憑依妖魔学園紀(九龍妖魔学園紀✕クトゥルフ神話)   作:アズマケイ

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神への長い道

 

神鳳の見舞いが終わってから、私はすぐに白岐にメールをうった。さいわいまだ寝ていなかった彼女はすぐ私の提案にのってくれて、温室に来てくれた。

 

「江見さん───────あなたは、この花を知っている?」

 

「もちろん知ってるよ。彼岸花だよな?」

 

「ええ、少し遅いけれど、綺麗に咲いたの。この花の花言葉は、《悲しい思い出》......。まるで燃える炎のように鮮やかなこの花が、なぜそんなに悲しい意味を持つのか......。その本当の理由をあなたは知っている?」

 

「なんだろ。彼岸花といえば、毒があるけど飢饉の時には最終手段として解毒してから食用にしたとか。昔は土葬だったから遺体をモグラや野犬に食われないようにするためとか聞いたことがあるけど。それなのに死を連想させちゃう名前や不吉な話が多いとか?」

 

私の言葉に白岐は少し驚いたような顔をする。

 

「あはは、実はね。いつだったか、私の地元が茨城県なのは話したことあったよね」

 

「ええ」

 

「弘経寺っていう彼岸花の名所として有名なお寺があるんだ。カメラとるのが好きな友達といったことあるから思い出してね」

 

「そうだったの......。もちろん、それもあるわ。私が知っているのは、また別の話なの」

 

白岐は話し始めた。

 

「彼岸花が咲く時期はお彼岸。亡くなった方を想い、偲ぶことからきた......墓場に生えていることから生まれた花言葉とも言われているわ......。墓前に咲いた彼岸花を眺めながら、亡き人を偲んで悲しみがよみがえる......。悲しい思い出をこの花に語りかけると不思議と心がやすらぎ、癒されるという......。それ自体が呪縛となっている程の悲しい思い出......。けれど......」

 

白岐は私を見上げた。

 

「江見さんのいうように、彼岸花はそんな人々を見守っていてくれる守り神のような花でもあるわ......。でも、いつしか彼岸花そのものが悲しい思い出の象徴であるかのようになってしまっている......。この學園には至る所にそんな場所が溢れているわ......」

 

白岐は他にも彼岸花の伝承を教えてくれた。

 

赤く咲いている時の彼岸花には、まっすぐにスッと伸びた茎に鮮やかな花だけがついていて、葉っぱが全く見あたらない。

 

実は彼岸花は花が終わってから、葉が出てくるという独自の成長サイクルを持っている。だから花のある時期には葉がなく、葉のある時期には花がないという特徴がある。

 

このことから、想いを思う花という意味の別名がある。花と葉が同時に存在することはない。それでも、花は葉を想い、葉は花を想っているという意味のようだ。

 

同じ理由で「捨て子花」という別名がある。葉を親に見立て、葉(親)に捨てられた花=捨て子花という解釈だという。

 

「それでも、江見さんの言うようにこの花は忌み嫌われる名前を与えられながら、毒という特性を生かして人々は墓を守り、水路を管理してきた......。もう忘れさられてしまったとしても、彼岸花はちゃんと咲いてくれる......。その誠実さがすきなの......」

 

「なるほど」

 

「それに、この花ははるか昔から日本にあった訳では無いわ」

 

「え、そうなのか?」

 

「ええ」

 

白岐はうなずいた。

 

日本で見られる彼岸花は北海道から琉球列島と幅広く見られるのだが、実は自生したものではなく中国のものだったことが言い伝えられている。これは、中国から稲作を取り入れたときに広まったと考えられている。

 

ただし、彼岸花は人里にしか生育しない。だから墓地や田畑の周辺で見られることが多い。

 

湿った場所が好きで、夏の終わりから秋の始めにかけて咲く花は、球根の植物。昔中国から来た一株が株分けされて全国へと広まったと考えられており、実は日本にある彼岸花は全部同じ遺伝子であるということが分かっている。

 

