憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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俺の血は他人の血5

 

「先生、今日の保健室も大繁盛みたいだな」

 

私は思わずその場に固まってしまう。瑞麗先生はさして驚いた様子もなく私の向こうに視線をなげて、なにごともなかったかのように話し始めてしまった。なんてことだ、よりによって1番聞かれたくないやつに聞かれてしまうなんて。私は頭をかかえたくなった。

 

「ああ、そうだとも。だから寝たいだけなら別の場所をあたってくれるかい、夕薙」

 

「大和いつの間に......瑞麗先生、わかってて話しましたね?」

 

「さて、なんのことかな」

 

「俺は深刻そうな話をしてそうだから待ってた訳だが」

 

「あーもー......」

 

ボヤく私に夕薙は笑う。そして、ぽんぽんと肩に手を載せる。諦めろといいたげた。

 

「さて、翔。行くか。瑞麗先生はお呼びじゃないそうだ」

 

「わかったよ......」

 

私たちはとりあえず踊り場に移動した。

 

「さて、あれはどういう意図があって話をしていたんだ、翔」

 

「やっぱ聞いてたんじゃないか。可能性があるならなんでも模索すべきだと思っただけだよ。いっただろ?死ぬつもりではないよ、断じて」

 

「どうだかな。前から思っていたんだが、君はいつも自分を除外した世界の話ばかりしている。なにかにつけて葉佩だ。そんなに大事か?」

 

「宇宙人はそういう世界しか教えてくれないからね。観測できるのはそういう世界ばかりらしいんだ。オレがここにいるのも九ちゃんの可能性に希望を見いだしたからなわけだから、当然じゃない?」

 

「ふむ......これが瑞麗先生のいう君の抱える狂気というやつか」

 

「らしいね。常態化しているせいでオレにはこれが正常なんだ」

 

「異常な世界で正常でいるための精神状態は異常だとは言わないが、寂しくはあるな。君はいったいなにをみているのかよくわからない時がある」

 

「大和に言われるのは心外だなあ」

 

「お互い様とはいえだ。友達として心配してるやつが目の前にいるってことくらいは忘れないでくれよ」

 

「うん、ごめんね。ありがとう」

 

「やれやれ......。保健室の話だが、どうも本当らしいぞ。墓守の爺さんから聞いたんだが、《夜会》から《墓地》が荒らされたらしい。氣の感じが変わったといっていたよ。あるべくしてあるものがない。わだかまっていたはずの重苦しい空気が今はほとんど感じられない。誰かがそれを解放したような、なにかが」

 

「霊体が?」

 

「なんらかの大きな変化を感じとってしまったのは確からしいからな。一応、君にも伝えておいた方がいいと思って探していたわけだが」

 

「ありがとう。超常現象嫌いなのにごめんな」

 

「あのな、翔。確かに俺は祟りだの呪いだのを信じるわけにはいかない立場ではある。だからこそ、正体を見極めるには情報が必要不可欠というスタンスだ、勘違いしてくれるなよ。俺からすれば真実から遠ざけられる方が嫌いだ」

 

「友達として?」

 

「そう、友達としてだ」

 

「ありがとう」

 

目には友達としての好意が、かげろうのように燃えたっているのがみえた。

 

「父さんを救える方法、もっといい方法がないか探してみるよ」

 

「ああ、ぜひそうしてくれ。なにか進展があればぜひ教えてくれないか?」

 

「そうだね、毎回こんなことされたら心臓に悪いからね。次からそうするよ」

 

「これに懲りたらあきらめるんだな」

 

私は苦笑いしたのだった。

 

「よくわかっ」

 

「あ、翔チャンと大和じゃーん。なにしてんだよ、こんなとこで」

 

「八千穂たちが探してたぞ、はやく教室に来い」

 

振り返ると階段をあがった先にぶんぶん手を振る葉佩と不機嫌そうな皆守がいた。

 

「あっ、そうだそうだ、忘れてた。やっちー達待たせてるんだった。ごめん、大和。そういうことだからまた今度ね」

 

「ははッ、わかったよ。ただし忘れてくれるなよ?何度も同じ真似はしたくないからな、俺も」

 

「了解。九ちゃん九ちゃん、今行くよごめん。やっちーから聞いた?」

 

私は階段をかけあがり葉佩のところに向かう。ちら、と皆守を見ると早く行けと促されてしまう。そして皆守は階段をおりていくのが見えた。その先にはいつもの胡散臭い笑顔を浮かべている夕薙がいる。なにを話すつもりなのやら。

 

