それがお約束なんだよ」

 

「だってあたし探偵ものあんまり詳しくなくてさ~、月魅がものすごく一生懸命選んでる衣装貸してもらうのお願いしまくってたから、どれがどれかわかってないんだよね~」

 

「おいおい、とんだ少年探偵団だな。事件解決できるのかよ、明智」

 

「大丈夫ですよ、皆守さん。小林少年はお約束があまりありませんから、むしろ八千穂さんにぴったりなんです」

 

「えへへ、そういうことだよッ!ねえ、どうする~?」

 

「思ったんだけどさ、コンビでやった方がやっぱ映えない?それならオレが死体役やってさ、九龍と甲ちゃんがコンビでコスプレしたら?」

 

「そうだな......やっぱ探偵には助手がいるよな」

 

「死体役の人が料理とってくることにしたら?ちょっと忙しいけどさ、テープで死体がありましたよって体にすれば途中で抜けられるし」

 

「なるほど~、いい考えだねッ!それ採用!」

 

「ということは、助手が途中で犯人に気づく......いや、探偵が気づく?」

 

「月魅、アドリブ多いなら探偵と助手に投げちゃえば?」

 

「適当だな、おい。ま、俺はかまわんが......」

 

「うんうん、オレより九龍のがしっくりくるよ。ってことで九龍、甲ちゃんのご指名だからコスプレ先にえらんでくれ」

 

「えっ、いいのかよ、翔チャン。ありがとう!」

 

「どうぞどうぞ」

 

そうして、皆守がシャーロック・ホームズを選び、葉佩はワトソンになった。どっちが犯人役か決めたりするつもりのようで、衣装合わせが終わるまで入って来るなと言われた。どうやら当日までのお楽しみらしい。

 

「衣装どうしよっかなあ。 いちいち着替えてたら時間なくなるよね?」

 

「そうですね、基本的には使い回しになると思うので、そのままの衣装になりますね」

 

「あはは、じゃあ衣装によっては探偵が探偵殺しちゃうことになるんだ。いや、助手がかもしれないけど。やっぱ、探偵のがいいかな」

 

「では金田一かポアロですね」

 

「うーん、どうしようかな」

 

「翔が犯人役やってくれるんなら、ヘイスティングスやってもいいぞ」

 

「あ、夕薙」

 

「俺に合う衣装、警官役ばっかりでな。レストレードにしようかとも思ったんだが」

 

「何気に長い台詞回避しようとしてる......」

 

「ははは、悪く思うなよ?どのみち翔は主役を1回はしなきゃいけないんだ。探偵、死体、助手、それなら主役のときはサポートしてくれる助手はいた方がいいと思うが」

 

「うっ......たしかに......」

 

「なら決まりだな」

 

「えーっと、九龍と甲ちゃんはたぶん助手と探偵入れ替えてやってくれるから、その間2回は死体役やってー、最後は主役か。九龍死体やりたいっていってたから、夕薙が助手やってくれるなら......」

 

「皆守なら仕込み係に専念しそうだな」

 

「たぶんそうだね。よし、ポアロにしよう。デブでも小さくもないからもはや誰かわかんないけどね」

 

そうこうしているうちに、葉佩と皆守がでてきた。

 

「はい、江見さん更衣室に入りまーす」

 

茶化したように笑うやっちーに見送られて、私はカーテンで間仕切りしてある更衣室に入った。本来あるはずの窓ガラスは隣のクラスのお化け屋敷に使われるため、すべて貸し出している。今頃マジモンの幽霊を呼ぶために《生徒会》会計の神鳳あたりが鏡の配置を色々とクラスメイトに指示しているに違いない。3のCはここが広めにとられている。荷物置き場ついでに殺人現場となるからだ。

 

「はいはいは~い、翔クンッ!あけていい?翔クンはこれね!」

 

渡されたのは、紙袋だった。

 

襟先が前に折れた襟型が特徴の鳥の翼のように襟先が折り返され開いている「ウィングカラー」と言われているシャツ。結婚式や披露宴など、華やかな装いが似合うシーンで着用する方が多いイメージだ。

 

灰色の蝶ネクタイをつける。

 

灰色の背広の下にはベストをきちんと着て、懐中時計の金鎖が粋に覗いているように忍ばせ、灰色のスパッツを着用する。その下にはぴかぴかの黒いエナメルの靴。

 

丁寧にプレスされた、いい生地を使ったスーツ、その上に仕立てのいいロングコートを羽織る。黒い山高帽子に上等な手袋、黒いステッキ。やたら小物が多いな、ポアロって。鏡がないとやりにくい。

 

悪戦苦闘しながらなんとか様になったのを確認して、私は更衣室から出た。

 

