ただ『流刃若火』がしたかった。   作:神の筍

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 ──唐突だが、『転生』という言葉を知っているだろうか?

 

 いや、この際言葉の意味などではなく、それが表している本質。転生がどんなことをして、どんな結果を生むのか。曰く、仏教では魂が輪廻において巡ることを言う。人死ねば魂は輪を回り、再び現世でなんらかの形で命が与えられる。それが人か、虫か、鳥などかはわからない。意味としては概ねあっている。

 自分が言いたいことも大体そういうことだ。

 

 はて、お気付きの方もいるであろう。

 お気付きの方がいるのかもわからないが、いわゆる転生を経験した手前、自分の人生をまるで本を読むように眺めている人物がいないことを否定はできない。

 ともかく、だ。

 自分は転生をした。

 それも、

 

 ──特大級の特典を貰って。

 

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 のべつ幕なく日々開進せよ。ただ凡庸に時の流れを見るなかれ。

 己の行動を真実に翳し、高潔さを持って世に奉ぜ。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 人は生れながら、何ら命題を背負っている。

 たとえばサッカー選手が「あなたは何故サッカーを始めたのか」と聞かれたとき、大体はテレビで見た先輩選手に憧れたからと答えるだろう。──それもまた運命。或いは、たまたま齧ったサッカーが思ったよりもできて、なんとなく続けていたらプロという地位に立っていた。──それもまた宿命。

 なにはともあれこの世にはなにか、出会うものすべてに繋がりがあり、自身の行動等には流れがあるのだ。そして、今日という雲が微かに浮かび真っ赤な太陽が燦々とした晴れの下、自分が校舎の裏庭の花壇で花たちの世話をしているのもまた、なにかしら意味があるのだ。

 

「──ありがとう、葉桜。去年までは自分だけが管理していたから、手伝ってくれて助かる」

 

「うん。別に大丈夫だよ?私もこうやって花を見るのは好きだし、人もあまりいないんだから落ち着いた時間を過ごせるもん」

 

 川神学園、裏庭。

 彩豊かな花と樹々、その先には小さな池が学園長の趣味で添えられている。一応、月二回で園芸店が出張で最低限の装いを整えるのだが、いかんせん夏が近付いてきているせいか雑草が伸び放題となっている。

 

「それにしても驚いたよ。この学園に園芸部があったなんて」

 

「まあ、それも自分しかいないから自分の卒業と共に廃部になりそうだ。今年も新入生確保に勤しんだが、やはりこの学園では運動部の方が人気らしくてな……」

 

「それは……残念だね」

 

「毎年勧誘ポスターは下駄箱の掲示板に貼らせてもらっているが、ここがどうなるか心配だ」

 

 そして、ここに花の世話と共に世間話に興じる生徒が二名いた。

 一人は男子生徒で、身長は一八〇を少し過ぎたほど、髪は僅かに伸ばし眉間にかかっている。学園の白い制服の上からはなにかスポーツや武術を嗜んでいると思わせる程度には筋肉質な様子が窺える。名を──梧前灯火(ごぜんとうか)、川神学園3-S所属。一見平凡な彼だが、特徴を上げれば彼の腰には一本の刀がぶら下がっている事だろう。

 二人目の生徒は女生徒であった。腰までに伸びるは艶やかな黒髪と、色白だが血色の良い肌。左に流れた髪には花型の髪飾りが咲いている。名を──葉桜清楚、先月から学園にやってきた転校生で、灯火と同じ3-S所属である。

 

「でも、灯火くんがここの管理をしていたなんて意外だな」

 

「む、そうか?」

 

「うん。教室の灯火くんはいつも大人しいから……なんとなく?」

 

「よく見てるんだな」

 

「だって、義経ちゃんと同じ刀をぶら下げてるから、嫌でも目に入っちゃうよ。それに、この学園の強い人ってみんなキャラが濃いから灯火くんもそうなのかなって」

 

