ただ『流刃若火』がしたかった。   作:神の筍

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 川神百代にとって、梧前灯火という同級生は一時期気になっていた生徒だ。無論、男としてではなく武人の一人として。

 いつからか自身の振るう拳が軽く感じ、挑んでくる者たちを心何処か適当にあしらっていた。その中で学園へ入って見つけたのは帯刀許可を持つ灯火という武人。早速決闘をこじつけようとした彼女だが、彼は飛んできた百代を言葉で以てあしらってしまう。

 

『自分は、自分が実力を証明したいがために帯刀許可を得たわけではない。

 元流という流派を残すために、一定の実力があると示す必要があった。あくまでもそれだけで、川神が期待するほどの戦いは出来ないぞ』

 

 その言葉を聞いた百代は肩を落とした。

 帯刀許可というものは一定以上の実力は必要で、強さのわかりやすい証明になる。しかし、その揺れ幅は大きく、いわゆる流派や舞踊、芸術的な意味合いが評価され帯刀許可を所持する者もいる。なればこそ、この梧前灯火という男も東北の剣聖とは違いそういった手合いの者なのだろう。

 強さこそが武術。それを己の拳に見出した百代とはある意味相容れぬ存在だ。かと言って、仲が悪いのかと言われればそんなことはない。

 

「──おはよ、灯火」

 

「川神か、おはよう」

 

 朝、下駄箱付近で靴を履き替えていた灯火に声をかけたのは川神百代であった。どうやら風間ファミリーと一緒だったようで、それぞれ自身の階下に行くメンバーを見送っている。

 

「今日も仲が良いな」

 

「当たり前だ。もう何年も一緒にいるからな。私にとってのあいつらは川神院より大事な仲間だ」

 

「次期総師範とは思えない言葉だな。学園長にお目玉を食らうんじゃないか?」

 

「ジジイもそれくらいわかってくれるさ。むしろ、仲間の危機より川神院を優先することがあればそっちの方が怒られるさ」

 

「そういうものか。先に行ってるぞ」

 

「あぁ──ちょっと待て」

 

 そう言って百代は上履きを取ると、立っていた灯火の肩を掴んで履き替えた。いきなりのことだったが、微動だにすることなく灯火は溜息を吐いた。

 

「一言くらい声をかけろ」

 

「良いじゃないか、別に。それに『ちょっと待て』と言っただろ」

 

 クラス的にはFだが、地頭が良い百代と口論して意味はない。そう思った灯火は大人しく並んで歩くことにした。

 

「川神は源たちの決闘の選別をしているようだが、調子はどうなんだ?」

 

「お、よく知ってるな。まあ、たまに良い線行ってる奴もいるけど基本は記念で挑みに来た奴が多いかなぁ」

 

「クローンとはいえ現代に蘇った名高い英雄。戦ってみたい者は多いか……」

 

「なあ灯火。歴史や伝統を重視するお前なら、多少なりとも義経ちゃんたちと戦いたいと思うんじゃないか?」

 

 百代にそう聞かれ、鞄を持ち直すと灯火は答える。

 

「別に歴史や伝統を重視しているわけではない。歴史や伝統を重視するという行為は即ち、そういった力とは関係がない部分にも注目が出来るほど余裕がある、追い詰められていないということだ」

 

「どういう意味だよ」

 

「精神的余力がある、という意味だ」

 

「うげ、お前もジジイみたいなことを言うな……」

 

「また何か言われたのか?」

 

 見透かされたような、自ら墓穴を掘ったことを気付かないままに百代は「うっ……」と声を漏らした。

 二人の関係は不思議なもので、清楚が園芸仲間、旭が友人とすれば、灯火は百代にとっての愚痴を吐きにくる駆け込み寺のような人間だ。風間ファミリーに愚痴は零すのはあれど、さすがに歳下に何でもかんでも言うのは思うところがあるのかこうして世間話風に百代の愚痴を聞いている。

 

「だって聞いてくれよぉ。いくら了承したこととはいえ、中途半端な奴と戦っても発散出来ないんだよ。ここは一発、私と正面から殴り合えるような奴が来れば良いんだが、そういう奴も現れないしさ」

 

「川神と殴り合えるような者?居ると思ってるのか?」

 

「なっ、馬鹿にしたような目をしやがってこの!」

 

 何度も小突いてくるのを肩で受け止める。鉄を軽く捻る腕力を持つ百代だが、さすがに加減をしている。

 もし百代と殴り合える人物を挙げるならば、川神学園の学園長、川神鉄心や世界最強のヒューム・ヘルシング。転校初日に百代と善戦を繰り広げた燕、力では弁慶だろうか。最初の二人は既に自由に戦える地位ではなく、弁慶も九鬼の一員なので本気の戦いは許可されていない。燕は比較的自由な立場なのだが、彼女自身無敗に拘りを持っているので百代と戦うとすれば確実に勝利を確信したときのみだろう。朝稽古は参加しているらしいが。

 

「痛いぞ……ほら、川神の教室だ。自分はSだからもう行くぞ、Sだからな」

 

「何度も言うな。昼休み行くからな!」

 

「はいはい──」

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「──そういうことで、朝から川神に絡まれていた」

 

「だからモモちゃんの声がしたんだね」

 

「ああ。あいつは絡んでくると厄介だからな」

 

 灯火は先ほどの顛末を前の座席の清楚に話していた。さすがに百代の悩みといえる部分は伏せたが、清楚は苦笑いを浮かべている。

 

「でもそれに付き合える灯火くんもすごいよ。私もたまにモモちゃんと駅前に遊びにいったりするけど、この前なんてモモちゃん、ブラックホールを三つ作ってお手玉とかしてたもん」

