インフィニット・ストラトス ─名も無き武者は悪鬼となる─ 作:4696猫
それでは、どうぞ!
第九話:絶望を知って
景秋が一条から吉野御流合戦礼法を教わり始めてから、一週間半が経過した。
「まぁ、技だけなら免許皆伝と遜色無いけど、やっぱり何処かぎこちない。実践の中で流れる様に技が出せないとな」
「ハァ......ハァ......なら、早く実践とやらをやらせてくれよ」
道場の床に倒れながら息をする景秋はそう言う。既に景秋の着ている胴着と袴は汗でビショビショで、その稽古量を物語っている。
「いや、まだだ。景秋、お前にはまだやって貰いたい試験がある」
「試験?」
「試験より試練と言った方が良いかも知れないな。それは【兜割り】だ」
一条の言葉に景秋は立ち上がり、首を傾げる。一条は道場の倉庫から兜を括り着けた柱の様な物を持ってきた。
「まぁ、見て貰った方が早いな。この兜...劔冑の装甲に使われてる金属で出来た兜だ。この兜をこの刀で真っ二つに斬って貰う」
「いや、どう考えたって無理ですよね?」
景秋の言葉は最もだ。人の筋力、なんの変哲も無い刀などで斬れる訳が無いのだ。それでも一条はその言葉を否定して言葉を続ける。
「いいからやれ。良いか、出来るまで実践はやらせねぇからな」
一条はそれだけ言い残して道場を後にした。
「随分と無茶な事させてるじゃない?劔冑の装甲を刀で斬るなんて」
「篠ノ之博士......これでも優しい方ですよ。才能がある彼は簡単に技は覚えたかもしれない。けど、これで彼の本当の力量が解る。才能に溺れて阿呆か、はたまた才能を生かす天才かどうかが」
一条はすれ違い様に声を掛けてきた束にそう答える。
「それに元々の目的は出来ないと自分で言いに来る事です。【自分は常に人の身である】と心に刻み込む為にやってる事。劔冑を纏っても、ISを纏ってもそれは変わらない。俺らは皆、等しく人間ですから」
「かー君はどうかな?言いに来そう?」
「さぁ?でも稽古や剣を見る限りだと言いに来ると思います。でも...」
一条は少し考え、言葉に詰まる。その時、束は聞き返した。
「でも?」
「でも、もしも兜を真っ二つに斬り落としたなら......アイツの剣は最早、魔剣ですよ。何人たりともその存在を止める事は出来ず、止められるのは、同じく魔剣を持った者のみ」
一条の言葉に反応した束は嫌味っぽく聞き返す。
「君はその魔剣とやらの域に達したのかな?」
「言ったでしょ。自分は常に人の身であると刻み込む為にやる行為だと。普通は出来ませんよ。もしも出来たとしたら......あれは化ける」
一条はそれだけ言い残してその場を後にし、答えを聞いた束も何処か嬉しそうにその場を後にした。
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「ハァ.........ハァ......ハァ......」
兜割りなる試練を開始してから一時間が経過した。景秋の額や腕、体の至る所から汗が滝の様に流れ落ちる。既に景秋の足元は小さな水溜まりの様になっていた。
そんな風になってまで続けても達成していない。刀の刃は既に刃毀れを起こしボロボロ、切っ先も欠け落ちて鋭さは全く無い。
......畜生!なんで出来ねぇんだ...何が足りない...俺には......
景秋の手から刀が滑り落ち、ガシャンと金属音を鳴らす。それにすら気付かず、景秋は崩れる様に膝を着き四つん這いになる。
額から流れ落ちる汗と涙で出来た水溜まりに自分の顔が反射する。景秋の顔は挫折や悔しさなどの感情が入り交じった何とも言えない表情になっていた。
......どうすればいい...どうすれば......
