やっと会えた。   作:サラメンス

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 夕暮れ時、図書室で黙々と二人で勉強をする。窓から見える外からはもうすぐ月が顔を出しても不思議ではないという感じを受ける。時間も時間だしそろそろ頃合いだろう。そもそも利用時間の問題もある。俺は真剣に課題を解く四葉に一瞬躊躇しながらも、そろそろここを後にする旨を伝える。

 

「あー、もうこんな時間でしたか。風太郎君と一緒に居ると時間があっという間に感じられてしまいます。では帰りましょうか。今日はありがとうございます」

 

可愛い。沈む夕日に照らされた彼女は儚げで、その場だけを切り取ったら一枚の絵画にでもなりそうだった。先ほどの発言は彼女の様子より嘘には見えない。というか嘘がつけないような性格だと思う。という事は俺と一緒に居ることであそこまでの笑顔を見せてくれたのだろうか。

 

「その顔、俺以外には見せないでくれよ。後、アレだ。もうすぐ暗くなるし送っていく」

 

でも俺は臆病だ。言えたことはせいぜい自分の中に潜む意地汚い独占欲の一端だけ。俺も四葉の様に正直に生きられれば色々と難儀にならないとは思う。こういうことも含めて俺の性格なのだ。中々変えられるものではない。ただ、本当に大事なことだけはどうにか伝えられていると思う。きっと両極端なのだ。

 

「え、あの、ありがとうございます」

 

やたらとポカーンとした表情で彼女は返答する。どこか心ここにあらずといった感じだ。珍しく口数も少なかったような気がする。勉強で疲れていたのか、それとも俺の送っていく発言に動揺したのか。何で彼氏面してるのマジキモイとかそういう事か。流石にそんなことは思われていないと信じたい。

 

しかし俺の疑問はあっさりと解決する。俺にとっては予想していなかった形となって。

 

「あれ、可愛いってやっぱ気のせいだよね。特にそのことにも触れないし」

 

小声でもバッチリ聞こえてしまった。そうか、またしても心の中が声として漏れてしまっていたようだ。辛いしかなり恥ずかしい。本来ならば俺にとって相当な深手ではあるが逆にプラスに考えてみよう。俺は思っていることを中々言い出せない欠点があるとさっきも考えた。それを今回の様に無意識に話すことで実質何でも喋る事が出来る。これで俺の考えていることが筒抜けになるが、全然良いだろう。

 

「いいから早く行くぞ。出来れば明るいうちに帰りたい」

 

「ちょっと待ってくださいよー。準備がまだ出来てないって、あー行くんだから。風太郎君のいけず」

 

顔が赤くなっているのはきっと空の色のせいだろう。急いでいるのは単純に早く帰らないと四葉のことを心配する家族がいるからだ。誰に聞かれているわけではないのに、自分にそう言い訳をする。後ろからドタドタと騒がしい音が近づいて来るのを耳で感じながら俺は歩みをもう少しだけ速めた。

 

 

 

 結局俺の努力も空しく、外に出てそんなに時間が経たないうちに、辺りはすっかり闇が支配していた。

 

自分から送ると言ったのだ。責任はしっかり取るべくいざという時はどうにか対処、できたらいいなあ。というか言い方は失礼だが俺より隣を歩く少女の方がよっぽど撃退できる可能性が高いと思う。やはり失礼極まりない。彼女は女子だ。それにこんな小さな見た目でどうにか出来るはずがない。そう思っていた時期もありました。

 

俺は体力には自信が全くない。その運動能力に関しては、クラスの男子では一二を争うほどだ。勿論ドベから。人間何事も頑張れば何とでもなるとは思っているが、これだけは別だ。だってそうだろう。日本人と言うのはそもそも欧米や南の方の人間と違って運動能力がそこまで高くない。身長などの体格に表したらその差は歴然だ。よって日本人はそもそも運動能力が低いというのが当たり前なのであって、何も自分の運動能力の低さを恐れる必要は無いのだ。大体学校の授業に何故体育があるのかわから

 

「聞いてますかー。風太郎君。こんなに無視されたらそろそろ寂しくなりますよ」

 

