憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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忘れのメメタント3

何度目かのチャイムがなっている。私はベッドに横になったまま、漢方の効果が出るのを待っていた。昼休みならマミーズや売店に生徒が殺到するため廊下が騒がしくなるが、そこまで人の気配はしない。たぶん何限目かの休み時間なんだろう。昼休みになったら九ちゃんになにか持ってきてもらおうかなとぼんやり思った私は体を起こしてメガネに手を伸ばした。

 

スピーカーから校内放送のチャイムが聞こえてきた。

 

「3年C組の皆守甲太郎くん。瑞麗先生がお呼びです。すぐに保健室へ行ってください。3のCの皆守甲太郎くん。保健室までお願いします」

 

まさかの出頭命令である。なにをやらかしたんだろう、皆守と思いながら私は携帯に手を伸ばした。

 

「おいカウンセラー、なんだよいきなり」

 

がら、と乱暴にあけられた扉が跳ね返って微妙にあいてしまったらしく、瑞麗先生がちゃんと閉めろと注意している。しかし早いな、随分と早いご到着である。

 

「君あてに預かっているものがあるんだ。受け取りたまえ」

 

「は?なんだよ、なんであんたが......」

 

「みればわかるさ」

 

カーテンの向こう側で皆守が瑞麗先生からなにかをうけとったようだ。気になるが出ていく雰囲気でもないので、私は携帯でメールをうっていた。

 

ずいぶんと長い間、静寂が流れていた。しばらくして。

 

「そういや、翔ちゃんはまだいるのか?」

 

「ああ、見舞いかい?いい心がけだね」

 

「うるせえよ」

 

「江見なら奥のベッドだ」

 

「起きてるか、翔ちゃん」

 

寝たフリでもしようかと思ったが、つかつかと近づいてきた皆守は、しゃ、とカーテンをあけて入ってきた。そして近くの丸椅子に座った。

 

「聞いてたか?」

 

やっぱりそうだ。必死だなあ。

 

「聞こえてたけど出ていく雰囲気じゃなかったから、メールみてたよ。みんなに心配かけちゃってるからね、メールだよメール。ついでに九ちゃんにお昼頼もうかと思って」

 

言及する気配のない私に安心したのか、皆守は安堵のため息をついている。

 

「ならこれでも食っとけ」

 

ほらよ、とシーツの上に乗っけられたのは売店の袋だ。中身はカレーパンと缶コーヒーである。買ったばかりなようでまだ缶コーヒーがあたたかい。なるほど、売店にいたから保健室に来るのがやけに早かったのか。

 

「え、いいのかよ、甲ちゃん。これ甲ちゃんの昼ごはんじゃ?」

 

「気が変わったからいいんだよ。昼はマミーズで食うから。今の學園内じゃ食う気がしねえ」

 

「そうなんだ?ありがとう」

 

「最初は屋上ですませようかと思ったんだがな」

 

「さすがに12月に屋上で昼寝はきついよね。寒いだろ?九ちゃんとか雛川先生とか来るし」

 

「それもある。それだけ喋れるならど調子は良さそうだな、翔ちゃん」

 

「うん?まあね。瑞麗先生のおかげでだいぶん楽になったよ。この調子なら午後から出られるかもしれない」

 

「いや......今日はやめとけ」

 

「え?」

 

「悪いことは言わねえから、今日は早く帰って休んどけ」

 

「どうしたんだよ、甲ちゃん」

 

「やっぱり気づいてなかったか。夕薙が午後から復帰するとかいってたから来たんだよ。朝から甘ったるい匂いが學園内に充満してやがる。病み上がりの体にはきついだろ」

 

「甘い匂い?」

 

「あァ。あの香りのせいで思考回路がぼやけた奴らばっかりだ。あの香りにつつまれてしまうと大切なことを忘れちまう。おかげで誰もが白岐のことを忘れてやがる。お前は忘れてないんだろ?なら保健室で大人しくしとけ」

 

私がなぜ白岐のことを忘れてないと思ったのか聞こうとした矢先、後ろから瑞麗先生が口を挟んだ。

 

