憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

92 / 158
オディプスの恋人5

九ちゃんから今日は放課後に《遺跡》を探索しようとメールが来た。いつもは9時を回ってからだというのに驚いていると、いつか話していた私のルーツに関する話が聞きたいとのことである。江見睡院が入念に調べていた区画である神武東征エリアに足を踏み入れるにはお誂え向きだと踏んだらしかった。

 

午後四時を過ぎると空は慌ただしく寒々しい夜の準備に入っていく。夕方暗くなった頃に南西の空を見ると、宵の明星となった金星が見やすくなっているのに気がついた。

 

晴れ切った夜空に、冬の名残に響くばかり冴えた星斗が落ちて散らばる。金星は日に日に高度を上げている。土星は、金星とは反対に徐々に高度を下げていき、月末には地平線に近くなって見づらくなるだろう。

 

今夜が金星と土星がすれ違うように接近する最終日なためか、満月4個分よりも近くみえた。とても明るい金星に控えめな明るさの土星が寄り添う様子が目を引いた。

 

「こんばんは、翔チャン。何見てんの?」

 

「なにって金星だよ、金星。ほら、あそこに見えるやたら明るい星」

 

「あ~、あれ金星なんだ?寒くなってきてから見やすくなったよな~」

 

「そうだね。あれがオレの......」

 

「よォ、今日はずいぶんと早い招集じゃないか。ゆっくり休む暇もねえとか」

 

私は思わず笑ってしまった。誰が見ているかわからないのに軽率なことをするなとばかりに、その誰かのくせに皆守はわざと遮るように現れた。葉佩が来る前から見てたくせにあいかわらず皆守は皆守である。意図が透けて見えるなら余計な手間をかけさせるなと皆守は肩を竦めた。葉佩は私と皆守の不自然な無言のやりとりを気にする様子は一切ない。

 

「うっそだあ、呼び出しなかったらずーっと男子寮と《遺跡》とウロウロしてるくせにぃ。楽しみなら楽しみって素直にいいなよ~」

 

「そういや寮の部屋に鍵かけたか?ちょっと俺だけ戻ってくるかな」

 

「待って待って待って甲ちゃん待ってッ!冗談だってばも~ッ!ホントの事言ったらすーぐ怒るんだから」

 

「おい、あんまりくっつくなよ。つーか八千穂みたいなしゃべり方やめろ」

 

「甲ちゃんが帰ろうとするからだろ、このイケズッ!」

 

「ふざけてる暇があったらさっさと準備しろよ、九ちゃん」

 

「わかってるよ。翔チャン、甲ちゃんが逃げないように見張っといてッ!」

 

「あはは、わかったよ」

 

「おいおい、翔ちゃん。なんだそのマシンガン?いつもの変な銃はどうした」

 

「あるけど?」

 

「ずいぶんな武装だな......九ちゃんの真似か?」

 

「父さんの真似が正解だね。《宝探し屋》の正装だっていうし、形から入ろうと思って」

 

「気合いのはいり方が違うな」

 

「昼間はほんとに生きた心地がしなかったんだ、やっぱり攻撃手段があるのとないのとじゃ安心感が違うよ」

 

「幽霊に銃火器効くのかよ」

 

「術者には効くさ。それに破邪効果が見込めるなら銃火器も悪くないよ」

 

「へぇ」

 

雑談をしているうちに、葉佩が準備を終えたようで来るように促してくる。私は8ヵ月ぶりに同じ装備で《遺跡》に潜入したのだった。

 

「翔チャンの目、校舎全体が射程圏内とか見える範囲広くなってるよな~。昼間びっくりしたよ、助かったけど。今はどんくらい見えるんだ?」

 

「大気の流れがある区画なら、だいたいいけるみたいだね」

 

「そっかァ~、ならまだ行けない場所は無理ってことだな」

 

「そうだね、試してみたけどダメみたいだ」

 

「今の翔ちゃん、また不安定なころに戻ってんだろ。あんま無理すんなよ、カウンセラーに怒られたくないならな」

 

「うん、わかってるよ。ありがとう」

 

「わかってるだけじゃ意味が無いだろ。強迫観念が止められないなら、止められないで対策しろって言ってんだ」

 

「あはは......ホントそうだよね。どうやったら平常心でいられるんだろうなあ」

 

「大丈夫、大丈夫。翔チャンがまたおかしくなったら、あん時みたいに叫べば元に戻るもんな。いざというときは撃ってでも止めるからさ」

 

「撃たれるのは勘弁だから気をつけるよ。オレは撃たれたら死ぬからね」

 

「翔チャンの気をつけるは信用出来ないからな~。そーだ、これあげるよ。お守り代わりにつけといて」

 

葉佩はそういって私に《ウジャトの護符》を渡してきた。

 

「えっ、ちょっ、九ちゃんこれは......」

 

「阿門に《心臓の護符》もらってたおかげで死なずに済んだとかいわれちゃさ~、さすがにオレだって気にするじゃん?というわけで持っててくれた方がオレが安心するからもっといて」

 

「九ちゃん、その言い方ずるいと思う......」

 

葉佩は笑って先にいってしまった。

 

やはり、新たな区画に繋がる扉が出現していた。黄金色に輝く目を奪うほどきらびやかなエリアである。仕掛けられているギミックは複雑さを増しており、葉佩も苦戦気味である。さいわい、射撃を弱点とする化人が多いため、葉佩の取りこぼした化人を排除することに専念すれば弾薬の消費は最低限ですんでいた。

