今日は日曜日、俺にとっては久々の本当の意味での休日である。四葉の成績は徐々に上がってきており、このままいけば赤点回避はどうにかなりそうだ。中間試験も近づいては来たが、あまり根を詰めすぎるのも良くないのでゆっくり休むという事になった。とてもいい天気だ。カラッとした日差しが眩しく雲一つない。こんな日にはもう勉強をするしかないだろう。絶好の勉強日和だ。
参考書と教科書を開き、さぁやるぞ。おや、この問題はよく出来ている。これなら四葉でも理解できるかもしれないな。そしてこの問題は前にやったところだ。復習として今度問題出してみるか。
って、全然集中できていない。脳がすっかり家庭教師になってしまっているようだ。もしこれで俺の成績が落ちたら、四葉はきっと自分のせいだと思い詰めてしまうだろう。それだけはダメだ。俺にとっても教えることがプラスになっているという事を証明しなければならない。集中集中。
ピンポーン
借金取りかは定かでは無いが無視するわけにもいかないだろう。金ならないぞ。俺は重い腰を上げてゆっくりと玄関に向かう。あわよくばいなくなってくれという期待を込めて。大して広くもない家なのですぐに玄関にたどり着く。扉の向こうにはやはり人の気配を感じる。話しているという事は二人か。なんにせよ開けるか。
「はい」
「どうも、お久しぶりです。四葉の妹である五月です。貴方にお渡しするものがあって来ました」
「っと、私一花でーす。五月の付き添いで来ましたー」
バタン
「何で閉めるんですか。開けてください。渡すものがあるのです」
「もーフータローくんのいけず。恥ずかしがってちゃダメでしょ」
頭が痛くなってきた。つい反射で閉めてしまったが完全に悪手だった。全く、休日なんだから休ませてくれよ。
「すまん。なんとなく閉めてしまった。特に深い意味はないんだが。ところでどうした」
「ええ、ですから渡すものが」
彼女たちの扉越しに我が妹であるらいはが見える。これは面倒くさくなりそうだ。聞こえないように小さくため息を吐く。
「ただいまー。あれ、お兄ちゃん、この人たちどちら様」
「こんにちは。私たちはお兄さんに勉強を教わっている娘の姉妹だよ」
「あ、そうでしたか!どうぞどうぞ上がっていってください。小さい部屋ですが」
「父から預かった上杉くんのお給料です。ご確認ください」
「では失礼して」
封筒を開けて中身を確認する。授業自体はそんなに回数は無かったが、思えば今日までかなりの時間を四葉といた気がする。実際俺がどれだけ働いたかはよくわからない。まぁ多分大丈夫だろう。ひいふうみい…ってん?おかしい。何度見ても10人の諭吉さんがいる。流石に多すぎはしないだろうか。これまで以上により一層頑張らなければいけないな。一応聞いておくか。
「ありがとうございます。と言っても少し多いような気もするが」
「それは私が答えるよ。聞くところによるとフータローくんは授業時間外でも熱心に教えているみたいだし、本人もかなりやる気を出している様に見えたからね。だからこれからもよろしくという期待も込めてのってお父さんが言っていたからこれに満足せずに頑張ってね」
「勿論だ。四葉を全力でサポートしていきたいと思う。あと悪いんだが質問良いか」
「何でしょうか。私にわかる範囲であれば何でもお答えしますよ」
「お兄ちゃん何聞いちゃうのー。二人とも可愛いけどあんまり変な質問はしちゃダメだよ!」
「か、可愛いって///」
どうして家に来れたのかという事に関しては野暮に思える。雇い主である以上そんなものは簡単にわかるはずだし、一花は一度来たことがあるだろうしより簡単だろう。そんなことよりも何故この二人は。そして四葉じゃないんだ。
「単純に疑問なんだがなんで二人で来たんだ。初の顔合わせってことじゃあるまいし」
「逆に聞くけどフータローくん。どうしてこんなに可愛い女の子に一人で同級生の家に、しかも大金を持って行かせられると思う。それに五月が一人で大丈夫か不安だったし」
「い、一花。失礼ですよ。すいません上杉くん。私は良いと言ったんですが」
「いや、大丈夫だ。確かにそうだよな。今日はわざわざ家まで来てくれてありがとう。四葉の事は安心して任せてくれ」