 

「いやそれそういうレベルじゃないと思うんだが……むしろそれをいつもの日常のように話す葉桜の方が強いんだが」

 

 当たり前のようにそう言った清楚に灯火は引き気味に返した。

 たまに出る清楚の強かさに驚く。

 

「──お二人さんや、何の話をしてるのかな?」

 

 と、背後から声がした。百代ではない。

 

「あ、おはよう──燕ちゃん」

 

「おはよ、清楚ちゃん。それと灯火クン」

 

「おはよう、松永」

 

 くるりと横回転するように入ってきたのは、このクラスで清楚に並ぶ人気を持つ納豆小町こと松永燕である。どうやら丁度来たようで、手には鞄が下げられている。自身の座席である灯火の隣の机にかけると、凭れるように座った。

 

「なに、川神の話をしていてな。今日も自分が絡まれた、そんな話だ」

 

「お二人さんは仲が良いねぇ──ま、後ろからチラッと見てたんだけど」

 

「そうだったのか。助けてくれれば良かったじゃないか」

 

「いやいや、私は獅子の餌を啄むほど愚かな燕じゃないよ」

 

「誰が餌だ、誰が」

 

「私は食堂でお昼ごはんを啄むのが精一杯だから……」

 

 胸ポケットから取り出した『唐揚げ定食』と書かれた食券を見せながら態とらしく首を振った。お昼時に向かえば混んでいるのは確実なので、今のうちに買ったのだろう。

 

「灯火クンは今日もお弁当?」

 

「そうだ」

 

「偉いね、ちゃんと作ってくるなんて。お母さん?」

 

「いや、自分で作っているぞ。言ってなかったかもしれないが、自分は一人暮らしだ。実家は京都の方にあるからな」

 

「おお。ここで明かされる同郷のよしみ」

 

「北のほうだがな」

 

「意外と広いもんね、京都」

 

「京都駅と北山で天気が違うなんてこともざらにあるし」

 

「松永は京都市の方か?」

 

「活動拠点は」

 

「プライドは捨てろ」

 

「くっそぅ……」

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 授業はすべて終わり、時刻は十分に放課後といえる。グラウンドでは野球部が練習をしているのか打音が心地良く響き、青春を夢想させる。かく言う灯火も放課後は清楚と花壇の見廻りだったのだが、残念ながら清楚は用事があるとのことで来れないようだった。元々一人で行なっていたぶん支障はなかったが、それでも暇なのでどうしようかと唸っていると見知った顔に誘われたので其方に赴くことにした。

 

「──それにしても、こうした時間を過ごすのは入学して以来ですね。川神院総師範代川神鉄心殿」

 

 学園長室にて、灯火は鉄心と向き合って茶を飲んでいた。

 

「そう畏まらんで良い。今のワシとお主の付き合いはただの学園長と生徒、元流と川神流の交流会でないでの」

 

「むしろそちらのほうが畏まらなければなりません。あの川神鉄心殿の学び舎で過ごせる毎日、充実しております」

 

「おお、それは良かった。お主ほどの精神を持つ武人が普通の学校に行くのは見過ごせんかったからのぅ」

 

「いえ──自分など、やはり鉄心殿や、遠目から拝見しましたがヒューム卿に比べたるや未だ未熟。直接教えは受けずとも、その感じ取れる静の気力からは学べるところが多々あります」

 

「なに、ヒュームはともかく、ワシなどはただ歳を重ねただけじゃ。

とはいえ、百代も少しはお主の考えを学んでくれると嬉しいのじゃが……」

 

 畏まった口調は当然ながら灯火であり、百代を憂うのは彼女の祖父鉄心である。百代の武術の師であるため、当然最近の雰囲気を感じとっていたようで鉄心は何とかしなければならないと危惧している。このまま行けば百代は己の強さによって押し潰され、ただ孤独を感じるのではないかと。故に、度々精神の修行を命じるのだが活発的な百代はそれを嫌い今に至る。

 

「たしかに、最近の彼女はどこか上の空が続いているようです。松永燕が現れ、源義経の決闘者選別を経て少しはマシになっていますが時間の問題でしょう」

 

「次の川神大戦で、義経ちゃんたちの活躍に期待じゃの……むろん、お主も出るんじゃろ?」

 

「はい──一応は戦場に立ちますが、自分が役に立つことなどは無いでしょう。百代は当然として、松永燕もいます。二大巨頭ともいえる二人がいれば、おそらく」

 

「じゃのう……だが、わからんぞ。今年の二年や、一年の紋ちゃんなどは百代を本気で倒そうといつもより気合いが入っておる。来週の頭からは助っ人枠の募集が始まる。そこでなにやらとんでもない人材を確保してくるやもしれんな」

 

 伸びた髭を撫でながら鉄心は愉快そうに笑った。

 

「ワシは一度、お主が刀を抜いたところを見てみたいのぅ……」

 

 表情は好々爺であるが、細めた瞳からは全盛期と変わらないであろう威を感じる。

 

そのとき(・・・・)が来れば、自分は容易く抜くでしょう」

 

「ほほっ、来れば良いがの」

 

 二人は少し緩くなった茶を飲んだ。

 

 春は過ぎ、夏へと一歩踏み入れた。ただ落ち着いた空気が流れるばかりであるが、二人の知らないところで喧騒の狼煙が上がっていることは──誰も知らない。

 

 

 





ハーメルンの二次創作で主人公最強ものだと、わりと百代をアンチ的に書いてる人が多いですが日常生活の百代はさばさばしてて付き合い良さそうですよね。
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