はあー、立香いねぇ、マスターもいねぇ、サーヴァントもそれほど揃ってねぇ   作:日高昆布

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ストック終わり。何とか定期更新をしたい
感想・批評お待ちしてます。


その十三

 乱蔵は回想する。

 先の戦いに於いて、バーサーカーの圧倒的な力により殺害を早々に諦め時間稼ぎに徹していた。一流の技術を修めている自負があり、これまでの戦いからもそれは英霊相手にも十分通じると思っていた。それが井の中の蛙だと思い知らされた。理性を取っ払った、歴史に名を連ねる猛者を相手取るにはあまりに力不足であった。

 真面に受け止めれば骨が軋み血管は破れ、往なせば刃が削れた。その上往なしさえ完璧に行えず、刃を交える度にダメージが蓄積し最終的には破壊された。

 ——このサーヴァントには自分の技術は通じない……

 しかしそれは勝てぬ事と同義ではない。尋常の術が狂戦士に通じぬと言うのならば、同じにようになればいい(・・・・・・・・・・・)。技を捨て、恐れを捨て、己を殺意に染め上げる。然すれば必ずや届く。

「〈スターライザー〉!」

 バイザーにかざした手に収まる、鍔部分の赤い星のエンブレムが特徴的なサーベル。それを真っ直ぐに構え多段飛びで加速し、バーサーカーへと鋭い刺突を繰り出す。鎧を凹ませる程の威力に地を削りながら退がる。

「乱蔵さん!もう平気なの、わっ?!」

 質問に答えず、再び距離を詰める。バーサーカーは既に体勢を立て直し、迎撃の構えを見せている。互いの間合いに入った瞬間に振るわれた各々の得物は、その軌跡を交わせる事なく、両者の胴体を斬り裂く。反転した刃が体を捉え再び火花を散らせる。

 振り下ろしが互いの体から火花を散らせる。

 横薙ぎが互いの体から火花を散らせる。

 袈裟斬りが互いの体から火花を散らせる。

 晒されている箇所への攻撃から、まるで鏡写しのような動きになっていく。

 怯まず、惑わず。それは斬り結びではない。技術も駆け引きも防御も捨てた斬り合い。それはまるでバーサーカー同士の戦いを見ているようだった。

 肩口目掛け振り下ろされたスターライザーを、直撃と同時に握り込まれる。咄嗟に振り解こうとするが、引くも押すも叶わぬ握力。その僅かな隙をバーサーカーは見逃さない。吹き飛ばされそうな程の一撃が脇腹に叩き込まれる。口から飛び出し掛けた悲鳴を、歯が割れんばかりに食いしばり噛み潰す。

 スターライザーの奪還を諦め手放し、逆にバーサーカーの宝具を抑え込む。ホルスターから〈キングブラスター〉を抜き、接射。鎧を穿つ。宝具を抑え込んだ事により離脱をさせず、何発も撃ち込む。その威力に脅威を抱いたバーサーカーはスターライザーを手放し、乱蔵の顔面を殴打。それをしゃがみ回避。落下するスターライザーを掴み、屈伸の反動を利用し斬り上げる。真面に食らったバーサーカーは火花と共に浮き上がる。さらに回し蹴りによる追撃。地面を弾みながら転がっていく。

 天秤を傾ける大きな隙。しかし乱蔵もまた、膝をついていた。直前の一撃によるダメージのせいだ。刺すような痛みが脈動と共に襲い来る。折れていない事が不思議な程の威力。どこかに痛覚だけ殺してくれる薬はないものかと、真剣に考えてしまう。

 すでに立ち上がっているバーサーカーが、手放した剣を拾おうとしている。先程までの外観と大きな差異がある事で、乱蔵はそれがバーサーカーの能力か何かである事に気付く。ならばと、キングブラスターを撃ち込む。予想通り、破壊に成功。それだけで戦況が有利になる訳ではないが、いくらかはマシになった。

