携帯用の『魔光石』がいくつもの光を揺らす中、【ロキ・ファミリア】の面々は食事を始めようとしていた。
この50階層は、ダンジョンの中でもモンスターが生まれない貴重な
「
「いっつも49階層を超えるの一苦労だよねー。今日は出てくるフォモールの数も多かったし」
「
「ははっ。とにかくにも、乾杯しよう。お酒はないけどね。それじゃあーーーー」
『乾杯!』
アマゾネス姉妹の話に笑いながら、フィンが音頭をとり、皆の唱和が続く。ダンジョンの中ということで誰もが心中で警戒を忘れない中、その飲み食いを通して、彼らはほんの少々羽目を外した。
設けられた野営地の中心には大型の鍋が置かれており、それを囲むように団員達が周囲に腰を下ろしている。鍋の中身は途中の階層で採った
諸事情により、ダンジョン内の食事は携行食といった粗末なものになりがちなので、今回のこれはごちそうと言っていい。士気も考慮したフィンの計らいで、団員達はダンジョンでは滅多に味わうことのない料理に舌鼓を打っていた。
ベルもその輪の中でスープを味わっていた。
「これが肉果実のスープか……悪くはないな」
ベルは遠征に参加したことは全くなかったので肉果実のスープを食すことは初めてだったので、新鮮だった。
そこへ数人の団員がベルに近づいてくる。
「あ、あの、クラネルさん!!」
「僕に何か用か?」
「えっと、さっきは傷の手当をしてもらってありがとうございました。おかげさまですっかり動きやすいです!!」
「礼ならいらない。僕は医者だ。患者がいるなら治す、当たり前のことだ」
ベルの言葉にキャーと黄色い声を上げる女性冒険者と感動したような顔をする男性冒険者。
その中で一人の男性団員が緊張した面向きで前に出る。
「あ、あの……よかったら握手してもらっていいですか!?」
「? 別に構わないが」
自分なんかと握手して何がいいのだろうと思いながら手を差し出すと両手で手を握られる。
「やったぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ずりぃぞ、テメェ!?」
握手に応じた団員が他の団員にもみくちゃにされる。
オラリオに滞在していなかったベルが知る由もないが、ベルの知名度は割と高い。最年少で冒険者としてダンジョンで活動し誰よりも早くレベル3まで駆け上がったスーパールーキーの知名度もさることながら、オラリオを出た当初はダンジョンから逃げた腰抜けという評価もあったがオラリオの外で孤高に旅をし自らを鍛えるその姿勢に憧れを抱いた冒険者も少なくはないらしい。
その実、レベル6となったのは医者としての腕を磨くのと蘇生薬の素材となるものを探す中での副産物なのだが。辺境にしか咲かない奇跡の花やら、山奥に眠る大蛇の血やらを追い求めて旅をしていれば、それはレベルが上がるだろう。おまけに彼にはさらにレベルが上がりやすい秘密があるのだから。
「俺クラネルさんに憧れて槍を使うようになったんです!!」
「僕に憧れて?」
「はいっ! よ、良ければこの遠征のあとご指導願えないでしょうか!?」
「……僕の槍の戦い方は速さを武器に戦う我流だ。誰かに教えて使うことができる代物じゃない。だが、僕の師から教わった基本までなら教えてやれるが」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
歓喜しながらガッツポーズをとる団員。なぜここまで喜ぶのかベルは本気で理解できなかった。
彼は5歳の頃冒険者になったということで首脳陣の三人にかなり目をかけられていた。故に知らないが、上級冒険者に指導されるというのはかなり貴重な経験値になるのだ。
「いいなぁ〜、私もクラネルさんに指導してもらいたいなぁ〜」
「へっへ〜、
「弓なら僕も使う」
「え? クラネルさんって
「僕の師がよく弓を使っていたんだ。それに幼い頃は槍より使いやすい弓を使っていたし、今でも偶に使う。僕で良ければ教えよう」
「本当ですか!?」
ベルの考えとしては武器の扱いをよく知ってもらえばダンジョンで無益な怪我をすることはないだろうと考えてのものだった。
医師として新しい症例を治療できるのは医療の進歩につながる貴重なものだが、それで死なれたら元も子もない。
ベル曰く、『死んでさえいなければ必ず治す』がベルの医師としての誇りだ。
「クラネルさん、すごい人気ですね……」
「……うん」
謝罪と礼を言うタイミングを失ったレフィーヤが隣に座るアイズに話しかける。
「ところでアイズさん、本当に食べなくてよかったんですか?」
「うん、大丈夫……」
「なーんて強がって、実はぐぅぐぅお腹鳴らしてるんじゃなーい? ほらほらー?」
「……」
ブロック状の携帯食をかじっていたアイズにレフィーヤが尋ねる中、ティオナがスープしか残っていない容器を近づけてくる。
