憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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オディプスの恋人7

新たに出現した回廊も気になるところではあったが、葉佩の判断により私達は一時撤退した。なんとか複数の大型化人を斥け、媒介になっていた神鳳の解放に成功したはいいものの、神鳳が目を覚まさなかったからである。

 

《黒い砂》から解放された墓守は、通常《黒い砂》で生成された化人を倒せばすぐに目を覚ました。だが、《遺跡》から脱出して阿門に連絡しても。保健室を校舎閉鎖後も使わせてくれるよう頼んでも。保健室に担ぎこんでも。数時間が経過するというのに、神鳳はいっこうに目を覚まさなかった。

 

瑞麗先生はあとは任せて帰りなさいと促したため一度はマミーズに夕食をとりにかえったのだが。皆守は帰ったが、葉佩と私は引き返した。葉佩は渡したいものがあるから。私は聞きたいことがあるから。

 

葉佩が校舎内をゲットトレジャーしにいくのを見届けてからはや30分が経過したころだった。

 

「う......?」

 

神鳳が目を覚ました時には、すでに20時を回っていた。私は葉佩にメールを送った。

 

「ここは......?」

 

「やあ、気分はどうだい神鳳」

 

「大丈夫?」

 

「瑞麗先生......江見君......」

 

「葉佩たちに感謝するんだな、ここまで背負ってきてくれたのは彼らだ」

 

「......そうですか。僕は、負けたのか」

 

どこか晴れ晴れとした様子で神鳳はいう。

 

「神鳳、どこか違和感ないか?ファントムに意識乗っ取られてたけど」

 

「いえ......今のところは問題ないようです」

 

「そっか、よかった。氣の方も正常化してファントムの干渉もなくなったみたいですね、瑞麗先生」

 

「そうだな。まあ、復活がまだ完全じゃないから祓えたんだろう。神鳳、顔色はよくなってきたようだが、さすがにまだ動けないようだね」

 

「そうですね......全身が鉛のように重い」

 

「だろうね。君はファントムに意識を乗っ取られたせいで、君の中にあった《黒い砂》が過剰反応して君自身を攻撃したために、変生したのだから。人間に戻れただけマシだと思わなければ」

 

「変生ですか」

 

「おや、やはり憑依されていたから記憶がないようだね。どうしたものかな......簡単に言うと龍脈の力により陰陽のバランスを著しく喪失したとき、人間は超常的な力を得る代わりに肉体が大きく変質してしまうのさ。君はいわば一時的に化人になっていたも同然。葉佩が手遅れになる前に《黒い砂》を排除しなければ神鳳充という存在はこの世から消え失せていただろうね」

 

瑞麗先生の言葉に神鳳は冷や汗をかいていた。

 

「無事でよかったよ、神鳳」

 

「君は口寄せ師の家系のようだが、当然自分より格上の霊体に対する対抗処置は講じていたんだよな?」

 

「はい、それはもちろん。イタコにとって体に霊体を憑依させていながら主導権を握る技術も、乗っ取りを防ぐ対策も死活問題ですから」

 

「そうか......つまり、ファントムはそれらをすべて超えてきたわけだ」

 

「......そうなりますね」

 

「ふむ......いよいよ本格的に封印はとける寸前といったところか」

 

考え込み始めた瑞麗先生の横から、ガラガラガラ、と乱暴に扉が開く。

 

「やっほー、神鳳。翔チャンから連絡もらったけど調子どうだ?」

 

「葉佩君......」

 

「噂をすればなんとやらだな。こら、葉佩。保健室はマミーズじゃないんだが?なんだその塩焼きは」

 

「あっはは~、やだなあ、先生。お見舞いですよ、お見舞い。神鳳たぶん夕食食ってないだろうな~って」

 

「葉佩、これ以上悪ふざけが過ぎるならさっさと帰りたまえ。神鳳は本調子ではないのだから無理をさせるな」

 

「わあい、瑞麗先生てきっびしーッ!まあ冗談はおいといて、これ返しに来たんだ、神鳳。大事なものだろ?ほら」

 

「その、かんざしは───────」

 