 当然だが己の得物が破壊されても動揺は一切していない。ただ視線を乱蔵に向けているだけ。

 乱蔵の思考もやがて痛みを忘れ始める。スターライザーを地面に刺し、代わりに左ホルスターの〈バトルスティック〉を取り出し、キングブラスターの上部に取り付ける。完成した〈キングスマッシャー〉を構える——同時に、まるで示し合わせたようにバーサーカーは駆け出した。ブラスターの3倍の威力を誇るスマッシャーを食らいながら、減速せず突っ込んでくる。確実にダメージを負っているが、その前に距離を詰められる。そう判断した乱蔵はスマッシャーを投げ捨て、スターライザーを手に駆け出す。

 彼我の距離が2mを切る。バーサーカーが跳躍。落下エネルギーを伴う、爆撃のような拳撃。地面が弾け飛び、双方を砂塵で隠すが、それも一瞬。砂のカーテンを突き破り、バーサーカーが転がり出る。それを追う乱蔵。赤いスーツに刻まれた焦げ跡が、先の一撃をどのようにして回避したのかを物語っている。

 地面を叩き強引に体勢を建て直し、再び駆け出すバーサーカー。乱蔵の振り下ろしに対し、更に一歩踏み込み、拳を叩き付けた。破れかぶれの一撃ではない。乱蔵の一撃に力が乗り切る前に、己の拳をぶつける事で防御しているのだ。更に両拳を使えば得物の数で上回る。瞬く間に攻防が入れ替わろうとしていた。

しかし——

「?!」

 バーサーカーの拳に亀裂が入る。

 動きに影響せずとも、初めて動揺を露わにした。

 何をしたのか?それは酷く単純な事だ。拳をぶつけられる時点で威力が乗り切っていないのならば、そこがピークになるようにすれば良い。過剰な魔力を全身に流す事で更なる強化を施し、より速く、より力強く動く。ただそれだけだ。

 ぶつかり合う度にバーサーカーの拳に亀裂が広がり血が噴出し、乱蔵の皮膚が裂け血が噴出する。

 眼から流れ出た血が顔を伝っている。マスク内に血の匂いが充満している。もう止めろと体が叫んでいる。その一切合切を無視して振るい続ける。命さえ無視して。

 その執念が道を拓く。

 スターライザーがバーサーカーの拳を半ばまで断つ。しかしバーサーカーも尋常の存在ではない。筋肉を限界まで収縮させ動きを止めたのだ。それだけに留まらず無事な拳を繰り出す。それを受け止める乱蔵。渾身の力を込める両者。

 僅かずつ刃が進み、僅かずつ拳が押し込んでいく。

「貴方と言う人は本当に……!」

「もう少し私達の事も頼って下さい!」

 バーサーカーの背後。スコーピオンとキングスマッシャーを構えたジャンヌとマシュが立っている。今度の動揺は大きかった。

 2人の声を認識したバーサーカーは離脱を試みようとしたが、それより早く射撃が始まった。2つの銃による同一の箇所への連射。鎧に穴が穿たれた。獣の叫びが響き渡る。

それは致命の瞬間。

「おおおおおおお!!」

 防御の手を放し、同時に前傾姿勢になる事で拳撃を回避。外した手をスターライザーに携え、全体重を掛ける。筋肉の収縮の力を超え、腕を両断。体が更に前傾になる。もう乱蔵の迎え撃つ術はない。

 足指関節から始まる全身の関節を捻る。音速に迫らんばかりの速度。刃の向かう先は腰部。

 それまでの苦闘が嘘のようにあっさりとバーサーカーを断った。泣き別れした上体が宙を舞い飛んで行く。

 

 

 

 バーサーカーを倒したと言う安堵を感じる間も無く、オルガマリーは乱蔵の下へと走った。

 あんなノーガード戦法で無事でいられるはずがない。

「乱蔵!貴方、何て戦い方をするのよ!」

「お叱りは後で受けます。ワイバーン供は?」

 乱蔵の言葉に釣られ、皆が視線を動かす。それに示し合わせたように、小高い丘の稜線よりマリーが姿を現した。笑って手を振っている所を見るとあちらも無事退けられたのだろう。こちらが思ったような反応をしないためか、ぴょんぴょんと跳ねている。次いで姿を現したアマデウスに窘められ、全員が坂を下って来る。

