はあー、立香いねぇ、マスターもいねぇ、サーヴァントもそれほど揃ってねぇ   作:日高昆布

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ストックその3
感想・批評お待ちしてます。


その十二

「乱蔵!早くこっち来てくれ!」

 音楽家であるアマデウスは、前線で切った張ったなど英霊になってからは疎か、生前でさえ終ぞなかった。ついでに言えばやろうとも思わなかったし、できるとも思っていない。しかし戦況とマリーへの気遣いが噛み合った結果、バーサーカー相手に正面に立つ事になってしまった。

 しかもバーサーカーと相対しているパーティーはアマデウスを除いても、まともに戦えるのはマシュのみと言う有り様。1分と持たずに戦線は壊滅に瀕していた。だから彼は叫んだ。助けてくれと大声で叫んだ。

 GGー02〈サラマンダー〉より放たれたグレネード弾がバーサーカーに直撃。黒煙を纏いながら転がっていく。

「ご無事で!」

「こんなに肺と心臓を虐めたのは初めてだ」

 腰を下ろしたくなるほどに疲弊していた。

『皆、悪い知らせだ。ワイバーンとサーヴァントの追加だ。ただワイバーンはこちらには向かって来ていない』

であるならば奴らの向かう先は一つしかない。撤退途中のフランス軍だ。

「…………」

 誰も助けようと口にする事ができなかった。既に割けるリソースは底をついている。ここで全員でバーサーカーを退け、撤退しなければ全滅する。

 ——こうなる可能性は明確だったのに!自分が葛藤を見せてしまったせいだ……

 ジャンヌの心に自責の念が広がる。二兎を追わなければ、少なくとも自分達は撤退できていた。それがこの様だ。自らの命を賭けても尻拭いさえできない。唇から血が流れ出る。

「こうなっては食い破るしかありますまい」

 サラマンダーとスコーピオンに給弾しながら乱蔵が言う。自身の所業であるにも関わらず、どうやって、と叫びそうになる。そのジャンヌにスコーピオンが投げ渡される。慌てて得物を放り出し受け取る。

「それならサーヴァントも殺せます。先に戦った相手ならば、鎧は纏っていないはず。ならば殺せます」

 空いた腕にデストロイヤーを装備し、出力をMAXに。

「奴の相手は自分が1人でやります」

 ジャンヌよりも先にオルガマリーが叫ぶ。

「何言ってるの乱蔵!無茶よ!」

「分かっていますとも。だからそちらを早く片付けて助けて下さい」

 彼女の悲痛な叫びを、柳のごとく受け流す。

「その銃はこれを装備している内しか使えませんから。必ず自分が殺られる前に殺って下さい」

 そう言うと、既に起き上がっていたバーサーカー目掛け走り出す。

 制止しようとするジャンヌとオルガマリーを、ジークフリートが止める。

「足を引っ張っている身で烏滸がましいが、彼を助けるには言う通りにするしかない。一刻も早く敵を倒すのだ。それに彼は強い。それは君達がよく知っているだろう?」

 この刹那でさえ命取りになる。惑う暇はない。踵を返し走り出した。

 

 

 

 ワイバーンの群れに襲撃されたフランス軍は阿鼻叫喚となっていた。視界を埋める化け物に指揮官も兵卒も重篤な恐慌状態となり、抵抗も逃走もできずにいた。その最中、冷淡かつ喜色を含んだあまりに場違いな声が響く。

「食うにはまだ早いわ。直に戦局を鑑みれない竜の魔女がここに来る。その時に、奴らには無力さを、お前達には人間を存分に噛み締めてもらうわ」

 ——そしてその最後にあの男を殺す。

 カーミラは乱蔵への憎悪を募らせていた。奇妙な装備を身に付けていたとは言え、ただの人間を殺す事は疎か、手傷を負わす事さえできなかった。自らがサーヴァントであると言う事と、多勢と言う圧倒的なアドバンテージを持っていたにも拘らず、だ。自分でさえ目を覆いたくなる無様さ。いけ好かないマスターには口汚く罵倒され、反りの合わない吸血鬼には嘲笑された。そのどれもこれもが、あの男のせいなのだ。

 ——奴の仲間を1人ずつ徹底的に痛めつけてから殺す。その後で奴自身の四肢をもぎ、絶望と苦痛の中で殺す。

「ジークフリートとアマデウスはワイバーンを! マリーはフランス軍の誘導を! マシュとジャンヌはあのサーヴァントを!」

「了解しました、マスター(・・・)!」

 乱蔵がいない事に、カーミラは自覚しない安堵の溜息を吐いた。

 ——あの男がいなければどうとでもなる……

 カーミラは真っ直ぐに向かってくる2人を見て、考える。ジャンヌは言わずもがな。本来のスペックから大きく劣化した、障害とも言えぬ障害。もう1人の盾持ち。戦闘系でない以上に、経験不足が目立つ。先の戦いでの動きは只管受動的であった。能力は高いのかもしれないが、それを生かす経験値が圧倒的に不足しているのだ。

