やっと会えた。   作:サラメンス

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覚悟は完了してる。後は、行くだけ!やるわ!


四(前編)

 家に帰って、皆にこんな姿を見られないように急いで部屋に入ってベッドに潜り込む。きっと、思わず目を背けてしまう位に私の顔は不気味な笑みを浮かべて嗤っているだろうから。スマホをポケットから取り出す。電源が点く前の黒い画面に映った私の顔は、やはり想像していた通りに蕩け切っていた。

 

神様、私は幸せになってもいいのでしょうか。私は罪を償えましたか。ダメだと言われても私はもう止まらない、止まれない。人の暖かさに気付いたから。

 

ようやく起動したスマホの待ち受けにはどこか照れ臭そうに笑っている少年と、表情が明るく、憑き物が全て取れたかのような満面の笑みを浮かべる少女がいた。

 

 

 

危なかった。本当に紙一重だったけれど、どうにか最後まで彼は私の事を信じていてくれた。寧ろ、風太郎君を信じていられなかったのは私の方だ。回りくどいやり方で何度も揺さぶりをかけて、何度も逃げ道を用意して。本当に居なくなったらもう絶対に仮面なんて剥がれちゃうのに。

 

その気にさせたのは風太郎君だ。私は悪くないはずだ。多分。大体な話、あんなカッコいいことしてくれてその気にならない方がおかしいに決まっている。彼は本当に人間として素晴らしい魅力に満ち溢れている。それこそ、私なんかでは本来関わってしまうのもおこがましいくらいに。そんな私にあそこまでしてくれたら期待してしまうだろう。

 

それに人生のパートナーだなんて言ってくれて気が早いんだから風太郎君は!嬉しすぎて死にそうでしたが、これからは毎日こんなことが起こるんだから耐性は付けないといけない。死因、風太郎君が素敵すぎたから。そうならないようにしなければいけない。いや、それでもいいかもしれない。まぁ、風太郎君がどうしてもって言うなら私は今すぐにでも学校を辞めてお嫁さんになるつもりだ。

 

とは言っても彼は絶対にそんな無責任なことはしないだろう。高校を卒業するまでは彼は勉強の面倒を見てくれる、そう約束してくれた。それならそれにあやかりながら家事スキルを鍛えよう。掃除には自信があるが料理にそれはない。二乃に土下座をして頼み込めばきっと優しいあの子の事だ。引き受けてくれるだろう。

 

 

 

 私が彼と初めて会ったのは、小学校の修学旅行の時だ。その時は姉妹一緒に居ることに疑問を持っていた頃だったと思う。何でも5人でそれで本当に良いんだろうか。まだ分からなかった。そんな私に強く背中を押してくれたのが風太郎君だった。

 

あの時の出会いが今の私の大部分を占めていると言ってもいい。神社でお参りをしたときの記憶は今でも鮮明に思い出せる。その時に自分は皆よりも勉強をいっぱいして、立派な大人になって大好きだった家族に幸せになってもらうんだってそう思っていた。

 

まぁ、その決意は一瞬で剥がれたんだけど。よく似ていた私たちは、それこそ家族くらいじゃないと見分けるのが難しい。幼少期で個性もそんなに無かったからそれはもう相当難しかっただろう。だから仕方ないのだ。風太郎君が私と一花を間違えたのは。私はリボンを新しく付けるようになった。皆とは違う私になりたかったから。今度は風太郎君に私を見て欲しかったから。一花を明確に敵だと思ったのは多分そこからだったんだと思う。ほんと、ズルい女。

 

 

 

 当時は頑張っていた。多分自分の中で一番何かに全力だった時だと思う。でも、私が一番バカだった。皆は昔から本当に頭が良かった。私だけが何も出来なかった。仕方が無い。昔やっていなかった分のツケが回って来ただけだ。そう思っていた。

 

お母さんは私に優しかった。自分だけ出来ないことをお母さんのせいにして当たった時もあった。それでも姉妹の中じゃない、私を見てくれた。だからこそ、拒絶されたときは比喩ではなく、本当に死のうかと思ったほどだった。5人一緒に。何をふざけたことを言っているのだろう。それをしようとして、無理だったんだ。

 

