やっと会えた。   作:サラメンス

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時計を見る。そろそろ頃合いだろうか。もう既に9時を回っているところだ。具体的な時間については特に指定はされなかったが、夜遅くまで身内でもない男が家にいるというのは余りよろしい事では無いだろう。初日なのに少々飛ばしすぎた感もある。先ほどから四葉の反応も鈍くなっているし良いだろう。

 

「よし、今日は終わるか。こんな時間までよく頑張ったな。やった分の問題はちゃんと復習しておくんだぞ。じゃあまた明日な」

 

道具をしまって席を立つ。帰ったら自分の分もやらなければな。中々大変だが何とかなってくれるはずだ。今日意外だったことは人に教えることで自分の理解も深まるという事だ。教えるためにはそこそこの知識だけじゃ厳しいからな。より深いところまで行けそうだ。ドアに手をかけるところで腕を掴まれる。痴漢はしてませんよー。

 

「待ってください。もう少しやりませんか。まだわからないところがありまして」

 

お、今日だけでは難しいと思っていたが、もしかして勉強の楽しさに目覚めたか。そんな熱心な生徒の気持ちを無下にするわけには行くまい。

 

「じゃあもう少しやるか。どこが分からなかったんだ」

 

「ええと。ここの所なんですけど」

 

そう言い教科書を開きページを指差す。数学の図形か。これは反対からじゃちょっと教えづらそうだ。一応一言は声をかけるべきだろう。

 

「隣良いか」

 

「よろしくお願いします先生!」

 

許可をもらったので席を移動する。四葉は男に対しての免疫と言うべきか、抵抗感が強めだ。先ほどまでも顔が近づいただけで、俺同様頬を赤らめたりしていたのだが、今は特にそう言ったことは無い。やっぱり勉強パワーは偉大だな。この世の全ての人間が勉強をしていれば戦争はまず起こらないだろうと今確信した。

 

「なるほど。ここをこうすればいいんですね」

 

また、四葉は理解力がかなり高い。1を聞いて10を知るまでは行かないが、7を知るくらいは出来ている。俺程度の教え方でも、ここまでは行けるのに四葉が落第した理由が益々分からなくなる。運動部の手伝いで放課後はすべて潰れていたとしても授業だけでも受ければ赤点はなさそうだ。本人のやる気というものなのだろうか。いまいち答えは見えてこないがプラスの方向ではあるのでよし。

 

「かなり分かっているじゃないか。純粋に疑問なんだが、この感じでいけば赤点はなさそうだと思うんだが前の学校では何かあったのか」

 

「んー。そうですね。一つは多分地頭がそんなに悪くないからとかでしょうか。ほら、私たちの中で私以外はよく出来ていたので。あともう一つは」

 

そこまで言って急に黙る。頭が良くなるコツというのは俺も結構知りたい。というか急に黙られると気まずいからやめてくれ。意を決したかのように顔を上げ、こちらを見てくる。近い。

 

「ふ、風太郎君が教えてくれるから。人に応援されたら嬉しいんですけど、風太郎君なら何かそれがより大きくなる感じで。中々口では説明しずらいのですが、要するに腕がいいという事ですよ!」

 

「し、宿題追加。俺は風太郎君じゃない、先生だ」

 

「ちょっと酷くないですかー。絶対照れてますよね。可愛いですよ!」

 

あーもううるさい。別に嬉しくなんかないし。宿題増やしてやろうか。

 

 

 

「そろそろお暇する。流石に12時前には帰っておきたい。もう疲れたろ」

 

「そうですね。もうそろそろ帰宅しないと親御さんたちが心配しますよね。ちなみに私はそんなに疲れていませんよ!」

 

化け物か。やっぱ運動能力も欲しいかもしれない。筋トレでもしてみようか。今は正直帰って寝たいくらいだ。この小さな身体に一体どんなものが眠っているのか非常に気になってきた。今度は手を掴まれることもない。

 

ドアを開けると何故か途中で開けれなくなる。荷物でも置いてあるのか。頭だけのぞき込んで確認してみると、そこにはヘッドフォンを付けた女が一人いた。ええと、こいつの名前は確か。

 

「三玖。名前絶対忘れたでしょ。全く失礼するわ」

 

少し不機嫌そうにそう漏らした後その場を立ち去る。それは申し訳なかった。ちゃんと名前は覚えておこう。

 

