インフィニット・ストラトス ─名も無き武者は悪鬼となる─   作:4696猫

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第十五話:黒銀の兎、訣別の時

 第十五話:黒銀の兎、訣別の時

 

 学年別個人対抗戦。試合開始のブザーがアリーナに鳴り響き、試合が始まった瞬間。織斑は景秋へと迫り、雪片を振り下ろす。

 

「お前の相手は俺だ!」

「どこから来るか解らない自信に満ち溢れている所に悪いが、お前の相手は俺じゃない。ラウラが相手をする。残念だったな」

 

 景秋は振り下ろされた雪片を受け流して、そのままラウラと場所を変わる為にスラスターを吹かした。

 

「よぉ、シャル。さっき振りだな」

「そうだね、景秋......ッ!」

 

 景秋の大太刀の横薙ぎをシールドで捌くと距離を少し取って両手にレイン・オブ・サタデイを持ち、景秋に向けて発射する。

 

「幾ら反射神経、動体視力に優れた景秋でもこの散弾の嵐からは逃げられないよね!」

 

 立て続けにシャルは高速切替(ラピッド・スイッチ)を駆使して、ガルム、デザート・フォックスでも弾丸の嵐を降らせる。

 

「まだまだ!!」

 

 シャルは止まること無く、攻撃を続ける。土埃が上がり、シャルは攻撃を止めた。

 

「景秋でもこれで、戦闘不能でしょ...!」

「シャル。相手がどんな武装を持っているかも解らない状況で無闇矢鱈に攻撃するもんじゃ無い」

 

 球体状の水が、景秋を護る様に覆っていた。球体状の水を解除した景秋は

 

「アクア・ナノマシン。射撃武器は無力化出来る」

「そんなのって...」

「シャル、俺の劔冑の能力を言ってなかったな。今見せてやる」

 

 そう言った景秋の劔冑、武州五輪の装甲が変化する。

 

「ブルーティアーズ+龍咆......舞え、ティアーズ。そしてシャル、ティアーズ達が奏でる円舞曲(ワルツ)で踊れ」

 

 武州五輪の装甲の色が青と紫に変わり、大型化した肩には鈴の専用機である甲龍の衝撃砲。そして景秋の周りをセシリアの専用機、ブルーティアーズのBT兵器が舞う。

 

「その二つを同時に扱うのって難しいんじゃないの?攻撃が安定してないよ!」

 

 シャルはそう言ってブラッド・スライサーを右手に握り、景秋に近接戦を挑む。

 

「俺に近接戦で勝てると?」

「思ってないけどさ、その二つの武装の制御で手一杯みたいだしね。BT兵器だけなら戦闘と平行して扱えるみたいだけど、衝撃砲の制御が追い付いてないからね!」

 

 ブラッド・スライサーの振り下ろしを景秋は大太刀で受ける。

 

「ほら、砲撃が止まったよ!」

「貴様こそ、足を止めたな。感謝するよ、俺の罠にまんまと引っ掛かってくれてよぉ!」

 

 景秋はそう言って衝撃砲をシャルに食らわせる。シャルは吹き飛ばされるが、途中で動きが止まった。

 

沈む床(セックヴァベック)。超広範囲指定型空間拘束結界ってアビリティでな。貴様を誘導させてもらったよ」

「クッ......」

 

 身体が動かないシャルは顔を歪めた。

 

「このまま倒しても良いんだが、少し不憫だからな。解除してやる」

 

 景秋はそう言って結界を解除した。解除したと同時にシャルはブラッド・スライサーで再度斬り掛かった。

 

─────────────────────

 

 同時並行で行われている織斑とラウラの戦い。その戦いは常にラウラ優勢で進み、織斑は満身創痍だった。

 

「ハァ......ハァ......ま、まだ終わってねぇ!」

「もう諦めろ。確かに、景秋の言った通りだった」

 

 ラウラはプライベートチャンネルに変え、織斑に告げる。織斑はラウラの言葉に顔を歪めて、歯軋りする。

 

