扉の前で立ち止まり、身なりを再点検する。
震える足に筋金を通して、丹田に力を込めた。
皆に疲労に打ちひしがれた姿などさらすわけにはいかぬ。
「ただいま帰投しましたッ」
「あ、翼さん、お疲れ様ですッ!」
真っ先に労ってくれるはエルフナイン。
「すみません、戦塵を落とすのに先に風呂を使わせてもらって…」
「いや、もっとゆっくり入ってくれていてもいいんだぜ?」
藤尭さんの気遣いに微笑で応じ、私は自分の席へと着く。
思わず疲労混じりの溜息が漏れた。ひっそりと噛み殺す。
「あったかいもの、どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
友里さんが差し出してくれた紙コップを受け取った。掌で底から支え持てば、じんわりと温かさが染み込んでくる。
「あら、まだ髪が乾ききってないじゃない」
「この後の再出動の可能性も考えれば、悠長に乾かしている暇などはありません」
「そういうわけにはいかないでしょう。ちょっと待ってなさいな」
そういって友里さんは自席からドライヤーを引っ張り出してくる。
室内には不釣り合いな機械の駆動音が響く。
結局私はろくな抵抗も出来ず、なすがままだ。
「はい、これでおしまい」
「ありがとうございます」
催してきた眠気を振り払うよう、私は礼を言った。
「なんだったら、休憩室で仮眠をとってきたらどうだい?」
藤尭さんの提案に首を振る。
「いいえ。待機状態が解除されるまでは、我が身を鞘に納めるつもりはありません」
かつての特殊部隊S.O.N.G.は、今やただの実働部隊を一つ残すのみ。
銃後の守りは変わりなく、されど前線で刃を振う防人は、私、風鳴翼一人のみ―――。
かのシェムハを名乗った神との苛烈な戦いから、二年が経過していた。
それはお父様が鬼籍入りしてから二つ年を重ねたことも意味する。
戦いの決着を経てマリアはふらっと姿を消し、雪音も「旅に出る」との言を残してからその行方は杳として知れない。
暁と月読は適合係数に著しい低下がみられ、予備役との名目は与えられているが、いまやその
立花と小日向は完全に市井へと戻り、いまだその傷を癒している。
そしてS.O.N.G.は、大規模な縮小と改変が行われていた。
いや、むしろ国連組織から紐解かれたといったほうが正鵠か。
活動領域は日本国内に限定され、特異災害対策室と名を変えたのは、無論日本政府の管理下に置かれたからに他ならない。
かつての発令所の中核たる、友里さん、藤尭さん、エルフナインの面々が引き続き忠勤に励んでくれていることは有難いが、その機動性や作戦遂行能力の欠如足るや、手足をもがれたに等しい。
「ああ、司令がいてくれたらなあッ」
藤尭さんのいつものぼやく声がする。
私の叔父である風鳴弦十郎は総司令の役職を辞し、「己を鍛え直すッ!」との書置きだけを残して出奔していた。
「でも、この間絵葉書が届いたばかりでしょう?」
友里さんが応じた通り、三月に一度ほどの割合で、名前だけを記した葉書がこの対策室宛に送られてきている。息災であることを伝えるためだろう。
「だったら、さっさと戻って来て欲しいよ…」
それでなくても、せめて一言くらい書き添えてくれればいいのに。
そう切望して藤尭さんのぼやきは終わる。
それから慌てて、
「いや、別に翼さんが頼りないというわけではなくてね」
と言い添えてくるのもいつものこと。
私は微笑み返し、自分に言い聞かせるように答える。
「別段、気にしておりません。それに―――」
僚友たちは去り、足には枷を繋がれ、この
「私は、風鳴です。最後の風鳴にして、この国を守る防人の尖兵なのですから」
それでも牙は砥がねばならぬ。
膝を屈してなお、獅子は天を仰がねばならぬ。
たとえ虚空に浮かぶのが壊れ果てた
結局、第一次待機命令が解かれたのは、それから三時間後だった。
砕けそうになる膝を押し動かし、官舎へと戻る。
今度はいささか時間をかけて全身を洗い、湯船に浸かることが出来た。
バスローブを纏い、丹念に髪を乾かせば、日付は疾うに変わっている。
明りもついていない部屋で、何をするでもなく椅子に腰を降ろす。
早く寝て体力を回復せねば、と思う反面、積もり積もった疲労が逆に睡魔を駆逐している。
「酒でも飲めれば良かったかな…」
