憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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俺の血は他人の血4

「七瀬、君もなにか悪い霊に接触したようだな」

 

私とやっちーの付き添いで保健室を訪れていた月魅の問診を終えた瑞麗先生は開口一番にそういい放った。

 

「《夜会》から七瀬のように霊障を訴える生徒が後を絶たないんだ」

 

「霊障、ですか」

 

「そうだ」

 

瑞麗先生によると、霊障とは読んで字の如く、霊の障り、つまり俗に言う「祟り」の現象を指す。こうした霊障現象は霊の祟りや憑依、または特殊な因縁によって生じる。霊障が起きる原因として挙げられるのは、浮遊霊、地縛霊、動物霊などの下級霊の憑依。自然霊、精霊、神仏(正確には神社や仏閣に住まう眷属霊)の祟り。先祖などに関わるマイナスの因縁。生き霊の憑依、干渉などがあげられる。

 

霊障は誰にでも起こりえるものだが、特に霊感体質の人や精神的に弱い部分を持っている人などが被害者となりやすい傾向がある。逆に霊や霊界の存在などを全く信じず、万事において唯物論的な考えをする人、あるいは強い信念を持って力強く生きている人には起こりにくいとも言われている。

 

「そういう意味では、七瀬、君はこういった現象には巻き込まれにくい体質のはずなんだ。なにせあの葉佩と精神交換の事故が起きてしまうほど氣の性質が似ている上に、強い氣の持ち主だからね。にも関わらずこうして巻き込まれているということはだ。特別強い霊体から干渉を受けている可能性が高いな。心当たりはあるかい?」

 

「心当たりと言われても.......」

 

「月魅、《夜会》に出なかったね」

 

「え?ああ、はい。たしかに招待状は来ていましたが行きませんでした。《黒い砂》と関係がある人は《遺跡》の封印が弱まるからファントムかスライムに襲撃される可能性が高い。だから《夜会》に出るべきだと九龍さんから聞いていたので。私は《生徒会》でも《執行委員》でもありませんし。双樹さんが寮に来ましたが、強制的に参加しろとは言われませんでしたよ?」

 

「あ、そういえばそうだったね、月魅。出たらよかったのに」

 

「ごめんなさい。時間指定で新しい本の配達を頼んでいたので......。どうしても早く読みたかったんです」

 

瑞麗先生はその話を聞いて考え込んでしまう。月魅たちはちょっと不安になったようだ。

 

「これは......やらかしたかもしれんな、七瀬」

 

「え?」

 

「いや、な?あの招待状を送ったのは、カオルーンのマスターだが、なかなか侮れん人だよ。葉佩がいっていた。君と精神交換していたとき、カオルーンにいったら、私のようにすぐ気づいて葉佩に対する対応をしたらしいからな」

 

「えっ、マスターそんなことも出来るんだ~ッ!すごい!」

 

「九龍さん、カオルーンに何しにいったんですか......?」

 

「そういやそうだね」

 

「それは葉佩に聞きたまえ。とにかくだ。そんな人物がメールを送るんだ。なんらかの基準があったのはたしかだろう。なにせ、《生徒会》でも《執行委員》でも《転校生》でもない、一般生徒にもメールを送っていたんだからな。《夜会》に参加した方が安全だと判断されたんだろう。なにせ、体調不良や夢遊病をうったえている生徒ばかりだからな。《夜会》に参加しなかったら、今頃もっとひどい霊障に襲われていたはずだ」

 

瑞麗先生の言葉にやっちーは息を飲み、月魅は顔色が悪い。霊が人を祟るのには理由があると続ける瑞麗先生である。

 

「いつの間にか《マスターキー》を手に入れていたわけだろう?しかも《鍵》とやらを探して深夜の學園敷地内を徘徊し、気づけば部屋着や寝巻きで外を歩いている。しかも幻聴まで聞こえるとなれば、かなりの干渉をうけているようだ」

 

一旦瑞麗先生は言葉をきり、七瀬の方を見る。

 

「しかし、君は運がよかったな」

 

「え?」

 

「夢遊病の生徒の中には、暴行してでも《墓地》につれていかれかけた生徒もいるんだ」

 

「えええっ!?」

 

