あれ、見当たらないな。人気だからかな。3軒目までそれが続き、私はやっと悟る。この田舎では二日くらいは遅れるんだったな、と。
悲しみのまま家に帰りこれを投稿します。明日か明後日は読めればいいな。そんな淡い期待を込めながら。
口をへの字にしてどこか不満そうにする。まぁ、仕方が無いとは思う。話については一旦一区切りがついたし、きっと彼女なりに勇気を出して昼ご飯を誘ってくれたはずだ。自分の希望をそこまで言わないタイプだと俺はこの短い期間でも結論付けたので、俺に出来る範囲なら叶えて上げたい。しかしこれについてはやはりなるべく早い方がいいだろう。関係が悪くなるのを見たくないし。
「いつか、というか初日に家に行った時点から姉妹との関係については聞こうと思っていた。どのみち先延ばしにするよりは今しんどいことは終わらせた方が良いだろう。夏休みの宿題と同じ理論だ」
「私はその、夏休みの宿題はいつもギリギリで終わらせるタイプですから…」
うん、そうだと思っていた。当たり前だが口には出さない。俺は宿題というものは学生に与えられた使命であるし、早く終わらせてパーっと遊んだほうが精神的にも楽だと思う。何て今でこそ言えるが、昔は宿題なんかほっぽり出して毎日遊んで結果ギリギリにやっていた。一応気持ちは分かる側だ。
にしても、相当渋る四葉にどうにか話が出来る状態くらいにはしなければいけない。あれだけ話して結局何が言いたかったのかよくわからない一花は除くにしても、他は意外と話せばわかると思う。
例えば、二乃。家族想いに見える彼女は初対面を除けば基本的に物腰は柔らかかったし四葉の事を気遣っていた。三玖も五月も理性的だったし単に四葉が拒絶しているに過ぎないと思う。あの一花は中野家には母がいないと言っていた。父とは電話で話したきりだが、一緒には暮らしていないようだった。ならせめて近い将来、離れるその時までは皆で笑って居て欲しい。
あくまでも傍から見た印象なので間違っている可能性は大いにあるが、修復できる可能性があるのならどうにかしたいと思う。ただのおせっかいだが、折角彼女と再び会えたのだ。一介の家庭教師にも手伝わせてほしい。
「四葉、頼む。大事な話なんだ」
仕方が無いだろう。こういう事はあまりしたくはなかったが、膝を着き頭を下げる。俺はズルいから、こんな姿を見た彼女が何をするのか何てわかりきっているから、平気でこういう事をする。案の定、俺の奇行を目にした彼女はやめてください。何て言いながら頭を上げさせる。血相を変えながら慌てるのを見て、罪悪感を感じてしまう。
「私の為を思ってそんな提案をしてくれたんですから風太郎君が頭を下げる必要なんてありません!このことは本来なら自分で片付けなけば行けないことで、迷惑を掛けないようにと考えていました。でもそこまでして、一体貴方に何の得があるのですか。本当に、貴方を頼ってもいいんですか」
何を言っているのだろうか。
「それはこっちのセリフだ。俺も四葉に救われている。下心なんて全くない純粋な厚意で、だ。俺は別にいい人間じゃないし自己犠牲の心があるわけでもない。ただ、借りた恩くらいは返す。俺に頼って欲しい」
「面倒だろうと思います。大変だと思います。それでも、聞いてくれますか」
「当たり前だ」
やはり女に頼られて嬉しくない男などいないだろう。俺が断言する。
「さっきは姉妹との関係について聞こうと思ったのが初日だって言ったよな。それについてなんだが、嘘はついていないが本当のことも言っていない」
「どういう事ですか。すいません、私バカなのでもう少しわかりやすく言ってくれると助かります」
自分を下げる四葉を見たかったわけではない。完全に言い方が悪かった。自分でも少し回りくどい言い方をしている自覚はあるが、この後に続く話を聞けば理解してくれるはずだ。俺は話を続ける。
「聞こうとは思ったんだが、初日の時点ではいつか近いうちで良いだろう、くらいに思っていた。その曖昧な考えを決心させたのが昨日だったんだ」
「話が難しいです。というか風太郎君は昨日、学校を風邪で休んでいたって自分で言っていましたよね。考える時間が多かったから纏って決心がついたとかですかね」
