英雄が医者なのは間違っているだろうか?   作:クロウド、

2 / 5
人が辿り着いてはいけない領域

「フィン、来たぞ」

 

「ああ、ベル。来たね」

 

《ロキ・ファミリア》の野営地、本営の幕屋へとベルは入っていく。そこには、3人の亜人と1人のヒューマンの少女が卓を囲んで座っていた。1人は椅子ではなく床に正座だが。

 

 翡翠色の長い髪のエルフの女性、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

 顎髭を蓄えたどっしりとした体つきのドワーフの男性、ガレス・ランドロック。

 

 短い金髪の小人族の少年、フィン・ディムナ。

 

 そして、金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 ベルのことをよく知る者達がそこには集っていた。

 

「怪我人の手当は済んだのかい?」

 

「ああ、残念なことに医療の進歩に繋がりそうなレアな症例はなかった。どいつもこいつも適切な処置をすれば治るような平凡な負傷だ。ただ、」

 

「ただ?」

 

「視線が鬱陶しいことこの上ない」

 

 ベルを見る様々な感情が入り混じった視線を浴びせ続けられベルをげんなりしていた。

 

「がははっ! それは仕方あるまい、《彗星》の名はオラリオに住む冒険者ならある程度知っておるしの」

 

「ガレスの言うとおりだ。さて、取り敢えず君も正座だ」

 

 先に呼び出され正座を言い渡されていたアイズを一瞥し、ベルは諦めたようにため息を付き正座をつくる。

 

「さて、二人共。呼び出された理由はわかっているかい?」

 

「……前線維持の命令に背いたから」

 

「5年前、勝手にオラリオを出て旅に出たことか?」

 

「それだけじゃなく、オラリオに帰ってきてるのにこの5年一度も私達に顔を見せなかったこともだ」

 

「まあ、そういうことだね」

 

 ベルの答えに立腹した様子でリヴェリアが指摘し、フィンが同意する。

 

 ベルは5年前、ある事件をきっかけにオラリオを出て旅に出た。冒険者としての力量と医者としての技術を磨くために。

 

 リヴェリアが腹を立てているのはその際、置き手紙一枚のみをおいて出ていったことに関してと、一年ごとにステイタスの更新の為に帰ってきているのにこの5年、遠征で首脳陣や主要メンバーがいないときばかりを見計らい、更新が終わると何も告げずに出ていっていしまうことだった。

 

「定期的に手紙は送ったはずだが?」

 

「あんな最低限の近況報告だけ書かれた紙切れが手紙なわけあるか!」

 

「少しは落ち着かんか」

 

 荒ぶるリヴェリアをガレスがなだめる。

 

「どれだけ心配したと思ってる? この場にいる者だけではない。ラウルやアキ、我々《ロキ・ファミリア》だけでなく他のファミリアの者までお前が一人で出ていったと聞いて心配していたんだぞ?」

 

「……すまなかったとは思っている。だが、下手に会って引き止められたら決心が鈍る。だから、今までアンタ達がいるときには姿を見せられなかった」

 

 流石にバツが悪くなりベルは素直に謝罪を口にする。

 

「それはつまり、君の旅は終わったのかな?」

 

「ああ、僕が求める領域には未だ届いていないがこれ以上、オラリオの外で得られるものはないと判断して戻ってきた」

 

 ベルの答えにフィンやリヴェリアだけでなく、ガレスや、何よりアイズは安心する。

 

 だが、それと同時にフィンはベルに対して鋭い視線で尋ねた。

 

「ベル……()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……フィンには敵わないな」

 

 ベルは懐から赤い液体の入った試験管を取り出してフィン達に見せる。

 

「お前、まさかそれは……」

 

()()()()()()()()()だ」

 

『!?』

 

 ベル以外の四人はその発言に目を向いて試験管を見る。

 

「どのあたりが出来損ないなんだい?」

 

「2つの条件を満たしていないと効力を発揮しない。一つは、死体が原型をとどめていることだ。傷があっても基本修復されるからそこは問題ないが、首がなかったり、骨だけじゃ意味がない。そして、死んでから一時間以内でないと効果を発揮しないところがネックだ」 

 

 今度こそ、絶句する。それはそうだろう、ベルの言葉は裏を返せば()()()()()()()()()()()()()()()()ことができる代物だからだ。これ一本にどれだけの価値があるか首脳陣の3人だけでなく、その手に関心のないアイズですらわかった。

 

「とんでもないものを作ったのう……」

 

「馬鹿者ッ、そんな簡単な話ではないだろう!?なんてものを作ってくれたのだ、これ一本で国が動くレベルだぞ!?」

 

「僕にとってはこんなもの失敗作以外の何物でもない、僕が求めるのは()()()()()()だ。こんなものどうでもいい」

 

 ガレスは困ったように顎髭をなで、リヴェリアは再び激昂するが、対するベルはどうでもいいと言う。

 

 フィンは頭を抑えて疲れたような声でその場にいる者たちに告げる。

 

「とにかくその薬のことについては箝口令をしく。アイズもベルもいいね?」

 

「うん」

 

「もとより、こんな粗悪品世に出すつもりは毛頭ない」

 

「さて、それじゃ本題に戻ろう。アイズ、取り敢えず今回のことは不問とする。5年ぶりにベルにあったんだ、気持ちはわからないでもないからね。だけど、君は《ロキ・ファミリア》の幹部として、もう少し自覚を持ってほしい。君の行動は下の者に響くということを理解してほしい。わかったかい?」

 

「わかり……ました……」

 

「うん、それじゃあ行って構わないよ」

 

「ベルは?」

 

「ああ、彼には言いたいことが山ほどあるからね。しばらく、かかるかもーーー」

 

 ベルの方を向いて含みのある笑みを浮かべるフィン。昔、アイズと無茶をして説教を食らう前に彼がよく見た表情だ。それを直視したくなくて明後日の方を向くベル。

 

 そして、露骨にシュンとするアイズ。

 

「ーーーと、言いたいところだけどベルには明日の作戦に参加してもらうつもりだし、作戦について話すだけだから、直ぐに終わるよ」

 

 その言葉にパァと笑顔を咲かせるアイズ。普段は表情が読み取れないだけに表情の変化が読み取りやすい。

 

 そして、もう一人はさり気なくホッと息を吐いた。

 

「それじゃあ、ベル。あとでね?」

 

「ああ」

 

 アイズはリヴェリア達にぺこりと頭を下げ、弾んだ足どりで幕屋を出ていった。

 

「変わったな、彼女は」

 

「お前もな」

 

(それに、お前があの子を変えるきっかけを作ったのではないか)

 

 リヴェリアは優しい目で我が子のように育ててきた二人を見守るのだった。

 




アンケートのご協力お願いします。因みに三番目の場合、丁度帰ってきたベルがナァーザさんに欠損回復薬を譲ったことにしたいと思っています。

この作品でのフィルヴィスさんは怪人化していることにするかしないか。している場合、奇跡的に完成した蘇生薬で生き返る。していない場合、ベルに救われ精神的に安定し『豊穣の女主人』で働く。絶望して壊れることもなかったのでディオニソスに脱退を許可されてもおかしくないんじゃないかと思う。

  • 正直、しんどいけど怪人化している
  • やっぱ、鬱展開はきついので怪人化してない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。