「明らかに挙動がおかしい上、パターンは同じだからなんともいえないな。連れていこうとするのは決まってあのスライムと1度でも接触したことがある生徒だ。自分も《遺跡》に呼ばれるが、道連れにしようとするようだ。あの時完全に除去したはずなんだがな......」

 

私の脳裏を女の嘲笑が横切っていく。ハスターリクのせいか?遺伝子を人間の中に紛れ込ませるのがそもそもの目的だったのか?人間に入り込み、ファントムへの牽制か抑止力か贄を集めるためか?わからない。

 

「ファントムが毎回出現しても自然消滅していたのはこのせいかもしれんな。《遺跡》の封印がとけそうになる度にファントムが出現し、あのスライムが溶けだして近づいた人間に憑依する。そしてファントムの傀儡を《墓地》に連れていき、贄にする」

 

「《夜会》は今まで贄を集める儀式も兼ねていたらしいです」

 

「なんだと?」

 

「《黒い砂》の影響下にあった人間が対象で、一夜にして貪り食うから行方不明者が多発したって。阿門がいってました。父さんが贄になった年から色々あって失敗続きみたいです。阿門の代になってからやり方変えたからかもしれない」

 

「......どうやらそうとう飢えているようだな」

 

瑞麗先生はため息だ。

 

「翔クン......その話、ほんとなの?」

 

「翔くん......」

 

「阿門から聞いたからほんとだよ。1986年に江見睡院が、1998年に母さんが贄になってる間に《鎮魂祭》が行われたから封印状態にできた。《鎮魂の儀》が完遂できた。でも今年は失敗した」

 

「君のせいではないさ。葉佩たちが《遺跡》で《生徒会執行委員》と対峙していたんだから。みんな生きて帰れただけ幸運と思わなければ。たとえばそうだな、贄を求める傀儡がずいぶんと理性的で強固な精神性をもっているために制御しきれなかった、とかね」

 

「そうであることを祈っています、心の底から」

 

天香學園の《遺跡》に遺された改造遺伝子という螺旋の理によって、生きながらにして奴隷種族に転生させられてもなお自我を保っていられるのだから江見睡院はほんとうにすごい《宝探し屋》である。

 

瑞麗先生は警告する。このスライム自体が《遺跡》に予め仕込んでおいた改造遺伝子なのだとしたら恐ろしいことだ。無症候期(潜伏期)があり、特定の条件が満たされない限り、感染者の症状は進行しないんだ。「《遺跡》の封印がとけるという水準を一定分超過」という条件を満たすことで覚醒すると推測される。

 

暴行を奮った生徒を調べたら、この状態へ移行すると脳が異常活性化することが分かったらしい。それに伴うドーパミンの過剰分泌によって発生者は興奮状態となり、接触中枢が刺激される

ことで人間同士の抗争になる引き金となるようだ。

 

症状が更に進行すると異常活性化が全身及び人間の形態を維持できなくなる。これは新島で立証されている。

それにともない共に人間の形態では考えられない能力向上が認められるが、その変化に対し発症者の肉体が耐えられる保証はない。

 

まさにショゴス爆弾である。エムツー機関に疑いのある生徒を送りまくったおかげで症状の進行は抑えられ、化け物で溢れかえることは未然に防げてるようだからよかったものの。放置していたら今頃阿鼻叫喚だったに違いない。

 

「さいわい、生徒たちは夢遊病程度の干渉ですんでいる。だがな、七瀬、君は特に注意するんだ。おそらく君はスライムに干渉されている生徒の標的になりやすいファントムの干渉を受けている人間だ。特に強い干渉を受けている。邪気に晒されたせいで隙が出来ている。だから乗っ取られる」

 

月魅は青ざめた。

 

「そんな、私、そんな覚えは......」

 

「あるじゃないか」

 

「へ?」

 

「君がじゃなくて葉佩がだが」

 

瑞麗先生はいうのだ。葉佩と月魅が入れ替わったとき、雛川先生がファントムに誘拐されていた。そして接触を果たしている。七瀬月魅の体はファントムとがっつり接触しているのだ。おそらくそこで葉佩以外のなにかをされた。

 

「まだ完全に復活していないからブローチの効果がきく。だが時間の問題だな」

 

そういうことか。

 

「そういえば、九龍さん、いってました。ファントムの過去をみせられたって。仲間にしたいんだろうって。詳しくは教えてくれなかったけど......」

 

