はあー、立香いねぇ、マスターもいねぇ、サーヴァントもそれほど揃ってねぇ   作:日高昆布

16 / 18
俺もマリーとジャンヌにサンドイッチされたいな


その十六

 その懐かしい名前を聞いた時、マリーは旧友との再会に喜び、同時に彼女が敵となりフランスを害する存在となってしまった事に悲しみを覚えた。以前にも乱蔵から聞いていたが、改めて聞かされる事で彼女が敵となってしまったのだと強く認識させられた。

「ねえマリー。乱蔵のお手伝いに行っても良いかしら?」

 無茶を通り越した無謀な提案に、全員がギョッとする。その反応に慌てる事なく言葉を重ねる。

「もちろん一緒に戦う訳では無いわよ?デオンには悪いけど、私がいる事で彼女の動揺を誘えると思うの」

 そう言う事かと納得するが、どちらにしろ危険極まりない事に違いはない。護衛の戦力を捻出する事さえできないのだ。簡単に承服できる事ではない。しかし狙い通りに事が進み、乱蔵の消耗を抑える事ができるならば無茶をする価値はある。

 だがもしマリーが死んでしまったら。所詮は過去の存在であり、死の意味合いも異なる。座に戻るだけーーと割り切る事ができればこんな苦しむ必要はない。彼女はこんな不甲斐ない自分を友人だと言ってくれた。そんな彼女の死を許容できる訳がない。

「そんな泣きそうな顔しないの。大丈夫よ。いざとなったら、乱蔵が守ってくれるから。だから大丈夫」

それでも命令を下す事ができずにいた。そんなオルガマリーに思わぬ人物から助け舟が出された。

「マリアを行かせてやってくれないか」

「アマデウス……」

「それが自分の成すべき事だと思った彼女は、梃子でも泣き喚く赤子でも動かせない」

 変わらぬその頑固さに、呆れと喜びを見せるアマデウス。その言葉はオルガマリーに、前向きな諦めを抱かせた。

「ここでは何も言わないから!もし死んだりしたら、ずっと根に持つから!」

「ふふ、そうね。私もしっかりお別れしたいから。ちゃんと戻ってくるから安心して。ね?マリー」

 

 

 

 刺突の交わり。刀身を回転させる事で力の流れをコントロールされ、スターライザーを限界まで跳ね上げられた。対してそれを僅かな動きで成したデオンは、踏み込みと同時に振り下ろす。胴体を斜めに斬り裂かれる乱蔵。火花を散らす。致命ではない。しかし痛みの硬直から抜け出せなかった。振り切りと同時に引き戻されたサーベルの刺突を真面に受ける。タタラを踏み切れず倒れ込む。止めの追撃をゲオルギウスが弾く。

「本調子ではない様ですね」

「面目次第もありません」

「それだけの激戦を切り抜けてきたのでしょう。ご自身の体を労ってあげなさい」

 動きが鈍くなるまで、明らかに早くなっていた。普通に戦っていたら先にスタミナが尽きてしまう事は確実だろう。後が怖いが、もう一度限界ギリギリの全身強化をやるしかない。腹を括ろうとしたその時、思わぬ人物が声を張り上げた。

「デオン!」

「!!マリー、王妃……」

 痛む体を押してマリーの前で構える。ゲオルギウスもそれに追従してくれる。

「何故ここに?!」

 構えを崩さぬまま問う。何かしらの思慮があったとしても、あまりにも無謀な行動に語気が荒くなる。マリーはそれに答えず、何故か嬉しげな表情でデオンに話しかけた。

「ねえデオン。乱蔵はね、私の新しい騎士なの。只の人で、堅物で、優しくて、強くて、どんな困難にも立ち向かえて、絶対に折れない心を持ってる、私の騎士なの」

「……っ!」

 噴出しようとする狂化の衝動に抗おうと、デオンは自身で腕を抑え込んでいた。

「貴方も私の騎士で、乱蔵の先輩なの。だからそんな衝動に負けてしまってはダメよ。乱蔵なら絶対に耐えられるんだもの」

 雲の上の存在による叱咤激励で正気を取り戻そうと言う魂胆か。それとも動揺している内に打倒せよと言う事なのか。一旦見に回る事にした。今の内に息を整えよう、と深呼吸を繰り返す。

 それにしても何故かは分からないが、随分な過大評価を受けているようだった。敵を目の前にしてどうかとは思うが、その褒めっぷりに多少の羞恥を覚えてしまう。

「私は、許されない、事をして、しまい、ました。守る、べき、無辜の民を傷付け、剰え、王妃に、剣を向けようとして、います」

 余程抗い難い衝動なのだろう。力みにより全身を震わせながら、途切れ途切れに懺悔の言葉を口にする。

「竜の魔女は」

 その言葉を口にした途端、吐血した。その先を言わせんと、肉体が拒否しているのだ。今彼女の肉体には想像を絶するような激痛が走っている筈だ。

「オルレアン、に、います」

 そんな痛みなど、民を殺した事に殺してしまった事の、殺してしまった者の苦痛と比ぶべくもない。そう言わんばかりに、一矢報いてやったと言わんばかりに、不敵で清然とした笑みを浮かべていた。夥しい量の血を流しながら、それでも笑っていた。