 

「江見睡院先生のメモ、これで全部かな」

 

葉佩がH.A.N.T.に解析させている横で、渡されたパピルスに目を通す。

 

《記紀神話においてもっとも重要な神はアマテラスである。この神こそが男系での皇祖神であって、その系譜は今においても一貫して続いているとされているからだ。祖霊信仰の観点からしても基本になっている》

 

《この天孫降臨と神武東征こそがこの世での日本の歴史の始まりだ。物語る上では、その前にどんな話があろうと、それは全てここに収束しなければならない。この神話は実質的には天孫降臨と神武東征が起点になっており、それより前の神話はそこからさかのぼって設定されている》

 

《見渡す限り黄金が目の前に広がっている。壁や天井も黄金で作られており、大和朝廷が非常に豊かだったと憶測される。儀礼や祭事のために蓄えられたものやこの墓の王のために納られた物であろうか?細工を見ると、古代エジプト文明にも似ている物や、中には縄文の特徴である渦巻き模様の描かれた物もある。もしかすると大和朝廷が侵略の際に集めた財宝なのかもしれない》

 

《ここは、やはり《儀礼の間》として用いられていたのだろう。天井には星を散りばめた装飾と壁には神代文字が刻まれた通布墓室のような部屋が多くあり、副室=セルタブと思われる供物室も見受けられる。遺されたものを調べるとここで行われていた儀式は《永遠の命》に対する儀式だったと推測される》

 

《だが、地下奥深くに伸びる回廊とその先にあるであろう玄室を考えると《埋葬されている者》と《永遠の命への祈り》が結びつかない。この遺跡自体が埋葬されている者を忌み嫌い、恐怖しているように見えるからだろうか?》

 

ここにきてやたら長い文章である。

 

「江見睡院先生が特に調べてるだけあってすごいメモだなあ。よし、碑文調べてみようぜ。神武東征をさ」

 

丹念に調べて回っているときだ。私はアマツミカボシの記述を見つけた。

 

《ある書によれば、天津神はフツヌシとタケミカヅチを派遣し、葦原中国を平定させようとした。その時、二神は「天に悪い神がいます。名をアマツミカボシ、またの名をアメノカガセオといいます。どうか、まずこの神を誅伐し、その後に降って葦原中国を治めさせていただきたい。」と言った》

 

「えっ、これだけ?」

 

「どったの、翔チャン」

 

「アマツミカボシの碑文これだけしかないなんてと思って」

 

「?」

 

「オレのルーツの話なんだけどさ、アマツミカボシじゃないかって話なんだ」

 

「えっ、ここに出てくるのが翔チャンの御先祖さま?!」

 

「たぶんね。星神を信仰してる上に北辰、北極星を特に崇拝していた民族、しかも妙見菩薩と同一視されることもある。それがアマツミカボシなんだ。話せば長くなるんだけど、妙見菩薩ってのは優れた視力で善悪や真理をよく見通す者のこと。九ちゃんが見せられた研究所で御先祖さまは研究していたらしい。どうも御先祖さまはオレの目みたいな力がある代わりに、子供を生む時必ず死ぬ呪いにかかっていたみたいだ。それを克服するために協力していたんだけど、勢力争いに負けて追放されたあげくに石化の呪いで殺されたらしい。ところで、オレの家はスサノオを祖神とする家系らしいんだよね。アマツミカボシの血が混じったのはどうも落ち延びる時にスサノオの系譜に匿われていくうちに混血が進んだ結果らしいんだ。オレの御先祖が呪われてるってんなら、アマツミカボシの方だと思うんだけど、なにか記述がないか調べたかったのに」

 

「えーっと、それってたぶんお母さんの方だよな?江見睡院さんそんな力があったとは聞かないし」

 

「あーうん、そうだと思う。母さんの方だよな、そうじゃないとおかしいよな。代々女が継ぐはずの力だから、ミトコンドリア由来の力だよ。なんだってオレが使えるんだって話だが......まあ、私のせいだろうね」

 

「そっか......それならこの碑文だけってのはおかしいよな」

 

「あの夢が正しいなら、アマツミカボシが平定されたのは神武東征の最後だ。これだけじゃ、神武東征の前に平定されたことになる。いや、調べたらどっちかわかんないらしいんだけど」

 

なにかギミックはないかと探してみるが、なにもないあたり、この碑文だけ浮いている。

 

「そういえば江見睡院先生が調べてたのは?」

 

「古代エジプト末期と同じ副葬品があったらしい。だからバアとカアをわけて埋葬するはずだからどこかに回廊があるはずだって考えてたみたいなんだ。ほら、オレたちがスライムとあったのはどれも隠し区画で全部繋がってただろ?」

 

「あれ、精神を埋葬する場所だったんだ」

 

「そうそう。だからみんなの思い出に準拠した化人が生成されたんだと思うよ。スライムによって」

 

「墓守には魂がないってのはそのせいかな」

 

「なにそれ」

 

「神鳳に喪部がいってたんだよ」

 

「喪部が?それは気になるね。《祖神》降ろしてるアイツなら、《遺跡》について誰よりも詳しいだろうし」

 

《如来眼》による探知を試みてみたが、大気が動かないためこれ以上隠し部屋は見つけることができなかった。

 

「ダメだね、次の階層から入れるのかもしれない」

 

「神鳳が待ってるエリアか。了解」

 

「いくか」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。