受けとった神鳳はかんざしをにぎりしめる。

 

「そうか......。僕の手に戻ってしまったのか......。そのかんざしは、僕があの場所に来て、そしてあの日、阿門様の意思に殉ずることを決めた日に、彼に預けたものです」

 

「だろ~なあ、そんな気はしてたよ」

 

「葉佩君、これからこのかんざしについて話をしたいんですが、聞いてくれませんか?」

 

「いいよ、いいよ、ぶっちゃけちゃって」

 

「ありがとうございます。実はこのかんざしは僕の妹が御守りにとくれたものなんです」

 

「へえ~神鳳、妹いるんだ」

 

「ええ。僕と同じ、霊と語る術を持った、今となってはたった一人の肉親───────。霊を通じて、冥界の《氣》と触れ合うその力のせいか、僕の親族は病弱であったり、若くして命を落とす者が多いんです......。僕の両親も既に他界し、ただ1人、僕の元に残った妹も、幼い頃から病弱でした」

 

神鳳はたんたんと続けた。

 

「初めは、そんな妹のためにこの學園の呪いと《力》のは秘密を得ようと、《生徒会》に近づきました。ですが僕の小さな野望は瞬く間にこの學園にひしめく嘆きの声にかき消されてしまった。それは死んだ霊に限らず人の内に秘められた生霊になりかねないくらい強い想い。何よりあの方の───────阿門様の切実な願いが僕を捕らえて離さなかった。だから僕はあの方の《力》になるために自分の弱い部分を差し出したのです。それでも───────僕はあの方のために何も出来なかった......」

 

神鳳はため息をついた。

 

「それに引きかえ、江見君、君の方が阿門様と近い位置にいるのではないですか?しかもなにかと通じているものがある。それが僕にはもどかしくてならない」

 

「あはは、そりゃ検討ハズレの嫉妬だね、神鳳。だってオレは九ちゃんみたいに《宝探し屋》でも神鳳みたいに《生徒会》でもない。でも江見睡院の息子だから完全なる部外者でもない。責任を伴わない絶妙な位置にいるんだと思うよ」

 

「ほんとうにそれだけでしょうか?」

 

「阿門はオレにだけは借りを作りたくないらしいからね」

 

「......僕にはどうにもそれだけには思えないのですがね。まあ、今の僕にはもはやできることなど何も無い」

 

自嘲気味に笑った神鳳は葉佩をみた。

 

「この僕が戦慄を覚えるほどに《遺跡》から強く凶悪な意志を感じます。封じられていた何かが目覚めようとしている......。僕にはこの事態を未然に防ぐことが出来なかった。そして、この事態を引き起こすきっかけとなったのは他ならぬ君です、葉佩君───────」

 

「え~、まだいっちゃうのかよ、それ」

 

「けれどこの學園に必要なようにも思うのです。自分で言っていてよくわからないけれど、そう考えたい僕がいるのも事実で」

 

「なるほど。わざわざ話してくれたってことは認めてくれたんだ?なら良かったじゃん。お互い自分のために戦って、俺が勝って神鳳が負けた。それだけだろ」

 

「まさか、そんなことを言ってもらえるとは、夢にも思いませんでしたよ。ありがとうございます、葉佩君......。あなたにはこれを渡しておきましょう」

 

神鳳は生徒手帳からプリクラを葉佩に渡した。

 

「ずいぶん大きくかわれたな!」

 

「《生徒会》としての僕を退けるだけでなく、あの《遺跡》に眠る悪意に取り憑かれた僕を敵なのに助けてくれたじゃありませんか。君は想像以上のふところの深い男でした。あなたなら......この學園を真の解放へと導く事ができるかもしれない」

 

「そういわれると照れるなあ。ありがとう」

 

神鳳はうなずいた。

 

「なあ神鳳。ファントムに憑依されてたときのことでなにか覚えてることはないのか?」

 

「これから思い出すかもしれませんが......お役にたてそうな事はなにも......」

 

「そっか。九ちゃんどうする?」

 

「う~ん、まだいつもの時間まで一時間くらいあるし。ゆっくり考えるよ」

 

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