憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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俺の血は他人の血3

マミーズに向かう途中、強烈な違和感がそこにはあった。

 

「あれ、どうしたの翔クン。目の色が......」

 

メガネをしていても、《如来眼》を発動するのは放課後からずっと気になっていることがあるせいだろうか。思考と力が連動している。私は眼鏡をはずした。

 

「もしかして、何か変なものが見えてる......とか?」

 

「そのまさかかもしれないよ、やっちー」

 

「な~んちゃっ......て、えええっ!?嘘っ、ほんとになんかいるのッ!?」

 

「なにかいるかもしれない。やばいやつが」

 

《遺跡》に向かって流れていくよう構築されているこの學園敷地内で、どいいうわけか一部の流れが逆流する形で他のところに向かっているのだ。それは校舎に向かって流れている。その光を追いかけていってみると、そこにいたのはなんと月魅だった。

 

私達は手足の関節の接合が悪いようにふらふら歩く月魅を見つけた。ばね仕掛けの人形のようなギクシャクした足取りでただ歩みを進める。いったいどこへ向かっているのだろう。雲の上を歩くみたいに足元が定まらない。

 

あっちへよろよろ、こっちへよろよろ体が先に出て足がそれについていけてないような歩き方だ。夢遊病者のようである。

 

声をかけようとして近づいてみると、そこにあるのは薬物の作用で精神が後退したような、虚脱した顔。生きるための重要な何かが、抜け落ちた表情。目を見開いているのに何も見えていない。その眼はある一点を凝視めていて、すぐ前の道を通る私を空気のように無視する。

 

手や足や胴体がそれぞれ勝手に歩行の真似事をしてはいるが、身体の主は不在だとでもいうような頼りなさだ。空っぽだ。歩いてくるもののなかに何も入っていない。突き動かす情動のすべてが、すっぽり抜け落ちてしまっていた。

 

「月魅ッ!」

 

私は駆けだす。

 

「お~い、月魅ッ!どうしたの~?部屋着のまんまじゃ風邪ひいちゃうよッ!?」

 

やっちーがかけてくる。

 

「校舎はもうしまってるよ、月魅ッ!入れないよ!」

 

「そうだよ!ねえ、月魅ったら!」

 

「月魅ッ!」

 

私はようやく月魅を捕まえる。そしていつもつけているブローチをはぎ取り、月魅に押し付けた。手を広げて握らせる。上から手を重ねて強く握らせる。月魅の本来持っているはずの氣を不安定にしかねないくらい《遺跡》から流れ込んできていた氣がブワッと一瞬で散見する。さっきまで月魅が見えなかった私の視界がはれていく。龍脈の流れが正常化したのだ。

 

「月魅ッ!しっかりしろよ、月魅ッ!目を覚ませ!」

 

「月魅ッ、月魅ッ、大丈夫ッ!?」

 

私達が必死でよびかけていると、いきなり月魅の体がぐらついた。まるで糸を切られたマリオネット人形のように受身をとるまもなく倒れこんでしまう。

 

「月魅ッ!」

 

私はとっさに月魅を庇った。

 

「あいたたた......」

 

「し、翔クン、大丈夫ッ!?」

 

やっちーの声でうっすらと目を開けた。どうなったのだろうか?月魅は無事か?あまりの痛みに間抜けな声が出てしまう。どうやら月魅を庇ってそのまま私が下敷きになってしまったようだ。はっと我にかえったように月魅は辺りを見渡している。

 

「月魅ッ、大丈夫?」

 

「え、あ、あれッ......どうして私」

 

「月魅、とりあえず退いてくれないかな。ずっとこの体勢はキツイかな」

 

「えっ、あ、ごごご、ごめんなさい、翔さんっ!大丈夫ですかっ!?」

 

月魅があわてて飛び退いてくれる。私は苦笑いして立ち上がった。

 

「あら......どうして私、こんなところに?誰かに呼ばれたような......」

 

「よかったァ、元に戻って。様子がおかしかったんだよ、月魅」

 

「八千穂さん......ありがとうございます。なんだか私、大切なものを探している気がしていたんです......夢だったのかしら......あれだけ一生懸命探していたのに」

 

月魅は不思議そうである。私達は月魅の話を聞くために、長いあいだそこにじっとしていた。

 

ようやく聞き出したところによると、宅配便で届いたばかりの楽しみにしていたシリーズ本を読んでいたら、ぼーっとし始めたという。どれくらいの時間机にもたれかかっていたのかはわからない。ひどく眠くて頭がぼんやりとしていたし、殆んど何も考えずにじっと眺めていたからだ。

 

「たぶん、そのままうたた寝したはずなんです」

 

「そこから記憶がないんだね」

 