そう嘯いたところでこの部屋に酒はなく、そもそも私は酒を飲んだことはない。
その嗜みを教えてくれそうな同僚は傍におらず、伺いを立てるべき叔父も去った。
そして、お父様と酒を酌み交わす機会は永遠に失われていた。
「…ならば、やはり、残された身内として若輩に教示せねばならぬのではないですか、叔父上?」
藤尭さんではないが、叔父に対する恨み節が出てしまう。
叔父が残っていてさえくれれば、現状は著しく改変されていたことだろう。
同時にそれは儚い望みであり、詮無きこと。
全ては、風鳴赴堂の欠落に由来する。
彼の人の存在したという事実と、その不在は、日本国の根底を揺さぶった。
空隙を埋める新たな要石が求められた。
だがそれは、決して崇高な目的からではない。
その場に坐することは、政治的な、もしくはもっと下世話な理由で編まれた権力の檻に絡められることを意味する。
そしてその地位にもっとも近い立場にいたのは叔父だった。血縁的にも相応しいと思われていたことは間違いない。
確かに叔父がその穴を埋めれば、混乱は最小限に収められよう。
しかし、この先の日本国にとって、風鳴機関の存在は正しく必要なものではないのではないか。
おそらく叔父はそう考え、一切合財の
結果として、残された風鳴は、私一人きり。
このような小娘を支持し奉るものなどおらず、空隙は埋められることもなく。
結果として、決して市井の目に触れぬところで、日本の暗部は地殻変動を起こしたと聞いている。
私の祖父―――風鳴赴堂は、シェムハの消滅と時を同じくし、死没していた。
防人として生き、外道を弄し護国の鬼に至れず、果てはただの老人として彼岸を渡った。
老いさらばえた遺骸にはかつての面影はなく、まるで枯れ木のようだった。
遺言に従い、遺骨は付近の野山へと散骨している。
彼の人の正邪曲直は別にしても、その防人としての気概だけには報いようと思い実施した。
祖父の罪業が
もしくは完全に歴史の闇へと埋もれてしまうかも知れない。
護国の為に人の犠牲も厭わぬ
なぜなら、人がより集まり国の体を成すからだ。
無論、そのことを彼の人が承知していないはずもなく、それでもなおその手段を用いた理由は今生の謎である。
死ねば、どうせ私も冥府へと落ちるだろうから、そこで尋ねるつもりだ。存外と奈落でならば、お互いに腹を割った話ができるかも知れない―――。
「そのような格好で眠ると風邪を引きますよ」
その声に意識が揺すぶられた。
いつの間にか点いた明りが、散らかり放題の室内を炙り出す。
「お、緒川さんッ!」
私は立ち上がり、彼の手から畳もうとしていた下着をひったくる。
「片付けは、自分でするから大丈夫ですッ」
「そうはいっても、翼さんは疲れているのでしょう?」
彼、緒川慎次は微笑みながら片付ける手を止めない。まるで分身しているかのような速さ。いやさ、確実に分身していただろう。
たちまち秩序と輝きを取り戻した室内を見回し、私は憮然としてしまう。女の部分が不甲斐ないと罵倒してくる。
同時に、甘い感情が全身に満ちて行くのも止められない。
それでも敢えて気を引き締め、問いかける。
「それで、今日の事件の幕引きは―――」
「ああ、アルカノイズを使役していた錬金術師は無事捕縛出来ましたよ。当面の驚異はもう存在しないはずです」
ほっと胸を撫で下ろし、緒川さんの働きに敬意を抱く。
保安部と調査部の規模も縮小されており、人員の欠落を手数で補っている現状。
私が刃を振るったあとの始末や落着も彼らが担当している。
緒川さんはいまやそんな防人たちを統括する立場にいた。
ならば、疲労困憊なのは私だけではなく彼もだろうに。
同時に、謹んで先ほどの感慨も訂正せねばなるまい。
こんな小娘である私を支持し、奉ってくれているのはこの人だ。
そして剣を振るうのも私一人だけでは決してない。彼もまた紛れもなく私の傍で刃を振い続ける一人―――。
「他に、何か伝えることはありませんか?」
「特に重要性が高い報告はありませんね。あとは細々としたことが」
言い差したその唇に、人差し指を当てて遮る。
「ならば、続きはベッドで聞かせて下さい」
私は衣を脱ぎ捨て、彼の胸へと身体を預けた。
緒川さん、いえ、慎次さんと肌を重ねるようになってどれくらいの月日が立ったことだろう?