 欠員も大きな怪我も見受けられない事にホッとした瞬間、乱蔵の視界はブラックアウトした。

 

 

 

「乱蔵っ、乱蔵!」

 礼装が外れた乱蔵の姿は酷いものだった。斬られた顔以外に全身に裂傷が見られた。それ以上に眼と鼻からの出血がオルガマリーを動揺させていた。

「ロマ二、どうしよう?!」

 涙を溜めながら縋るように叫ぶ。

『マリー落ち着いて。露出している皮膚の状態を教えてくれ』

「皮膚の状態って言ったって、あちこち裂けてて、血がいっぱい出てて」

 このまま死んでしまうのではないのか。オルガマリーの思考は最悪の事態のみを想定していた。「想定」と言う冷静な代物ではないが。

「マリー落ち着いて。ゆっくりと息を吸うの。わたしに合わせて。ほら乱蔵もちゃんと息をしてるわ」

 彼女の手をそっと取り、背中をさすりながらマリーが一言一言を言い聞かせるようにゆっくりと言う。

「……焦げ跡があるわ」

『複数箇所にあるかい?形は?』

「いくつかあるわ。形は……直線的だと思う」

『分かった。焦げ跡は魔力を過剰に流した事による回路の焦げ付きだ。出血もそれに伴うもので、細い血管がいくつか切れてしまったものだ。眼と鼻の出血は続いてるかな?』

「どっちも止まってるわ。脈拍と呼吸も落ち着きつつある」

 ロマ二の質問に答えていく事で彼女自身も、乱蔵の状態を把握しつつあった。

『うん、こっちでもバイタルが戻りつつあるのが確認できた。大丈夫だ。失神したのは疲労によるものだろう。時間が経てば眼を覚ますよ』

 一行から大きなため息が漏れた。心情的、戦力的にも乱蔵の存在は非常に大きなものとなっている。

「殿方は傷を勲章にしたがるけど、こんなに心配させるのはどうかと思うわ」

 頬を膨らませたマリーが、乱蔵の頬をつつきながら言う。

「ジャンヌ!」

 ハッと振り返る。部下の制止を振り切り、男性が単独で駆け寄って来ていた。

「ジル……!」

 絶対の信頼を置いていた腹心。彼女が処刑された事で狂気に走ってしまった男。ジル・ド・レェ。

「やはり、やはり……!貴女は紛れもなくジャンヌ!」

 歓喜にその身を打ち震わせていた。言いたい事が多すぎた。膨大な感情が言葉にできず、胸の内でグルグルと回っている。

「例え、常途の存在ではなくとも、今一度会う事ができるとは……!」

「ジル……私は」

「詳しくは聞きますまい。確かに殺されてしまった貴女がここにこうしている。そして対をなすような存在がこの国を蹂躙すると言う、超常の現象が起きている。貴女方はそれをどうにかしようとしているのでしょう?」

 事ここに至ってしまえば、何も伝えないと言う訳にはいかないと思っていた。

 ジャンヌが口を開こうとしたタイミングで、ジルがそれを遮る。

「聞きますまいと言いました。今私ができるのは、些少の手伝いのみ。少しお待ち頂きたい」

 一度部下達と合流すると、馬車を引き連れて再び戻って来た。

「そこの青年を連れての行軍だと時間も掛かりましょう。この馬車を使って下さい。それと少ないですが、医療物資です。彼に使ってあげて下さい」

「ジル……。行きましょう、オルガマリーさん」

「……分かったわ」

 大局のために。全てはそのために。だから、ジャンヌもオルガマリーも何も言わなかった。

 荷車に乱蔵、オルガマリー、マシュ、マリーが乗り込む。

「ジル。貴方は昔も今も私を支えてくれました。貴方と会え、共に戦う事ができてよかった。ありがとうございます」

「それはこちらの言葉です。貴方に仕え、共に戦う事ができ幸福でした。ありがとうございます。語れば尽きません。さあ、もう行って下さい」

 走り始めた馬車を追い、彼女も走り出した。

「ジャンヌ、良き旅路を」

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