「なんだと...ッ!」

「貴様は全く強くない。自身の専用機の性能に振り回され、闇雲に武器を振るうだけ。貴様が何故教官の弟なのか理解出来ん.........私は貴様の様な奴を恨み、倒そう等と考えていたんだな。......そんな自分が恥ずかしい」

 

 その言葉を聞いた途端に織斑はラウラへと雪片を振るう。だが、ラウラはあくまで冷静にプラズマ手刀で受け止める。

 

「言った筈だ。諦めろとな!」

 

 ラウラはワイヤーブレードで織斑を攻撃し、吹き飛ばされた織斑へとレールカノンを放った。

 

「グウァァァ!」

「まだだ!」

 

 ラウラは追い討ちを掛ける様に、更にプラズマ手刀で斬り付ける。そして織斑は地に伏した。

 

「.........まだ落ちないか」

「ま、まだ......まだ終わってない!......零落白夜!」

「その能力は景秋から対策を教わっている!」

 

 ラウラは迫る織斑にワイヤーブレードとレールカノンを放つ。織斑はそれを避けながら迫るものの、ラウラは距離を一定に保ち、同じ攻撃を繰り返す。

 

「クソッ...近づけない...」

「確かにエネルギー無効化能力は恐ろしい。絶対防御すら越える攻撃力は称賛物だ。だが、接近させなければ良いだけの話だ」

 

 ラウラは呆れた様に動きを止めると景秋の方へ向かうと景秋へ告げる。

 

「相手を変われ、景秋」

「織斑への復讐は良いのか?」

「あんな奴には、復讐する価値すら無い」

「わかったよ......俺が織斑の相手をすりゃいいんだな」

 

 景秋はそう言いながら大太刀を構えて、迫って来た織斑を迎え討つ。

 

「退けェ、東雲ェ!」

「今度はお望み通り、俺が相手をしてやる。来い、織斑ァ!」

 

 零落白夜を纏った雪片を振り下ろす織斑に対して、同じく零落白夜を纏った大太刀を振り上げる。

 

「織斑、お前...あの時から一歩の成長してねぇな」

「ウルセェ!」

「止めの一撃に使うだけで十分の零落白夜をこんな中盤で使うとか馬鹿かお前」

 

 景秋は織斑との鍔迫り合いの後、零落白夜を解除して織斑と剣戟を繰り広げる。

 

「退けよ!俺はラウラを倒す!」

「違うだろ。お前の倒すは殺すと同意義だ。簡単に人の命を奪える刃なんだ!少しは成長しろ!」

 

 景秋の叫びすら聞かずに織斑は雪片を振り回す。

 

「チッ...ならお前を倒して黙らせる」

 

 景秋は再度、零落白夜を発動すると織斑に接近する。

 

「ハァァァァ!」

「ウォォォォォ!」

 

 景秋と織斑の振り下ろしが交錯し、火花を散らす。何度も刀同士がぶつかり合う。距離を取った景秋は大太刀を鞘に仕舞う。

 

「武州五輪......磁波鍍装──蒐窮(エンチャント──エンディング)...ッ!」

《諒解──蒐窮開闢(おわりをはじめる)終焉執行(しをおこなう)虚無発現(そらをあらわす)─────》

 

 以前より更に威力や速度が増したと思う程の電磁抜刀(レールガン)。景秋の腕や刀、鞘だけで無く、全身に雷を纏う。

 

「吉野御流合戦礼法......"迅雷"が崩し───」

 

 その瞬間、一気に自身の間合いまで織斑に接近して大太刀を振り抜いた。

 

電磁抜刀(レールガン)──"禍"(マガツ)ッ!」

 

 振り抜かれた大太刀は寸分違わず織斑を捉え、白式のSEをゼロにした。

 

『びゃ、白式、シールドエネルギーエンプティー!!最初の脱落者は織斑一夏だ!』

 

 アリーナに実況のアナウンスが響く。その後、会場も景秋の技をパフォーマンスと勘違いした生徒が盛り上がった。

 

「ラウラとシャルは......武装の多さでシャルが若干だが有利に事が進んでいるな......」

 

 景秋はそう呟いて二人の戦いを眺めていた。

 