初めて身体を預けたとき、私は最早壊れる寸前だったと慎次さんは述懐している。
日々の戦いに絶望を募らせていた私は、だからといって自棄になっていたとも言い難く、同時に慎次さんも決して同情で抱いてくれたわけではないだろう。
むしろ、これほど同じ修羅場を潜り抜けた男女が二人、長い間この関係に至らなかったほうが不思議なのではないか。
ともあれ、私を慎次さんが受け入れてくれたことに変わりはない。
男性の優しさを知り、女性の悦びを識り、延々と伝えられてきた人の営みに思いを馳せた。
ベッドに端座し、汗ばむ身体を寄せ合い、シーツを被る。
冴えた月光を浴びた静謐な時間に、このまま時が止まれば良いとさえ思う。
どこか甘やかで透き通った感覚の中、私の肩を抱き寄せ、慎次さんがそっと囁くように言ってくるのは、もはや恒例の儀式だった。
「僕は、翼さんという名の剣を、その下で支える心です。この誓いは決して違えることはありません」
初めてそう言われた時は、防人として一緒に永劫の戦いに身を投じてくれる誓約だと思った。
幾度か耳にして、防人ではなく歌女として支えていきたいとの宣誓かとも考えた。
そして最近になってようやくその繰り返しの真意を理解し、私はひそやかに笑う。
この笑みには二つの意味がある。
一つは迂闊に返事をしてこなかった自分を褒める笑みであり、もう一つは―――。
私がそっと目を伏せると、慎次さんは軽く眉根をよせる気配。
「すみません。今はまだ…」
有体に言えば、答えは保留。
「護国の唯一の剣を称するなど傲慢かとは思いますが、この剣を持ってしか救えぬ事態が続いているのです」
アルカノイズに対抗できる術はシンフォギアしかない現状。
ゆえにその負担は募り、同時に過去ほどその切っ先を遠くまで伸ばして振るえないもどかしさ。
人を護れるを
その狭間で、剣たるこの身が削ぎ落とされていく。
されど決して折れてはなるかと歯を喰いしばり、私は今日も生きている。
「それが翼さんの決めた生き様なのですね」
「…ええ」
「他にももっとあなたにしか出来ないことが…いえ、すみません。失言です」
一瞬だけ悲しそうな顔つきになった慎次さんに、私は気づかないふりをする。
「今は辛いことばかりですが、決してあきらめないでください」
「辛いか辛くないのかの是非は置いておくにしても、倒れそうになるときがあります」
言外に、だからあなたに抱いて支えてもらっているのですと告げたつもりだが、伝わっただろうか?
「僕は、嬉しさが重なって倒れることもあると思うんですよ」
その物言いに、私はくすくすと笑ってしまう。
箱入りの貴顕の娘が修羅場で卒倒するのはともかく、吉事が重なり卒倒することなどあり得るのだろうか?