「これ、が、私に、できる唯一の、償いです」

「ありがとう、デオン。ごめんなさい」

「感謝も謝罪も私がしなければならない事です。貴女にお会いでき、なければ、私は無念と自身への失望を、抱きながら討たれていたでしょう。ありがとうございます。そしてこんな、役目を負わせてしまい、申し訳ありません」

 視線を乱蔵に移す。

「王妃の、新しい騎士よ。介錯を、頼めないかな」

 頷き、踏み出ーーーー上空より全てを圧壊せんとするプレッシャーを感じた。

『上から来るぞ!』

ファブニール!

「一切合切を焼却してやるわ!」

「やらせはしない!『百合の花舞う百花繚乱(フルール・ド・リス)』!」

 宝具を使用する事が致命となると分かっていても、彼女に迷いはなかった。王妃を、そして世界を救わんとする騎士を殺させる訳にはいかなかった。

 全魔力と引き換えに放たれる絶技。フランス王権を象徴する百合が、町を覆い尽くさんばかりに舞い散った。デオンの生き様が宝具に昇華されたそれは、見る者全てを惑わす。ファブニールの中に攻撃への惑いが生まれた。臨界を過ぎた炎が四散していく。

「ファブニール!」

 魔女の憎悪の声が惑いを塗り潰す。だがそれで十分だった。マリーへの感謝と、乱蔵への激励を胸にデオンは炎の中に消えた。

 

 

 

 デオンの犠牲により、辛くも必死圏内からの離脱には成功した。しかし余波からの離脱は叶わなかった。瞬く間に迫る炎の津波。

ーーどう凌ぐ?!

 自分は問題ないが、マリーが耐えられるとは思えなかった。抱き込みを考えた時、ゲオルギウスが自身の剣を地に突き立てているのが見えた。視線が合う。防ぎ切れると確信している目であった。乱雑になってしまう事を詫びつつ、マリーを彼目掛け投げた。

「『力屠る祝福の剣(アスカロン)』!」

「乱蔵?!」

 後のフォローはゲオルギウスに任せ、全身に強化を施しながら、少しでも被弾面積を減らそうと極端な前傾姿勢になり眼前で腕を並列に組む。次の瞬間、体が浮き上がっていた。備えの全てを無に帰す衝撃。枯れ葉のように吹き飛ばされる。建物をいくつもぶち抜きながら、5戸目の家屋を破壊した所で地面に落ち、止まる。

 大の字のまま、動かなかった。自分が空を見上げていると言う事も認識できない程に、意識が朦朧としていた。

『……へ……し……らん……』

 声の混じったノイズ。

『……ん……ぞ……ら……ぞう……んぞう!乱蔵!』

 数度の繰り返しでだんだんと明瞭になっていき、それが泣きながら自分を呼んでいるオルガマリーの声だとようやく認識する。

 意識の覚醒と共に、呼吸を止めていた事に気付く。激しく嘔吐く。

『乱蔵?!生きてるのよね? !返事をして!』

「五体、満足で、生きております。そちらは?」

『良かった……!こっちは全員無事よ。マリーとゲオルギウスは?』

 辺りを見回し、そこで初めて相当な距離を吹き飛んで来た事に気付く。

「少々お待ちを」

 軌跡となっている家屋の穴を辿り戻ろうとすると、それを遮る様に人ゲオルギウスが姿を見せた。

「ご無事で何より」

 マントに多少の焦げ目はあるもの本人は無傷であった。しかしそれより確認しなければならない事がある。

「マリー殿は?」

「囮になると」

 顔を伏せ僅かに逡巡し、すぐに決断する。OHスーツを解除。

「所長殿。今からゲオルギウス殿にそちらに向かって頂きますので解呪を行って下さい」

 1枚の礼装を見つめながら、はっきりと告げる。

「ここでファブニールを倒します」

 

 

 

本当の貴女は何者なの(・・・・・・・・・・)?」

 その問いは魔女にとって、見て見ぬ振りをしていた疑問を端的に表したものであった。悲しみこそあれ、憎悪は無いと断言する聖女から生まれるはずのない存在、あるはずのない側面。自覚しないようにしている、と自覚している彼女にとってそれはトリガーであった。元が何であるのかも分からない激情に従い、ファブニールに命を下す。