─────────────────────

 

「流石、景秋。消耗してたけど、一夏を簡単に倒すとはね...」

「余所見していられる程、余裕があるのか!」

 

 ラウラはシャルへとワイヤーブレードで攻撃する。シャルはそれを避けて、ガルムとレイン・オブ・サタデイの2丁拳銃で反撃する。

 

「チッ......ちょこまかと!」

「なら、お望みの接近戦で倒してあげるよ!」

 

 シャルが右手に持ったブラッド・スライサーとラウラのプラズマ手刀が交錯する。

 

「この程度で!」

「終わりだと思わないでよね!」

 

 ラウラの言葉に続く様にシャルは言葉を発する。ラウラは顔を歪めるものの、シャルの顔は景秋の様な狂気を纏った笑顔をしていた。

 

「今の貴様の顔、鏡で見せたいものだ」

 

 ラウラはプライベートチャンネルに変えて、シャルへと呟く。シャルはラウラの言葉を聞き返す。

 

「どういう意味かな?」

「景秋がいつぞや見せた笑みと瓜二つだ」

「そうかもね。僕だって、景秋と同類だ。自分の命可愛さに親を殺した。そりゃ、自分の命が何よりも大切なんだから間違いではないと思う。

 けど、正直に言えばまだ受け入れられてない様な気もする。それでも、景秋は言ってくれた。辛いなら、苦しいなら半分背負わせろって。その言葉だけでも随分と楽になったよ」

 

 ラウラの言葉にシャルは答えた。シャルは鍔迫り合いを切って体当たりをすると、アリーナの壁へとラウラを押し付けた。

 

「これで、反撃は出来ないよね」

 

 シャルはそう言ってシールドをパージする。そこから姿を現したのは69口径のパイルバンカー───灰色の鱗殻(グレー・スケール)。シャルはグレー・スケールを連続してラウラに浴びせる。

 

「グッ......カハッ...」

 

 アリーナにラウラの呻き声が響く。シャルはそれでも攻撃の手を緩めない。

 

「うぅ......ウァァァァ」

 

 シャルは危険を察知し距離を取る。景秋も何かを感じ取ったのかシャルの元へ駆け寄った。

 

「あれは......VTシステム...禁止武装の筈じゃ...」

「ドイツがそれだけ懲りていないという事だろう...ッ!」

 

 ──VTシステム──ヴァルキリートレースシステム。言わばそれは織斑千冬をコピーする能力。過去のモンド・グロッソでの戦闘データをそのまま再現する為のシステム──

 

 ISだった物はラウラを包み、巨大な女性の姿へと変わった。

 

「シャル、教師陣へ連絡しろ!それとそこで倒れてるバカをピットに!」

「景秋は!?」

「コイツの相手は俺がやる!」

 

 景秋はそう言って大太刀を構えてラウラを迎え討つ。だが、景秋が劣勢となる。

 

 ......コイツの剣、重い...そして速い。俺ですら目で追うので精一杯だ......

 

「ッ!」

 

 景秋とラウラは鍔迫り合いになるも景秋が徐々に後退し、吹き飛ばされた。

 

「ハァ......ハァ......」

「景秋、一度下がって補給を受けて!」

「シャル!お前じゃ無理だ!」

 

 景秋はそう叫ぶ。だがシャルは聞かずに援護射撃を続ける。

 

「私にも半分背負わせてよ。景秋の負担」

「.........五分で良い。持ちこたえてくれ!」

「わかった!」

 

 景秋はそう言ってピットへと飛んでいった。

 

「...姉さん!」

「事情は知ってるよ、だから武州五輪のリミッターを解除する」

 

 束はそう言って景秋から武州五輪を受け取ると、パソコンに繋いで操作を始める。

 

「リミッター?」

「そう、リミッター。景秋の能力に応じて出力を上げ下げしてたの。けど、こんな状況じゃ、そんな悠長な事言ってられないからね」

「何分で終わる?」

「三分で終らせられる」

 

 束は言い切るものの、景秋は不安そうにする。

 

「大丈夫。シャルちゃんの事が心配なんでしょ?それももう手は打ってあるから」

 