「彼岸花は凛としていて......それこそ赤い炎のようにキレイでしょう......?そんなに昔から人々に寄り添ってきた花でもある......。それも、人の営みと共にたった一株からここまで広がってきた......。だから私の好きな花でもあり、憧れでもある」

 

「たしかに、不吉な花言葉は日本だけだけど、それも人の暮らしに寄り添ってきた歴史によるのかもしれないね」

 

「そうなの......。別名が日本で一番多い花でもあるのだから......」

 

自分の好きな花について、たくさん話すことが出来たからか、白岐はどこか嬉しそうだ。

 

「こんばんは、白岐さん」

 

「ええ......こんにちは、江見さん。こんな格好でごめんなさい。お風呂から上がったあとだったから」

 

「オレが呼び出したんだから、謝るのはオレの方だよ。ただ、白岐さんに早く渡した方がいいと思ったんだ。九ちゃんにも許可はもらってる。これがメールでいってたやつ」

 

「......これが?」

 

「そう」

 

「......ありがとう」

 

白岐はおそるおそるミサンガもどきとそれに連なるネックレスに触れる。あのときひっかかった石はネックレスとミサンガもどきが絡まり、ネックレスの装飾だった石がひとつミサンガもどきについてしまっていたのだ。ポケットに適当に入れていて助かった。どうやらネックレスの本体まで絡まっている状態で《遺跡》から脱出していたのである。

 

それは碧玉(へきぎょく)、水晶、めのう、翡翠、ガラス、滑石(かっせき )というあらゆる石を素材とした勾玉が連なるネックレスだった。国際色豊かな大和朝廷に相応しく、アジア各地の多様な素材が用いられている。

 

そして、その間にはシルクロードの薫りを漂わせる花形デザインと金粒の細工。中央には輪っかがある。全面に施された精緻な装飾から、往時の最高級品が奉納されていることが分かる。青いガラス珠がはめ込まれたかなり特殊な技巧が凝らされたものだ。

 

青いガラスの間には一対をなす龍の装飾。力を込めるように歯を食いしばった表情と、反り返り流れる髭の造形が、首をもたげて動き出す一瞬の静寂を切り取っている。

 

そしていくつもの生糸を縫い上げて造られた極彩色のミサンガもどきも負けずおとらずな手間のかかったものだ。

 

「......これが、あの《遺跡》に......」

 

「神鳳の担当エリアから王の世話役たちの部屋に続く回廊があったんだ。9時からの探索で重点的に探すみたいだね。連絡まだ来てないから、オレに声かかるかはわからないけど」

 

白岐は首を振る。

 

「あなたのルーツに繋がる大切な探索だもの......葉佩さんが誘わないわけがないわ......」

 

そして、ふたつのアクセサリーを手にしてくれた。

 

「触れてみるかぎり、なんの邪気も感じない......むしろ心が安らぐような......」

 

「それは良かった。ブローチより馴染むと思うよ」

 

「不思議......初めからあったみたい」

 

「そんなに?」

 

「ええ」

 

白岐は笑った。

 

「それ、ファントムを退けたから破邪効果があるんだ。ブローチみたいな魅了なんてデメリットないみたいだし、白岐さんに向いてると思う」

 

「ありがとう、江見さん」

 

白岐は私にブローチを返してくれた。これでようやく男子寮に戻ることが出来る。

 

「帰ろっか、寮の前まで送るよ」

 

「ええ」

 

私たちは温室を出た。その道中で着信がくる。

 

「......大和?」

 

夕薙からのメールだった。

 

私が《レリックドーン》により呪殺されそうになり、私物を夕薙に預けていたとき、どうやら色々と見られてしまったようだ。なにかしら探られても構わないと思っていたから気にしないが、夕薙は友達といいながら自分の目的を優先させた自分の良心の呵責に耐えきれなかったようで土壇場ながらメールに暴露されていた。

 

今夜、葉佩と戦うとある。場所は今日探索予定の場所。私は青ざめた。あそこはウボ=サスラの落とし子たちがひしめいているのだ。

 

 

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