なるほど。腑に落ちた。確かに初対面同然の男の家は危険だよな。それにお金を持っていると来たら、そうする方が自然だな。ではお金は有難く貰っておこう。それにそろそろ帰ってもらおうか。勉強をする予定だったが何となくそんな気分ではなくなった。何をしようか。日はまだ高いが時間は案外早く過ぎてしまうからこそ大事にしなければ。
「では私たちはそろそろお暇します。今後ともよろしくお願いします」
「またねー。暇なときあったら教えてね。一緒にお茶でもしようね」
大事なお金を浪費するのは良くないが、らいはにはいつも我慢ばかりさせてしまっている。そうだ。このあとどこか行こう。
「らいは。このあとどこか行きたいところでもあるか」
「じゃあね、お兄ちゃん。私ね!」
「いや、ほんとスマン。折角の休日なのに悪い」
「五月さん!あれ一緒にやりましょう!」
「いえ、全然大丈夫ですよ。私もちょっと楽しくなってきました。あ、らいはちゃん待ってください」
「フータローくんは妹思いの優しい男の子ってことがわかったから全然大丈夫だよ」
俺と二人のつもりで言ったんだが、どうにも勘違いしてしまったらしく、迷惑を掛けてしまうことになった。反省します。
向かった先はゲームセンター。最近は初めての場所に行くことが多い気がする。折角来たんだし思う存分楽しんでもらえばいいんだが。らいはは五月と一緒で楽しそうだ。申し訳ないが相手してもらおう。
「フータローくん。私たちの方こそ本当にありがとね。同級生だし大丈夫かなって思っていたんだけど、全然そんなこと無かったみたいだね」
「俺の方もまだまだ未熟だが、これからも頑張って行こうと思っている。それに四葉は結構優秀だから俺がいらなくなる時も案外近いかもな」
一花は俺の中で少し苦手意識がある。無論、風邪の時のあれだ。ぼんやりしてあまりよくは覚えていないが、それでも四葉に対する敵意をはっきりと感じた。ただ今日の一花にそういったとげとげとした雰囲気というのは無い。あの時のあれは勘違いでは無かったと思うんだが、全然違う相手のような気もする。
とは言ってもまだたった数回しか会っていない相手である。彼女自身もその時色々と溜まっていてつい何かが出てきてしまったのだろう。その時一度だけで印象を決め切ってしまうのはやや早計に思える。だから苦手意識を持たないようにしていきたい。
「うん、私もそう思う。あの娘は相当頭がいい。だけど少し脆い一面もあるんだよね。分かる?」
「ああ、確かにそういうのはそこそこ感じる。自分のせいにしたがる所とか特にな。自身さえ持てば相当伸びると思うんだがなあ」
「お、意外と鋭いね。まあ何にしても期待してるからね。頑張れ先生」
背中に小さい手の衝撃を感じる。背中を押されなくても大丈夫だ。任せてくれ。
「うう、完敗です。らいはちゃん中々お強いですね」
「どうもです。五月さん本当にありがとうございました。今日は楽しかったです!」
「また、遊びましょう。今度は負けませんからね!」
どうやらあちらの方も一段落ついたようだ。本当に助かった。これから五月には足を向けて寝られないな。
「今日は本当に助かった。良ければまた遊びに来てくれると嬉しい」
「任せてください」
「あれ、フータローくん、私は?」
「一花も本当にありがとうな。それじゃあまた」
らいはと一緒に手を振る。まだ全然昼間だ。さぁ、ここから勉強をする時間だ。二人は雑踏の中に徐々に消えていき、そして増えていった。あれ。
「風太郎君!こんなところで偶然ですね。こんにちは」
「あら風君じゃない。どうしたの」
「フータロー!」
浴衣に身を纏い、どこかお洒落になった四葉、二乃、三玖がいた。今日はどうやら勉強をする日じゃないらしい。そういう日もあるよな。
「らいはちゃん。このあと暇なら一緒にお祭り行きませんか」
「うん、行く!」
「それじゃあちょっと着替えてこようか。五月ちゃん、いこ」
偶然って怖いな。もういい、今日は遊びまくるぞ。幸いまだお金はまだある。少しくらいなら使ってもバチは当たらないだろう。日は徐々に傾き、街に灯りが灯っていく。