やっと会えた。   作:サラメンス

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休みですし、二話投稿したいですねぇ(希望)


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「お兄ちゃんおはよー。起きてるー?」

 

最悪の目覚めだ。頭の奥の方がズキズキと痛む。汗もかなり掻いている。昨日は色々と衝撃が多すぎて家に帰ったらすぐ寝てしまっていたようだ。今後どうするべきか考える予定ではあったのだが、仕方が無い。

 

「おはよう」

 

「お兄ちゃんがこんな時間まで起きられないって珍しいよね。昨日からずっと顔色悪いし何かあった?」

 

やはりらいはから見てもそうだったか。自覚が出来ている分まだマシだろうか。まぁ体調が少し悪い程度で学校を休んでいられるわけでもない。布団から出て準備をしようとすると頭がふらつく。気が付くと俺は地面に倒れていた。これは思ったよりもキているようだ。

 

「わ、大丈夫お兄ちゃん。顔も赤いし、ちょっとごめんね」

 

額にひんやりとした感触を感じる。ちょっと気持ちがいい。俺をみるらいはの顔が曇っていく。

 

「お父さん大変!お兄ちゃんが熱出した!」

 

「なんだと、今そっちに行く」

 

もう何を言っているのかよくわからない。俺も限界が来ていたのだろう。ドタバタと動いていく彼女を見ながら意識を手放した。

 

 

 

 悲しそうな眼をしながらこちらを睨んでくる。白いワンピースを着たその少女は無垢な印象を感じる。これは俺が悪なんだな。無意識にそう思った。

 

「---き」

 

何を言っているのかよく聞こえない。そんな俺の様子を見た彼女は更に俺に憎悪の視線を向ける。俺が何をしたって言うんだ。煮え切らない俺に嫌気が差したのかこちらに近づいて来る。本能が逃げろと警鐘を鳴らしている。そんな思いとは裏腹に足は全く動かない。蛇に睨まれた蛙のようだ。

 

「--つき」

 

やめろ。こっちに来ないでくれ。俺なんかに構わないでいいだろう。いや、違う。俺はただ、そういう訳じゃなくて。

 

「うそつき」

 

必要とされたかっただけなんだ。

 

 

 

 生ぬるくてぶよぶよとしたそれを引き剥がす。窓から差してくる夕日が微妙に眩しい。そうか。そんなに寝ていたのか。何か嫌な夢を見ていた気がするが思い出す事が出来ない。つい先ほどまでの事なのに思い出せないとはやっぱり不思議だ。

 

まだ覚醒しきっていない頭のまま辺りを見回すとチラシの裏に書かれた置手紙を見つける。曰く、俺は風邪だかはよくわからんが、とにかく熱があって倒れたそうだ。勿論そんな状態で学校には行けないという事で今日はゆっくり休めとのお達しだ。らいはの丸文字が何だかすごく温かく感じられた。

 

もう一眠りしてもいいかもしれない。今寝たら何となくさっきの続きが見られそうな気がするから。何か避けてはいけないもののような気がするから。

 

ピンポーン。

 

運がいいのか悪いのか。俺の体調からして居留守をしても特に何か咎められることは無いはずだが、らいはがカギを忘れたという事も全然ありうる。宗教の勧誘ならキレよう。そう決意し狭い玄関まで向かい、扉を開ける。そこにいたのはらいはでもよくわからない勧誘でもなく、

 

「四葉、か?どうしてここが分かったんだ」

 

そこにはうちの学校の制服を着た少女がいた。こくりと頷き彼女は生徒手帳をこちらに差し出してくる。ああ、なるほど。生徒手帳には住所が書いてあった。それを見れば俺たちの家にたどり着くこと等造作もない事だろう。正直身体的にも心情的にも覚悟が出来ていなかったので大人しく帰って欲しかったのだが、その目線が俺を逃がさないという事がよくわかった。仕方がない。

 

「上がっていくか。何も無いが」

 

「あなたの事情も考えず申し訳ありません。お邪魔します」

 

 

 