 束はそう言って笑った。

 

─────────────────────

 

 アリーナではラウラ相手にシャルは追い込まれていた。

 

「流石に織斑先生のコピーと相手は厳しいな...アハハ...」

 

 シャルは乾いた笑いを溢す。

 

「ここでお仕舞いか......ごめんね、お母さん......」

 

 ラウラが雪片を振り下ろし、シャルを捉える寸前に誰かか雪片を止めた。

 

「景秋...?」

「ご期待通りに景秋じゃなくて、済まないな」

「ほ、箒!?」

 

 鋼色のISを纏った、二刀流の箒がそこには居た。

 

「シャルロット、ピットへ速く。今のシャルロットではこれ以上、戦えまい」

「......悔しいけど、任せたよ。箒」

「あぁ、任された。.........行くぞ。私の相棒『天津鋼(あまつがね)』!」

 

 箒は一度ラウラから距離を取ると、右手に握った刀──空裂(からわれ)を振るう。空裂からはエネルギー刃が放たれ、ラウラへと飛ぶものの、雪片に斬って落とされる。

 

「流石、千冬さんのコピーだ。生半可な攻撃では掠りすらしないか......ならッ!」

 

 箒は加速してラウラへと接近して刀での勝負に持ち込む。

 

「千冬さんならここで......」

 

 ラウラは箒の想像通りに振り下ろしの攻撃を仕掛けた。箒は左手に持った刀──雨月(あまつき)で限界まで引き絞った突きを放つ。その突きからも先程と同様にレーザーを放つものの掠るだけで終わる。

 

「これでも避けるか......景秋、速く来てくれ」

 

 箒は好戦的な笑みを浮かべて、そう呟いた。

 

─────────────────────

 

「これで武州五輪のリミッターは外し終えたよ」

「ありがとう、姉さん」

「どういたしまして。一刻も速くあの子を助けてあげて」

「わかってる」

 

 時は少し遡る。出撃の準備を終えた景秋の前に織斑が立つ。

 

「退け」

「退くかよ、俺も連れていけ」

「足手まといだ」

「俺だってラウラを助けたい!」

 

 景秋は織斑に呆れを通り越して残念に思う。

 

「お前の力じゃ無理だ。良いか?現実を教えてやる。お前は正義の味方面をして戦おうとするが、お前に正義云々、大義名分を掲げて戦える程の実力は無い。ラウラにも言われただろうが。

 ISの性能に振り回され、猪突猛進と言わんばかりに雪片を振るう。ガキのお遊びに付き合っていられる程、余裕のある状況じゃねぇんだよ」

 

 景秋はそう言って織斑を無視して進もうとするも織斑は景秋の肩を掴んで離さない。

 

「離せ。いい加減、俺も我慢の限界だ。死にたくなければその汚ならしい手を離せ、ガキ」

 

 景秋は織斑の手を捻り上げてそのまま地面に叩き付けた。

 

「大人しく眠ってろ」

 

 景秋は落ち着く様に一呼吸すると武州五輪を装甲するために口上を唱える。

 

「千日の稽古を(ちから)とし、万日の稽古を(まもり)とす。以って此れ我が劔冑なり!」

 

 景秋はピットから弾丸の様な速さで飛び出して行った。

 

─────────────────────

 

「箒、下がれ!今のお前のISじゃ限界がある」

「景秋...!」

 

 箒を避難させてから景秋は大太刀を構えた。

 

「ラウラ......お前は強さを求めたな。織斑千冬の様になりたいと...織斑千冬の妄想に取り憑かれて...。戦え、ラウラ!戦って抗え!」

 

 景秋とラウラはお互いがぶつかる寸前まで接近する。ラウラは雪片を振り下ろし、景秋は大太刀を振り上げる。

 二人の刀が掠り、火花を散らす。景秋は退く事をせず、一歩ずつ前に出る。

 

「ラウラァ!その妄想から......抗ってみろ!」

 

 景秋は大太刀を振りながらラウラへと叫ぶ。その声は虚しくアリーナに響く。

 

