はあー、立香いねぇ、マスターもいねぇ、サーヴァントもそれほど揃ってねぇ   作:日高昆布

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オーレンジャーロボは、筆者が初めて買ってもらった玩具。因みに頭を踏んづけて大怪我しました。
感想・批評お待ちしてます。


その十四

 僅かに感じる擽ったさに、泥の底に沈んでいた意識が浮上し始めた。まだ眠っていろと纏わりつく泥を掻き分け、光に向かって進んで行く。水面に浮上と同時に意識が覚醒。視界を覆い尽くすオレンジ色の何か。やがてピントが合うとそれが繊細かつ上品な作りをした衣服の一部である事が分かった。

 視界と共にクリアになっていく脳が、該当する人物を弾き出す。同時にそれが衣服のどの部位に当たるのかも判明。オルガマリーの胴体部。と言うより胸部。胸。乳房。が服越しとは言え目の前にあった。状況把握と共にすわ何事かと冷や汗が流れ出るが、体の触覚から包帯を巻かれている事に気付く。

 取り敢えず理解の範疇を超えた事が起きていない事に安堵する。しかし凄まじく気不味かった。短い生涯だがここまで視線のやり場に困った事はなかった。そしてこれを超えるような事態が起きない事を願わずにはいられない。

ーー……心なしか、近付いていないか?

 否、確実に近付いていた。先程まで平手が入る位の隙間はあった。今や紙一重になっていた。顔よ潰れろと願うが叶うはずがない。そうこうしている内により接近して来ている。最早鼻先に触れている気が、いや触れていた。乱蔵の知識の中にこの局面に役立つものは何1つとしてなかった。

 進退困窮極まった乱蔵は遂に、セルフ失神する事を決意した。

出来なかった。

 起きていると気付かれたら、間違いなく以降のコミュニケーションに大きく支障を来す事になるだろう。そしてそれをフォローする術を乱蔵は持っていない。迷いに迷った挙句、良きものでした、と盛大に方向性を間違えた気遣いをするだろう。つまり少なくとも彼女が離れるまでは寝ている振りをし続けなければならないのだ。

ーー……。

 敵サーヴァントと戦っている時の方が気が楽なのでは、と彼は戦慄した。

 

 

 

 これは天国と評する者がいたら心身両方から詰め、正気を問い質したくなるような終わりの見えない危機的状況が漸く終わった。正座が辛く膝枕をローテションし始めようとしたタイミングで、覚醒したフリをした。このタイミングを逃し、もしマリーが立候補するような事態になれば、畏れ多すぎて寝たフリなどできるはずがなかった。そうなれば痩せ我慢だけは一流の乱蔵では、動揺から治療中に起きていた事が高確率でバレていただろう。

 そんな彼は現在、正座、は怪我人には辛いだろうとの事で体育座りで説教を受けていた。説教と言うよりは、オルガマリーによる泣きの入った無言の説教なのだが。先の事も加えて罪悪感と気まずさが綯い交ぜになった表情となっていた。

彼女とて乱蔵の奮闘無くして人理修復が不可能である事は十分に理解している。そしてその事で乱蔵を詰問する事は同時に、ジャンヌら英霊を責めている事と同義であるため、何も言えずに涙目で睨むだけになっているのだ。お陰で外での話し合いが良く聞こえている。

「マリー?入っても大丈夫かしら?」

「え、ええ。大丈夫よ」

 目元の涙を拭い、入室を促す。

 無言の説教が相当堪えたと見える乱蔵を、多分の申し訳なさと少量の可笑しさを含んだ表情で見つめる。

「取り敢えず指針が決まったのだけど、こちらに来てもらってもいいかしら?」

「分かったわ。乱蔵も大丈夫かしら?」

「問題ありません」

 一行は現在、馬を休ませるために廃城にて休息を取っていた。放棄するタイミングが早かったのか、比較的原型を留めている。

『よし全員揃った事だし、もう一度これからの行動指針を確認しよう』

 サーヴァントの召喚ができず確実な戦力拡充が不可能な現状では、現地での協力的な野良サーヴァントの存在は非常に重要なものである。それがジークフリートのような高名な英霊ともなれば一押しである。加えてファブニールへの絶対的なアドバンテージを持つ彼を腐らせておくわけにはいかない。