「いや、違う。昨日学校を休んで家で寝ていたら四葉、お前が来ただろう」
そこまで言って顔を見る。何を言われたのかよくわからない、といった感じだ。少なからず動揺はしているが、どちらかというと困惑の方が大きい。カマをかけてみたがどうやら彼女では無いようだ。これで安心して次の話をする事が出来る。
「これには少し語弊がある。正確には四葉の変装をした一花、だが」
「そんな!そもそも家の場所だって知らないはずだし、行く意味も無いはずです!」
声には確かに動揺が伝わってくるが、顔の方はそこまで表情が動いていない。目もせわしなく動いているわけでもない。見た目からは普段の四葉だと言われてもまるで違和感がなさそうにも思える。何となく察しがついているのかもしれない。
「行く意味に関しては俺にもよくわからないが、家に関してはあっさり知る事が出来たんだ。生徒手帳。これを俺は落とした。その中には住所も一緒に書かれている」
「昨日帰りが少し遅かったのはそういう事だったの。だから、アイツは」
無意識のうちに声が出てしまっているようだ。あの時の一花の様子から鑑みても、姉妹で一番仲が悪いのは一花と四葉ということで十中八九間違いないだろう。
「まぁ、少し落ち着いてくれ。それでだな。四葉のフリをした一花と色々話をした。話の内容についてだが、四葉を乏しめてどうにか俺側から離そうとして来ていた。白状をすると、途中まで全く気が付かなかった。一番最後にカツラを外して自己申告するギリギリまでよくわからなかった」
「具体的に言うと、隠し事を沢山していること、幼いころ姉妹と違う自分に優越感を感じていたこと、母が死んで暗くなってしまったこととかだ」
「それで、風太郎君はどう思って何と答えたんですか!もしかして、それを気に考えを改めるとか。でもさっき頼っても良いって言ってくれましたよね。お願いします教えてください!」
食いつくように俺に身を乗り出してその先を聞こうとしてくる。大丈夫だ。落ち着いてほしい。俺は肩をしっかり掴んで真っ直ぐ目を見る。届いてくれ。
「正直、支離滅裂な事ではあったが、一花の言ったことは事実なんだと思う。辻褄が合う気がした。良くないことをしたというのは間違いない。自分なりに変わろうとしていた結果がそれなのは悲しくないこともない」
「でも、だから何だ。そんなの関係ない。大事なのは今だ。今お前は過去の自分を反省し、前を向いて進もうとしている。そんな人間を見捨てる必要があるか。まだまだこれからだろ」
「なら!一緒に居てくれますか。例え、私が皆と仲良くなって、進路も決まって卒業して、そうしたら居なくなったりしないですよね。それならいっその事、ずっとこのままの方がいいです」
きっと精神的に不安定な毎日が続いたのだろう。姉妹との壁と劣等感を感じて悩んでいたのだろう。だからきっと、こんな根深いところまで行ってしまっているのだ。四葉は本当に可愛くて、素敵で、俺が隣に居てもいいのかと思う位魅力に溢れた娘だ。いつか別れは来る。その時までは一緒に居るつもりだ。
「居なくなったりしない。何度でも言う。俺とお前はパートナーだ。切っても切り離せない関係だ。四葉がそう願う限りずっと一緒だ」
「風太郎君!」
感極まったのか、俺の胸元に思いっきり飛び込んでくる。倒れそうにはなったがどうにか踏ん張りきれた。何となくそんな四葉に昔いっぱい甘えてきたらいはを重ねてしまい、頭を撫ででしまう。
少し経ってから同級生の女の子にこんなことをしていいのだろうか、そう考え止めようとするも放そうとする。しかし、途端に悲しそうに肩を落とすのがどうにも見ていられなくて、結局チャイムが鳴るまでずっとそれを続けていた。
あれ。何か忘れている様な。何だったかな。どうにも最近色々喉まで出かかった言葉がどうしても思い出せないという悲しい物忘れが多くなってきている。こういった時に思い出せない事というのは大抵どうでも良い事だったりするので多分大丈夫だろう。
「何しているんですか?急がないと次の授業に遅れちゃいますよー」
一体誰のおかげでこんなことになったんだか。少し苦笑をしながら直ぐに後ろを着いていった。俺の気分を表すかのように天気は晴天だった。