 ——であるならば、御しやすい!そしてマスターを捕らえる。

 自らの勝利を確信したカーミラは、歪な笑みを浮かべ走り出す。

 威迫的な装飾の施された杖を、上体の捻りによる勢いを付け横薙ぎに振るい、ジャンヌがそれを受け止める。拮抗状態を作れないジャンヌの有り様に、カーミラは益々笑みを深くする。

 踏ん張りきれずジャンヌは後退を余儀なくされる。草地を滑る。カーミラは追撃、ではなくマシュへとターゲットを変える。滑走からの突き。盾の曲面を巧みに使い威力を殺す。しかし反撃に移る事ができない。一端の武芸者から見れば拙くとも、マシュからすれば受けるだけで精一杯の連撃。その中の一発が縁ギリギリに当たる。盾を抜けかけた一撃に思わず、視界を塞ぐように構えてしまう。その瞬間、脇を抜かれる。

「マスター!」

 マシュの悲鳴を背に聞き、心地よさを味わいながらオルガマリーへと接近。マスターさえこの手中に収めれば、後は思うがまま。そう嗤った。

 マスターを狙う事は聖杯戦争に於いて定石の手段である。だからオルガマリーが無力なマスター《・・・・・・・》であると言う前提の元で動いたカーミラの戦術に落ち度はない。しかしその前提条件が間違っていればその戦術は根底から覆される。そう思考誘導したのはオルガマリー自身なのだが。

 視界に互いの顔しか映らなくなる程に接近した瞬間、強烈な爆発と共にカーミラは吹き飛ばされていた。

 何が起きたのか分からなかった。急速に離れていくオルガマリーを見て、「何故攻撃してもいないのに彼女は吹き飛んでいるのか」と状況が理解できない程に混乱していた。地面にぶつかり、胴体部分の触覚がごっそりと抜け落ちている事にも気付かなかった。空を仰ぎ見て漸く吹き飛ばされたのが自分なのだと気付く。そして腹部の激痛と共に大量の血を吐き出す。いつ攻撃を受けたのか、どれ程の傷なのか。彼女は混乱の極致にあった。傷の確認をしようとしても頭さえ上げる事ができない。震える手を伸ばし、触れて確認しようとしたが、どれだけ動かしても傷に触れられない。否、それどころではない。何故地面に手が落ちるのだ《・・・・・・・・・・・・》。血が止まらない。痛みが治まらない。

 霞む視界の中、誰かが何かを振り下ろそうとしている光景を見て、彼女は安堵した。

 

 

 

 

「所長!大丈夫ですか?!」

「肩が、すごく、痛い、んだけど。て言う、か、動かな、い」

 スコーピオンでさえ成人男性が撃っても反動で吹き飛ぶのだ。鍛えていない女性が撃てばどうなるかは、想像に難くない。彼女の肩は外れていた。今まで味わった事の無い痛みに、泣きが入る。

「い、痛い〜。らんぞう〜!」

「ら、乱蔵さんはまだ戦っている最中でして、えっと、さすればよろしいんでしょうか?!」

「触ってはダメです!」

 ジャンヌによるギリギリのインターセプト。

「服の上からですが、腫れもありません。恐らく脱臼したのかと。かなり痛いですが、戻します」

「……そ、れって、痛い?」

「大丈夫です!」

 答えになっていなかった。そして心構えをさせる暇を与えず、ガコンと言う音共に嵌め込まれる。一瞬の間を置いてやってきた激痛に、とうとう泣き出すオルガマリー。

「あ、ありが、と、う」

「どういたしまして」

 突然、内臓を震わせる轟音が響いた。その音にジャンヌが真っ先に反応した。

「この音は……!」

 救国の戦いの中で飽きる程に聞いた音。前線の兵士を鼓舞し、敵を怯ませる音。砲撃音。

 優秀な指揮官と、手練れの砲兵により一斉に放たれた砲弾がは、空を飛ぶワイバーンさえ撃ち落とす。

 全くの想定外の援軍が掲げし旗はフランス軍のもの。そして辣腕を振るう人物を、ジャンヌはよく知っていた。

「ジル……!」

 今すぐ話したかった。伝えたい事が沢山あった。謝りたかった。礼を言いたかった。

 その全てを抑え込み、視線を外した。

「あの様子ならば援護は不要でしょう。今すぐ乱蔵さんの援護を!」

 