「なら......磁波鍍装───蒐窮(エンチャント───エンディング)──ッ!」

《御堂......良いのか?》

 

 武州五輪の問いに対して景秋は途切れ途切れの声で答えた。

 

「良いも......悪いも......ない..ッ....俺には......この手しか...無い...」

 

 景秋の答えを聞いた武州五輪は電磁抜刀(レールガン)のモーションに入る。

 

《諒解──蒐窮開闢(おわりをはじめる)──終焉執行(しをおこなう)──虚無発現(そらをあらわす)

「吉野御流合戦礼法──"迅雷"が崩し──」

 

 ラウラは居合の体勢に入った景秋の頭部へと振り下ろす。武州五輪の頭部装甲が割れ、景秋の顔が露になる。

 

電磁抜刀(レールガン)──穿(ウガチ)ィィィィ!!」

 

 景秋の大太刀はラウラを覆っていたISを振り払い、景秋はラウラを引っ張り出す。

 

「戻って来い、ラウラァァ!」

 

 景秋の意識はそこで途切れた。

 

─────────────────────

 

 景秋は真っ白な空間に立っている。そこにはラウラに似た誰かも立っていた。

 

「我がマスターを宜しくお願いしてもいいでしょうか?」

「お前は......シュバルツェア・レーゲン?」

「はい。私は貴方の強さを知っています。だからこそ、貴方に任せたいのです」

 

 シュバルツェア・レーゲンはそう呟いて笑う。景秋はそれに何も言えずに黙った。

 

「俺は......」

「強くないと?」

「......」

「貴方は十分強い。貴方は自ら進んで悪の道に堕ちた。違いますか?だから貴方に任せたい。貴方なら、我がマスターを正しく導ける」

 

 そうして周りの空間が消え始める。

 

「俺にはそんな大層な事をする力は...!」

「あります。私があると言うのです。それに...私が貴方になら、と思ったからです。それでは、任せましたよ」

 

 景秋はそうして目を覚ました。

 

─────────────────────

 

 結果、学年別個人対抗戦は中止と言う事になり、景秋はラウラの見舞いの為に医務室へと赴いていた。

 

「調子はどうだ、ラウラ?」

「体の節々が痛い。これがVTシステムの負担なのだろうな...」

「ラウラのIS...シュバルツェア・レーゲンはラウラの負の感情とダメージレベルがDになるとVTシステムが発動する様になってたようだ」

 

 景秋はラウラに資料を渡す。ラウラも一通り目を通して資料を景秋に返した。

 

「お前が織斑景秋だったんだな...」

「ISの共鳴で俺の過去を覗いたか」

「あぁ......あれが教官の本性だったんだな......」

 

 ラウラの言葉に景秋は黙る。

 

「私は...誰なんだろうな...織斑千冬になりきれず、何者でもない...そんな私は誰なんだろう......」

 

 景秋は座っていた椅子から腰を上げた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ......だろ?」

「え?」

「何者でもない。なら言い換えれば何者にもなれるって事だ。違うか?」

 

 景秋の言葉にラウラ首を横に振る。それを見た景秋は言葉を続けた。

 

「俺だって今は東雲景秋だ。ラウラもいつか自分を認めて、心の底から自分の名を名乗れる様になる日までは......ラウラ・ボーデヴィッヒを名乗ると良いさ。

 それで、そのままラウラ・ボーデヴィッヒとして生きられる様になれれば良いじゃないか」

「そうだな......。私には言ってくれないのか?」

 

 ラウラの問いに景秋は首を傾げた。

 

「その......半分背負わせろ...と」

「......自分の名前が重荷になって堪えきれない、自分が何者か解らないってんなら......俺に半分背負わせろ。幾らでも寄り掛かってこい。それでラウラが楽になるならな」

「あぁ......ありがとう、景秋」

「どういたしまして、ラウラ」

 

 景秋はそう言って医務室を後にした。

 

─────────────────────

 

「何者か解らないなら、何者にでもなれる......か。今の俺が言えた言葉では無いな......」

 

 景秋はそう呟いて夜空を見上げる。夜空には満天の星が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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