「白岐......ああ、白岐か、白岐幽花。なるほど。そういうことか」

 

「あ?なんだよ、カウンセラー」

 

奥の鍵がかかっている棚からカルテがはいっているファイルを見ながら、瑞麗先生はいうのだ。

 

「実は君をここに運び込んでから、処方箋を探していたら生徒のカルテを何者かが触った痕があってな。犯人は巧妙に隠しているつもりだろうが、私の目はごまかせない。だが、肝心の誰のカルテを紛失したのか思い出せなかったんだが、そうか。彼女か」

 

瑞麗先生の言葉に皆守は唖然としている。たしかに双樹の力がここまで強力だとは初見プレイしたときは思ったものだ。

 

「カウンセラーまで?」

 

「私に喧嘩を売るとはいい度胸だ」

 

瑞麗先生はなにやら準備をはじめた。私物がおいてある棚からなにか中国の古い陶器を並べ、色々とビンをだして調合しはじめた。そして、なにやら物々しい装飾が施された数珠をだす。中国語でなにか唱え始めた。やがてその数珠をしまい、火をつけた。どうやらなにかのお香のようだ。そして保健室にまきはじめる。なんだか空気が軽くなったような気がする。

 

「これは塗香(ずこう)といってな、清め香とも呼ばれる粉末状のお香なんだ。身体に直接塗ったり、祭壇に巻いたりすることで邪気を近づけないようにする。ようやく認識阻害の効果が薄れたようだな、これで保健室は安全地帯になったというわけだ。さて、どいつが犯人か調べなくては」

 

「まじか」

 

「なにが?」

 

「翔ちゃんが忘れないのは保健室にいるからだと思ってたんだが」

 

「違うみたいだね。保健室にいても効果があるなんて。まあ完全な閉鎖空間てわけじゃないけどさ」

 

私にメールがきた。

 

「誰からだ?」

 

「千貫さんだよ」

 

「なんでまた」

 

「そりゃ、阿門に喪部について警告したいからね。あいつ、先祖と自分をひとつづきだと考えてるみたいだからね、完全に同一視してる。危険思想にほかならない」

 

「......念の為聞くが、いつメールした?」

 

「いつって定期的にしてるよ。喪部銛矢はやばいやつだし。報連相はすべきだろ、情報を独占したところで抱え落ちしたら世話ないもの。まあ、阿門は私にだけは借りを作りたくないらしいからね、それなりの見返りをくれるみたいだ」

 

「?」

 

「くれたんだ、情報。《レリックドーン》の工作員らしき人間のね。さてどうしようかな、って考えてたとこ」

 

「......翔ちゃんはいつもそうだよな」

 

「なにが?」

 

「いつも1歩も2歩も先をいってる」

 

「まえいっただろ、動かなきゃ動けなくなるのがわかってるから必死なだけだよ。考えたくないだけなんだ」

 

「そのわりには助けを求めないよな」

 

「今の状況を打開して欲しいわけじゃないからね。九ちゃんにはこの《遺跡》を解放してほしいんだ。それが私の悲願に繋がってる」

 

「よくわからん」

 

「九龍伝説ってしってるか、甲ちゃん」

 

「九龍伝説?」

 

「日本に文明が起こったとされる縄文時代よりはるか以前に高度な《叡智》を有した文明が存在していたっていう伝説だよ。その民は大いなる9匹の龍の神を崇め、9匹の龍は9つの宝を守っていた。その秘宝を手に入れたものは《永遠の富と栄華》を手に入れることができるらしい。この《遺跡》にある《秘宝》は《九龍の秘宝》って呼ばれてる。私が皆神山で宇宙人にあったときも言われたよ。我が九龍の秘宝をいつの日か、お前が《秘宝》を探し出し、それを手にする時を待つとしようってね」

 

「!」

 

「仲間が欲しいんだよ、私は」

 

「仲間、か」

 

「うん。もちろん、甲ちゃんもだよ。母さんはひとりで父さんを救おうとして失敗したんだから、オレは二の舞にならないようにすべきだ。ひとりでも多く欲しいんだ」

 