 そんな彼の体を蝕む幾多もの呪いの解呪。そのためには、ジャンヌ・ダルク(竜の魔女)のカウンターとして召喚されているであろう聖人を見つけ出さなくてはならない。

『彼、もしくは彼女がいる町は比較的無事だと考えられるから、それを探索時の1つの目安にしてほしい』

「その町はそちらで見付ける事はできるのかしら」

『すみません、そこまでの詳細な情報はこちらからは無理です』

「無闇矢鱈に探すのは愚策すぎる。分散するのはもっと愚策。どうしたものかしら……」

「それでしたら、自分の礼装で偵察できるかと」

『ええ?!乱蔵君、そんな装備持ってたの?』

『何故それを教えてくれなかったんだね?!水臭いじゃないか』

「申し訳ありません。カードだけではどんなものなのかが分からず。先に装備したオーレッドと出典を同じにするものらしく、それで判明しました」

 乱蔵が取り出したカードを皆が覗き込む。

「赤い鳥?これは使い魔の一種?」

「随分と機械的な外見ですね。フォウさんと比べると撫でにくそうです」

「そうかしら。結構可愛らしいと思うけど」

「君は相変わらず独特なセンスをしているね」

「これがあれば探索をより効率的に行えるわけですね」

「……大きさが。いやよそう何でもない」

 思い思いの感想を述べる面々。

「ジークフリート殿は流石の見識ですな」

 外に出た乱蔵が言う。その言葉に皆が顔を見合わせた次の瞬間、大質量の何かが廃城を揺らす。何事かと外に出ると、そこに鎮座するカードに描かれた赤い鳥。違いは見上げる程に巨大であると言う点だけ。

 皆が呆然と見上げる中、黙々と搭乗準備と進める乱蔵。

「超力変身!」

「なななな何よこれ?!」

 全員の疑問を代弁し叫ぶオルガマリー。

「これは〈スカイフェニックス〉です。5機のマシンで構成される巨大人型兵器の頭部を担当するマシンです」

「これを使ったらもう少し楽に戦えたんじゃ」

「普通の航空機にも乗った事がないのに、これを自在に操れると思いますか。敵味方関係なく攻撃した挙句、墜落します」

 攻撃手段を持ち、並大抵の攻撃では傷も付かないが、対サーヴァントとして使用するには余りに巨大過ぎた。当たれば打倒は確実に可能であるが、それを操縦するのはあくまで乱蔵であり、操縦方法が分かっていてもそれを活かせる技術を持っていないのだ。

「では偵察に出ます。離陸時の突風が凄いと思いますので、城に戻っていて下さい」

「待って。通信機を渡しておくわ。……通信できるわよね?」

「恐らくできるかと」

 飛び上がり搭乗ーーではなく、赤い光となり機体に吸い込まれていった。

 危ないとは言われたものの、エンジンの見当たらないこの機械がどう翔ぶのか、全員が気になっていた。

 甲高い音ともにまるでVTOL機の様に垂直離陸する。強烈な突風はあるが噴射跡が見えない摩訶不思議な光景。緩やかに上昇しオルガマリーらに影響がない高度に達すると、機首を上方へと転換。スロットルをアイドルからクルーズへ。枷を解き放たれた鳥はあっという間に高高度まで上昇していき、小さな点になった。

 

 

 

 

「こちら乱蔵。聞こえますか?」

『聞こえてるわ。感度も良好よ』

「こちらの感度も良好です」

 通信機器が問題なく使用できる事を確認すると、機体を僅かに傾け、地上を視界に収める。

点在する大小の町。どこもかしこも黒煙を上げ、瓦礫の山となっている。徹底した破壊に、ジャンヌ・ダルク(竜の魔女)の憎悪の深さを改めて感じる。自分がそれを言う資格を持ち得ていない事は分かっていても、彼女への仕打ちには同情の念を禁じ得ない。もし彼女の復讐が、この旅と交わらぬ所での出来事であったなら、止めようとは思えなかっただろう。

 しかしジャンヌ・ダルク(聖処女)との乖離具合は機になる所である。憎悪の否定が意地によるものではない事は分かる。英霊の側面が独立し別個体となるのは稀にある現象らしいのだが、彼女らの場合はどうにも違うように感じられる。かと言ってそれに代わる様な考えがある訳ではないのだが。頭脳労働は所長殿に任せよう。

「ん」

 僅かに高度を下げつつ機体をロール。候補に該当する町を発見した。

 廃城からの方角と距離を確認。

「所長殿。該当する町を発見しました」

『よくやったわ。サーヴァントが見えたりはしない?』

「見えませ、いえ訂正を。詳細は不明ですが2つ人影が見えますな」

『!早速向かうわ。乱蔵はなるべく離れた所に着陸して』

「了解」

 大きく旋回させながら高度を落としていく。着陸シークエンスに入り、間もなく着陸と言うタイミングで見落としていた重大な事に気付く。

ーー鉤爪でどうやって着陸すれば良いのだ?!