食欲を存分に刺激する馥郁たる香りに視線が揺らぐが、アイズは鉄の意思でぷいっと顔を背ける。過剰な食事は
が、しかし、ここには悪魔よりおっかないお医者様がいる。
「確かに過剰な食事は戦闘に悪影響だが、極端な偏食も逆効果だ。携向食で取れる栄養には限度がある。スープだけでももらっておけ」
「でも……」
「主治医としての命令だ」
「……はい」
暗闇から光る赤い瞳に気圧され過去のトラウマも合わせてアイズは渋々ティオナから皿を受け取り、おとなしくスープを啜る。それを見届け、ベルも食事を再開する。
「ねぇねぇ、アイズ」
「ん?」
「アレ」
ティオナがベルの方を指差し、それに釣られて隣に座っていたレフィーヤやティオネもベルの方を向く。そこには、あの特徴的なマスクをつけたままで食事をしているベルの光景があった。
マスクを外した様子もないのになぜかスプーンに載せたスープが消えていく。
なんて器用な食べ方をしてるんだろうとその場にいる者たちは思った。
「それじゃあ、今後のことを確認しよう」
後始末をし、鍋も片付けた場でフィンが口を開く。
見張り以外の者達が小さな輪を作り、視線を彼へと向けた。
「『遠征』の目的は未到達階層の開拓、これは変わらない。けど今回は、59階層を目指す前に
冒険者依頼とは、冒険者に発注される依頼の総称だ。
受注した冒険者は依頼を達成し、その見返りとして
注文を出してくる依頼人は【ファミリア】や商人、または迷宮都市を、運営する
「冒険者依頼……確か、【ディアンケヒト・ファミリア】からのものですか?」
「ああ。内容は51階層、『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取すること」
ティオネの確認に頷くフィン。すぐに姉の隣でティオナがげんとなりとした声を出す。
「『カドモスの泉』……うえー、面倒くさー。何で引き受けちゃったの?」
「報酬は見合うものだったからな。それに派閥の付き合いもある、無下にはできない」
「ったく、あいつら面倒な依頼よこしやがって……」
「『カドモスの泉』は上質な回復薬の制作に必要な材料だ。薬品に関わる異常、多少無茶を通してでも手に入れたい代物だ」
「ベル……君、あわよくば自分の分も回収とか考えてないよね?」
「……公私混同は弁えている」
「その間はなんだ、その間は」
少し前までキラキラしていたベルの瞳が一気に曇った。
不満があらかた出しつくされると、フィンが話を再開させ、冒険者依頼の計画が伝えられていく。
「51階層には少数精鋭のパーティを二組、送り込む。無駄な武器・道具の消耗を避け、速やかに泉水を確保後、この拠点に帰還。質問は?」
「はいはいーい! 何でパーティを二つに分けるの?」
「注文されている泉水の量がまた厄介でね。『カドモスの泉』はただでさえ回収できる水が限られてる、要求料を満たすためには2箇所の泉を回らなくちゃいけない」
「食糧も含めた物資には限りがあるからのう。冒険者依頼の後、59階層へ行くためにもあまり時間はかけられん。二手に分かれて効率化というやつだ」
フィンの説明にガレスが、補足する。
ダンジョン深層への『遠征』は時間との戦いでもある。この50階層へ向かうだけでも最低5日はかかる工程だ、地上へ帰還する際のことも計算に入れると、物資の消費はできる限り抑えなくてはならない。
「それに『カドモスの泉』は大人数で移動できないところにあるからね。戦力の分担は痛いけど、小回りはきいたほうがいい。……他に質問は? ないなら
フィンの確認に反対の声は上がらず、そのままパーティの編成に移った。
そして、ここでもすぐにティオナが挙手をする。
「はーい! あたしやるー!アイズも一緒に行こう!」
「うん」
「そもそも、
「じゃ、ティオネもこっちに決まりね!」
「ちょ、まっ、私は団長と……!?」
ティオナの一存で素早く三人が固まった。
「リヴェリアはキャンプに残ってくれ。冒険者依頼のあとのためにも、消費した
「……止むをえないか」
【ファミリア】の中でも最高位の魔導師であるリヴェリアに、フィンは待機を言い渡す。
『魔法』を発動させるための源ーー精神力を先の戦いで大きく削ったリヴェリアは、彼の指示に素直に頷いた。
彼女はそこから顔を上げ、一人の少女を見つける。
「レフィーヤ。アイズ達のパーティに入れ。私の代わりだ」
「は、はいっ……て、えっ!?」
「問題ないな、フィン?」
「ンー、そうだね。いずれリヴェリアの後釜になってもらうんだ、いいだろう」
「だ、団長っ、リヴェリア様!? わ、私はまだっー!?」
「はいっレフィーヤもこっちー!」
ァァーッ、とティオナに捕まり異議を封じ込められるレフィーヤ。