「......おまえな、なんでそんなこというんだ。おれは......」

 

ちょっと泣きそうな顔で皆守はいう。

 

「私は歩みを止めることは許されない。利用価値がなくなった瞬間に私は元の体に戻ることができなくなる。それだけは避けなくちゃならない。なにせ命を救うなんて先払いされちゃってるもんだからね」

 

「ちッ......」

 

「なんだよ」

 

「アロマに毒混ぜられたり、手紙みたいな精神を蝕む札貼られたりした程度じゃ、翔ちゃんは止まらないよな。そうだ、お前はそういうやつだ。忘れてたぜ、俺としたことが」

 

「心配してくれたんだ?ありがとう」

 

「うるせえよ。撤退命令が出てるっていうし、部屋があんだけ片付いてるから、もしかしたらと思っただけだ」

 

「まあ、たしかに今すぐにでも出発しろとは言われてるんだけどね」

 

「───────ッじゃあ、」

 

「それだけは出来ないって突っぱねたよ。今私がいなくなったら、宇宙人に関する知識を提供する人間がいなくなる。喪部銛矢がかなりの識者みたいだからね。後手にまわったら大惨事になる。それに父さんを救える人間もいなくなるじゃないか」

 

「九ちゃんに頼めばいいんじゃないのかよ」

 

皆守がいつになく真剣な眼差しで私の顔を覗き込んでくる。私は首をふった。

 

「九ちゃんは《宝探し屋》であって《救世主》じゃない。九ちゃんには《遺跡》に専念してもらいたいんだ。江見睡院を救うのは、父さんを救うのは、オレの役目だからね」

 

言い切る私に皆守はしばらく言葉を探していたようだったが、肩をおとした。

 

チャイムがなる。走り去る足音がするから授業がはじまったようだ。

 

「あれ、授業には出ないの?」

 

「んな気分になれるとでも思ってんのかよ」

 

皆守はぽつりと呟いた。

 

「隣、借りるぞカウンセラー」

 

「ああ、ゆっくりしていきたまえ。ただ昼ごはんはここ以外で頼むぞ、江見。塗香が薄れてしまうからな」

 

「わかってますよ」

 

私は夕薙が持ってきてくれたカバンに袋をいれた。皆守はカーテンの向こうに消える。

 

「......」

 

「......」

 

カーテンの向こう側で紙を破く音がした。がさごそなにか聞こえてくる。

 

「......なァ」

 

「なに?」

 

「翔ちゃんは、卒業したら何するか考えてんのか?」

 

「卒業したら?」

 

「あァ」

 

「そうだな......とりあえず岡山に帰るよ、父さんと。母さんじゃないかもしれないけど、父さんを待ってる人はいるからさ、会わせてあげたいんだ」

 

「そうか......そうだよな。翔ちゃんならそうなるよな」

 

「で、父さんのコネで《ロゼッタ協会》に入る」

 

「......は?」

 

「オレは父さんが会いたい江見翔じゃないからな、会わせてあげるためにも《九龍の秘宝》を探さなきゃならない。私が帰るためにも」

 

「......ああ、なるほど」

 

「九ちゃんみてたらやりたくなって来ちゃったのもある」

 

「は?」

 

「だって楽しそうだろ?九ちゃんの探索にオレがどれだけ貢献してると思ってるんだよ。あれで九ちゃん《宝探し屋》つとまるんだから、オレでも出来そうだし」

 

「おいおい正気かよ」

 

皆守の声が笑っている。

 

「悪いことは言わないから九ちゃんにはいうなよ、そのくだり。というか、新人の九ちゃんの推薦じゃなくて父親の推薦てのがお前、あはは」

 

ひとしきり笑ってから皆守がいう。

 

「卒業したら、なんて考えたの久しぶりな気がするな......。九ちゃんやお前と話してると案外悪くないかもしれないな......」

 

しばらくして、また紙を手にする音がする。手紙かなんかだろうか?

 

さて、私も《レリックドーン》の工作員どうやってとっちめるか考えなくちゃならないな。葉佩が《生徒会》と対決する以上、不測の事態があってはならない。

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