そして、私はやっちーたちと合流して、図書室で情報共有をすることになる。しばらくしたら、ものすごく不機嫌な皆守が帰ってきたので、たぶん思わせぶりな態度でけむに巻かれたんだろうと思う。私が《ロゼッタ協会》の諜報員であり、江見翔という存在は虚構であり、宇宙人に精神交換された女だという情報過多な存在だと正確に把握しているのは夕薙だけだ。皆守の詰問を堂々とかわせるのは夕薙だけだから是非ともこのまま誤魔化されて欲しいものである。

 

「俺が見たのはどっかの研究所みたいな場所だったなァ。今思えばトトのいた区画が一番近いかも?機械だらけでさ、なんか白衣のおっさんたちが......」

 

葉佩からファントムのどんな過去を見せられたのか聞いていた私たちは、図書室のドアが開く音でいっせいに振り返った。

 

「お前は......」

 

「《生徒会会計》の神鳳クンッ!どうしたの?」

 

「本借りに来た?ならごめん、静かにするよ」

 

「日本食絶賛してくれた神鳳じゃん、久しぶり」

 

「ええ、あの時はご馳走様でした。皆さんお揃いのところすみません。《転校生》である君に聞きたいことがあってきたのですが」

 

「え、俺?」

 

「フフッ、自分のしていることを自覚していて、生徒会室や弓道場に現れるとは。君はなかなかにキモの座った人ですね」

 

「え、なんのことだよ、神鳳」

 

「誤魔化そうとしてもそうはいきませんよ。校舎や部活練など。何者かによって荒らされているのです」

 

「おいおい、どういうことだ。まだやめてなかったのかよ。だから言ったじゃねえか、九ちゃん。やめろって」

 

「信じてください皆守刑事!俺は荒らしてなんかない!」

 

「そ、そうだよ、神鳳クンッ!最近、夢遊病になってる子が多いって瑞麗先生いってたよ?だから、きっと誰かが荒らしたんだよ」

 

「そうそう、なんでもかんでも俺のせいだと思ったら大間違いだ」

 

「おや、そうなのですか。確かに鍵をかけて出たはずなのに、朝来てみたら矢や的、巻藁までひどい有様でしてね。さらに備品が盗まれているので、てっきり物取りの犯行なのかと思いましたが......」

 

「やっぱりお前のせいじゃないか、九ちゃん」

 

「九ちゃ~んッ」

 

「九龍さん......」

 

「ちがあうッ!俺が来た時には初めからそうだったって!あそこまで荒らさないっての!」

 

神鳳は笑うのだ。

 

「語るに落ちましたね」

 

「盗んだのは事実じゃねえか」

 

「盗んでないっていってるじゃんッ!!そりゃ、ちょっと気になって覗きはしたぜ?鍵開けっ放しにして扉全開だし?調べたくなるじゃん?《宝探し屋》の本能が俺に囁きかけるんだよッ!」

 

「ふむ......。たしかに朝来た時は君の言う通りな有様でしたが......。ちなみに何時頃です?」

 

「えーっとたしか9時くらい?」

 

「そうですか、では容疑者にとどめておきましょう。証拠がありませんからね」

 

「だろ~?」

 

「堂々としゃべる九ちゃんがわからん......相手は《生徒会》の会計だぞ?」

 

「それが九チャンだよ、皆守クン」

 

「しかし、僕が弓道部の部長だと知っているだろうに侵入したとはいい度胸ですね」

 

「冤罪で突き上げくらうよりはマシだしな~。無罪を主張するッ!」

 

「ふふ、君はどうやら恐れないタチのようですね」

 

「俺、《敵地》にいた方が本気出せるタチだからな」

 

「ふふッ、面白い人ですね、君は。《敵陣》に身を置くことで気分を高揚させると?普通はそんな顔できる人間そうそういませんよ。僕を前にしてなおその態度ですか。正直驚きました。君は我々が考えていた以上に度胸がある人のようだ。では、今日のところはこれで失礼しましょう」

 

神鳳はたちさる直前に葉佩をちらと見て、意味深に笑った。

 

「ただ、ひとつ忠告しておくなら、今回盗まれたうちの弓なんですがね。少々いわく付きなので取り扱いに注意が必要ですよ。あらぬところを怪我しますからね、たとえば......利き手とか」

 

去っていったあと、皆守は無言で葉佩の肩に手をおいた。

 

「昨日の探索でのヤラカシはそのせいか、九ちゃん?」

 

「どうだろ~?」

 

「九ちゃん」

 

「いたたたた」

 

「悪いこと言わないから今すぐ返してこい」

 

「いだだだだ」

 

「九ちゃん。な?」

 

「わかったわかったからやめてくれ縮むぅ!」

 

「お前はなんだっていつも騒動の中心にいるんだ!巻き込まれる俺の身にもなれッ!」

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