「事件の真相はここにあります......私の灰色の脳細胞の中に!」

 

「ポアロの名言ですね!」

 

「へえ~、そうなんだ~ッ!なんだかかっこいいね!ねえねえ、写真とってもいい?九チャンたちのもとったから!」

 

「え?あ、うん、いいよ」

 

「あとで送るね~」

 

やっちーが携帯と使い捨てカメラで取りまくってくる。動かないでね~、といわれたものだから表情を変えられない。笑顔がいいかげん疲れてきたころ、ようやく解放されたのだった。

 

「おつかれ」

 

「あはは、ほんと疲れたよ。これから通し練習なのに」

 

いつの間にか着替えている夕薙がいた。どうやら私が撮影されている間に着替えたらしい。夕薙は初めから接客担当だったからやっちーの写真攻めは終わっていたようだ。

 

「翔ちゃんはポアロか、で大和がヘイズディングズ?」

 

「そうだよ、ホームズ」

 

「コート着てるからワトソンてわかるけどめっちゃ医者っぽい格好だね、九龍」

 

「なんか月魅がさ~、わかりやすさを重視するっていってたぜ?」

 

「へえ」

 

「葉佩はワトソンか。ずいぶんと手癖が悪そうなワトソンだな」

 

「医学の心得があるのがヘイスティングズってのも変な話だが、お前がワトソンよりマシだ」

 

「ハハッ、たしかにな」

 

通し練習が始まった。

 

「......なんで甲ちゃん、そんなにペラペラ喋れるんだよ」

 

「さすが、更衣室でひたすらぶつぶついっ、」

 

「余計なこというな」

 

「なんでだよ~ッ!褒めただけじゃんか、横暴だ!」

 

「ほんとに行動的なのか、やる気がないのか、よくわからん男だな」

 

「甲ちゃんはいつもこうだろ、夕薙。九龍の影響受けまくりでさ、否定するんだ」

 

「ちがいないな」

 

「うるさいぞ、そこ。つーか、さっきから何撮ってんだ、翔ちゃん」

 

「え?初歩的なことだよ、ワトソン君!のシーンがあまりにドヤ顔だったからさ、ついね」

 

「ぶっ、ゴホゴホっ、てっ、め、なにとってんだ、消せ!」

 

「翔チャン、翔チャン、俺は~?」

 

「九龍も撮ったよ。たしかに兄ちゃんは人を殺したけど俺にとってはヒーローだったんだ!バカにされるのだけは許せなかった!ってアドリブ?めっちゃ感情入ってたけど」

 

「お~、俺顔こわ。やっぱさ~、犯人は自供するとこが華だよなって。がんばっちゃったぜ」

 

「......鬼気迫りすぎて迫力あったよな、九龍。まさかとは思うが......」

 

「私は決して君に打ちのめされない。君にもし私を破滅させるだけの知力があれば、私にもまた君を破滅させるだけの知力があるのだ」

 

「......なんだよ、そのドヤ顔は。というかだな、途中で実はモリアーティだった展開はやめろ。打ち合わせでそんなんなかっただろうが」

 

「いや~、流れで?甲太郎ばっか注目されてうらやましくなっちゃってさ」

 

「次で主役やるんだから助手は助手らしくやれよ。いつのまにかワトソンが死んでることになってるし、お前な」

 

「あれはびっくりしたよね、いつのまにか入れ替えトリックにオレ使われてるし」

 

「皆守クンの動揺が面白かったよね~」

 

「おい」

 

私は夕薙を見上げた。

 

「サポートしてくれるんじゃなかったのかね、ヘイスティングズ」

 

私の不満はそこなのだ。

 

「ハハッ、サポートはしてあげたじゃないですか、ポアロさん」

 

「噛んだとこを動揺してると指摘して、犯人にしたてあげてくとかひどすぎないかね?君が犯人な流れじゃないか」

 

「あなたが犯人じゃないと信じたくて推理した結果ですよ」

 

「君が推理するのは私が病で死んだあとにしてくれたまえ」

 

「おや、また死体役をするおつもりで?」

 

「話変わるからやらないさ。1時間じゃ収まらなくなるよ」

 

「頑張って台詞覚えてください、ポアロさん」

 

「ぐっ......」

 

「ねえねえ、翔クン。だいたいの流れだけ考えて台詞はアドリブにしちゃう?台本ない方がすらすらいえてるよ?」

 

「言わないでやっちー。頑張るから、せっかく月魅が作ってくれた脚本無駄にするのやだし!頑張るし!」

 

「ありがとうございます、翔さん。でも無茶しないでくださいね」

 

これから私は必死で1週間台詞を覚える羽目になるのだった。

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