必死にこちらに訴えかけてくる少女の手によって俺は思考の海から引き上げられた。そうだった。今日はいつものように一人で帰っているわけではないのだ。相手の事も気遣うのが普通だろう。何か会話でもするか。確かそこそこ大事なことがあったはずなのだが。衰えを感じる。

 

しかしいつもなら勉強の事で気兼ねなく話していたため、特に考える必要もなく会話出来ていたのだが、今はそれがない。何か話題は、話題は無いだろうか。普段のコミュニケーションの不足がこういった時に響いてくる。必要ないと切り捨てたものは多いが、この世に必要ない物なんてそもそも無いのかもしれない。

 

「悪かった。少し考え事をしていたんだ」

 

「もう、しっかりしてくださいね。私といない時までは勿論強要はしませんが、そうではないときくらいはせめて他の姉妹じゃなくて私の事だけを考えてください。お願いします」

 

不安そうに揺れる瞳で必死に懇願する彼女。どこかその姿は痛々しく見えた。大体大きなコンプレックスを持っていたことは知っていたのだから、回避するすべはあったはずだ。会話が下手だから無言にならないようにしなければならない。あれ、これ無理では無いだろうか。別に他の姉妹を考えていたわけではないのだし、そこまで悲観的にとらえる必要もないのかもしれない。

 

待てよ、姉妹か。思い出した。俺は四葉と姉妹との関係をどうにか良好なものにしようと思っていたんだった。そんな大事なことを忘れていたなんて実に俺らしい。勉強も大事だがそれを取り巻く家庭事情についても解決しなければいけない。家庭教師として。さっきあんな事をして四葉以外の事を話すのは気が重いがきっとわかってくれるだろう。

 

「そのつもりだったが、今回はそうも言っていられない。俺は姉妹全員と四葉が仲良くなって欲しいと思っている。だから、なにか仲直りと言うか協力したいんだ。最初に仲直りしたいというのは誰だ」

 

「に、二乃…。あの子はまだ私に一番友好的だからどうにかなると思います」

 

申し訳なさそうに呟く。そうか二乃か。初対面こそ相当印象は悪かったが、今では寧ろ好感すら抱いているまである。ただ、あの時の一件で気まずくなってあれ以来顔すら合わせていない。そこだけが唯一の問題だ。色々大変だとは思うが、まずは家の中で一人でも話せる相手がいればそれだけで相当違うだろう。

 

「よし、じゃあ家まで送ってそのままお邪魔させてもらう」

 

思い立ったが吉日。送るついでにもなるし今日の俺は随分冴えている。一石二鳥とはまさしくこのことだ。

 

「え、今からですか。いや、勿論いいんですけどというか家に来てくれるのは全然大歓迎なんですが、お時間大丈夫ですか」

 

そんなことを言われても。

 

「大丈夫だ。この前邪魔した時、悪いとは思ったが結構長い時間居たと思うんだが。それよりは今は全然早いし、ダメか」

 

なんだかこういう言い方をするとろくでもないヒモのように聞こえてしまうから不思議だ。そこまでとは行かないがやや強引な手を使っている。よく考えてみれば夜に女子の家に行くってそれは事案なのでは。やはりやめておこうか。犯罪者にはなりたくない。そう口を開きかけたが言葉は遮られる。

 

「その節はすいませんでした。勉強の為とは言え、あれ残業でしたよね。それで私考えたんです。何かお礼とかできないかなと。唐突ですが風太郎君。焼肉定食焼肉抜きで昼を耐えた今の貴方、お腹の中身はもう既に何もない。違いますでしょうか」

 

「言い回しが少し変だが、まぁ腹は減っている。でも我慢できない範囲ではない。それがどうかしたか」

 

「私がお礼として、風太郎君の晩御飯を作ってあげます!きっと美味しくてほっぺたが落ちること間違いなしですよー」

 

不安だ。いつも自信がなく自己評価が著しく低い四葉を見ているだけにここまでの変わりようは怖い。だがしかし彼女は張り切っている。そして俺も腹が減っている。断る理由は無いだろう。

 

「悪いな。それじゃあお願いする」

 

「任せてください!」

 

自信に満ちた四葉の顔は何故かそれが自然なように見えた。




次回 四葉、腋でおにぎりを握る

嘘です。
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