そんなことがあったからかもしれない。お母さんが死んでも皆が流す涙は微塵も垂れてこなかった。いや、悲しいことは悲しかった。女手一人で育ててきたんだ、尊敬はしている。姉妹の中で泣かない私を見て強いね。と口々に言う。実の親が死んで何故泣けないんだ。そういった思いが透けて見えた。初めて皆とは違う、特別になれた。こんなどうしようもないことで。自分が情けなくてそこで涙が出てきた。

 

実は、国語で一番を取れたことがあった。その時私は嬉しくて皆に自慢した。私は頑張ったんだって誰かに認めて欲しかった。おめでとう、皆はそう言う。でも内心ではほくそ笑んでいるに違いない。たった一回だけなのにって。

 

やっぱり、私では無理だった。彼女たちに勝つのは不可能なのだ。お母さんが死んでから、私はもうあの約束を守れなくなったけど、君の為に頑張ろうって思って勉強自体は続けていた。彼女たちよりも間違いなく勉強をした。精一杯努力を重ねたはずだった。その結果が赤点スレスレではどうしようもない。もう頼れる人はいない。一人、枕を濡らした。

 

もう姉妹とはほとんど会話すらしていない。5人一緒に居られたのは母がいたからだった。三玖は私に勉強を教えようとしてくれた。姉妹の中で特に頭が良かった彼女に教わればきっと上手くいくに違いない。頭では理解していた。でも、あの子はこんな私に教えてきっと優越感に浸ろうとしているのだ。こんなことも出来ないんだって。本当はそんなつもりなんて無いだろう。でももう私が姉妹だなんて汚名にしかならないはずだ。

 

 

 

方針を変えた。昔サッカーが上手いと言われた。もしかしたらそっちの才能はあるのかもしれない。他人の土俵に立たなければ私にも可能性があるはずだ。結論から言うと、その通りだった。そんなに練習をしなくても大体の運動では一番が取れた。ちやほやされた。私がいる意味を見つけられたのかな、そう思った。

 

大変じゃないわけでは無かった。いくら出来るとは言っても、部活動としてやっている相手になると分が悪い。だから練習した。毎日走ったり基礎体力をつけるだけ以外にも、出来る限りの事はした。これなら通用するに違いない。

 

次第に部員たちとはすれ違いを感じた。ぎくしゃくするのは嫌だったから、部活を転々として少しでも力になれるようにと一生懸命身体を動かした。幸い体力は有り余っていたからそれを実行することは容易だった。助っ人として、輝かしい成績を起こすことが出来た。まだ大丈夫。

 

陰口を聞いた。調子に乗っていると。よくよく考えてみればそう思われるのも仕方が無い。自分は練習に一切出てないのにぽっと出で活躍していい気はしない。それは当然のこと。私がやったことはただ皆の頑張りを踏みにじっていただけだったのだ。結局ここにも私の居場所はなかった。

 

 

 

 勉強でも運動でも自分は結局中途半端だった。何のために頑張ればいいのかもう分からなくなっていた。やる気がない。何もない。ただ毎日を消化するだけ。悪目立ちするリボンを着ける事はもう止めた。もう私のような女なんて忘れているだろう。他のみんなと比べられないように目立たないようにすることを毎日心掛けていた。

 

私はバカだ。それはもう恐ろしいほどに。勉強をしていてもあんな感じだったのだ。運動もせず、何もない時間を怠惰に貪っていた私にはこうなるのも当然だ。私の学校では追追試まで不合格なら一瞬で落第する。それに引っ掛かった、それだけだ。決して狙ったわけでも無いが全力を尽くして勉強をしていたという事もない。悲しい事のはずなのに心は何故か高揚していた。正直、足枷になっているのが苦痛で仕方が無かった。やっと離れる事が出来る。

 

私は忘れていた。私に大きな負い目を持っているであろう彼女を。姉妹が離れてはいけないという思いにとらわれた彼女を。私の事を誰よりも考え、思ってくれた彼女を。私と同じかそれ以上に母に執着していた彼女を。全部、全部忘れていた。

 

結局私のせいで皆を不幸にさせてしまった。もちろん、私以外はトップレベルの成績だった。私さえいなければ、ずっとそう思っていた。私だって皆の事が大好きだ。大好きだから、迷惑を掛けたくなかった。私みたいなのが身内で、家族で、姉妹でごめんなさい。お母さん、ごめんなさい。

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