 倉庫から一輪台車を取り出した灯火は「たしかに」と呟いた。

 

「モモちゃんに燕ちゃん。二年生だと大和君たちもそうなのかな……?」

 

 モモちゃん、川神百代は世界的にも有名な武神とも称されるほどの最強である。対し、清楚より前に転校してきた松永燕も模擬戦で百代と渡り合った猛者であり、三年の代表といえば今やこの二人である。

 

「風間ファミリーか。彼らの活躍は度々自分の耳にも入ってくるな」

 

 二年生の風間翔一を中心に集まった風間ファミリー。百代もファミリーの一員で、登校などはよく並んで歩いている姿が見られる。

 

「私もたまに登下校中に会ったりするんだけど、すごく面白い子たちばかりだよ?前も義経ちゃんの鞄が引ったくりにあったんだけど、取り返すのを手伝ってくれたりして」

 

「引ったくり……随分と物騒だな」

 

 風間ファミリーの話題なのだが、灯火はそれよりも引ったくりの方に反応を示した。川神では川神院と呼ばれる武術院が治安維持や生活の助けを担っているが、それでもチンピラや不良が存在する。さすがに暴力団などはいないのだが、最低限の悪はどうしても生まれてきてしまう。ともかく、川神院の直接的な管轄ともいえる川神学園生に手を出すなど明らかにきな臭さが匂ってくる。

 

「葉桜も、行きはともかく帰りは気を付けるんだぞ。その見た目では、遅くなって暴漢などに襲われては事だ」

 

「心配してくれてありがとう。自分でも気を付けるけど、一応九鬼の護衛は付いてるみたいなんだよね……」

 

「当然だろうな。血は繋がっていないが、その身は九鬼の子と同等。それだけ大切にされているということさ」

 

「そうなのかなぁ」

 

 どこか浮いた反応を見せた清楚は、灯火が一輪台車に乗せるはずだった新しい土15kgを軽々と持ち上げた。その姿に一瞬目を細めた灯火だったがすぐに表情を戻し、悟られないように再び無表情へ戻った。

 

「よいしょ──はい、これは向こうに運ぶんだよね?」

 

「ああ。運ぶのは俺がやっておくから、葉桜は用具の片付けを頼む。ちなみに、ジョウロだけは倉庫ではなく水道の側に頼む」

 

「了解。じゃあ灯火くんはそっちをお任せしました」

 

 花壇から校舎裏を抜け、校門付近にあるもう一つの倉庫へと向かう。新しい土の保管場所は他の園芸用具とは違い、出入り口に近い倉庫に保管されるためだ。花壇は校舎裏だけではなく、グラウンドや学園の周囲にもあり、そこは頻繁に手入れされている。そのため細かな土の入れ替えが必要なときが割とあって、校舎裏とはまた違う場所に置いているのだ。

 それにしても、と灯火は考える。

 「なぜ清楚と作業をすることになったのか」についてだ。花壇の場所は転校してすぐに見つけたようで、よく訪れていたことは知っていた。あいにく先週までは手前の花壇ではなく池のある奥の方で作業をしていたので、灯火の姿に清楚が気付くことはなかった。数度の清楚が知らない回数を経てようやく二人は邂逅したわけだが──。

 

「あの表情はなにか悩んでいるな」

 

 美人の憂鬱気な表情は絵になる。しかし、それをそのままにしておけるほど灯火の器も変に大きいわけではない。かと言って正面から聴いてみるわけにもいかないので、今日はなにも言わず作業を手伝ってもらっていたのだ。

 

「これは、なにか起きそうだ」

 

 義経、弁慶、与一、清楚のクローン組の転校。最近の九鬼による川神の急速な清浄化……世界の中心ともいわれる川神では日夜なにかしらの話題が起こっている。まったく戦ってこなかった灯火だがそろそろ自身も巻き込まれるのではないかと大きく溜息を吐きながら、土を下ろしたのであった。

 

 

 

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