こういう時の何も無いは建前だが、家ではこれが建前でもなんでもない。こちらにも色々と事情があるのだ。さて、どう切り出していくべきか。彼女にも話したいことがあってここに来たのだろうから、そちらの方からどうにかしてほしい。一応病人なわけだしそれぐらいいいよな。わざとらしくせき込んでみようか。ゴホゴホ。

 

「大丈夫ですか!本当にすいません。こんな状態なのに会っていただけただけでも負担になっているでしょうに」

 

そう思うんなら帰ってくれとは言えない。俺にとって四葉は特別になり始めている。ただ、人への思いやりが出来る娘だと思っていたのだが俺の眼は節穴だったのだろうか。

 

「謝るのは俺の方だ。昨日は色々と衝撃が強すぎて答えることが出来なかったが、それでも四葉。お前の高校卒業とその先の進路の為に全力を尽くすことは変わっていない。俺だけはお前の味方でいたい」

 

驚いたような表情を見せる彼女。あんな別れ方をしてそんなことを言うなんてそんなに予想外だろうか。まだ俺は信用されていないのだろう。

 

「良いんですか。それで本当に。昨日も三玖から忠告されていましたよね。私に関わらないほうがいいって。私の表面しか貴方は見ていないんですよ。それなのに、良いんですか」

 

表情を歪ませ、昨日のようになる。どこか興奮している様な彼女は見ていて気味が悪い。そんなに自分を信用できないのだろうか。何が彼女を苦しめているのだろう。

 

「落ち着け。俺は別にお前を見捨てたり逃げたりはしない。人間誰しも隠し事とか知られたくないことがあるのは当たり前だって昨日話しただろ。どうした。今日は何か変だぞ。俺も本調子じゃないってのもあるだろうしそもそもそんなに付き合いが長いわけじゃないが、何かあったか」

 

「っ!そんなのどうでも良いでしょ。そんなことより私は本当にどうしようもない人間なんだよ。昔、皆にそんなに差が無くて全然個性がなかった時、皆と違う私に酔っていた。あの頃は勉強も出来て運動も出来ていたから見下していた。その結果慢心して点数が取れなかったんだから本当笑っちゃうよね」

 

「いいや、お前はそんなことをする奴じゃない。母の為に一生懸命頑張るって約束したお前なら、そんなことは絶対あり得ない」

 

「ふーん。そうだったんだ。あ、そうか。これ言ってなかったのか。あのね、私たちが小さいころ、お母さんは死んじゃったんだ。それで何か生きる希望を無くしちゃったみたいで。急に抜け殻みたいになっちゃって結構面白かったね」

 

そうだったのか。俺は妹、家族のために。四葉は母の為に一生懸命勉強して将来はお金持ちになるとそう願った。その幸せにする相手がいなくなったから、勉強する目標を失ったのだろう。辻褄は合う。しかしどういうことだ。意味が分からない。他人行儀な気もするし何が言いたいんだ。

 

 

 

「そうです。言う事があるんでした」

 

思い出したかのように敬語を使う。さっきのが素ならそのまま話してくれた方がいいのに。少なくとも俺から伝えることは伝えた。後は彼女がどうしたいかだ。

 

「よっと。私は自分から自分の事を四葉だなんて一言も言ってないよ。()()()()()()

 

カツラを外し、ショートカットの人懐っこい笑顔を浮かべるこの女に俺は見覚えがある。

 

「お前は!一花か。何でこんなことをした。俺と四葉をそんなに引き離したいのか」

 

「別に。お姉さんの真意なんて多分まだわかんないと思うよー」

 

この女は。見ててイライラしてくる。本音でぶつかってくることが誠実だろう。それぐらいはやってほしい。思わず立ち上がるが頭がフラっとして座り込む。

 

「無理しちゃダメだよ。風邪ひいた君なら絶対騙せると思っていたよ。あっさり離れてくれると思ったけどそこだけが誤算だったね」

 

それだけ言って彼女はその場を後にする。オイ待て。まだ色々聞きたいことがあるんだぞ。お前らの姉妹の関係とか、俺の事よく思っているのかとか。しかしそんな俺に構ってくれるはずもなく、お大事に―。と小さな声が家にやけに大きく響いた。後には生徒手帳だけが残っていた。




ゆーちゃんが出なくてキレそう。グレカーレは強友軍待つ。

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