 

 

 

 バーサーカーと言う存在を少し侮っていたのかもしれない、と乱蔵は自戒していた。マルタもサンソンも、無理矢理施された狂化により本来のクラスの特性も、バーサーカーとしての特性も発揮しきる事ができていなかった。故に理性を伴わない攻撃(・・・・・・・・・)がここまで苛烈で強力なものだと言う事を、この段階になって知る事になってしまった。真っ向から受ければアーマー諸共斬り裂いてしまう一撃必殺が連撃となり襲い来るのだ。

 肩部アーマーがひしゃげ、吹き飛んだ。

 何度も斬り結んだサラマンダーは亀裂が入っている。

 鋒が何度も掠め血に汚れたインナージャケット。

 打倒どころの話ではない。数度の斬り結びでそれを確信した乱蔵は、只管に時間稼ぎに徹していた。足を止めず、腕を止めず、思考を止めず戦い続けた。

 だが限界は訪れる。それは乱蔵の肉体ではない。

 頭部目掛け放たれた横薙ぎをサラマンダーで受け止めようとした瞬間、砕けた。その一撃が何故直撃しなかったのか、乱蔵自身にも分からなかった。バーサーカーの圧に負け体が引けていたのか、威力に恐れ頭部が逃げていたのか。何れにせよその一撃はMDSSを粉砕したが、左目の僅か数センチ下を斬り裂くに留まった。

 しかしそれは即死ではないと言うだけ。得物を破壊され致命的な隙を晒せば、2撃目を防ぐ事はできない。必死に思考し続けるが、武器同様限界を迎えていた肉体が動く事はなかった。

「やらせません!」

 マシュの突撃。面ではなく下端部による刺突は、バーサーカーを吹き飛ばすに十分な威力を持っていた。地面を数度跳ね、更に転がっていく。その隙を逃さず、ジャンヌがスコーピオンで狙い撃つ。比較的近距離とは言え、全発命中とはいかずとも確実にヒットさせる腕前を彼女は持っていた。

「私達で時間を稼ぎます。その間に治療を」

 十全には程遠い状態であるジャンヌが最前線に出張る事は難しく、彼女の援護を受けマシュが単独で戦うしかなかった。しかし防御に特化した彼女が倒す事もまた難しく、厳しい戦いを強いられていた。

「乱蔵! 大丈夫?!」

 オルガマリーの必死の呼び掛けに応える余裕さえなかった。震える腕で、完全に機能停止したヘルメットを強引に取り外す。血管の集中する箇所を斬られた事で夥しい量の血が流れていた。思わず絶句する。

 その様子を見て乱蔵は漸く口を開いた。

「そこそこ、深い、ですが、視力に影響はありません」

 どうにか体を起こし、全身のアーマーを取り外していく。礼装を解除するとスコーピオンを含む全ての装備が消滅するため、こうした方法でしか脱ぐ事ができなかった。

「今傷の治療をするから」

 顔に翳そうとする手をそっと止める。怪訝な顔をするオルガマリー。

 汗と混じり粘性を失った血液が、顎を伝いポタポタと滴り続ける。

「痛みがある方が意識を保ってられる故、治療は結構です」

 それはつまり、それほどギリギリの状態になっていると言う事。自分達に任せて下さいと言えない事に苛立ちを感じるジャンヌ。

 立ち上がった乱蔵は、眼前で腕を斜めに交差させながら息を深く吸いピタリと止める。腕を下ろしながら息をゆっくりと全て吐き出す。逆腹式呼吸方を用いた息吹。それを数度行い乱れた呼吸を整える。

 動悸はまだ治らないが、息切れは解消できた。手足に痺れは未だ残るが、動かす事に支障はない。そうだ判断した乱蔵は、新たな礼装を取り出す。G3は元より、ギャバンも耐久値に不安があるため、ここで最後の1枚を切る事を決めたのだ。

 カードが消え、乱蔵の両手首にブレスレットが装着された。左には金の装飾が施され、右には赤い石が収められている。

「超力変身!」

 左のスーツバックブレスと右のエネルギーブレスを十字にクロスさせる事で、バックブレスに圧縮内蔵されているOver tech Hard wareスーツが放出。ワイヤーフレーム状で装着され同時にスキャン。乱蔵専用にフィッティングされたスーツが形成。

 真紅のスーツに、星を象ったバイザー。その名を「オーレッド」。




クリスタルスカイは名曲!
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