「ベル、まだかな……」
本営から出てきたアイズはテントを作りながらまだ、本営で明日の作戦について語っているベルを待っている。
「ア、アイズさん!」
自分を呼ぶ声にアイズは作業を止めて振り向く、そこには山吹色の髪を後ろでまとめた少女が立っていた。尖った耳と容姿端麗で知られるエルフの種族だ。
「あの、【彗星】……クラネル…さんと何を話していたんですか?」
「……まだ何も話してないよ。ベルはまだ本営で明日の作戦の話してるから」
一瞬、蘇生薬の話が頭をよぎったがそれを言うわけにはいかないので当たり障りのない返事をする。
「そう、ですか」
少女はどこか残念そうに、しかし、どこかホッとしたようなた様子だ。
彼女、レフィーヤ・ウィリディスはつい先刻、ベルがファモールを吹き飛ばした際結果的に助けられた少女だ。
「ベルがどうかした?」
「えっと、さっきの戦いで助けてもらったときに失礼なことを言ってしまいましたし……怪我の手当までしてもらったので」
レフィーヤは不安そうにそう言う。相手はオラリオで誰よりも早くレベル6になった冒険者で自分の大先輩。ファーストコンタクトとしては最低な出会い方だ。
「多分、ベルは気にしてないと思うよ」
「そうでしょうか?」
「うん、だってベルは……」
「アーイーズー!」
「えっ!?」
「………ん」
かばっ、と軽い衝撃とともに、背後から腕を回される。
レフィーヤが驚く中、アイズは首を動かし、背中に抱きついた少女を見る。そこにいたのはアマゾネス特有の露出度の高い服装に健康的な小麦肌の少女ティオナ・ヒリュテだ。
「ティオナ……」
「何やってるの? またレフィーヤがへこんでアイズに慰めてもらってるの?」
「べ、別に私は慰めてほしいわけでは……!」
レフィーヤは赤面して否定するが対するティオナは周りを見回してアイズに尋ねる。
「あれ? アイズ、あの子と一緒じゃないの?」
「ベルはまだ本営」
「え〜、あの【彗星】の話聞いてみたかったからアイズの近くにいると思ったんだけど」
「【彗星】のベル・クラネル。オラリオ最年少で冒険者になった団長と同じレベル6、私も少し興味があったんだけど」
「ティオネ……」
ティオナが残念がっていると、それを聞きつけたのかティオナと瓜二つの褐色の少女が現れる。
ティオネ・ヒリュテ。彼女の双子の姉、一部を覗いて顔や体型もそっくりである。
「私達も名前は聞いたことがあったけど、本人にあったことなかったからね〜?」
「そうなんですか?」
「うん、ベルが旅に出たのはティオネ達が入る少し前だったから」
「そもそも、どうしてクラネルさんは旅に出たんですか? 話だとその時は既にレベル3だったらしいのに、わざわざオラリオの外で修行するなんて」
レフィーヤの言い分はもっともだ。ダンジョンのあるオラリオにいたほうがレベルアップの速度は早い。しかし、それは普通の冒険者であればの話だ。
「ベルがオラリオの外に出たのは医師としての腕を磨くためだったから」
『医師?』
アイズの口から出た『医師』という言葉に三人は首を傾げる。
「ねぇアイズ、医師って……」
「そのままの意味だ。僕は元々、医師になりたくてオラリオに来たんだからな」
ティオナがアイズに尋ねようとしたとき、別の人間によってその言葉の答えを変わりに答える者が現れる。
「ベル?」
「待たせたな、アイズ」
やってきたのは黒いフードをおろした白髪の少年、ベル・クラネル本人だった。
「僕は5歳の頃まである人の元で医療についての知識を学んでいた。そして、オラリオで医者になりたくてこの街に来て、そこで冒険者としてダンジョンに潜り始めたばかりのアイズと出会った」
ベルはその場に腰を下ろし、自身の過去を語り始める。それに他の三人は聞き入っていた。
「当時7歳でボロボロになってデカイバッグを背負ったアイズが、酷い顔色で街を歩いてるところでな。」
「7歳の頃のアイズさんっ!?」
若干1名、全く関係ないところに反応したがベルは構わず続ける。
「さすがに医師としてそんな場面を無視できるわけもなく……仕方なくバッグごと背負って【ロキ・ファミリア】のホームに向かった」
『バッグごと!?』
「えっと、ベルって呼べばいいのかしら?」
「好きに呼ぶといい、この中では多分、僕が一番最年少なんだからな」
「そう、なら私もティオネでいいわ。ティオネ・ヒリュテ、こっちは双子の妹の」
「ティオナ・ヒリュテだよ〜、よろしくね【彗星】君」
「レ、レフィーヤ・ウィリディスです!」