「なんだと?それは霊体としても接触したということか。それはまずいな......」

 

そういうことか。たしかに葉佩は長髄彦の霊から過去の記憶をみせられている。遺跡の太古の思念の記憶に触れている。

 

「記憶にふれるということは脳に強烈に植え付けられたマーキングだ。霊体はそれを頼りに媒介にすることはよくある。葉佩は七瀬の体で接触したため、その霊体を七瀬の脳はイメージとして覚えてしまったんだ。干渉を受けるにはこの上ない状態じゃないか」

 

葉佩、悪運が強い男である。葉佩自身はまだ干渉を受けていないのだ。七瀬は言葉も出ないようである。

 

「じゃあ、じゃあ、ファントムが《遺跡》の封印と関係あるってことですか?」

 

「ああ、おそらくな。封印がとけはじめている今、《遺跡》に封印されている者が地上にある程度干渉ができるようになってしまっている。七瀬も影響を受けているんだろう。《夜会》のあとから七瀬のような症状をもつ生徒が続出している。後を絶たない」

 

「九ちゃんに知らせなきゃ」

 

「そうですね、急ぎましょう」

 

「ありがとうございました」

 

「あ、2人とも。オレ、父さんについて聞きたいことがあるから、先にいってて」

 

「え?あ、うんわかったよ」

 

さっきわざと話したからか、2人は先に行ってくれた。月魅とやっちーは保健室を出ていく。ちょっと気になった私は瑞麗先生に聞いてみた。

 

「瑞麗先生、オレはどうなんでしょう?過去をみせられたことはあるし、かなり接触してるんですが、干渉を受けてる自覚はないです」

 

「そうだな......君の場合はルーツを考えるにファントムではなくスライムの方だろう?きっと《改造遺伝子》に反することをまだしていないんだろうさ。君がなにを見せられたのかはしらないがね。警告の意味合いが強いんじゃないか?」

 

「つまり、いつ暴発するかわからない」

 

「そう、たとえば葉佩が死にかけたときのような事態になったら、君は君の狂気から逃れる術はない」

 

「《墓守》が深く《遺跡》の呪いに囚われているように?」

 

「そうだ。警告がなにをいみするのか、考えた方がいいかもしれないね」

 

私は考える。

 

子どもをなすときに死にたくないと私と同じ金の目をした女はいっていた。そのために《遺伝子操作》で《如来眼》《菩薩眼》などの女を生み出した。さらに交配を繰り返し、一族が死なない素体をつくりたがっていたとする。でも今なおこの世界の子孫たちは囚われたままだ。

 

江見翔、私はまさに理想なのではないだろうか?男なのに《如来眼》に目覚めた。私はその体にいれられ、肉体と融合したことであの女の精神の《遺伝子》は1700年ぶりに帰還した。

 

「......もともと死ぬ気はないんだけどなあ......ますます死ねなくなりました。あのタイミングであの過去夢を見せた理由がわかった気がします。見誤るなよって警告なんだな、きっと。失敗したら私の魂なんて簡単に弾け飛ぶ」

 

江見睡院を救うときに私の死を前提にした場合、間違いなく邪魔されるだろうな、という強烈な予感がある。おそらくそれは当たっているだろう。

 

「なんてプレッシャーかけてくるんだろう......」

 

私はため息をつくのだ。

 

「私としてはいいタイミングだったと思うがね?」

 

「え?」

 

「やけに緊張しているようだから、変な企みを企てていたんだろう?」

 

「ものは相談のつもりだったんですが」

 

「ほう?」

 

「たとえば悪魔退散の対象に私はなるのか、とか」

 

「なにを読んだらそんな発想になるんだ?」

 

「母さんが残した魔導書の写本です。犠牲者に取り付いている異生物を取り払うことができる呪文です。魔力をコストとして支払い、異性物と精神力抵抗を行い、成功すれば取り付いている異生物を追い出すことができるんです」

 

「あのな......私は道教に通じる人間だぞ。なぜ聞いた?論外に決まってるだろうが。君は肉体と精神が融合しているとはいえ、完全に江見翔となったわけではない。その過程にある。そんな人間が精神力をコストにするだと?また死にかけるぞ?悪いことは言わないから他の方法を考えることだ」

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