だいたい私はそんな
「そんなことは金輪際あり得ないとは思うの」
素直に告げると、慎次さんの指がそっと前髪をかき上げてくる。
「やまない雨はなく、明けない夜はありませんよ」
慰めの声は、先行きの見えない今の修羅道に灯りをともそうかとするように。
ただその気遣いが嬉しくて、私は慎次さんへと抱きつく腕に力を込める。
「僕が預言者であれば、もっとあなたを安心させてあげることが出来るのですが」
よく意味の分からない物言いは独り言だったのかもしれない。
細身の逞しい腕に抱かれながらそっと目を閉じ、微笑みながら眠気に抗う。
私はこの人の寝顔を見たことがないから。
翌朝、目を覚ませば、既に慎次さんの姿はなかった。
またもや彼の寝姿を眼に出来なかったことを軽く悔やみ、シャワーを浴びて身を清める。
食堂で朝食を摂りながら、昨夜の言葉に思いを馳せた。
あの甘やかな囁きを耳道に蘇らせ、その意味を玩味するのは、今の私に許された唯一にして最大の贅沢だ。
あの人が支えたいといったのは、風鳴翼ではない。
防人である風鳴翼ではなく、歌女である風鳴翼でもない、ただの翼だ。
剣とは防人の同義には非ず。
なればその意味するところは、何の
むしろ風鳴も歌女も何もかも投げ捨ててしまった翼で構わない。
つまりは―――慎次さんからのプロポーズ。
熱情が頭の奥で弾け、全身に満ちる。
周囲に顔が赤くなっているのを気づかれないかしら、と懸念しつつ箸を進め、現実として私は風鳴の名は捨てられない。
あまりにも多く失われた命がある。護れなかった人たちがいる。
風鳴の名とその責務から、最後の一人である私が逃れてしまえば、いったい誰が彼らに対し償うというのだろう?
いっそ風鳴の名から解き放たれてしまえば良い。
かつてのお父様と同じことを慎次さんは言ってくれている。
だからといって剣を振う以外に償いの道は―――あるにはある。
風鳴翼は歌女であった。そして女性にしか出来ないことがある。
それは子を産み、育むこと。
生きる人を護ることも大切だが、新たな命が生み出されなければ国は衰退していく。
女の力なくして国体は維持できない。
国を護るという意味においても、この摂理は限りなく正しい命題に思える。
私はこの言の葉の切っ先を、冥府で祖父に突きつけるつもりだ。
「…もし男児が生まれれば、新たに風鳴の名を引き継がせて…」
いいや、駄目だ。生まれてくる子に、端から修羅の道を歩ませる親がいるか。
それに産まれてくるのは男とは限らない。女の子で私と同じく歌女としての素養があれば…。
そこで、まるで年頃の乙女のように思考を弄んでいる自分に気づく。
慌てて首を振れば、あまりに勢いが良かったものだから、箸でつまんでいた漬物が遠く宙へ飛ぶ。
食堂に人影が少なかったのは幸いだ。
今さらながら恥ずかしさに顔に血を昇らせ、私は激しく自戒する。
もはや
全く、初心な生娘でもあるまいし―――。
平常心を意識し、どうにか血の気を下げていると、
「ああ、翼さんッ! ここにいましたかッ!」
その慎次さんが登場してきたので、再び血流が鳴動してしまう。
「探しましたよッ。急いで対策室へ来てください」
私の異変に気付いた風もなく、慎次さんは私の手をとって立ち上がらせた。
彼の瞳が興奮に潤んでいることを見て取り、ただならぬ事態であることを直感する。
先導されて走り、対策室へと飛び込んだ。
まず視界へ飛び込んできたのは、逞しくも勇ましい、そして見覚えのある大きな背中。
「…叔父上ッ!?」
思わず叫ぶと、巨大な背格好が振り向く。
「おう、翼。久しぶりだなッ!」
間違いない。叔父、風鳴弦十郎だ。
続いて私が目を剥いたのは、何も懐かしい叔父の顔が日に焼けていたからではない。
「おいッ、いい加減離せってッ!」
叔父の逞しい腕に、朋友―――雪音クリスが抱きかかえられていた。
「わかったわかった」
苦笑し、ゆっくりと雪音を床に降ろす叔父。
「よっ、センパイ。元気だったか?」
そう片手を上げてくる雪音に、私は目がそっくり返るかと思った。
元々小柄な体躯はそのままに、腹部が違和感を覚えるほど大きく膨らんでいたのだ。
思わず叔父の顔と見比べてしまえば、叔父は苦笑い。
「クリスの出産も迫ってきていてな。それゆえにそろそろ戻ろうかと帰還に相成ったわけだ」
雪音の名を呼び流していることに、ただならぬ紐帯を見る。
続いて渦中の雪音に視線を向ければ、彼女は恥ずかしそうに目線を伏せた。
「ま、まあ、その、一緒に色々とやってたら………ご覧の有様だよ」
つまりは、「旅に出る」とは叔父の後を追うことだったのか?