 デオンは己が身を賭し、自分達を救ってくれた。ならば今度は自分の番だ。魔女は今自分を殺す事に躍起になっている。全魔力を使用すれば、結界宝具を長時間展開できる。時間を稼げれば、彼らならば必ずや成し遂げてくれるだろう。

 残念なのは、初恋の人や、新しくできた友人と騎士に別れを告げられない事だ。

 彼は仕方ないと言って納得してくれるだろう。

 彼女は泣いてしまうだろう。

 彼は……何と言うだろうか。

「『愛すべき輝きは(クリスタル)』」

 暖かく、柔らかく、優しく、そして力強い光が、彼女を背後から照らした。それが何であるのかは分からない。しかし誰であるのかはすぐに分かった。

ーーああ、貴方は本当に……

 マリーを守るようにファブニールと激突したその光は、やがて実体を結ぶ。

 漆黒の筋繊維の各所を、未熟な銀灰色の鎧に包まれた巨人。

 その名を「ザ・ネクスト アンファンス」

「わたしの騎士なのね!」

 十字受けでファブニールの首を抑え込み、前進。前脚が浮き上がる程の力に、ファブニールは後退を余儀なくされる。凡ゆる物を破壊しながら、戦場を中心部へと移す。

「こいつだ!こいつがいつも邪魔をする!こいつを真っ先に殺す!」

 ジャンヌの叫びに呼応するように、ファブニールが動く。羽搏き、距離を取る。更にその後退によって乱蔵は力を逃され、僅かに体勢を崩す。その隙を逃さず、全身を捻り太い尾で薙ぎ払う。防御自体は間に合ったが、予想以上の威力に耐え切れず家屋の残骸へと叩き込まれる。追撃のプレスを、後方回転で回避。足元の握り拳大の瓦礫を蹴り飛ばし、更なる追撃を阻止。仕切り直しーーせず、突進。威力を知っているファブニールは体を落とし、真っ向から受け止めようとした。

 地を揺らし、砂塵を巻き上げながら駆ける乱蔵。

 激突の寸前に、乱蔵は僅かに体を屈伸させた。それが何に繋がるのか、相対しているファブニールとジャンヌには全く分からなかった。

「と、跳んだぁ?!」

 ファブニールの様に飛んだのではない。屈伸による反動で、ファブニールを超える程の跳躍をしたのだ。その巨体故に、その光景は埒外の存在であるサーヴァントでさえ驚愕するものであった。

 空中で身を捻り正面を向いた状態でファブニールの背後に轟音と共に着地。無防備に晒している頸部に両腕を回しチョークスリーパーを掛ける。最強の幻想種とて血は流れており、呼吸をしているのだ。へし折らんばかりの膂力で締め付ける腕が、酸素の供給を断つ。

 その窮状はファブニールに既視感を抱かせた。ジークフリートにより齎された「死」の恐怖。

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーー!!」

 あってはならない!あってはならない!!最強たる己を殺し得る存在が2つもあって良いわけがない!

 新たな()の存在を、プライドが認めなかった。

 飛翔、転回、急速降下、墜落寸前での背面飛行による引き上げ。乱蔵だけが地面に叩き付けられた。乱蔵の姿が抉らられた地面に隠れてしまう程の速度。インパクトの瞬間、乱蔵は失神していた。

 ファブニールが離脱した後も勢いは止まらず、町を縦断していた。

 幸い、と言えるかは微妙な所だが、痛みにより縦断する最中に覚醒していた。だが全身が重かった。ダメージのせいではなはい。エナジーコアが明滅している。即ち、活動限界が近付いているのだ。

 立ち上がろうとするが、蹲った状態から体が起こせない。頸部に巻き付けられたファブニールの尾が、強引に立ち上がらせた。先の仕返しと言わんばかりの、強烈な締め付け。覚醒した意識が再び遠退こうとしていた。

「らーんーぞーー!!」

 引き止めたのは、オルガマリーの叫び。明瞭になった視界に、遥か下方にいる皆が映った。無事に合流できたゲオルギウスとマリーもいる。いや、1人足りない。それが誰なのかに思い至った瞬間、活力が全身に戻った。

ーーこの瞬間を待っていた!

 残量が僅かとなっているエネルギーを前腕部の〈エルボーカッター〉に集約させ、光刃へと変える。全身を勢いよく捻り、尾を斬り落とす。

 逃すまいと追撃を掛けようとしたファブニールは思い出した。この場に、自身を殺せる存在がもう1人いた事を。

「『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!」

 彼の存在を認識した時点でファブニールの意思は逃走に移っていた。距離がある今なら間に合う、とそう思っていた。だがその思いとは裏腹に飛び立てなかった。強烈な痛みが、翼をやられたのだと教えた。ファブニールは自身の敗北を悟った。

 多くの命を消し飛ばした報いを受けるように、光の奔流に呑まれ微塵となり消え去った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。