「はい」

 

うたた寝したはずの月魅を見計らったように、何かが月魅をここまで連れてきたのだ。その作業は月魅の意識の領域から外れた場所で行われた。

 

月魅は明晰夢を見ているつもりだったらしい。ただ、自分というものは何もなくなっていたという。自分という意識がただ宙に浮いている。目の前にある風景や自分の行動をたんたんと受け入れるだけ。

 

明晰夢だと理屈ではわかっているし、そういうつもりだった。感情も感覚もない。ただ空虚な空間で何かを探す月魅が目の前にいた。頭の中は冴えわたっているのに、ただ静かで、むき出しで、白紙だった。ひたすらに何かを探していた。

 

「知らないうちにこんな所まで来るなんて......」

 

月魅は夢遊病にでもかかったのかと脅えている。

 

「男の人の声がしたんです。鍵を探せ、優れた叡智を持つ者よって」

 

「話はあとにしよう、月魅。とりあえず自分の部屋調べておいで。鍵かかってなかったら大変だよ」

 

「───────ッ!!ほんとですね、私ったら!」

 

「あたしもついて行ってあげるよ、月魅ッ!またなんかあったら心配だもん」

 

「オレも学生寮の前まで一緒に行くよ。夕ご飯まだならマミーズ行こうか、そこで話聞くからさ」

 

「翔さん......八千穂さん......ありがとうございます......」

 

「風邪ひかないように上着もってきてな」

 

「あ、そ、そうだこれッ!翔さんの大切なブローチじゃないですか。どうして私......しかも留金壊れてるし......」

 

「それ、月魅がもってた方がいいよ」

 

「えっ、そんなうけとれないですよ!」

 

「それ持った瞬間に月魅に憑依してた何かがいなくなったんだ。夢遊病の自覚があるなら予防に持っといた方がいいよ」

 

「でも......」

 

「翔クンのいう通りだよ、月魅。あたし達がいくら呼んでも返事しないで校舎に向かって歩いてたんだよ?すっごく怖かったんだから。まるで死んでるみたいに変な動きしてたし、ほんとやばいよ」

 

「......」

 

月魅は迷ったすえ、無意識のうちに女子寮の自室からここまで移動しているという事実が怖くなってきたらしい。

 

「......これ、お借りしますね、翔くん......。ありがとう、ございます......」

 

そういってブローチを大事そうに握りしめた。

 

一応女子寮の自室を調べた結果、鍵がかかっていたため、無意識でも月魅は月魅。防犯意識はちゃんとしていることが判明した。やっちーと調べた限り、盗まれたものはなさそうなのでひとまず3人でマミーズに向かったのだった。

 

「いらっしゃいませ~、マミーズにようこそ~」

 

このざわめきは、いかにみんながしゃべっているか、いかにみんながくつろいでいるかの証だ。やっぱり人の声は落ち着く。七時をすぎているためか広々と感じたマミーズは満員となり、なごやかな、明るい雰囲気になった。お店にしても劇場にしても、お客が雰囲気を作るのだ。月魅たちは明らかに安心した顔をしている。

 

「何名様ですか~?」

 

「3人でよろしく、奈々子ちゃん」」

 

「はぁい、かしこまりました~。こちらへどうぞ~」

 

幸いまだ空いていた。

 

「ご注文は何になさいますか~?」

 

「私は明太子スパゲティでお願いします」

 

「あたしハンバーガーね」

 

「オレ、五目ラーメンで」

 

「かしこまりました~」

 

奈々子が厨房に向かうのをみとどけてから、私達は小声で話し始めた。

 

「いつからあんな感じなの、月魅」

 

「実は......《夜会》のあとからなんです......」

 

「あれ、月魅は《夜会》のあとなんだ?」

 

「はい、そうですけど......八千穂さん?」

 

「あのね、放課後に翔クンにお礼いいにきてた子は《夜会》の前だったよね?」

 

「そうだね。普通は《夜会》の後に体調不良になるはずだ」

 

「そうだね。みんなは月魅みたいに《夜会》のあとらしいよ」

 

「えっ......そんなにいるんですか、夢遊病の人」

 

「実はそうらしいよ。瑞麗先生がいってたらしい。甲ちゃんがベッドに寝てたら聞こえたって。明日、月魅も瑞麗先生に相談してみたらどうかな?」

 

「そうですね......私だけじゃないのなら、信じてもらえるかも......」

 

「あたしと翔クンがほんとだっていってあげるから大丈夫だよ、月魅」

 

「オレのブローチで月魅が元に戻ったことも併せて伝えた方がよさそうだね」

 

月魅はほっとしたように笑った。

 

「明日、付き添いをお願いします」

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