 航空機はランディングギアと呼ばれるタイヤを接地する事で着陸を行うのだが、これにはない。形や機能自体が既存の航空機と類似していただけに、搭乗時に見ていたはずなのに思い込んでいた。強行しようかとも考えたがこの速度の上、鉤爪で接地しようものなら間違いなくバランスを崩し大惨事になる。町に突っ込むだけなら良いが、英霊を巻き込んでしまう事だけは何としても避けなければならない。

ーー鉤爪を収納して不時着するしかない!

 

 

 

 

 ティーンエイジ特有の高い声で互いを罵り合う2人。少々の物音では動じないし、そもそも聞こえない程にヒートアップしていた。だが徐々に大きくなり、どこからか聞こえる振動を伴う甲高い謎の音には止まらざる得なかった。

「何よこのうるさいの!」

「貴方の声の方が、……あれは鳥?」

「……縮尺が可笑しい気が、って言うかこっちに来てない?!」

 それは間違いなく巨大で、間違いなくこの町目掛け直進している。

 埒外の光景に逃げる事も忘れ不動にてそれを目で追い、町の手前に墜落する。砕氷船のように地面を砕き吹き飛ばす。やがてそこに灰色の、粉砕された石が混じり始める。町に突入したのだ。破壊を免れていた石造りの建造物や路面の一切合切を粉砕しながら町を突っ切り、送迎に来た様に2人の眼前にてゆるりと停止する。

 はしたなくも口をポカンと開けてしまう。思考が復活しないまま見続ける事数秒。顔に当たる部分の一部が開いた事で我を取り戻す。

 真っ赤な鳥から現れた真っ赤な人?らしき何かは、腰を抜かす一歩手前のような屁っ放り腰で鳥の上を這っている。

何とか這々の体で地面に降りると瓦礫に腰を降ろし呟いた。

「……死ぬかと思った」

 あ、男なんだ、と2人は思った。

 不意に顔を上げると2人と目が合った。しばし無言で見つめ合うと、ゆっくりと腰を浮かす。そこで2人はそれが腰回りに武器を携えている事に気付く。敵か、と動こうとする彼女らより先に、それは正座していた。そして土下座。

「ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ありません」

「あ、うん。いいけど」

「怪我もありませんし」

 赤い鳥の豪快な墜落に赤い人の綺麗な土下座。毒気や敵意を持てと言う方が無理な状況。2人は謝罪を受け入れた。

「ありがとうございます。こんな状況で申し訳ないのですが、お二方にお聞きしたい事がありまして」

「その前に、その、貴方何?敵じゃないのは分かるけど」

「失礼ですけど、あまりに奇怪な出で立ちで、その正直落ち着かないのですが……」

「む、これは失礼しました。これで大丈夫でしょうか」

 一瞬のうちに消える赤い服に、それが宝具なのでは、と考えたが口には出さず言葉を待った。

「自分は三船乱蔵。カルデアと言う組織に属する魔術師です」

「私はエリザベート・バートリー。本当に魔術師なの?」

「わたくしは清姫。……彼が魔術師と言うのは本当のようです」

「本当ですとも。お二方に伺いたいのは、聖人の英霊をご存知ないかと言う事です」

「聖人ですか。この国に広く根付いた教えの聖人なら心当たりがあります。エリザベートと出会う前に遭遇してます。彼の名はゲオルギウス」

「おお、本当ですか。その聖人はどちらに」

「西側に向かいましたわ」

「ありがとうございます!」

 深々と頭を下げる乱蔵。

「所長殿。着陸には失敗しましたが、コンタクトと情報収集には成功しました」

 何て温度差のある報告内容なのだろう、と2人は思った。

「こちらではなく、西側の町に向かったそうです。合流するよりは、各々で向かいましょう。…………スカイフェニックスは今度は使いません。不時着はもう懲り懲りです。移動手段はありますので、大丈夫です。…………では現地で」

通信を終え立ち上がる。

「ねえ、アンタ達ってあのいけ好かない魔女とか吸血鬼の敵なの?」

「そうです。彼女らの打倒が目的です」

「ふーん。じゃあ手伝ってあげる」

「……不義理を働きたくないのでお伝えしますが、こちらの陣営の方が遥かに不利です。何せ現状、主戦力かつ最大戦力が自分ですから」

「本当のようですね。英霊と渡り合う魔術師ですか。何とも奇怪な人ですね」

「て事は、私が主役って事じゃない!ふふふ、私の時代が来たみたいね」

 場違いな喜色満面の反応を返す。些か不安になるが、善良よりな性根である事は確かであった。

「さあ行くわよ、清姫!」

「何故わたくしまで……。まあこの瓦礫の山にいてもやる事はないので構いませんが。それでどうやって向かうのですか」

「バイクに3人乗りで行きます」

 同行を決めた2人は少しだけその選択を後悔した。

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