そしてベルは、
「ベル、君もアイズ達の班に入るんだ。アイズの速度に合わせられるのは君だけだからね。後輩のレフィーヤのサポートも頼んだよ」
「それが妥当な判断か」
フィンに言われ、ベルもアイズ達の側による。
「これじゃと、もう片方は残った第一級で編成だのう。フィン、ベート、儂……後は」
「おい、ラウル。お前、サポーターでこっちに入れ」
「じ、自分ッスか!?」
「他に誰がいんだよ」
ほどなくして、2つの班が編成された。
一班:アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ、ベル
ニ班:フィン、ベート、ガレス、ラウル
「……なぁ、
「いいや、今回はこれでいい」
編成が不安すぎる、というその危惧を隠そうともしないベートに、フィンは自信を持って断言する。
確かに、無類の
ティオネなど表面こそ取り繕ってはいるが、本質はこの二人以上に凶暴だ。格下のレフィーヤでは御しきれるはずはない。
「ベル、そっちは頼んだよ」
「全く、人使いが荒い……」
ベルはフィンに言われ面倒くさそうに答える。
ベルは基本患者には寛大だが、医者としての自身の指示に反したものには鬼の表情を浮かべる。
事実、アイズは一度その逆鱗に触れた。あまりの恐ろしさにその時の記憶はないらしい。ただ、体は覚えているらしくそれからアイズがベルの指示を無視することはなくなった。
だが、それ故にベルには戦闘より医師としての仕事を優先する手合があり、司令塔には向いていないのでフィンは保険をかける。
「ティオネ、君だけが頼りだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」
「ーーーお任せくださいッッ!!!」
幼い外見の団長に
頬を赤らめながら息巻く実姉に、「ちょろー」と妹が呟いた。
「ベルもそれでいいかい?」
「………………。」
「ベル?」
フィンの確認にベルは答えない、それを訝しんだアイズが隣に座るベルを見る。目は開けているがその視線はどこか虚ろだ。ベルの顔の前で手をヒラヒラさせるが反応はない。
よくよく、耳を澄ますと寝息のようなものが聞こえる。
「……目を開けたまま寝てる」
「嘘ぉ!?」
目を開けたまま熟睡しているベルにティオナは驚きの声を上げる。
「まあ、仕方ないか。あの距離を
「了解っス」
眠るベルに呆れながらもフィンはラウルに指示を出し、ラウルはベルを背負ってテントの方に戻っていく。
口調や態度に反して小柄なベルはラウルに軽々背負われた。
「『彗星』なんて呼ばれていても、アイツは14歳。こういったところはまだ子供だな」
「あやつはもっとゆっくり成長すればよかったのにのぉ……。」
去っていく二つの背中を見てリヴェリアとガレスはやるせない表情を浮かべる。
「ねぇ、フィン。ベルに何があったの?」
「どういう意味だい?」
「だって、ベルが今14歳で5年前に旅に出たときはまだ9歳でしょ? それなのに、世界中を旅してまで医者としての腕を磨きたがるなんて普通じゃないよ。」
「団長、それは私も気になっていました。アイズも強さに執着する姿が見えますが、ベルの場合は、その……」
「異常、かい?」
ティオネが言わんとしたことを悟り、先に答えるフィン。
この場には少なからず彼が抱えている事情を知っているものが揃っている。しかし、誰一人として自ら語ろうとはしない。同じ神から恩恵をもらった『
「それが知りたければ彼に直接聞くといい。彼は答えたがらないだろうけどね」
フィンの言葉で会議は終了となり、各々は仮眠をとることとなった。
えぇ、投票の結果ナァーザさんの腕は欠損回復薬による復活と相成りました。イエーイ!
さて、続いてフィルヴィスさんです。ぶっちゃけソードオラトリア読んであまりにもしんどかったのでできればハッピーに傾いてほしい今日この頃、え?原作?知らんよ、自分の好きなように書かずしてなにが二次制作だばっきゃろう!
あっ、そうそう、最近つきが戻ったのかFGO単発でギル様出た、ワーイ………後々3倍くらいの不幸になって帰ってこないだろうか?
この作品でのフィルヴィスさんは怪人化していることにするかしないか。している場合、奇跡的に完成した蘇生薬で生き返る。していない場合、ベルに救われ精神的に安定し『豊穣の女主人』で働く。絶望して壊れることもなかったのでディオニソスに脱退を許可されてもおかしくないんじゃないかと思う。
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正直、しんどいけど怪人化している
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やっぱ、鬱展開はきついので怪人化してない