そう問い質してやりたかったが、叔父の帰還に雪音の懐妊は、基本的には慶事である。
だからといっておめでとうと手放しで祝福するには、驚きが先走りすぎていてどうしようもない。
「それよか先輩。あたしたちもさっき驚いたばっかなんだけど、もっとサプライズがあるぜ?」
雪音の言に視線を誘導され、その先に、私は更なる知己を見出す。
「マリア…ッ!」
見慣れた長身と髪型は、かつて苦楽を共にした世界屈指の歌い手。
その姿を認めるとともに、彼女が車椅子を押していることに気づく。
車椅子ごと振り返ってくるマリア。
そしてその車椅子に乗っているのは―――。
「…お父様ッ!?」
「息災か、翼」
駆け寄り、その前に跪く。
「い、生きてらしたのですかッ!?」
その膝に触れた。間違いなく足はある。
「すまなかったな。色々と死んだことにした方が都合が良かったのだ」
優しい眼差しに、私の涙腺は瞬時に決壊する。
「お父様…お父様ぁあッ!」
膝に縋りついたまま、号泣するのを止められない。
優しく、不器用に髪を撫でてくる手のぬくもりが、更に涙を誘ってくる。
どれくらい泣いたことだろう?
泣き腫らした瞼をこじ開け、キッと叔父を睨むと、実にすまなさそうな顔をしていた。
続いてマリアも見上げれば、肩を竦めて謝られる。
「ごめんなさいね。私はこの人を陰ながら護る任務を負っていたから」
「…全く、誰も彼もがッ…!」
なお怒りを募らせようとして、慎次さんが涙を流していることに気づく。
だけではなく、発令所の昔からの面々もさめざめと涙を流し、もしくは号泣していた。
知らされていなかったのは私だけではない。
ならば、これ以上私だけが怒りのままに振る舞うは道理に反するだろう。
不意に、室内に新たな泣き声が弾けた。
なんとも性質の違うけたたましい声に、はて誰の声だろう? と私が首を捻っていると、パタパタとマリアが駆けていく。
「あらあら、目を覚ましちゃったみたいね」
部屋の隅にあるバスケットのようなものから、何かを抱えて戻ってくるマリア。
腕に抱かれたそれは、小さな小さな赤子だった。
ただ茫然とする私に、マリアは言った。
「私の娘、カノン・カデンツァヴナ・イヴよ。抱っこしてあげて頂戴?」
「い、いや待て待て待てッ! 赤子を抱いてあやすのも吝かではないが、それ以前に、マリア、この子の父親、おまえの連れ合いは誰なのだッ!?」
私の言に、マリアは苦笑して横を向く。
視線の先に、私はお父様を見る。
お父様は気まずそうに視線を逸らした。
「…戸籍上は、あなたの妹ということになるのかしら?」
私は、ゆっくりとその場へ卒倒した。