初めての挫折。景秋にとって、これが初めての挫折だった。今まで負けたことも無ければ、何かに挫折して諦める事もなかった。それ故の脆さ。
景秋は挫折に対してはとても脆く、ガラス細工の様に心が砕けた。
景秋がそれを自覚した途端、流れ落ちていただけの涙は勢いが増し、溢れ出る。
「......クッ......ウッ......」
声にならずに、嗚咽音だけが道場に響く。手から滑り落ちた刀は景秋の姿を鏡の様に写す。
......まさかここまで脆いとは......でも、これで良い。こうでもしなきゃ、景秋に成長は有り得ない。乗り越えろ、景秋......
道場に戻っていた一条は心の中でそう呟いて道場を再度離れた。
......泣いてる場合じゃ無いだろ、東雲景秋!......俺は強くなるためにここに居るんだろ!......
景秋は立ち上がりながら涙を拭い、刀を拾い上げて兜割りを再開する。ボロボロの刀でも尚、兜を斬る為、ただそれだけの為に刀を振るうのだった。
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景秋が兜割りを開始してから3日経過した。残された時間は後、五時間。それでも兜割りは達成していなかった。
「ハァ......ハァ......」
折った刀は10本以上。それでもまだ足りない。
「もう少し...後、もう少しで...なにかが掴める...」
景秋は折れた刀を後方へ投げ捨て、自身の隣に置いてある籠から刀を引き抜いて、兜割りを再開する。
......もっと疾く......もっとだ...もっと疾く、もっと強く!......
「景秋、次の一振りでラストだ。そろそろ学園に戻らないと怪しまれる」
「待ってください!まだ...まだ!」
「解ってる。だが、後一振りだ。後一振りで答えが出なければ、お前に吉野御流合戦礼法印可を与える事は出来ない」
一条にそう言われ、景秋は声を荒げる。だが、一条は景秋を宥めて景秋の最後の一振りを見守る。
......これが最後、失敗すれば全てが台無し。成功すれば、最強の一振りが完成する......面白い...やってやる!!......
景秋は刀を構えて息を整える。その場には張り詰める殺気と緊張感が流れる。
「ハァァァァァアアアア!」
轟音とも言える叫びと共に振り下ろされた一太刀は押し込まれる様に兜を斬り割いていく。兜は真っ二つに切断され、刀は衝撃に耐えきれずに音を立てて砕けた。
──ここに、魔剣を持った男が誕生した瞬間だった──
「や...やった......やったんだ!!」
「おいおい......嘘だろ......本当にやる奴があるか......」
二人の表情は全くの逆さ。一人は成功の喜びに歓喜する者。一人は現実を受け止められず、呆然とする者。
「これで、認めて貰えるんですよね?」
「あ、あぁ......。東雲景秋、貴殿に吉野御流合戦礼法印可を与える。......良くやったな、景秋」
「ありがとうございます...」
一条はそう言って手を差し伸べる。景秋もそれに答える様に手を取って握手をした。
「だが、忘れるなよ景秋。俺らは人だ。自分は常に人の身であると刻み込め。いいな?」
「はい、わかりました」
「解ったなら行け。俺が教える事はもう何もない。お前は本当に天才になった」
一条の言葉を背に景秋は道場を後にした。
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「その様子だと成功したみたいだね。かー君」
「え、あぁ、うん」
「なら良いかな。はい、武州五輪とダークホーク。ちゃっちゃとIS学園に戻らないと、心配されるよ?」
束から言葉と劔冑、ISを受け取った景秋は制服に着替えてISを展開するとそのまま学園へと飛び立って行った。
「どうだったの、かー君は」
「ありゃ化けましたね。挫折した事無いって聞いてましたが、そんな事無く、立ち直りも早かった。あれは本物の天才です。けど、過去と折り合いつけられてませんよね、あれ」
一条はそう言って束の方を向く。
「だろうね。過去を忘れようとする度に思い出す。私だってそうだし、だから慰霊碑に献花して頭下げて謝り続けてるんだもん。
私ですらそうなるならかー君は相当辛いと思うよ。だから受け入れて前に進むか、今のままズルズルと引き摺るのか。どっちを選ぶかはかー君次第だよ」
言葉を言い終えた束は、景秋が飛び立って行った方角の夕空を見上げた。
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次回、インフィニット・ストラトス─名も無き武者は悪鬼となる─
『戦鬼と出会う銀髪の兎達』