「名乗られた以上名乗り返さなければな、改めてベル・クラネル。二つ名は【彗星】だ」
「アイズ・ヴァレンシュタイン。二つ名は【剣姫】」
『いや、貴方(お前)のことは全員知って(るわ)(るぞ)(よ?)』
遅ればせながら、自己紹介を終えるとティオネは先程の話から疑問を思ったことを尋ねる。
「それでベル。貴方、バッグごとアイズを背負ったって行ったけど貴方当時何歳?」
「5歳だ」
『ごっ?!』
流石に驚きを隠せない面々、アイズもその時の記憶は曖昧だが起きたときリヴェリアに聞いて自分も信じられなかった。なにより、年下の子にバッグこど背負われて帰ってきたなんて恥ずかしくて仕方なかった。
「よ、よく、ホームまでたどり着けましたね……」
「僕の師は変わった人でな、医術に関する知識を教えてもらうため体術や狩猟術が必修科目だったんだ。5歳の時点で結構鍛えられてたつもりだ」
遠い目をして語るベルに師匠のことはあまり聞かないほうがいいと悟る三人。
「それで、アイズを送り届けたら酔っ払ったロキ様に気に入られて半ば強引に恩恵を刻まれたのが【ロキ・ファミリア】に入った経緯だ」
「………なんというか」
「本当にロキらしいわね……」
「うんうん」
自身の主神に対して敬意のない言葉を吐く三人、その様子にベルとアイズは苦笑する。
そして、話を続けようと口を開こうとすると、
「おい、【彗星】」
「あっ、ベート」
背後から声をかけられ振り返ると、そこには銀髪の毛並みを持つ獣人の青年、鋭い視線の狼人がベルを見下ろしていた。
「なんのようだ、【凶狼】?」
「少し、付き合え」
その言葉でベルは要件を察したのか少し背後にずらしていた首を戻して視線を外す。
「私闘なら断る、また両足の関節を外されたくなかったらとっとと寝ることだ」
「テメェッ!」
「吠えるなッ!」
ベルの挑発とも取れる言葉にベートは激昂し詰寄ろうとするが、彼の声と手でそれも遮られる。
「
地面においていた槍を手に取って立ち上がりベルはその場にいる者に背を向ける。
「悪いが、話の続きはまた今度だ。お前らに追いつくために急いできたからあまり寝てないんだ。少し仮眠を取る、後でフィンに集まれと言われていたからそれまでには起きる」
「うん……わかった」
ベルは仮眠を取るためにテントに向けて歩き出した。
「チッ!」
ベートは不機嫌を隠そうともしない舌打ちをするが、次の瞬間背後からの衝撃に地面に叩きつけられる。
「こんのバカッ! 5年ぶりの再会に水を指すなんて、アンタデリカシーってもんがないの!?」
「そーだ、そーだ!」
「うるせぇぞ、バカゾネス共ッ!」
落ち込むアイズを見て、ティオネ、ティオナ姉妹がベートを蹴り倒したのだ。
「そもそも、アンタベルと接点ないでしょ!?」
「うるせぇ! テメェ等には関係ねぇだろうが!」
この青年、ベート・ローガはベルが旅に出る約一年前に【ロキ・ファミリア】に改宗した。ベルとの接点は殆どないが、決定的な接点が一つある。
これは一部のものしか知らないが2年前、ベルがレベル6になったとき。偶然居合わせたベートがベルに食ってかかり、早く街を立ち去りたいベルが彼の師から伝授された打撃技と組み技を組み合わせた【パンクラチオン】という格闘技を使いベートの両足の関節を外したことがあるのだ。
彼の師曰く、『掴んだら必ず壊す』がパンクラチオンの基本だ。
「アイズさん……」
「大丈夫、今までと違っていつでも話ができるから」
レフィーヤはアイズのことを心配したが、5年もの時間待ち続けた彼女にとって数時間など大した時間ではないのだから。
(そう言えば、お礼を伝え忘れちゃったな)
「ところでアイズ」
「なに、ティオナ?」
「ベルって、なんでずっとマスク付けてるの?」
「……なんでだろ?」
「アイズも知らないの!?」
この作品でのフィルヴィスさんは怪人化していることにするかしないか。している場合、奇跡的に完成した蘇生薬で生き返る。していない場合、ベルに救われ精神的に安定し『豊穣の女主人』で働く。絶望して壊れることもなかったのでディオニソスに脱退を許可されてもおかしくないんじゃないかと思う。
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正直、しんどいけど怪人化している
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やっぱ、鬱展開はきついので怪人化してない