「風太郎君、騙されちゃダメです!部屋の前にいたという事は会話とかを盗み聞きしていた可能性が高いんですよ!」

 

速足でその場を後にしようとする三玖の方をガッチリ掴んでおく。ああ、あっさり騙されるところだった。というかやっぱ疲れているな俺。自分でもはっきりわかり始めた。面倒だが釈明くらいは聞くぞ。

 

「年頃の男女が二人で部屋にいるのは、危険。二乃から聞いた。二人がエッチなことをしようとしていたって。もし危険なことをするようなら四葉を守んなきゃいけないから張り込んでいた」

 

ドヤ。とばかりに胸を張り得意げになる三玖。アレに関しては思い出したくなかった。こちらに非しかないので余計そう思う。まだ中野家の人間に信用されていないというのは当然なのでこれから長い時間をかけていきたいとは思う。

 

「それは済まなかった。疑っているかもしれないが、本当に四葉には襲っていない。これだけははっきりと伝えたかった。それじゃあまたな」

 

「待って」

 

今日はよく腕を掴まれる日だなと思う。顔を改めて見てみると本当に似ている。姉妹の中だったら四葉に一番似ているのは三玖なのではないか。なんというか雰囲気とか。

 

「四葉には気を付けたほうがいい。それだけ。私は別に貴方の事は何とも思ってないけど、一応」

 

それだけ言って三玖はいなくなる。後ろを見てみると先ほどまでの優しい笑顔とは似ても似つかない、憤怒の表情を浮かべた四葉がいた。俺に見られたことに気が付いた四葉はバツが悪そうに目線を下に逸らす。何が言いたかったのかよくはわからないが、この姉妹の仲がかなり悪いという事は理解できた。長い時間をかけても修正できるかどうかは怪しそうだ。

 

 

 

「なんだか少し疲れているみたいですし、タクシーで送っていきますね。直ぐ来ると思うので下に行きましょう」

 

「いや、それは悪い。別にそんなに疲れていないぞ」

 

「良いですって。ね。今日は風太郎君にいっぱい甘えてしまったんですからこれくらいどうってことないですよ」

 

何だか明らかに押しが強くなっている。四葉の素はどちらかというとこちら寄りなのかもしれない。猫をかぶっていたわけではなさそうだが、機嫌が悪くなっているのだろう。正直俺の家の状況をあまり見せたくはないのだが、家が使えないこともあるだろうし時期にバレるなら早い方がいいだろう。

 

「そしたらお願いする。ありがとうな」

 

一応挨拶だけはしておいて家を後にする。四葉も黙って俺についてくる。エレベーターに乗ってボーっとしていると、意を決したのか話し掛けてきた。

 

「私ってこういう人間なんですよ。結構態度が顔に出てしまうみたいで、演技が下手なんです。だから今はなるべく表情を見せないようにしています。それで、前の学校ではいじめられていました。皆にはこういうことは隠したくて、でも耐えきれなくなって考えました。私がバカになって学校に居られ無くなれば逃げれるかなって。あ、でも私が頭がよくないってのは本当で平均より下くらいだったんですけど。結構いいところの学校だったので、2,3か月でいなくなれました。ただ一つ誤算だったのが皆も一緒に来ちゃうことで。私って他のみんなと違ってあんまり仲が良くないんです。特に三玖と一花とはもう修復は無理な感じで。二乃と五月の説得でどうにか纏ったみたいです。その代わりと言っては何ですがこれからは私に過度に干渉しないことになりました」

 

チーン。貼り付けたような無表情が俺を射抜く。エレベーターから降りない。降りられない。こんな話を聞いて、はいそうですねと帰れるはずがない。

 

「さっき、言いましたよね。私を信じてるって。今も私を信じられますか。これで私の全てを言ったわけではありません。隠していることの方が多いです。タクシー、そこに止まっているのであまり待たせてあげないでください。お金は大丈夫です。では、さようなら」

 

強引に押されてエレベーターは閉まる。そこから先はよく覚えていない。多分、歩いて帰ったと思う。明日からどうしようか。どう接すればいいだろうか。彼女の眼から溢れる涙が俺の思考を悩ませた。




無事甲で攻略完了。じゃあグレカーレちゃん掘りますね。
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